「ゆき～が～とけてかわ～に～なってながれてゆきます～」


　実際川なんて見あたらないけど。


「つく～し～のこがはず～かしげにかおをだします～」


　そしてそのウブなつくしは、先ほど鬼の小十郎さんが全てかっさらっていった。


「もうすぐはあ～るですねえ」


　さあさあ政宗さん、


「ちょっときどってみませんか？！」

「嬢ちゃん今は夏だよ」

「シャアアァァァラッップ！！！」


　だああああもう、猿飛さんの当たり前すぎるツッコミが腹が立つ…！

　いくらお客様とはいえ、夫婦仲を冷やかすことは、おてんとさまが許してもこの愛の戦士ななしが許しませんッ！！


「ていうか真田さん、もう帰ってるんでしょ？　猿飛さんなんでまだいるんですか」

「いや、帰ってないからね旦那。勝手に帰さないで、可哀相すぎるから（色々な意味で）」










　わたしが奥州から現代に戻り、そして再び奥州へトリップできたあの日から早何ヶ月。

　気づけば雪がとけ、桜も散り、今は太陽が厳しく照りつける毎日。

　ただ、政宗さんの態度だけは今も昔も変わってない。


「政宗さん、いい加減 甲斐組のみんな帰してください。じゃないと、これからもっと楽しいことができませんよっウフ☆」

「おいアンタら泊まっていかねェか」

「政宗さんどういう意味ですかそれ」


　即座に甲斐組の宿泊を提案する政宗さんは、まさにツンそのもの。うわーん、あの大晦日のデレ政宗さんは今いずこおおおお！！？


「ちょっと、猿飛さんどう思います？　これでもこの人奥州の王なんですよ」

「うーんいーんじゃなーい？」


　他人様ののろけほどつまんねーもんはないしーと、今にも鼻の穴に指を突っ込みそうなほどやる気のない猿飛さん（流石にそれはないだろうけど）　なんだ、いったい何があったんだこの人に。言っておくがわたしは関係ない、と思う。だって猿飛さんや真田さんと再会したのは数分前だから。それも、あの冬以来だ。


「…………どうしたんですか？　猿飛さん」

「…いや、別にないけど」

「嘘だー、絶対にあるでしょー」


　きっと自分の恋愛が存外上手くいかないから八つ当たりしてるんだ。クフフのフー、しょうがないなあ、たまに猿飛さんにお世話になってるし相談にのってあげましょう！

　そしてあぐらをかく猿飛さんの肩に手をのせ、「まっかせ～なさい」と声をかけてあげた。


「餅は餅屋、女の子の気持ちは女の子がよくわかるもんですよ。さーさっ、この恋愛マスターねえさんに言ってみなさい」

「誰がsisterだ」

「ぶひっ！！」


　ちょうど背を向けていたため、後頭部を政宗さんにげしっと蹴られる。いってえええ、まさかここでツッコミが入るとは…ッ！！


「ダメですねえ政宗さん、奥州のキングたるもの民にだけじゃなく全世界の人間に優しく、そして協力してあげなくちゃ！」

「生まれて十数年のガキに色恋教えてもらいてェ男なんて そうはいねーと思うがな」

「何言ってるんですか、恋愛は年齢より経験ですよ！　猿飛さんはきっと今まで花より団子だったんでしょうけど、ねっ猿飛さん」

「そこで同意求めないでくれるかな嬢ちゃん。なんか悲しくなってくるから。ていうか団子なのは俺様じゃなくて旦那だよ」

「（……自分のことは否定しないんだ）」


　まあしょうがないけどねー、わたしと政宗さんみたいなラブリーカップルにはこういう恋の相談とか無用だし。なぜなら相談することなし、ちゃんと真正面からぶつかって乗り越えていけるから☆


「まあ猿飛さんも頑張ればわたし達みたいに、誰もが羨むベストカップルになれますよ！　ねーダーリン」

「ななし、悪ィが猿と話すことがある」


　愛する夫の腕に抱きついたものの、そりゃもうキレーにするりんと抜けられ話を変えられてしまった。猿飛さんがなぐさめようと片手をあげてくれたけど、ううん、いいの、わたし大丈夫だから。政宗さんのシャイ加減もＳ加減もツンツンツンツンツンデレ加減も理解してるから。

　それに今は珍しく小十郎さんが外に出てるから、何やってもきつ～いお仕置きを受けなくてすむしね☆

　チェッしょうがないなあ……でも、予約だけは忘れない！


「はいはーい政宗さん、猿飛さんと話が終わったらわたしの相手してください！」

「OK.　但しアンタがこれから大人しく草むしりして夕餉準備の後布団敷いて眠ったらな」

「はーい」

「あれっ今の流していいの嬢ちゃん？　流してよかったの？」


　
　　


　素直で従順なわたしは、お天道様が元気いっぱいに紫外線をぶちまける中草抜きをしていた。えへへへへ、まさに奥ゆかしい妻って感じ？　笠して手ぬぐいまいて、見た目は完璧おばさんだけどね。


「あーっちいなァ……こういう時はビールみたいなシュワー！ってするジュース飲みたいなあ。っていっけね、ビールないんだった」


　ん？てことは今の時代でビールみたいなものを作ったら、現代では「ビールの元になった飲み物は戦国時代伊達政宗の妻が作った」みたいなことになるのかな。す、すげえ…もしそうなったらだけど。


「ななし殿！」

「え？」


　ふと声のあがった方向を見ると、真田さんだった。ああそういえば真田さんいなかったな。「ちょっと急用が」なんて言ったきりだったけど、そういえばなんの用だったんだろう？


「お帰りなさい真田さん！　急用はすんだんですか？」

「これでござる！」


　ニッと笑って真田さんが腰巾着から取りだしたのは、……ん？　なんだこれ。ちりーんと、すずしげな音を出す小さな黄金。


「……鈴？」

「左様でござる。これさえあれば、次いかなる時でもななし殿は安全！　ご安心くだされ！！」

「ご安心て、ちょっとちょっと、そんな満足そうな笑み浮かべないでくださいよ。説明不足にも程がありますよ」


　つまり、わたしにこの鈴を身につけさせればまたどこかへ消えても鈴の音で把握できちゃうかも☆みたいな感じだろうか。

　ううん、戦では大男も逃げ出すほどの鬼神と聞いてるけど、……実際こうしてわたしの前にいる真田さんは、とうていそうとは思えない。あ、一回だけあったな。甲斐から犯人が逃げてきた時。


「まあ真田さんの言いたいことはわかりましたけど、なんかわたしペット扱いされてません？」

「ぺっととはなんでござるか？」

「……たとえるなら、真田さんが飼い主でわたしが飼い犬、みたいな」

「と、ととととんでもござらん！　ななし殿は立派な忠犬でござる！！」

「直すとこそっち？！！」


　でも、真田さんにまでこんな気遣いをされるのはわたしのせいでもある。わたしが消えた後日真田さんたちはこの奥州にヘイヘーイと遊びに来ていたみたいで、当然わたしと政宗さんの夫婦喧嘩を知っていたわけで。

　だから、朝は真田さんに「うおおおおななし殿おおおおお！！！！」と豪快に泣き叫ばれ、小十郎さんには「おめーら失せろ！」となぜかわたしまで追い出されそうになり、とにかく大変なものだった。


「大丈夫ですよ真田さん、わたしはもうヒステリック起こして失踪したりしませんから」

「本当でござるか？　佐助はおなごの大丈夫は信用できぬと」


　あンの猿、余計な名台詞はきやがって…！

　しかしここで ぐぬうと言葉につまるわけにもいかないので、とりあえず茶化してみることにした。真田さんだから予想通りの反応がかえってくること間違いなしだろうけど。


「ひっどーい真田さん、わたしより猿飛さんの肩持つんですか？！」

「そっそれは…！！　いや、それがしはななし殿の言葉を信じるでござる！」

「えへへ、ありがとーございます」


　ありがたく受け取った鈴をちりんと鳴らして、わたしは微笑んだ。それにつられたのか、真田さんも口元をゆるめてくれる。

　そういえばいつからか真田さんの笑顔作戦、企ててなかったなあ。よし、ちょうどいいからこの際再発足だ！　にやりと笑い、わたしは真田さんに早速その宣言をした。


「いい機会だから言っておきますね、真田さん！」

「？」

「いつか絶対、真田さんの笑顔見せてもらいますから！　今のうちに鏡の前でＮＨＫでも練習しててください☆」

「え、えん…なんでござるか？」

「だからー、」


　まあ生粋のニッポンジン相手に異国語つかうわたしもわたしだけど（でもしょうがない、これが本当のジェネレーションギャップ！）　地面にしゃがみ、手頃な石をつかんで「ＮＨＫ」と書いた。


「それが先のえんなんたらでござるか、異様な文字だ」

「あははは………わたしの字が汚いとかじゃないですよね」


　隣に腰をおろした真田さんは、自分の前にあるＮを指さした。問われる前にわたしが「にこにこです」と答えると、次はＨを指す。これはあれだ、「はきはき！」だ。


「それではこれは？」

「えーと…Ｋ…」


　身を乗り出して指さされたＫ。ちょっと迷ったけどすぐに思い出した。わたしの前にあるＫは、そうそう、


「きびきびです、さな」

「よォ、真田幸村」


　真田さんのほうに顔を向けると、そのほっぺを背後から現れた政宗さんに蹴りつけられた。跳び蹴りじゃなかったからそんなに痛くはないけど、なんかすごく痛い。心が。マイビューティフルハートが。

　それにこの場合、わたしがいちいち怒らなくてもかわりに吠えてくれるお方がいることはわかっていた。


「ななし殿に…おなごに向かってなんたる非道な仕打ち！　いくら気の置けぬ仲と言えど、ななし殿があまりにも不憫でござる！」

「Heyhey,こんなにちけーんだからいちいち叫ぶなよ。それにななしなら大丈夫だ、なァ？」

「ダ、ダイジョブデス」

「！！！　やはりおなごの大丈夫は信用できぬ…！　そんな顔になっているというのに！」

「ちょっ、今の後半、さりげなく失礼じゃないですか？！　わたしどんな顔になってるの？！！」

「で、あんたらはさっきから何土いじりしてんだ」


　腕組みをしたままわたしのほっぺからようやく足をどけた政宗さんに、わたしは渋々説明をした。ただし鈴のことは内緒だ。ジェラシー抱いて取り上げられちゃうかもしれないからね、フフ☆　……わかってますよ、そんな確率 氷点下よりも低いことくらい。


「Aha, that's what you've been up to.（なるほど、そうだったのか）」

「なんでそんな納得してるんですか？　ああ、もしかして密会してると思っちゃったんですね、なるほどね！　安心してください政宗さん、わたしはずっと政宗フォーリンラブ１号の免許大事にしてますから」


　そう言ってわたしが懐から取り出したピンク色の免許証は、政宗さんにすぐさま取り上げられビリッビリに破かれてしまった。アアアアアアア伝説の肩書き「１号兼総監督」ぅぅぅう！！！


「なんてことするんですかああああああ！！　２号兼軍曹並び幹部メンバーにしかられちゃいます！！」

「誰だそいつ」

「え、知らないんですか政宗さん。だいたい予想つくでしょ。このわたしと１号の座を巡るやつですよ、こッペパン！！！」</i>


　突然どこからか下駄が飛んできて、わたしの後頭部に直撃する。なんだ、今日は首から上がやけに危険だぞ！？　まあ犯人はわかりますけどね。しょうがない、秘密にしてあげますか。まだ死にたくないし。

　それにわたしの政宗さんへの愛は、あんな小さい長方形にはおさまりきらないっての！


「大丈夫です政宗さん、大好きです！」

「……あんたの大丈夫は信用できねーな」

「…え？（あ、れ？）」


　てっきりクールに「あっそ」と返されるかと思ったんだけど。変なの。

　結局真田さんは猿飛さんに引きずられ奥州を去り（結局何しにきたのあの人たち？！）わたしは小十郎さんに呼ばれるまでずっと草取りをしていたのだった。

　ん？　そういえばなんか忘れてるような……あ。


「真田さんに笑顔作戦宣言して、その返事もらってなかった…！　ま、いっか」




　
　　




「嬢ちゃん喜んでたみたいでよかったね、旦那」

「！　みっ見ておったのか佐助！？」

「そりゃ俺様忍だもの～。給料分の仕事はしなくちゃね」


　それにしても真田の旦那といい嬢ちゃんといい、天然だなあ。この二人、けっこういい感じにはなるんだけど、いつだって独眼竜に邪魔されちゃって。なんてかわいそうだことー（棒読みだけどね）

　さっきだって、あのまま嬢ちゃんが振り向いていれば、身を乗り出していたために体を近づけていた旦那の顔と至近距離だったはずだ。ところがどっこい、あんな展開だもんな。おまけにお互い気づいちゃいないし。ううん、なかなか苦労しそうだな、この三人は。


「そういえばだな佐助」

「なにー旦那」

「おぬしの言葉、あながち嘘ではなかったぞ」

「え？　俺様なんか言ったっけ？」

「言ったであろう、おなごの大丈夫というのは信用できぬと」

「……あーあれね。何、実際どうだったの？」

「ななし殿には悪いが、どう見ても大丈夫ではなかった」

「ははは、恋する女はみんなそうだって」


　ばりばり失恋中の旦那だけど、少なくとも嬢ちゃんが振り向く確率がないというわけじゃない。もし嬢ちゃんが独眼竜しか見ていなければ、伊達の旦那がいちいち邪魔するわけがない。その点では、あっちの旦那も旦那で、嬢ちゃんの大丈夫は信用できないとわかってるみたいだしな。


「ま、ゆっくりやっていけばいいさー」

「む……そうだな」


　さてさて、これからどんなことがあるのやら。

　嬢ちゃんがどんどんかき回してくれたら、それはそれで楽しいんだろうけどね！










大丈夫って連発する人はだいたい大丈夫じゃない
とうとう復活しました、これからもＮＨＫな感じでどうぞよろしくお願いします☆