本編2
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とりあえず政宗さんに泣きついて前田さんを客人として招かせていただくことはできた。すこぶる不機嫌だったのは恐らく前田さんが自分の部屋(政宗さんの部屋ね)でゴロンと横になったり、夢吉ちゃんがキッキーと部屋中を飛び跳ねたり、やりたい放題だったからだと思う。断じてわたしのせいでは……ない!!!!!
「ありがとなななし、おかげで助かったよ」
「いえいえどういたしましてー。でも普通、お願いしてる横でゴロゴロしないですよね」
「いやあ、長旅だったからさ。それにあんたなら、間違いなく独眼竜に勝てると思ってたし」
「キイッ、終わった後ならなんとでも言えますよ」
ほんとだって、と妙に迫る前田さんをかわしつつ、わたしはとある部屋に着いた。ここが前田さんにあてがわれた部屋だ。
「ここが前田さんのお部屋です。政宗さんの部屋じゃなくて、ここでゆ~っくりくつろいでください」
「あれっ待ちなよななし。どこに行くんだい?」
前田さんをその場に残し立ち去ろうとしたものの、片手をつかまれてしまった。どこに行くだって? そんなの、一つしかないじゃろがいっ!!
「政宗さんのところですよ。下がったテンションをわたしのラブパワーで急上昇させてあげるんですから!」
「あはは、ほんとに独眼竜が好きなんだなー。……なら、ますます行かせられないや」
「は?」
! えっちょ、まさか…もしかしてこの人わたしに!? と胸キュンしそうだったわたしを、
「俺に詳しく聞かせてくれよ! たまには恋の話、男としてみたくないかい?」
白い歯を見せて笑う前田さんが、力強く部屋に押し込んだ。
い、いや…別に期待してたわけじゃないし!! むしろわたしには政宗さんがいればいいしっ!!
今まで政宗さんについて語らったことなんて、去年の年末にアイちゃんとしたくらいで。というか、語らう相手さえいなかったのだ。
そんなわたしは、はじめからターボ全開だった。
「…そこでですね、なんというタイミング! 政宗さんが駆けつけてきてくれて、その男をボッコボコにしてくれたんです! その後真田さんが来たんですけど、わたしからしたら政宗さんが9割真田さんが1割ですねー活躍したの」
「へえ!」
「あの瞬間、ああ、運命の神様ってほんとにいるんだなあと思いました。だって普通そこでくる?!みたいな! わたしだって本当に来るとは全く思ってなかったんです、もはや断末魔的な感じで叫んだんですもん。最期の最期に愛する人の名前叫んで御陀仏するつもりだったんですよ。そしたらまさかの政宗さんが間に合ってくれて……あああもうあの夜を思い出すと…!! あの日興奮しすぎて眠れなかったです!!」
「そりゃなー」
前に起きた事件やら小十郎さんへの奮闘っぷりを、ちょっと味をつけてとにかく話しまくる。でも前田さんはその間全く茶々も入れず飽きたような表情も浮かべず、楽しそうに聞いてくれた。それが嬉しくて、わたしも話を続けていく。
「後はですねえ、小十郎さんのお手伝いをしようと畑仕事をしたことがあって、」
その瞬間、後ろから頭をガッとつかまれた。あ、あれ?と上手く整理できないわたしはとりあえず自由のきく首をめぐらせ、人物を確認する。
「げえっ小十郎さん!」
「なんだ、俺じゃ悪かったか?」
「いえいえいえいえいえ!!! そんなことないです小十郎さんありがとうございます!!!」
脳みそをプレスでつぶされそうな感覚に戦慄しながら、突然現れた小十郎さんのご機嫌をとる。
すると今までニコニコしていた前田さんが、眉をひそめ小十郎さんを見上げた。
「何やってんだい、竜の右目ともあろう男がさ。女子供相手にその扱いはないだろ」
「勘違いすんじゃねェ、こいつァ教育だ。ガキには必要だろうが」
「わたしガキじゃありませんけど! 女子供の女の部類なんですけど!!」
「何もかもが未発達のくせに何を抜かしてんだお前は」
「!! いいいいっ今の聞きました前田さん?! 出ましたよセクハラ! セクシュアルハラスメントが!!」
「え? 何が?」
あ、そういえば前田さんわからないんだ、英語。今の今まで「今の言葉何?」とか聞かれなかったから知ってるのかと…。
……は!!
頭上からものすごい殺気が!!!
「百歩譲っても千歩譲っても一万歩譲っても……てめェに言われる筋合いはねェェェェよ!!!」
「う……ギャアアアアアアアッッッ!!!!」
両方からこめかみにグーを押しつけられ、ドリルのごとく回転させられる。
わたしの頭をつくより、天をついてェェェ!!
どうやら小十郎さんは、女中さんが晩ご飯のお知らせをしようとわたしの部屋に向かったものの、もぬけの殻だということを知り、わざわざ探しに来たらしい(まさか前田さんと長時間恋バナしてたなんて思わなかっただろうなあ)
毎日この時間になりゃ夕餉だとわかるだろうと小十郎さんに毒づかれながら、わたしと、それに続くようにして前田さんも広間へ向かい、ご飯も美味しくいただいた。
「ごちそうさまでした~!」
「ごちそうさん!」
そして前方にいる政宗さんのところへ向かおうと腰をあげた途端、
「さっ行こうかななし!」
「うげっ!!」
着物の襟首をつかまれ、遠心力の関係で首がしまる。いやいや何言ってんの前田さん、時にはよんでみよう空気を! 吸うだけじゃなくて、吐くだけじゃなくて!
「まっ待ってください! どこに? どこに行くんですか?!」
「どこにって、話の続きだよ。さっきから聞きたくてしょうがなかったんだ」
「ああ、あれ…。なら、後でいいですか? ちょっと今は立て込みを…」
「独眼竜-、いいだろ?」
一瞬、前田さんがニヤッと笑った気がした。かと思えば政宗さんに声を張り上げる。果たして政宗さんは、たいした反応もせずにご飯を口に運ぶだけだった。ただし、隣の小十郎さんの顔が半端なく怖かったけど。
それをまたポジティブな前田さんは、是ととらえたらしい。そのままわたしを引きずり、広間を出たのだった。
それから前田さんの部屋にお邪魔して、ご希望通り話の続きをする。
聞き終わると、前田さんはあぐらをかいて頬杖をついた。夢吉ちゃんはというと、今はわたしの手のひらで遊んでいる。かわいいなあちくしょう、タヌキちゃんと良い勝負だ。
「ななしって、本当に独眼竜が好きなんだなあ」
「ええ、まあ。むしろライクっていうかラブ?」
「ふーん」
「あ、今の言葉わかります?」
「いんや、わかんねえ」
「……あの、わからない時はわからないって言ってもらって結構なので…わたし極力使わないようにしますから…!」
「いや、言葉の意味はわかんないけど、あんたの言い方から、なんとなく感じることはできるよ。好きっていうか愛してるみたいなもんだろ?」
「おおっ! すごいですね、英語わかるんですね!!」
「だからわかんねーってば。あんたがわかりやすいんだよ」
「なるほどー」
前田さんが苦笑いするのを聞きながら、夢吉ちゃんの頭を人差し指でなでてあげると、きい、と小さく鳴きながら目をつぶった。
その後ややあって、前田さんがふとしたように呟いた。
「……ななしは、さ」
「はい?」
「変なこと聞いちゃうんだけど。……独眼竜の為なら、自分が死んでも構わないって思うか?」
「…政宗さんの為なら、ですか?」
「ああ。あんた、今はそうじゃなくてもその内間違いなく、独眼竜の弱点になる。そんな時、男の為に命を投げ出す覚悟はあるのかと思ってさ」
「……うう~ん…どうでしょう」
そんなこと、今まで考えたことなかったけど。確かにわたしは今戦国時代の世を生きていて、奥州にだっていつ戦火が迫るかわからない。平々凡々に毎日を過ごしている、いや、過ごせているのだ。それは政宗さん率いる伊達軍のおかげだってこともわかってる。
でも、わたしが政宗さんの弱味になるとか、その為に命を投げ出すとか……果たしてできるのだろうか。いや、あえてそこを言って…と顔をあげると、前田さんはすごく真面目な表情でわたしの返答を待っていた。
「…ここはバシッと『政宗さんの為ならたとえ火の中水の中!!』と答えたいんですけど…ぶっちゃけ、その時にならないとわからないですねー。それにもし政宗さんの為に死んでも、それで政宗さんが悲しんだら意味ないし」
「………そっかー、そうだよな、うん」
「でも、死ぬ気になら なれますよ」
飼い主のところへ戻っていく夢吉ちゃんを見送りながら、わたしは目をこすった。そろそろ眠たくなってきた。お風呂入って寝よう。あ、その前に政宗さんのとこ……い、行けるかな。
「死ぬ気、ねえ…」
「政宗さんの為にわたしができることがあったら、絶対に死ぬ気で頑張ります。でも死にたくはないです」
「ははっ面白いね。でも、それが一番いいよ。死んだら、いいことなんて一つもない。悲しむ人がいて、悔いる人がいて、…憎しみが生まれるだけだ」
ん? なんだ、前田さんの様子がさらにおかしい…気がする。なぜか遠い目をしていて、わたしを見ているんだけど、焦点があってない。何か思い出してるんだろうか…まあ初対面のわたしがズカズカと聞くわけにもいかないから、スルーしておくべきかな。
ちょっと沈んでしまった雰囲気を吹っ飛ばすべく、わたしは胸を張って堂々と言いはなった。
「ていうか、政宗さんがそんなヘマするはずないですもん! わたしが死ぬような目にあっても絶対に助けてくれます」
「……っか~~、悔しいね! 世の中の男 女が、独眼竜とあんたみたいな奴ばっかだったらな」
「あははは、それは駄目です。政宗さんは一人でじゅーぶんです」
「わかってるって」
それにしても、あんたって本当に変わってるなあ。
ほめられてるのか呆れてるのかわからない口調で前田さんにそう評価されたわたしは、とりあえず夜も遅いので自室に戻ることにした。
「ななし、今日はありがとな。おかげで助かったよ」
「いえいえ! わたしこそ、楽しかったです。前田さんって社交的で友達の輪広そうですよね、すごくうらやましいです」
「んなこたないよ。敵ばっかだし」
じゃーな、と頭をなでられ「近所の兄ちゃんみたい」とふと思った。
ああーいいなあ、こういう人。恋の相談役にぴったりだよね!!
上機嫌なわたしはそのまま帰り、政宗さんのところへ向かうことなく一日を終えた。
見送る風来坊の微笑み
その間筆頭はどんな様子なんでしょうか。