本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『カトケンサ・ン・バ~~!』
「これ去年もいなかったっけ? 何コイツ、地道に生き残ってんじゃねーか」
「ていうか曲も古いですよね。何年前の歌ですかこれ」
「きっと金に物いわせてるネ。あ~やだやだ、だから大人って世界はやになるのよ」
「神楽ちゃん、それ、どこのドラマから抜粋してきたの?」
夜、大晦日。
今日は万事屋を一日休みにして、ななしの指揮のもと大掃除に励んだ。正確に言うと無理矢理励まされたっつう事実だ。俺らはやる気ゼロだったんだけど、相手が何言ってもきかねーオカンだし、何よりななしが一番よく働くもんで、じっとしているわけにもいかなかった。
そして迎えた夜、みんなで鍋をつついていると、チャイムが鳴った。誰だ、こんな夜遅くに。だいたい今日は万事屋休業って看板つけてんだろうが。怪訝そうな表情をする俺に対し、今までずっと黙ったままだったななしは、はじけたようにこたつを抜け出た。神楽と新八がテレビに夢中の間、俺は玄関に耳をそばだてる。
「はいはい。……あら、やっぱり来てくれたんだね! 遅いから来ないのかと思ってたよ。さ、おあがり」
そうして廊下を通り部屋にやって来たのは、
「ヅラ!! なんでお前がここにいんだよ」
「ヅラじゃない桂だ」
ありえねーんだけど、なんで今年最後になってヅラとそのペットなんだよ。神楽と新八が驚き、俺が非難の声をあげる前にヅラが素早く言い訳しながらこたつに入った。その隣にエリザベスが『お邪魔します』と看板を掲げながら腰をおろす。
「俺とて好きで来たわけではない、ななしがどうしてもと言うからわざわざ来たまでのこと。くつろぐつもりはないから気にするな、すぐに出ていく」
「はいヅラちゃん、ご飯これくらいでいい?」
「もうちょっと盛ってくれ、あとすまんが俺の皿も頼む」
「思いきりくつろいでんじゃねーかァァァア!!」
ななめ向かいのヅラの頭を思いきりはたくと、ななしがすぐさまやってきて「ケンカしない!」と俺をはたいた。いってー、なんでコイツこういう時は全力投球なんだよ。
はたかれた頭を抑えながらななしを見ると、眉をつりあげていた。
「せっかく久々にお友達に会えたんだから、いい加減仲良くしなさいな! はいヅラちゃん、お皿」
「すまん。それでは頂くとしよう」
「オメーぜってー肉とんなよ。野菜だけ食えよ」
「銀ちゃん、意地悪言わないの。お友達でしょう」
「何言ってんのななし、こんな奴友達なんかじゃねーよ、強いていうならたまたまクラスが同じになったからなんとなく顔覚えてるレベルの友達だよ」
「もう、銀ちゃんてばそんなこと言って、本当は嬉しいんでしょう?」
「全然嬉しくねーよ、むしろガッカリだよ!!」
「銀チャンそれ古いアル。だいたいヤツもそろそろインパクトが薄れて、来年からは使えないネ」
「お前いつから批評家になったの?」
つーかなんでこいつ無駄に生きてんだよ、あん時も死んだと見せかけてしぶとく生きてやがったしな。
ムシャクシャするから、ヅラの皿を奪い取り野菜だけをのせて渡してやった。
「この世にヅラを友達と言ってくれる奴なんて一人もいねーと俺は信じてる」
「そんなこと信じない! まったく、どうしてあなたは捻くれてるの?」
「理由は一つだろう、なァ銀ちゃん」
「お前にちゃん付けされると激しく苛つくんだけど」
フンと鼻であしらうと、ヅラは文句言わずに野菜だらけの皿に手をつけた。隣のエリザベスは口を開けるスピードが早すぎて、どうやって食べてんのか見えねー。時々看板で『げほごほ』と言ってるが、実際はエリザベス本人じゃなくて中がむせてる感じがする。……まあ、これ以上追求すんのはやめとくか。
「つかヅラ、お前自分が指名手配犯ってこと忘れてね?」
「忘れるはずがなかろう、俺は常に緊張感でいっぱいだ」
「嘘だろお前、けっこう目立つの好きだろ。普通指名手配犯はテレビ出ねーよ」
ヅラはごほん、と咳払いして、「ななしに見つかってしまったからな」といかにも真面目そうに答えた。どうやらななしはヅラを町中で偶然見つけ、しつこく大晦日に誘ったらしい。しつこく、とヅラは強調したが、どうせしつこくなくてもこうやって来たはずだ。どいつもこいつもななしにあめーったらありゃしねェ(あ、俺もか)
仮にも犯罪者(世の中からすりゃあな)を必死こいて呼ぶななしもななしだが、それに甘んじてやって来るヅラもヅラだ(つーか常に緊張感いっぱいなのに バレてんじゃねーよ!)
「でも大丈夫なんですか桂さん、最近攘夷志士がこの周辺をうろついてるから真選組のパトロールも強化されてますよ」
「ああ、それなら安心しろ、この周辺をうろついてるという攘夷志士は俺だ」
「思いきりバレてんじゃねーかァァァァア!!!」
自慢げに言うヅラを怒鳴りつける。本当はお妙みたくプロレス技の一つでもかけてやりたがったが、それだと今度は俺がななしにくらうハメになるから、やめといた。
何こいつ、結局誘ってもらうの待ってたんじゃん!! 攘夷志士ってバレてんじゃん!
「ちょっと大丈夫なのヅラちゃん?!」
「大丈夫だ、ななしに手出しはさせん」
「そっちじゃねーだろヅラ、お前が原因なんだよ! 今すぐここから出てけ、年越しそば代やるから外で食え、よいお年を!!」
その時、インターホンが鳴った。ななしが出る前に、ガラリと扉が開く。続いて聞こえたのは、ぜっったいに耳にしたくねー声だった。
「真選組だ! 御用改めである!!」
「おいヅラ、」
「わかっている」
「あら、あの声は……えっと誰かしら」
そして同時に、今度はヅラが窓に向かって走り出した。
「ちっ、ここで年越しはできなんだか」
「あっ待って! お年玉を……」
「ななし、俺はもう子供ではないぞ」
フッと笑うと、ヅラはエリザベスとともに飛び降りた。その直後、廊下を走ってきた黒服の集団がやって来る。
ななしにいまだに名前を覚えられてない副長はズカズカと土足で入り、そして背後じゃS少年がバズーカを肩に載せていた。そいつらは俺らを完全に無視し、窓をのぞきこむ。
「いませんぜ土方さん」
「まだ探せ、周辺にいるはずだ!」
今度は逆戻りで、土足の奴らが玄関めがけて走っていった。
残ったのは瞳孔が開いた男とバズーカを担いでる奴。俺たちに気づくと、呆れたようにため息をついた。
「またお前らかよ。きなくせー連中だとは思ったが、ここまでくると清々しいもんだな。おい総悟、しょっぴけ」
「……ちょっと待ってください」
「あ?」
顔をうつむかせたななし。その視線の先には、外からの泥で黒ずんだ床。………あーあー、こりゃ地雷ふんだな。なんとなく先がよめた俺たちトリオは、静かに合掌した。
そして顔をあげたななしは、ぎゅうと拳をつくっていた。
「この床、頑張ってきれいにしたのに……せっかくきれいなままで新年過ごそうと思ったのに、どうしてくれるんですか」
「は? いやこれはしょうがねーだろ、靴脱いでる暇なんて……な、総悟」
「俺はちゃあんと脱いでやすぜ」
あ、ほんとだ。玄関に(しかも踏まれねーように隅っこに)置いてあるわ。そして靴下だし。
残りの土足人間に、俺たちの視線が集中する。
「………犯罪者を捕まえるためなら、なんでも許されると思ったら大間違いですよ」
「そうだよ多串く~ん、うちのななしはオカンだからこういうことされるとキレるよ」
「キレたら怖いネ」
「僕らその現場目の当たりにしました」
「土方さん、どうするんですかィ? 部下の尻ぬぐいしないで帰るんですかィ?」
「……っやってやろうじゃねーか!! 雑巾持ってこい!!!」
「はい! あと、靴脱いでくださいね」
にっこりと笑ったななしは、嬉しそうに雑巾をとりにいった。そして俺たちもにやにやと相手をみる。
「真選組副長の今年最後の仕事は床の雑巾がけか、いやあ愉快愉快」
「ってめー後でおぼえとけよ!!」
「あっすいやせん土方さん、手が滑ってアンタの靴落としちまった」
「嘘つけェェェ!! また新しい泥つくってんじゃねーよ!!!!」
最後の最後にこんな連中と年越すなんて最悪だが、しゃーねェ。
ななしのにこにことした表情をみて、今までのストレスがすっと解消されるような気がした。
新年まで、あともう少し。
「ななし」
「何? 銀ちゃん」
「来年もよろしくな」
「……うん! こちらこそ、よろしくねっ」
ぎりぎりアップしたんだぜ、ハッピーニューイヤーイブ!(・・・)