本編
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どうぞ、と新八がお茶を出す。それに対し、依頼主は小さく頭を下げる。
負傷した左肩に包帯を巻いた彼女は、右腕を使って湯飲み茶碗をゆっくりと持った。
「銀サン、この着物は洗っておくわね」
「ああ、すまねーな」
お妙が依頼主の着物を持って居間を出る。
その背を見届けてから、銀時と新八と神楽は依頼主を見た。
ここは志村家で、緊急避難してきたのだ。
銀時は台をはさんで向かい合った依頼主に、躊躇なく聞いた。
「あいつらが何者か知ってんだな、アンタ」
ななしを追えないまま依頼主に再会した直後、万事屋に天人二人が乗り込んできた。
随分と背が小さくいかつい顔をしたものだが、どこぞのデリバリー大工よりも凶悪な顔をしている。
その天人たちは万事屋の入り口を文字通りとっぱらうと、怯える依頼主をぎろりと睨み付けた。
「おいおいお前ら、ちゃんとドアの横見ろ、横。ちゃんとピンポーンって押すとこあんだろーが」
銀時が間の外れたツッコミをいれる間に、新八が依頼主を避難させる。そして天人に、最もな意見をぶつけた。
「アンタら何モンですか!!」
「何モンでも関係ねーよ。俺らァあの女に用があってな。……あれ? なんか一人女たりなくね? あいつ以外みんな男だぞ」
「オイ、私だって女アル」
「やべーぞ、親分に女二人とも捕まえろって言われてんのに」
「シカトかよコルァ。銀チャン、私女として数えられてないヨ!」
「残念だったなお前等、女は女でもハズレくじってわけだ。もう一人は家でちまったよ」
「んだと!? ちくしょう、んなら長居は無用だ、男共を相手にする気はねーからな」
「おめーら全員死ねェェェェァァアア!!!」
目をつりあげて、神楽は見事に天人二人と銀時を倒した。白目をむいた三名と神楽を交互に見た新八がメガネをくもらせたまま、無表情で拍手をおくる。
依頼主はこの流れに呆然としていたが、銀時の発言に耳を疑った。
慌てて新八にすがりつくと、再度確認する。
「本当ですか?! 本当にあの子、ここにいないんですかッ?!」
「え、ええ、ついさっきスーパーに行くって……。とりあえず今はその怪我を治さなくちゃ」
腰をあげた新八だったが、この万事屋に救急箱なんて親切なものがあるはずない。
しょうがない、勝手だとは思うがななしのものを拝借するしかない。
ななしの部屋に入り(目覚めた銀時が非難の声をあげたが一切無視する)羽織物を見つけると、それを依頼主にかけた。
「すみません、歩けますか?」
「ええ、大丈夫です」
そして新八は依頼主を連れ、神楽は銀時を引きずり万事屋を出たのだった。
依頼主は息を深く吸って、一言発した。
「あの子は……さっきの、少数天人に狙われているんです。私は知らなかったけど、あの子過去の子みたいで…、見つけたら高杉という人に突き出して実験体にすると、言っていました」
「高杉?!」
「高杉って……まさかあの指名手配中の?!」
高杉晋助、とフルネームを出さずとも、わかった。ななしを知っている、探している高杉なら間違いなくあの男しかいないからだ。
依頼主は驚く銀時たちに肯定の意味で頭を垂れた。
「家で左腕を斬られた時、あの追ってきた天人が話してたんです。私はこのことを知っているから邪魔だって。それでとどめをさされそうになったんですが、足は無事だったので、急いで家を出て、それであの子に伝えようと、なんとかここまでたどり着きました」
「そうだったんですか………」
銀時は腰をあげると、木刀を握った。新八と神楽も同様に、無言で立ち上がる。
依頼主だけがわからずに「あの、」と声をかけると、新八は微笑んだ。
「僕らでななしさんを探してきますから、あなたはここにいてください」
高杉に会わせるだけで危険なのに、その後実験体にするなんてとんでもない話だ。これは一刻も早く彼女を捜し出し、高杉に会わないようにしなくては。
三人が三人とも同じことを決意し、志村家を出たのだった。
ところが、時既に遅く。
万事屋がそこを出た時には、ななしは港にいた。勿論、高杉を捜す為に。
雨が降り出したが、そこまで酷くもなく、どちらかといえば霧のような小雨のため、気にならなかった。
そして彼女の前には、さっきと同じ種族であろう天人が立ちはだかっている。もしかして、あの男の言っていた「ちっさな天人のオッサン」とは、このことだろうか。
そのオッサンが、おもむろに口を開いた。
「探したぜェ、アンタを」
「……? どちらさま?」
本当に見覚えがなさそうに首をかしげるななしに、天人が「テメ…!」と青筋を立たせる。それでもなんとかこらえると、余裕ぶってニヤリと笑った。
「覚えてねーかい? こちとら随分と血眼になって探したっていうのに……吉田サンよ」
「え?」
どきりとする。どうして名字を知っているんだろう。知らないうちに胸元をつかむななしを見て、天人はますますにやけさせた。
「あんまりこの時代が楽しくて、自分がどうやってここに来たのかさえ忘れちまってんじゃねーだろうな? えェ?」
『やめて! 何をするの!』
『おい親分、こいつァ吉田だが、』
『かまわねェ、撃て!!』
身体中に電撃が走った。否が応でも、その瞬間を思い出してしまう。
そうだ、この男は、あの時、親分と呼ばれていた。
「……あ…!!」
「懐かしいねェ、その怯えた目………あン時と一緒だ」
「!!」
目の前のことに集中していたななしは、背後からの敵に気づかなかった。
ドン、と背中を誰かに押されたのかと思った瞬間、全身がしびれた。手足がうまく動かないななしは、膝をついて、そのまま横に倒れる。
彼女の目に入ってきたのは、二組の足だった。どうやらもう二人、仲間がいたらしい。
その二人に、あの天人が「おう」と声をかけた。
「よくやった、……てお前らなんだその怪我。車にでもはねられたのか」
「それが親分、思わぬ邪魔がはいっちまいやして……」
「邪魔ァ?」
「へェ。あの女を始末しそこなっちまいやした」
「お前ら何やってんだ、口封じの一つもできねーってのか、ええ?!」
「す、すいやせん…!!」
「そっそれよりも親分、こいつァどうするんですかい?! 本当にアイツにそのまま渡すなんてこたァ」
「しゃーねェだろ。野郎に会わせる条件をのんだのは俺らだからな」
親分の不機嫌そうな声に、ななしがぴくりと反応した。野郎? 誰?
指をぴくりと動かしたのを見た天人たちは、卑下た笑いを浮かべた。
「可哀相だなァ、俺らと出会っちまって」
「まー俺らは悪くねーとはいわねーが、一番恨むんなら、そうだなァ、アニキを恨めよ」
「………?(お兄ちゃん…?)」
この天人たちは、兄の知り合い?
理解できずにいたななしだったが、次第に眠気が襲ってくるため、何も言えない。
その時だった。
「あ? なんだ、アンタ来たのか。これからこいつを持っていこうと思ったんだが」
「…………」
天人の後に耳に入ったのは、聞いたことのない、低い声だった。
草履と地面の砂利がこすれる音が近付いてくるのを聞きながら、ななしは目を閉じた。
●やっとすすんだ●