本編
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仕事の依頼もなく、俺達はうちわと扇風機を奪い合ったりゴロゴロと床に寝そべったり、ななしが作ったかき氷を一口で食べ終わったり、とにかく暇で暇でしょうがなかった。
電気代のかかるテレビは点けられてない。
「あーちくしょう24時間テレビ見てーのに」
「駄目だよ。24時間も見るなんて目に悪いし、電気代がかかるでしょう」
「だァから言ってんだろ、24時間っつうのはテレビ局側がする事であって俺らは24時間ぶっ続けて見るわけじゃねーんだって」
「そう言って続きが気になって結局 長時間見たの誰ですか銀さん」
「神楽ァ、新八の口にガムテープ貼ってもいいぞ~」
ギャアアア!!の悲鳴をきれいにスルーし、俺はななしがかき氷を作るのを眺めていた。
ううん、と力を入れて取っ手を回している姿が妙に笑える。
「くっ……! もう、固…銀ちゃん、何ニヤニヤしてるの。お母さんが困ってるのに手伝ってくれないの?」
「誰がかーちゃんだ。しゃーねェな、手伝ってやるよ」
俺が取っ手をたやすく回すのを見て、ななしは悔しがるかと思いきや、片頬に手をそえてため息をつく。
「銀ちゃん……本当に立派になって」
「だからやめろや母ちゃんぶんの! 腹立つんだけど、俺いっとくけど今のアンタより大分年上なんだけど!!」
「今は、でしょ。昔、夜は便所にも一人で行けなかったくせに。やっぱり子供ねえ」
俺がどんなに「子供」から抜け出したいと思ってるのか、この女はまったくわかっちゃいねえ。
くっそー腹立つうううゥゥゥァァアア!!
「ぬごををををを!!」
「すごいヨ銀ちゃん、氷があっという間にガシャガシャネ! いっただっきまーす」
「俺の分も残せよおいィ!!」
やかましくなってきたその時、ピンポーンと場違いな音がした。
出る気がない俺らにかわり、ななしが腰をあげる。
宅配便かそれともキャサリンかババアか、と思っていた分、このむかつく来訪者に俺は状況を飲み込めなかった。
「あら、どうも。その節は お騒がせしました」
直後、だらけきっていた俺と神楽は素早く バレねーように玄関をのぞきこんだ(新八は身体中ガムテープで苦戦しているから無理だ)
多串とサドじゃねーか、万事屋が最も嫌いなタッグじゃねーか。
下の神楽なんか早速指の関節鳴らしてるし。
そんな俺らに気づかず、玄関の会話はすすむ。
「この前のハンカチ、一応洗ってはみたんだが……」
歯切れの悪い口調で野郎がポケットから取り出したのは、ズタボロになった……え、あれハンカチだったの?どう見ても雑巾じゃね?みたいな布。
「この男、慣れねェ手洗いするもんで ハンカチが耐えられなかったんでさァ。すいやせんね、ななしさん」
「この状況でお前が謝るのがむかつくんだけど」
いいよ沖田君、その調子でいけ。
そう思っていたのはどうやら俺だけのようで、神楽は目をどっしり据わらせて(こえええ!!)玄関へ歩き出した。
オイオイオイオイ、待て!
「なんで税金ドロボーが来てるアル。さっさと帰れヨ、私らまで同罪になっちまうだろ」
「か、神楽ちゃん! すみません、きちんと言って聞かせますから」
「離すネななしー!」
神楽の力なら、簡単に 肩におかれた手を払ってケンカを売れるだろうに、どうやら手荒な真似はしたくないらしい(俺とは大違いだなオイ! このマザコ……いやファザコン?)
「ちょっと待ちなせェ。アンタこの前 万事屋の旦那の妻つってなかった? なんでこのアマが娘なんでさァ」
「俺ァ銀髪が息子っつうのを聞いた」
呆然とする多串くんと沖田くん。
ぷふー、とんだバカ面だよこりゃ!!
思いきり吹き出す一方で、俺の立場が非常に虚しくなる(なんだよ旦那はいいけど息子って)
そのままで突き通せばいいのに(特に沖田の台詞)ななしはご丁寧にも説明する。
チッ、面白くねー。
「なんだ、ただの遊びかィ」
「遊び言うんじゃねーヨ金髪! お前にマミーは渡さねーかんな!」
「俺にゃマミーなんて必要ねェよ。とっくに乳離れは完璧なんでィ、お前と違って」
「ハン、そう言う奴はだいたい反抗期と乳離れを勘違いしてるアル!て銀ちゃんが言ってた」
言ってねェェェェ!!(神楽コノヤロー!!)
思わず乗り出した体を引っ込める。
いや、別に向かってもいいんだけど
もう少しこのまま見てもいいかと思った。
「そんで、アンタの好みがわかんねーからよ。できるだけ同じようなやつ探してきた」
「ええっ」
ビックリするのも無理はないよな。
ななしは聖母マリア日本バージョンな女だから、ギブしてもテイクを求めねーし。
案の定、困惑した声でななしは言う(きっと顔も困ってんだろーな)
「でも、あれ、凄く安くて……(きっと今の時代じゃ安物以上の安物なんだろうなあ)」
「んなもん知ったこっちゃねー。それに、アンタがどうでもよくても、俺の気がすまねーんだよ。おら、受け取れ」
半ば無理矢理、ななしにそのハンカチが包まれた物を押しつける。
はー、お前何、ペドロのカンタロー気取りですか。第一印象悪いけどじょじょに良くなって仲良しになるんだぜ的な展開?
「させるかァァァァァアア!!!」
マッハのスピードで廊下を走りななしの隣で器用に止まる。
他の四人は冷静に、俺の登場を見ていた。
無言ののち発言したのは、総…なんとかだ(なんだっけ、総太郎?)
「……何してんですかィ、旦那」
「なんでもねーよ、ていうかお前らいつまでいんの? かーえーれ、さっさとかーえーれ」
「銀ちゃん! お客様になんて事言うの!」
「客じゃねーよこいつら、客なんて扱いが一生似合わない柄だよ」
「一理アルネ」
「こら、神楽ちゃんっ」
瞳孔開き気味の男が更に瞳孔を開く。
アンくるかコルァ、と 眉をひそめると、そいつは黙って背中を向ける。
「邪魔したな」
「え、あの」
「こっちは仕事が残ってんだ。もう用はすんだ、総悟いくぞ」
「俺ァ仕事ねーから先に帰っててくだせェ。ななしさんと積もる話もある事だし」
「ねーェェェよ!! ほら帰りなさい、もうすぐ雨降ってくるから、ペドロに会えるかもしんねーよ」
しかし こいつはニヤニヤと、楽しそうにななしを見る。
「いやァ、そりゃ世の中にゃ色々な人間がいるでしょうや」
「あ? 何が言いたいアルカ コルァ、はっきりしろ」
「別に。ただ、おもしれェなと」
「おもしろい?」
ななしが素直に聞き返すが、俺はぎくりとした。
「アンタ、まるでどっかの田舎娘か、箱入り娘みてーな感じがするんでね。あ、ケンカうってるわけじゃねーんで。どーも、この江戸に慣れきってねー感じがするんでさァ」
あ、やばいかも。
本格的にこいつ殴って色々喪失させてみようか、と思った時、救いの手を差し伸べたのは意外にも瞳孔が(さっきよりは)少し閉じた男だった。
「ウダウダ言ってねーで帰るぞ!! お前仕事ねーとかいって俺に回してんだろーが」
「そんな事ありやせんぜ、ただ気づいたらアンタの部屋に来ててついでに持ってた書類を置いて」
「何その都合いい無意識!?」
ギャーギャー言いながら外に出た二人を見送ると、すぐに閉め鍵をかける。
ななしはそんな俺に不思議そうな目を向けたが、俺が「なんでもない」と言うと素直に受け取り、にっこりとリビングに戻った。
手には、ぎゅっと握られたハンカチの包み。
……………。
「銀ちゃん」
「……なんだよ」
「マザコン、いい加減卒業した方がいいアルヨ」
「その口にガムテープ貼らせてくんねェ?」