本編
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十月に入った。
世間ではそれくらいどうということではないのだが、ななしは不思議だった。
あれから。
ななしが、依頼主に万事屋に連れてこられたのは二か月前のことだ。しかし、依頼主はそれきりで、今日まで全く現れていない。町で見かけもしないのだ。
銀時にそのことを言っても、「別にいーじゃん」と相手にしてくれない。その真意を知らないななしは溜め息をついておわった。
窓をあければ、曇り空だった。もうすぐ夕方だが、すでに薄暗い。
「あら、雨が降りそう。今のうちにお買い物行ってこなくちゃ」
「おーし」
「あ、銀ちゃん達は来なくていいよ」
思いもしない言葉に、腰をあげた銀時とメガネをふいていた新八と酢昆布をかじっていた神楽は目が点になった。かと思えば銀時がななしの肩を素早くつかみ揺さぶる。
「怒ったのか、まさか別にいーじゃんで怒ったのか?! 違うんだよ~あれァ別にどうでもいいっていう意味のいーじゃんじゃなくて」
「ちっ違うよ! 一ヶ月経っても来ないなら、二ヶ月経ったそろそろじゃないかなって思って……ぎ、銀ちゃんくるし…!」
ようやく解放されて、たまった息を吐き出す。そしてななしは玄関に出ると、銀時たちを振り返ってにっこり笑った。
「ほら、そろそろ引き取りに来てくれないと、迷惑でしょう? 私は本来この時代にいちゃいけない人なんだもの」
「な、」
「行ってきまーす」
言葉こそ軽快だが、ななしは顔を決して見られないように、素早く扉を閉めた。
その背中と扉をぼんやりと眺めていた銀時は、短い舌打ちをして居間に戻った。そして事務机を避け、専用の椅子に腰掛ける。
気まずい沈黙を打ち破ったのは神楽だった。
「銀ちゃん、依頼した奴が来たら、ななし、本当に返すアルか」
「……それが仕事だろーが」
「私、ななしのことマミーみたいで大好きヨ。いなくなるのもう嫌アル」
「いなくならねーよ。聞いただろ、あの依頼主江戸に住んでるって。いつでも会えるじゃねーか」
「……………銀さん、」
「あーもううるっせーな、しばらく俺に呼びかけるな、俺の名を呼ぶな」
「や、そうじゃなくてテレビ」
やや緊張気味の新八がテレビを指さす。アン?なんだよお前オタクニュースにゃ興味ねーんだよと毒づく銀時の耳に入ってきたのは、「婦女連続誘拐事件」の最新ニュースだった。
犯人がまだ特定できず、警察が手を焼いている事件でもある。ただ不思議なのは、誘拐された人は早い時は翌日、遅くても数日で解放される。それでも解放された女性らはみんな「誰なのかわからない」としか言わず、捜査は難航しているらしい。
そのニュースを、新八は真剣な目で見ていた。なになに、と神楽も興味をもってテレビを見る。
「これ見てください銀さん、誘拐された、または誘拐されそうになった女性の人、みんな髪型や年代が一緒なんです」
「そりゃお前、誰かを狙ってんだろーよ。そんで人違いだったら解放してんだろ?」
「銀ちゃん、この特徴、全部ななしに一致してるアル」
椅子の背もたれに思いきりもたれかかっていた銀時は、叫んだ途端椅子ごとひっくり返った。だが慌ててテレビの前に顔を寄せる。
本当だった。髪型も年代もななしと一致している。まさか。
「……い、いやいや~~、でも別にこれとあれは関係なくね? お前ら見てんだろォ、あの女の貧乏な顔。犯人が狙ってんのはきっと金持ちでこの髪型でこの年代の女なのさ」
「何そのムチャクチャな推理?! そこまで範囲絞られてんならその家狙えばいいじゃん! みんな町娘なんですよ、町娘」
「なんにせよ、ななしが狙われる可能性もアルネ。私、スーパー行ってくる!」
「ちょ 待てよ!」
「うざいんだけど! この非常事態にモノマネとかうざいんだけど!!」
銀時の外れたボケに手厳しくつっこむと、新八は神楽を追って玄関に走った。
それを見て、銀時も髪をかきながら木刀を手にした時だった。
「わっちょっと!」
新八の慌てた声に、居間から玄関を見る。
その姿に、銀時はどこぞの男のごとく瞳孔を開く。
「アンタは……!!」
「すみませんっ、あの子いますか…?!」
着物を所々血で汚した、ななしを万事屋に預けた依頼主が息をきらせていた。
一方、道を歩いていたななしは大空を見上げ、顔をしかめた。まだ降ってはいないが、雨雲が空をうめつくしていく。早めに買って帰らないと。
スーパーの手前にある赤信号で立ち往生している時、すぐ隣の男らが話していたのがふと気になった。
「そういやあな、お前に会う前、妙な男に会ったんだよ」
「妙な男だァ? んなもんそこら中にいるじゃねェか」
「いや、そうじゃあなくてよ。変ななりで、あまり近づきたくねェ輩だったな」
物騒な話だわ、と思うも、目の前の信号はなかなか青にならない。車が急いで通り過ぎるだけだ。
「へェ、もしかしてそいつ攘夷志士だったりしてな」
「んなわけあるめーよ、それなら俺ァこの場に生きていねーよ」
「確かになァ」
「まあ聞けよ。そいつが着てる着物がさ、また派手でな。顔は笠かぶってたからわからなかったんだが、今時珍しく煙管ふかしてた男だったよ。そんで俺に尋ねて来たんだ、ちっこい天人を見かけなかったかって」
「ほう。そんでお前はどうだったんだ?」
「いや、驚くことにちょうどそいつに会う前、見かけたんだ。俺の目の前を、ちっさな天人のオッサンが港に走り去っていったもんだから、そりゃ記憶に残るわな」
「がはは、ちっせーオッサンか! そりゃ残るな」
「それを言ったらそいつも港の方向に歩いてったからな。多分ありゃあ追っ手だぜ。きっとあの天人たちが、最近起こってる町娘誘拐の犯人で、それをあの正義の味方が追ってるってなかんじで」
「天人なんかみんな怪しいもんだろ。そんなことでいちいち事件とくっつけてたら、全天人が町娘誘拐してもおかしくねーぜ」
「ははっまあな」
「だがよ、俺も聞いた事あるぜ。女みてーな派手な着物着て帯刀してる、攘夷志士なら」
「げ、もしかして俺そいつに会ったってのか? 助かったぜ」
見るからにホッとしている青年に、もう一人はカカッと笑い否定した。
信号がようやく青になる。ななしは横断歩道に一歩踏み出した。
「もし本人ならお前は本当に斬られてらァ。なんせその攘夷志士ってのァあの桂小太郎と互角に敵対してる、」
高杉晋助。
男から発せられた名に、横断歩道一歩目でななしの体が硬直した。
今、この男の人、なんて言った?
愕然とするななしの横を、二人組はなんなく過ぎていく。
「ああ、幕府の官僚が皆殺しになった事件の犯人かァ」
皆殺し。
物騒なんて言葉では片づかないその言葉に、ななしは我が耳を疑うしかない。
どういう事なのか、まったくわからない。
「だからおめーの会った奴は、高杉じゃねーよ。ま、偽モンで命とられずにすんだな」
二人で楽しげに笑いあう、その背中を見届ける間もなく、ななしは踵を返した。
●なんかあれだよね、明らかに聞かせてる的な会話だよね…でもいいんだよ、おはなしだから!(お前)●