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本編

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ヒロインのお名前

 


 気づけば自分はスーパーの出入り口である、自動ドアの前に立っていた。

 空は今にも雨がふりそうなほど機嫌が悪い。そして手には晩ご飯の材料がつらつらと書かれているメモが握られている。

 そうだ。そういえば私、ご飯の材料を買いに来たんだ。

 そう思った直後、おろしていた片手を何かがきゅっと握ってきた。すぐに下を向くと、


「銀ちゃん…!」


 二ヶ月前までは一緒にいた、昔の銀時。

 どうしてここにいるのかとか、そんな疑惑はいっさいもたなかった。小さな銀時はいつも通りのだらけた顔で、ななしを見上げている。

 そっちに気を取られていると、メモを握った手の袖口を引っ張られて今度は逆の方向を見おろす。


「ヅラちゃん」


 こちらも幼い小太郎だ。生真面目に一本もおちることなくくくられた高めの一本結びに、懐かしさがこみあげてくる。何も話さず、同時に袖をぎゅっと強く握りしめる。ただしその目は、自動ドアを見ていた。

 その時、目の前の自動ドアが開いた。

 そしていたのは、二人と同様幼い、晋助だった。店内には誰も見あたらず、ただ無言で彼はうつむいていた。


「晋ちゃん」


 嬉しそうに声をかけても、晋助は顔をあげなかった。いつも自分のまわりをうろちょろとして、楽しそうにしていたのに、目の前の晋助はまったくの無反応。

 不安になった。

 手をのばそうとするが、銀時も小太郎も、それぞれの小さな手からそれを離そうとしない。

 それどころか、まるで行かせまいとしてますます強くつかんだ。


「お願い、離して? 銀ちゃん、ヅラちゃん、ね、良い子だから」

「………」


 真一文字に口を結ぶ二人は、ななしの言うことを聞かない。銀時は小太郎と同じく、晋助を睨み付けるようにしている。

 その様子にななしは困ったが、気を取り直し再度晋助に声をかける。


「晋ちゃん、どうしたの? おいで、私だよ、ななしだよ」


 しかし、向こうは動く様子はなかった。聞こえてないわけがない、自動ドアをはさんでいるとはいえ、自分が大股で二歩進めば触れることのできる距離だ。

 あの子の、だらんと下げられた手を握りたい。頬に手をそえて顔を上に向かせたい。でも、それが敵わないのだ。両隣の子供が、そうさせない。

 そうこうするうちに、自動ドアが再び動き出した。ゆっくりと、閉じようとしている。

 晋助と自分の間に、壁となって。

 大江戸スーパーの自動ドアは、透明なはずだったのに、目の前のそれは違う。真っ黒にぬりつぶされ、それに気づいた瞬間ここがスーパーではなく、何か真っ黒な空間だということがわかった。

 果てのない闇に、なぜかはっきりと見える自分と、まだ離れない二人の子供。そして目の前の晋助。

 しかし、その晋助はドアにより、闇にとけこんでいった。


「ま、まって! 晋ちゃん、晋ちゃん!!」


 慌てて足を一歩踏み出したのと、自動ドアがあと数センチで閉じるという瞬間が重なった時。

 今まであがらなかった顔が、ゆっくりと上がった。

 見開く目に映った、あの子の、晋助の表情は、


「晋、ちゃん………」




 
  




「!!!」


 急に世界が明るくなり、目を細めた。今までいた「闇」とは正反対の光が、瞳を突き刺す。どうやらそれは日の光で、壁につくられた窓から雲と太陽が見える。

 どんどんと覚醒する思考回路で、ななしは今のが夢だとわかり、今の自分がどこにいるのかを思った。

 たとえるなら、地下にある牢屋のような部屋。今自分が腰掛けているベッドというもの以外、何もない。あるとすれば、前方のドアのみ。広めの空間のせいか、自分一人だけがいるせいか、なんとなく寂しく感じる。

 ただし、牢屋といってもコンクリートではなく鉄でできたものだ。大小様々な鉄パイプが、天井をつたい、あるいは横に、縦に、部屋を通っている。それから、太陽が見えることから地下でないことはわかった。

 窓は、四角くふちどられたそこに鉄格子がはめてあるものの、そこそこ大きなものではある。そこから外を見ると、どうやらここは海の上。遠くではあるがターミナルが見えることから、まだ江戸にいるようだ。


「痛い…」


 あらためて回りを見渡すと、身体中に痛みが走る。痛みというよりも、麻痺した感覚だ。きっとあの天人の仲間に何か攻撃されたに違いない。

 けれど今はそんなことより、夢が気になった。


「………(晋ちゃん……)」


 なぜ今になってあんな夢を見てしまったのだろう。心臓がうるさく鳴り、動悸が速まる。



 夢の中だけど、あの子は、泣いていた。

 涙の玉をぼろぼろと落として、鼻を鳴らして、歯をくいしばって。まるで何かの苦しみから、怒りから、一生懸命に耐えているように見えた。



「……」


 その直後に、信号の前で聞いた「攘夷志士」「高杉晋助」「幕府の官僚が皆殺しになった事件の犯人」のフレーズが、脳内をぐるぐると回る。

 ……私の知る高杉晋助と、あの人たちの話す高杉晋助が、別人であることを願うしかない。

 それから、今の私にできること。それはここを脱出することだ。ぐっと拳を握りしめ、勢いよく立ち上がる。


「よし! 絶対にここを出てやるんだから!」


 足音を立てて、ドアの前に立つ。

 ななしは無言で、ドアが開くのを待った。


「………」


 しかし、動かない。自動ドアなのかと思ったのに。


「なあんだ、手動なのね……」


 そう納得するも、ドアにはくぼみも取っ手もついていない。どこをつかんで、どうスライドさせたり引いたり押したりすればいいのかわからない。

 縦に長い長方形のドアは、傷一つない綺麗な鉄の扉だ。これは確かに立派なドアだけど、でも、動かないんじゃあ意味がない。いったいこれはどうやって動かせばいいのか、とななしには見当もつかない。

 ためしに叩いてみたけど、反応はない。神楽に以前聞いた「なんでも開く呪文」という言葉を、大声で唱えても、


「ヒラケーゴマ!!」


 ドアは無言でななしを見おろしていた。

 おかしい。どうして動かないんだ。指をひっかけるくぼみもなく、手で握らせる取っ手もないとすれば、やはり手動ではない。しかし自動でもない。


「……まさか、永遠に私をここに閉じこめておくつもりじゃないでしょうね」


 真っ青になる。しかし、今の所これが一番可能性が高い、と彼女は思った。

 ドアの横にちょうど並んでいる、「開」「閉」ボタンに一切気づかずに。











「なんスかこの女……」


 呆れた口調でモニターを見るのは、「紅い弾丸」と呼ばれ恐れられる拳銃使いの来島また子だ。ちなみにそのモニターに、ななしの今までの行動が映されている。


「どうやら本当にボタンに気づいてないようですね……ううん、なかなか可愛らしい」

「なんでこれが可愛らしいんスか先輩。残念ながらロリじゃないッスよ、大人ッスよこれどう見ても」

「ちょっモニター切らないでください、久しぶりに可愛らしい女性見かけたんだから。誰かのせいで女性の可愛らしい姿に飢えてんだから」

「ほんと変態すぎッス武市変態。つーかこれのどこが可愛いんスか。普通にボタン押せばいいのに気づかないとか、こんなんイライラするだけじゃん、ていうかなんか教えてあげたい気分になってきたんスけど!」


 モニターを指さし抗議するまた子を、まあまあと抑えるのは男だ。武市変態やら変態やらと呼ばれているが、鬼兵隊一の策略家といえば武市変平太が本当の名だ。自称フェミニストだがまた子からすればロリコンの間違いらしい。


「晋助様も何考えてんスかねェ……。こんな一般人わざわざ招き入れるなんて」

「おやまた子さん、あなた何も聞いてないんですか? 彼女は一般人ではないのですよ」

「は?」


 相変わらずのポーカーフェイスで、変平太はモニターを眺める。


「彼女は吉田ななしさんです」

「吉田……てまさか!」

「ええ。それから彼女は晋助様の、…………」

「………」

「………」

「………先輩?」

「なんだっけ、忘れた」

「死んでください扁平足」

「お前が死ねシミつきまた子」

「だからシミついてねーっつってんだろォォォォォ!! いつまであの小娘の肩持つ気ッスか?!!!」


 ぎゃあぎゃあとわめく二人がモニターから完全に目を外した直後。

 ようやくボタンの存在に気づき、部屋を出たななしの姿が映った。




 
  




 なんだか知らない世界のようだ、とななしは思った。きょろきょろとあたりを見回しながら、一歩一歩静かに歩く。すべてが鉄でできているここはどうやら艦船だということがわかった。

 艦船なんて、いや、それどころか、海に浮上する鉄に乗るなんて生まれて初めてだ。ドキドキしながら、誰も歩かない鉄の道を踏みしめる。


「………誰もいないのね」


 無人のごとく静まりかえっている船内。今にも隣の扉から何かが出てきそうだが、ななしはまったく気にしていなかった。見つかっても大した危害は加えられないと思う。殺すつもりなら、自分が気を失っていた間に難なくできたはずだ。

 右に曲がり、左に曲がり、あてもなく彷徨っていると行き止まりになってしまった。

 それもただの壁ではなく、自分がいた部屋や、見かけた扉とは桁違いの大きさのドアが目の前に立っている。

 ななしが両腕を精一杯のばしてもたりない、4メートルはある高さのドアは、妙に威圧感があった。

 この先が気になったななしは、さきほどと同じようにボタンを探す。しかし、ボタンはなかった。勿論この扉にも、取っ手やくぼみはない。


「変な部屋だねえ、これじゃ外から入れないじゃないの」


 両手を腰にあてて、困ったようにふう、とため息をつく姿は明らかにオカンだ。まるで引きこもった息子の部屋の前に立ち、さて、どうやってドアを開けさせようかと考えるようでもある。

 と、その時。

 うぃーん。

 機械音とともに、ドアがゆっくりと上側にスライドした。大きな壁だったはずの一部が、みるみる削られていく。

 仰天したななしだったが、すぐに気を取り直した。妙なところで肝っ玉が据わった部分もカアチャンだ。


「お邪魔します」


 ドアがすべて上がった後。丁寧に一声かけて、ななしは足を一歩踏み出した。

 中は何もない広場だった。たとえるならば倉庫のようなものだろう。上を見上げれば、高めの天井に、たくさんの丸型のライトがはいつくばって光っている。しかしまぶしいわけでもなく、むしろ何故か薄気味悪さを感じさせる。

 ほぼ中心部に立ち、あたりを見回して本当に何もないようだ、と思った時だった。





「そんなにここが気に入ったか?」


 どこかで聞いたような声が、背後からした。しばらく考えて、自分が気絶する前に聞いたあの低い声だと思い出す。

 いや、それよりも。いつの間に、ここに入ってきたんだろう。

 緩慢な動作で振り向いたななしを出迎えたのは、


「気に入ったなら、いつまでもいていいんだぜ?」


 黒く短い髪に、片目を包帯で巻き、片手は煙管を弄ぶ男。そして、もう片手は、わざとはだけさせたような襟元につっこまれている。

 そのだらしない格好にななしは眉をひそめたが、ふとあの言葉を思い出した。


『だがよ、俺も聞いた事あるぜ。女みてーな派手な着物着て帯刀してる、攘夷志士なら』


 それは、高杉晋助のことだ。

 ハッとしたななしを眺めていた男の着物は、まるで、女性が着るような艶やかさのあるもので、少し暗いがよくよく見れば帯刀をしている。


「……………」


 まさか、と、とある可能性にたどり着いたななしを嘲笑うかのごとく、目の前の男は妖しく笑った。懐からくしゃくしゃになった何かを取り出すと、ぴんと指ではじく。それはちょうどよく彼女の足もとに落ちてきた。

 無言で拾い、そのくしゃくしゃになったものを広げる。それは指名手配犯の告知だった。「この顔にピンときたら、」というフレーズの上には、高杉晋助の名前。そして写真を見る。


「…」


 しばらくして、ななしはもう一度男の顔を見た。


「……しん、ちゃん」


 写真と目の前の男の顔は、見事に一致していた。何を思ったのか、男は楽しげにくつくつと笑っている。


「まさか本当に会えるたァな………ななし


 名を呼ばれた瞬間、めまいがした。

 嘘だ。真っ先にそう思った。

 自分の知っている晋ちゃんは小さい頃、あんなに元気で明るくて、ちょっとワガママだけど、でも、すごく良い子で。

 けれど、三歩先にいる男の人は、何もかもが違った。何が面影かと言われれば、強いてあげるなら髪だけなのかもしれない。いったい彼に何があったのだろう。あの目は、いつ怪我したのか。

 どうして、平気で人を殺すようなことになってしまったのか。

 言葉を慎重に選び、ななしは長い沈黙をやぶった。


「……本当に、晋ちゃんなの?」

「あァ」

「………そう」


 確かめることができれば、まず、やることがあった。

 太ももを軽くたたき、足を動かす。そしてだるそうに立つ晋助の目の前で止まると、顔を見上げた。

 あんなに小さかった晋助が、今は自分よりも背が高い。なんだか嬉しいような寂しいような、複雑な気持ちは後で味わうことにしよう。


「幕府の人を皆殺しにしたっていうのは、本当なの?」

「………」


 口にくわえていた煙管をとり、空に向かって煙をはく。その上がった顔を、ななしに向けて、唇の片端をにっと上げる。


「すっきりしたぜ、あん時ァ」





 瞳孔が開いたななしの神経が、片方の腕と手に瞬時に伝わった。

 次いでパァン!と勢いのある音が、部屋いっぱいに響き渡る。

 晋助が避けなかったため、そして遠慮ない速さだったため、狙った頬に勢いよく手が当たった。おかげで相手の頬は目に見えるほど赤くなり、自分の手のひらもひりひりする。


「…………」

「…なに…を、してるの……あなたは……」


 言葉がつまる。本当は怒鳴り散らして尻をひっぱたいてやりたかった。けれど、それよりも悲しくて寂しい感情が上回る。

 どうしてこうなっているのだ。あの三人より一番明るくてはきはきしてるはずが、まったく逆転している。

 いったい自分がいない間に、何があったのか。

 その時、ふと、あの夢の晋助を思い出した。あの、小さな、顔をくしゃくしゃにした晋助を。


「クク……何をしてるかって? そいつぁこっちの台詞だ、ななし。勝手に出歩かれちゃ困るっつったのはどこのどいつだっけな」


 小さい頃、晋助がよくあちこちに飛び出すものだから、ななしは毎度毎度そう注意していた。それを皮肉にも、今こうして返されていることに気づく。

 ただ、それは嘲るような風には、少なくともななしには聞こえなかった。気のせいかもしれないが、懐かしんでいるようでもある。

 その親近感に気を取り直すことができたのか、さっきとは違い、ななしの口は自然と言葉を発することができた。


「晋ちゃん、話をはぐらかさないで。それからここはどこなの? どうして私がここにいるのかしら」

「そう質問攻めにされても、答えられねーよ。……まァどうしてってのは、簡単な話だ。俺が会いたかったのさ」

「……?」

「クク、言ってる意味がわかってねー顔だな」


 当たり前だ。会いたい、というのは、少なくともななしが生きているという確証があるからこその願いだ。しかし晋助と自分は、今日この時間に、初めて……ではないが、再会できた。

 つまり晋助は、自分がこの時代にいるということを知っていたのだ。

 混乱するななしに、晋助はくつくつと笑い、どこからか銃を取り出した。

 その銃はおもちゃのような形で、全体的に丸っこい。アニメに登場しそうな、明らかにちゃちな物だが、


「こいつで気絶したんだぜ、お前さんは」


 どうやらちゃちに見えても相当の武器のようだ。背後から攻撃したのはこの銃だったのか。

 それを長い指でゆっくりと回しながら、晋助は言った。


「これと、アンタを消した武器はな、あの天人が作ったんだ。あんなちいせー体してなかなかの発明家だ」

「………じゃあ、あの天人たち、やっぱり私をここに飛ばした犯人だったのね」

「そうなるな」


 その後しばらく無言だった晋助は、ついてこい、と倉庫を出た。

 少し考えたななしは、それに続いたのだった。



















●紅桜編の後の展開なので、正直また子と武市変…先輩が無事高杉と合流したのかはわかりません。まあ夢だしね!(……)●
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