本編
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新八が帰って、夕方になっても神楽は帰ってこなかった。案の定ななしは心配で、何度も玄関から外を見ている。
「どうしよう、もうすぐ暗くなるのに。知らない人について行ったりしてないかしら」
「おめーと神楽を一緒にすんなよ。大丈夫だ、あいつァ人を襲う事はあっても襲われるこたァないから」
むしろ返り討ちだしな、と経験者は語る。その名も俺。アイス勝手に食われて頭はたいたら数倍のパワーで頭をたたき割られそうになった。
その時、神楽の声が玄関から響いてきた。それにななしが、ぱたぱたと向かう。
「神楽ちゃんお帰り! 遅かったね、心配したよ!!」
「ななし、ただいまアル。あと、私今日は友達の家に泊まるヨ」
「あら、お泊まり会? いいわねぇ、楽しんでらっしゃい」
「うん! 明日の朝には帰ってくるアル! ななしのご飯食べたいから」
いってきまーす、と出て行った神楽を見て、俺は気づいた。
………明日の朝まで二人きり?
新八も神楽もいねーこの家で、二人きり?!
「ワン!」
「あ、いたの」
定春の出現に、少なからずテンションが下がった。
「それじゃ銀ちゃん、ご飯の支度するから洗濯物いれといてくれる?」
「あいあいさー」
よっこいしょ、と重い腰をあげてベランダに出る。しわ一つない服が、風でなびいている。ななしの服を手にした時、洗剤の匂いにまじって別の香りがした。昔から知ってる香りで、俺は自分が安心している事に気づいた。悔しいが、ここは「おかあさん」だな。
「ななしー」
「ん、なにー?」
台所から返事がくる。洗濯物をななしの部屋に運んで一息ついてテレビを見たら、あろうことかアイツがまたテレビに出てた。
ヅラ、の一言に、包丁を持ってななしがテレビの前に立つ。オイオイオイ危ねーだろ!
「ほんとだ、ヅラちゃん! ……でも、何この衣装」
「今のアイツにヅラとか桂とか呼んでも無駄だ。キャプテンカツーラだから」
「え?」
海賊みたいな格好で眼帯をして真面目に出演するカツーラに、俺は殺意をおぼえた。マジでうざい。しかもよりによって今日の今こいつを見るのが、非常に腹立つ。そしてチャンネル変えようとしたら思った通り、
「ダメ! ヅラちゃん応援しなくちゃ!!」
ななしはビデオの録画までセットさせて(カラクリは苦手らしい、そりゃなァ)ようやく安心すると、台所に戻った。
そして残った俺はそれを見るしかなく、ぐちぐちと文句を垂れながら飯を待った。
「飯うめーのに、ヅラがいると胸糞悪い」
「そんな事言わないの。これってなんの番組?」
「あー、ペット自慢する番組。まだやってんのか、しかもエリザベスだし」
「えりざべすっていうの? なんだか日本語離れした名前だね」
「そりゃそうだろ、日本人じゃねーし」
そんな会話をしつつ、ご飯を二杯おかわりしてたらふく食った後、あくびをした。腹の皮が張りゃ目の皮が弛むっつうのは本当みてーだ。
皿を片づけているななしと目が合うと、こっそりと笑われたような気がした。
「腹の皮が突っ張れば目の皮が弛む、だね。寝る前にお風呂入ってきなよ」
「………(あー、一緒)」
どうでもいい事にちょっと機嫌が良くなる俺は、こいつの前じゃまだ子供な理由がわかった気がした。素直に風呂場へ向かって、目を覚まさせる。
しかしその後ソファーに寝っ転がって、ななしが皿洗いをしているその音を聞くと、どうしても眠くなっちまう。安心しすぎるにも程があんだろ、俺。もしこの場に(ボケたりちょっかいだす)神楽がいたら、この気持ちよさは味わえないにちげーねェ。定春も安心しきった様子で寝てらァ。
ちくしょう、目の皮で視界が覆われていく。遠くで「銀ちゃん」と呼ばれた気がしないでもないが、俺は気にせず まぶたを閉じた。
「………」
そして気がつきゃあ、真っ暗だ。何時かもわかんねーけど、真夜中なのはわかる。
ここで寝たら間違いなく風邪ひく。浮気疑惑の夫とマチコ(ミチコだっけ?)の一件以来、俺は風邪を引かないようにしようとしている(神楽が俺に似てきたって新八に文句言われたな) しゃーねー、部屋戻るか。
ふらふらした足取りで適当にうろつき、部屋を見つける。ふすまを開けて、敷いてある布団に足を入れる。思いの外あったかいそれは、暑いほどでもなく、むしろ心地よかった。
あれ? 枕がない。まァいいか、別に。眠ィし。
それにしても勿体なかったなー今日は。恋人らしい事でもして俺を意識させる時間もあっただろうに、実際はその俺が寝るとかお前、何このアホらしさ。
「(チクショー…!)」
少しいらつきながら腕を何げなくのばすと、何かに触れた。なんだ、と引っ張るとそれは何かの布で、鼻を近づけるとあの懐かしい香りがした。これも睡眠に拍車をかけていく。
それがなんだとか、まったく疑問にもたず、俺は今度こそ意識を手放した。
「銀ちゃん、銀ちゃん」
すっげー近くでななしの声がした。ああ、朝か。
「起きてよ、銀ちゃん」
「まだいいだろォ、最近疲れてんだ。寝かせろ、あと一時間」
「い、一時間って……! 困るよ、朝ご飯準備しなくちゃ」
「別に勝手に準備すればいいじゃねーか」
目を閉じたままななしに言い返す。すると「え、あ」なんて歯切れ悪そうなななしの声がした。
「じゃあ、離してくれるかな」
「………んァ?」
不思議な問いかけに、うっすらと目を開ける。天井があって、神楽が見下ろしている。
あり? なんでななしが横にいんの。
しかも、俺、ななしの袖握りすぎて、合わせの部分はだけさせてるし。
え、まさかあん時引っ張ったのって、これ!?
そんな俺に有無を言わさず、神楽が足でアゴを蹴る。地味に痛いんだけどここ! なんでアゴ?!
「近親相姦なんて犬畜生にも劣るぞコルァ!!」
「朝からそんないかがわしい事言うんじゃねェェェェ!!」
つーか近親じゃねーよ。ほんとの母親だったら泣いてるよ俺ァ。
ななしはようやく俺の手から離れたそでを整え、前を合わせ直すと何事もなかったかのように立ち上がった。虚しいな、ノーリアクションて。ここで、俺がいかに男として見られてないかがわかる。
せめて「バカ!」とかパンチくれてもよくね? いや欲しいわけじゃねーけど。
「神楽ちゃん、ご飯の準備手伝ってくれる? お腹すいてるのにごめんねえ」
「大丈夫アル。私、手洗ってくるネ!」
神楽が部屋を出た後、アゴを押さえたまま俺は声をかけた。
「誤解すんなよ、部屋間違えただけだから」
「はいはい、わかってるよ。昔にも似たような事あったもの。同じように袖つかんじゃって」
「そだっけ」
あー、だから慣れてるわけね。
頭をぼりぼりかきながら腰を浮かせた俺に、ななしは目を細める。
「あの時はすぐに離せたんだけど、今日は全然できなかったよ。…男らしくなったねえ、銀ちゃん」
「………」
飯いらねーから、しばらく悦に浸らせてください。
★近親相姦を神楽ちゃんに言わせるか本気で迷いました