本編
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「あーもしもし? 万事屋ですけどお」
腹ぺこだしななしが帰ってこねーし(チクショーやっぱついてきゃよかった!)でイライラしてる時にかかってきた電話。
もし依頼だったら即刻断るか明日に引き延ばしてもらおう、そうしよう。
固く心に決めて受話器をとった俺を待っていたのは、やかましいBGMに紛れたアイツの声だった。
『もしもし、銀ちゃん? ななしだけ』
「んなもん百も承知だ! 何やってんだお前、どこで油うってんだコノヤロー! そっから動くなよ、迎えに行くから」
あいつはケータイを持っちゃいねーから、多分どっかの公衆電話からかけてんだろう。あれ、でもそれなら普通静かじゃねーか。どっかの建物の中か?
『あ、それなら神楽ちゃんと新八くんも連れてきてくれる? あと私の割烹着も持ってきてくれないかな』
「わーったからそっから、……は?」
後半の部分を聞きとがめる。いや、迎えに行くのになんで割烹着? おかしくね?
しかしそれは、次の台詞で理解できた。
『場所はね、真選組屯所っていう所だよ』
「ハアアアアア!?!! あのヤクザと警察官の間の野郎どもが集まってる所か?!」
『前に、銀ちゃんと一緒に行った事あるよね? ちゃんと来れる? 迷ったらこの電話に連絡し』
「うるっせェェェエよ! 迷い子のお前に言われたくねーよ! とりあえず言わせろ、お前なんでそこにいんの?」
ていうか俺主人公だから、舞台のかぶき町の住人何十年やってると思ってんだよ。そう思いながら聞いたななしの話は大半がスイカの知識で、最後らへんにぽつりと、まるでPS的な扱いで、
『で、山崎さんがすいかのお礼に屯所でご飯とすいか どうですかって誘ってくれたの。だからいるんだよ』
「俺が聞きたいのそこォォォ!! なんで一言で終了してんだ! スイカの方を一言でまとめろや!」
しかし、理由はなんとなくわかる。こちとらガキん時からななしの金銭に対する頭の回転の速さは見てきてんだ(貧乏ってほんと、悲しいよね)
「どうせお前、材料はやつら持ちだから金使わなくてすむとか、そんなんだろ」
『………だって、私のかごも一緒に払ってくれたんだもの。そこまでされちゃ、断るわけにもいかないよ』
素直に認めない言い訳ぶりに、笑みがこぼれる。どうやら子供に図星をつかれると素直に認めたくねーらしい。
しゃーねェ、このまま狼集団にななしを渡すわけにもいかねーし。
電話を終えて、俺は割烹着を片手に、点いていたテレビを消した。その時、タイミングよく新八が帰宅する。
「定春の散歩終わりましたよー。あれっ銀さんどっか行くんですか?」
「おう。おい、神楽起きろ。飯だ飯。外食だぞー」
「外食!!」
ぱちっと目が覚めた神楽と、かえって不審がる新八に、俺はのびをしながら言った。
「お前ら、しばらく何も口に入らねーくらいにたんまり食えよ。腹にみっちり米つめてこい」
屯所に着いてジミー大西、あ間違えた大西いらねーや、ジミーにななしの所まで案内された。
なんかの旅館の食堂じゃねーかと思うほど無駄に広い広間を通り過ぎ、台所に入る。
そこに、ななしがいた。その姿を見るだけで安心した。
が、それともう一人、ヤツがいた。マヨラーは俺らが入ったと同時に、台所を出た。なんかイライラするんだけど、なんでだ。
「よう、アホのかーちゃん。ユニフォーム持ってきてやったぞ」
「ありがとう。でも、アホは余計だよ」
割烹着は母ちゃんのユニフォームだっていうのをどっかで聞いた事がある。それは本当だ、目の前のこいつにはそれがぴったり似合ってんだから。
年齢関係なく、こいつァ俺がガキん時から、女を捨てた「母ちゃん」なんだと思い知らされた気分だ。
「ななし、私達どこにいればいいアル?」
「ん、そうだねえ。疲れてなかったら、すいかを冷やすのを手伝ってほしいんだけど」
そこで新八と神楽はジミーと一緒に台所を出て行った。残された俺は、ななしの隣に立つ。
「んで、俺は?」
「銀ちゃんは休んでていいよ。私が作るんだし」
「いやお前、無理だろ。あの人数分作るとか」
「なーに言ってんの、大所帯は昔もだよ」
ニッと笑うと、ななしは早速野菜を切っていった。
しばらくそれを眺めていたが、やはり我慢できずに 別の包丁に手をのばした。
「バカかおめー、子供と大人の大所帯は大違いだろうが」
「そういえばそうだね。悪いねえ、銀ちゃん」
「悪いと思ってんなら、……あーもういいや、だるい。なんかここの家 男くせーし。ぱっと作って食ってけーるぞ」
「はーい」
そしてできあがった料理を次から次に新八とジミーに持って行かせる。次第にさっきの広間から聞こえる声や音がでかくなっていった。
「そういえばね」
「なんだ」
「銀ちゃんたちが来る前に、土方さんがいたんだけど」
「ああ、知ってらァ」
「その人も、銀ちゃんと同じ事言ってたよ」
「は?」
今のうちに使った道具を洗っていた俺の手が止まった。
「俺も手伝う、だって」
「…あんなナリでか」
「ふふ、私もビックリしたよ。副長さんだし、どちらかと言うと人に命令して自分が動かなさそうな感じだったんだけど」
「そのくせ、俺が手伝うっつーと素直にやらせんのな」
「えー、だって銀ちゃんだもの。それに、お母さんは子供の親孝行が一番嬉しいのよ」
「……へーへー」
ま、いいか。こいつが嬉しいなら。
飯をたらふく食った後、「俺花火セット持ってんだ!」と一隊士が言い出した事から、今は花火かスイカ組かに別れていた。毎回思うが、今は本気で疑問に感じる。こいつらほんとに役人?
「ただわんぱく坊主がそのまま成長しただけの集団じゃねーかここは」
「ふふ、なんだか昔を思い出すね」
「いや、俺らの方がまだ大人だった」
遠くを見る目つきのまま、ななしは黙り込む。
縁側に腰掛けた俺とこいつ以外の奴らは、庭中に散らばってそれぞれ時間を満喫していた。
ななしが選んだというスイカを、神楽と沖田くんが早食い競争していたり、新八に誘われてやって来たお妙にゴリラが駆け寄ってそれを多串が止めていたり、山崎はミントンしたり(こいつは相変わらずじゃん)
確保したスイカの一切れを「ほら」とななしに渡すと、俺も大きめの一切れに歯形を付けた。
「あめーな」
「熟してるすいかはとっても甘いからね。これに塩付けたらもっと美味しいんだけど」
「いや意味ねーだろそれ。甘いのに辛くする意味ねーだろ」
「わかってないね銀ちゃん、それが大人の味ってもんだよ」
「絶対違うね」
「おっし、タダ飯も食えた事だし、おめーら撤収すんぞー」
「おめーら少しは片づけようたァ思わねーのか!!」
多串の罵声を綺麗にスルーして(んなわきゃねーだろ、こっちは客だよ?)、屯所の門をくぐる。ジミーと、(お妙の)見送りにきたゴリラにななしが「ご馳走様でした」と一礼した。
「いやいや、ご馳走になったのはこっちですよ。またいつでも料理作りに来てください、待ってますんで!」
「いや、その誘い方おかしいだろ。それなら依頼しろや依頼、金払えよコノヤロー」
「お妙さんは毎日でも遊びに来てください、待ってますんで!」
「それなら未来永劫 待っててください、ここから一歩も足動かさないで」
そこで歩き出したのは、俺と新八と神楽とお妙だった。ななしは動かない。それに気づいたのは数歩進んでから。
ゴリラとジミーに一言かけてからこっちに駆けてくる。何を言ったのかは聞き取れなかった。
俺の隣についたななしの表情は思わしくない。
「なんだ、あのゴリラになんか言われたか?」
「ううん、違うよ。……帰ろ」
その声に、足を止める。あーちくしょう、たまに見せるこの表情は、好きじゃねーや。聞いてもはぐらかすだろうし。
まいった、と、ななしの髪に手をおくとぐしゃぐしゃにかき回した。
「なっ何するの銀ちゃん!」
「なんかむかついたから」
「あ、反抗期?」
「ちげーよ、ていうかなんで そんならんらんとした目ェしてんの?」
「ここが母親の正念場だからね、いつでもかかっておいで」
「そんなバリバリ戦闘態勢の母親に 手ェ出す息子はいねーよ」
いつの間にか盛り上がった会話のはるか後ろで、ゴリラとジミーは首をかしげていた事に、俺はまったく気がつきゃしなかった。
「……なんか、意味ありげじゃないですか」
「だなあ。ありゃどう見ても万事屋のメンバーだろうに」
「………(「ただの居候だから、それはできない」か…)」
★わきまえすぎるななしちゃんがいい