本編2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ミーンミーンと蝉が目の前の太い幹にしがみつき、鳴き叫ぶ。
それを眺めながら、わたしは氷を頬張っていた。
城の倉庫裏で。
「あひい……」
いつきちゃんからもらった氷だけど、わたし一人でだいぶ食べてしまった。まずいなあ、これは…いや、まずいのはこの状況のことであって、氷はとっても美味しいんだけども。ていうか味はそもそもないんだけども。
「残り、いくつだっけー…」
陰に隠れてるから氷はまだそこまで溶けてない。けれど、だからといってどんどん食べると小十郎さんに怒られてしまう。
「しょうがない、あといっこ」
ところがそのいっこも、この暑さで少々小さくなっていて、簡単に終わってしまう。
「………あといっこ」
だいじょぶだいじょぶ、まだこんなにあるんだもん。氷と氷同士がくっついていようが半分以上とけていようが、うん、だいじょう……
「ってもうないしいいいいい!!! やべえええ!!」
自分に言い訳をしている間に手は休まず働き、その結果桶には水の固体らしき物体が消え失せていた。ひんやりした水だけが残っている。
こ、これは、さすがにまずい。さっきのまずいよりもっとまずい。
「ど、どうしよ…とっとりあえず………証拠隠滅ーーーー!!」
桶をつかむと、残った水を一気飲みしようとした、が。
「ぶへっ!!」
あまりの冷たさに、吹き出してしまいました(き、きたね…!)
「ぷっ」
あれ。
今、わたし意外にも吹き出した人…いなかった? ちなみに今のはわたしじゃない。わたしはゲホゲホむせていたはずだ。
回りを見渡しても誰もいない。な、なんだ……あっまさか!! いやそうに違いない、だって明らかに平成より物騒だし理不尽な戦で犠牲になる人多いもん、そうだ、そうに違いない。
「な、なむあみだぶつ…!」
とりあえずその場で合掌し、念仏(といってもここまでしか知らない)を唱えると、今度は高らかな笑い声が聞こえてきた。何、わたし幽霊にバカにされてんの?
「おもしれーな、あんた!」
「え」
今度は呼びかけられた。ただその声がさっきよりもはっきりしていた為、どこから聞こえてくるのかがわかった。上だ。
慌てて首をめぐらせ木の上を見回してみると、ああ、いた。なんかすごい派手な衣装着てる人。緑の葉っぱにちょっと隠れ気味だけど、緑とは正反対の色だから簡単に見つかった。ていうかなんだ、幽霊じゃなかったんだ、良かった…………ってよくねえ!!
「どっどちらさまですか?!!」
あんな人初めて見る。明らかに奥州の人間じゃない。不法侵入だ、密入国者だ、犯罪者だ!
一方、あちらさまはわたしが見つけたのを確認したように、ニッと笑うと木の枝から飛び降りた。ちょっ少なくとも5メートルはあるんですけど! 目の前で投身自殺なんてやめてェェェェ!!
「……っと。いやあ~やっぱ奥州は平和で……何してんだあんた」
「え」
目をつぶった上に顔を手で覆うわたしを、不審そうに見るその人は、声と顔立ちからして男だった。なんだこのイケメン…声もかっちょいいぞ。まあ政宗さんには劣るけどね!!! それはともかく、どうやらこの人、あの高さからきれいに着地したようだ。ようだ、っていうのは、本当に見てないからわかんないわけだけど。
それにしても、髪が長いな。あっちこっちにはねてるその髪質が、なんとなくこの人にマッチしてる感じがする。それより何より、
「っきー」
「あ! 小猿?!」
「夢吉ってんだ。仲良くしてくれってさ」
突如その髪から出現した小さなお猿さんは、とってもかわいらしかった。何この和み! 恐る恐る手を差し出すと、ぴょんと乗っかってくれたし!
その夢吉ちゃんは手からタタタッと腕を走り肩に止まると、わたしのほっぺをペチペチと軽くたたいた。そしてまたこの男の人の肩に飛んでいった。
な、なんだ今のは。
首をかしげるわたしに、男の人はにっこり笑って言った。
「いろんな奴らに囲まれて苦労してるな、だって」
「なんでわかるの?!! 初登場なのになんでわかるの?!!!」
「あんたほんとおもしれーなー」
のんびり構えている男の人だけど、いやいや、あなたが一番怪しいんだからね?
でも、もしかしたら政宗さんのお客様かも………どうしようか。
わたしの脳裏に、某ギャルゲー的選択肢が思い浮かんだ。
1:「あなたは誰ですか?」と直接聞いてみる
2:「政宗さんのお知り合いですか?」と直接聞いてみる
3:「何しに来たんですか?」と直接聞いてみる
まあ、どちらにしろこの場で全部聞くけどね!! 強いて言うならわたしは政宗さんのボディーガード。不審者には容赦しないよ! 小十郎さんに「お前が一番不審者だろーが!」といつもつっこまれているのは内緒にね!
ちなみにタイミングなんて待つ必要はない。わたしはズバリ聞いてみた。
「すいません、超今更かもしれないんですけど……どちらさまですか」
「ああ、名乗ってなかったっけ? 俺は前田慶次! よろしくな!」
「え、ああ、どうも」
「で、あんたは? あんたも名乗っちゃいなかっただろ」
「あっそうでしたっけ。ななしです……あ、間違えました。伊達ななしです」
「伊達ぇ? ってこたぁあんた、」
ふふん、そうです。わたしが他ならぬ……
「伊達政宗の親戚か! そうか、そんなら話ははえーや!」
「ちっがあああああああああああああああう」
え、何違うの?ときょとんとしている前田さん。でもちくしょう、そうか、同じ名字=夫婦ってわけじゃないもんな…。
とりあえず「訂正」してあげよう。
「わたしは政宗さんのお嫁さんです。ていうか妻です、妻」
「ええええええ!! あの独眼竜に妻?!!」
「(え、なんだその驚きようは)なんかまずいですか?」
「いや、全然まずくないよ。ただ、意外というか……いや、なるほど、だな」
「意外?」
こくりと頷く前田さん。何が意外なんだろう?
「ほら、やっぱ近隣の諸国の大名から縁談の話とかくるだろ? ところが独眼竜はひとっつも承諾してねーって聞いてたからさ。天下獲るまで女つくんねーのかって思ってたんだよ。でも、そっか、あんたが……」
「は、はあ…」
前田さんは、なぜかおだやかな目をわたしに向けた。けれどそれも一瞬で、
「よっし、じゃあ嫁さんに道案内を頼むとするかねえ! 頼むぜななし」
なんて笑顔で言うものだから、あとの2と3を聞くこともできず、
「は、はいっ」
わたしは桶を持ったまま前田さんを連れて城に戻ったのだった。
頑張ってリクに応えまするぞ…!