本編
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晋助がその天人と出会ったのは、屋形船だった。晋助に、あの天人達が取引をもちかけてきたのだ。
俺達を、春雨の仲間にしてくれ。
天人達はよほど春雨の族というブランドが欲しかったのか、自分の族がここにいる三人だけで、希少価値のある族ということや、色々な武器を発明したことや、無敵の春雨に自分達の発明が加われば完全無敵だと必死にアピールをした。
そして、偶然とも思える言葉に、今まで無反応だった晋助が顔をあげた。
「一番の発明といってもいいのが、人を時空に飛ばす機械(からくり)だ! 俺ァこいつで昔にいき、女を一人飛ばしたんだぜ」
天人は、晋助が反応したのが発明への興味かと勘違いをし、さらに詳細を話した。
その年代、場所、そして女の特徴が、すべて晋助の覚えているそれらと同じだった。さらに天人自身が言ったのだ、「本来は吉田松陽を飛ばそうとしたが、間違えて名字が同じだけの女を飛ばしてしまった」と。それだけでもう確実だ。
長年謎だった、ななしの消えた理由がわかった。
晋助は知らないふりをして、ご機嫌の天人に尋ねた。
「その女はどの時代に吹っ飛ばされたんだ?」
「さあな……だが、女からすりゃとんでもねー地獄だろうな。いきなり見知らぬ土地に吹っ飛ばされ、それどころかすっかり変わっちまったこの国に驚愕し、絶望していることだろうよ」
楽しげに笑う天人に、晋助もにやりと笑った。
「そうかィ。………ところで春雨の件だが、条件をのみゃかけあってやるよ」
「条件?」
「あァ。その女、見つけてこいや」
絶句する天人に、晋助は「難しいか?」と嘲笑う。だが、目の前の天人に拒否権があるはずがないことはわかっていた。春雨に入るためならなんでもするだろう。
しばらくして、天人の首肯に、晋助は満足げに笑んだ。
それが半年前のことだ。
晋助が艦船から出て地面に足をつけた時、聞き覚えのある声がした。その方向に目を向けた時、一人の女が倒れる。その背後には発明した銃を持ったあの天人と、その仲間がいた。
今、港にいるのは自分とその天人たちだけだ。幕府の人間は誰もいない。それを確認し、ゆっくりと歩めば、天人たちが自分に気づいた。気のせいかもしれないが、女がぴくりと体を動かす。
「あ? なんだ、アンタ来たのか。これからこいつを持っていこうと思ったんだが」
「…………」
本当に、あの女なのか。
少し警戒をしつつ、うつぶせの女を仰向けにし、顔を隠す髪をゆっくりとどける。
「ななし……!」
瞠目した。本物の彼女だ。偽物ではないと、本能的に感じ取る。
顔も、いつもつないでいた手も、髪も、その色も、抱きつくたびに鼻孔をくすぐった薫りも。すべてななしの兼ね揃えていたものだった。
あまりの懐かしさに、いつも鋭い眼光が和らぎそうになる。
だが、それよりもする事があった。
すっと立ち上がると、晋助は天人たちを見て、「よくやった」と一言こぼした。その言葉に、天人たちはおお、と目を輝かせる。次に晋助は言うはずだ、春雨の仲間に入れてやる、と。
「それじゃあ、死んでもらうとするか」
ところが、彼の放った台詞はまったく思いがけもしないもので。目が点になった天人たちに、晋助は腰にさしているものに触れながら、にやりと笑った。
「な………ッ、や、約束が違うじゃねーか!!」
いち早く立ち直ったリーダーらしい天人が、怒鳴る。だが、その怒りは晋助になんの影響も与えなかった。
「約束? なんのことだ」
「てめ…!!」
「何言ってんだてめー! 春雨に口きいてやるっつったじゃねーか!」
「ああ、それかィ。聞いたよ、半年も前に……」
天人たちが満足げに帰った後、晋助は約束通り春雨に話した。だが、大した興味ももたれずすぐに断られたのだ。勿論、晋助はそれが狙いだった。
しかし、天人からすればとんでもない結果だったようだ。断られたことに気づかず、晋助の条件を達成しようとこの半年国中をかけずり回っていたなんて。
「よくも……よくも騙したな!!!」
「騙したわけじゃねーさ。結果が聞きてーなら俺んとこに来りゃよかった話だ」
まあ実際来ても、「まだ聞いてねえ」と答えるはずだったのだが。
そんな思惑も知らず、この天人はまさに踊らされていたわけだ。
そしてななしが見つかり、天人が春雨に加われなかったことになったこの瞬間を、晋助は待っていたのだ。
「お前らが生きてるとな、困るんだよ。少数の族で良かったよ、その点は感謝してやらァ」
「くっ……な、なめんじゃねえ!!」
だが、天人の動きは早かった。他の二人が晋助に銃を向けると同時に、リーダーがななしに矛先を向ける。
晋助がそれに剣呑な表情を浮かべ、リーダーを睨め付ける。その変化に、リーダーは汗をたらしながらも余裕をもってにたりと笑んだ。
「こうなりゃ、アンタとの商談はなかったことにさせてもらうぜ。この女を実験体にしてやる」
「よしたほうが身の為だと思うがな」
ふと、晋助から殺意が消えた。リーダーは訝ったが、こちらに有利なのはわかる。晋助はさらに鞘から手を放すと、ななしを見ながら言った。
「俺を斬ることができたら、そいつを持ってけばいい」
「………随分となめた真似してくれるじゃねーか、オイ」
リーダーの握る剣がぶるぶると震える。それが怒りだというのは目に見えていた。半年前からほぼ無条件で女を捜した上にこの場で殺されるなんて、たしかに理不尽すぎる話だ、と晋助は他人事のように思った。
だが、それは天人自身が悪い。自分の大切なものを奪ったのだ。
目には目を、歯には歯を、という言葉がある。これにつながるかどうかはわからないが、少なくとも自分からすれば、命には、命を、だ。
「お前らに生きる可能性はねェよ。二つ理由がある」
「あ? なんだそりゃ」
「一つは、俺に武器を向けたこと」
突然言い出す晋助に、リーダーも子分も首をかしげる。だが、淡々とした口調には、どこか真実みがあった。
「もう一つ、知りてェか?」
「知りたくねーよっ! お前ら、やっちまえェ!」
リーダーの声に、子分二人が銃を強く握りしめた。
と、その時。
その銃が、瞬間何かにより弾き飛ばされた。金属音が二つ重なり、同時に二人の持つ銃が地面に落ちる。その衝撃が銃だけでなく手にまで響き、二人は片手にしびれを感じた。
「ぐうっ!」
「だ、誰だッ!!」
銃の次は、天人自身だった。あたりを見回した方は胸に、それに驚いたもう一人は額に鈍く鋭い貫通を受け倒れる。
これはあっという間の出来事だった。
絶句するリーダーに声をかけたのは、晋助ではない。
「晋助様に危害を加える奴は、皆殺しッス!!」
ハスキーな声で物騒な事を叫ぶ女は、艦船の上に立っている。金髪で露出の多い和服を着ている女の両手には、銃が黒光りしていた。あの銃で、自分の部下が命を落としたことを理解する。
リーダーがそこまで考えていた間、晋助はすでに背後に回っていた。
「教えてやるよ、もう一つの理由」
しまった、と振り向くのと、
「ななしを俺から奪ったことだ」
晋助が刀を真横に素早く振る動作は同時刻だった。
●天人壊滅、ご愁傷様です(お前)●