本編
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すっきりしたななしは、部屋を出ようとする晋助にまったをかけた。
「ねえ、この船はどこにいくの?」
「……さあな」
行き先をはぐらかすと、晋助は背中越しに振り向いて、にやりと笑った。
「だが安心しな、アンタを無理矢理連れていくつもりァねえ」
「? わかってるよそれくらい、当たり前じゃないの。晋ちゃんはそんなことする子じゃないでしょ」
「………」
ななしの当然とばかりの発言に、晋助は何も反応せず、ドアを開けた。
「………晋ちゃん」
晋ちゃん。あなたは銀ちゃんやヅラちゃんと違う道をいって、世の中を変えるつもりなんだね。その変え方も目的もわたしは良いとは言えないけど、でも、
「無理はしないでほしいな」
祈るような言葉は、誰にも届かず消えた。
そしてしばらく部屋をうろついていると、部屋のドアが動いた。金髪の女性が姿を現し、部屋へ一歩踏み出すと、ななしの前までずかずかと入ってきた。へそを出して脚を露出したその格好に、ななしは困ったように眉をひそめた。
「こら、ダメだよ。女の子がそんな格好しちゃ、男の人に襲ってくれって言ってるようなものでしょう」
「んなもんどーでもいいッス。ていうか返り討ちにしてやるし」
頭の左上側でくくられた髪を揺らし、同時にくくられていない長い髪をうっとうしそうに後ろに振り払う。そして女はつり上がった目で、ななしを睨め付けた。そのどちらの手にも、愛用の武器がもたれている。もしななしが今後自分達の脅威になる場合は、たとえ晋助の関係者であろうとも消すはらだった。
女は武器を持った手はまだ下げたまま、しかし腰に手をあてて口を開いた。
「アンタ、晋助様のなんなんスか?」
「何って……お母さんかな」
「ふざけてると、そのドタマぶち抜くッス」
「やだねえ、ふざけるわけないでしょ。小さい頃の晋ちゃんを育てたのはわたしだもの」
威圧的な態度に不機嫌になることも怖がることもなく、どこか遠い目で昔を懐かしむななしを、女は訝った。自分とあまり変わらなさそうな年なのに、どうしてそんな目をしているのか。
年齢はわからないが、少なくともこの女よりも晋助のほうが年上だ。なのにどうしてこの女は、自分の主を育てたなんて言い抜かしているのか、まったくわからない。
「うーん、晋ちゃんから聞いてないのかな……後で聞いてみるといいよ、わたしが今言っても信じてもらえなさそうだしね」
「………」
「ねえ、それよりもあなたの名前教えてくれない? わたしは」
「来島また子。アンタの名前は知ってるッス、吉田ななし」
「あら嬉しいねえ、こんな可愛い子に知られて。……そう、また子ちゃん、ていうのね」
やさしく、ゆっくりと名を呼ばれたことに、また子はぞっとした。恐怖ではない。むしろ好かなかった「ちゃん」付けで呼ばれることに、拒絶感や不快感はなかった。
そんなまた子の気持ちも露知らず、ななしは両手を腹の上にそえて、ゆっくりと頭を下げた。なんのつもりだ、とまた子の表情を笑顔で迎えると、一言、
「晋助のこと、たのみます」
「……アンタ」
また子は何か言いかけたものの、すぐに口を閉じた。そして首をかしげるななしに、右手の銃を向ける。はじめてななしの目に驚愕の色が浮かんだ。
にっと笑って、また子は人差し指にゆっくりと力を入れた。
とさり、と力無く倒れるななしを、また子は受け止めた。そのまま動かないななしを見おろし、また子は彼女だけに聞こえるような音量で訴えた。
「………アンタ、晋助様のこと、なんにもわかってないッスよ。あの人が、どれ程アンタを……」
そしてぐっと何かをこらえるように頭を上げ、「先輩」と廊下に向かって声をかける。
その声に応じ、ゆらりと部屋に現れたのは変平太だった。眠ったように目を閉じているななしに、眉をひそめてまた子を見る。
「ほんと女性に容赦ないですねアナタ。あーあーまだ若いのに……昔はもっと可愛かっただろうに」
「先輩何言ってんスか、女だろうが男だろうが晋助様の敵はすべて排除するのみッスよ! ……それにこいつ、生きてますから」
「え」
よく耳をすませば、ななしはすうすうと寝息を立てていた。本当に眠っていたのだ。
これはいったい、と目で訴える変平太に、また子は無言で銃を見せる。
「……玩具じゃないですか」
それはあの天人がななしを気絶させるために使用した、玩具のような銃だった。
銃を弄びながらまた子が説明するが、変平太は興味深そうに銃を眺めている。
「あの天人が作ったらしい銃ッス。殺傷能力はなく、撃った生き物にショックを与えて気絶させる銃ッスよ」
「なんでアナタがそれ持ってんですか、ちょっ研究させて、なんかつかえそう」
「嫌ッス!! これは晋助様が直接あたしにくれたんスから!」
「ばっオメーそれ妄想だって。晋助様はたまたま私がいなかったから仕方なくアナタに預けたんですよ。それにこんな諺知ってますか、豚に真珠」
「誰が豚だァァァァァ!! 猫に小判やる気なんてまったくねーんだよこの猫の目男!」
「馬鹿じゃねーのお前、猫に小判と豚に真珠同じ意味なんだよ、馬鹿じゃねーのお前」
「脳みそがつかえるだけで戦闘に関しちゃテンで駄目のド素人に言われたくねーんだけど!!」
再び口喧嘩を始める二人の間で、ななしは「うう~ん」としかめっ面をしていた。
また子と変平太の痴話喧嘩が好きです(痴話ってあんた)