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今日も遊びにやって来た真田さんに政宗さんをとられ、わたしはちぃっと面白くない顔で散歩をしていた。
そのうち城内に飽きたので、草履をはいて外にでる。庭に植えている木は、青々と茂っていてどれも元気良さそうだ。季節も季節だし、……って、あれ? 緑にまぎれて、オレンジが見える…。
「あり? 猿飛さん?」
見間違いではなく、木の枝の上で寝転がるお猿さんを発見した。
ていうか珍しいな、真田さんを草葉の陰から見守るお仕事を放棄しちゃってるなんて。
おまけに、わたしの呟きなんて聞こえてるはずなのに、全く反応がない。
そんな、どこか元気のない猿飛さんが少し気になるものの、相手のいないわたしは「何してんですか~」と気軽に声をかけた。
「…ん? ああ嬢ちゃん」
「気づいてなかったんですか、ちょっと」
「悪ィ、考えごとしてたらアンタの存在が見えなかった」
「存在否定?! あいっくァわらず、口が悪いですね」
「だから謝ってんだろ。そっちこそ何、独眼竜にフラレたの?」
「ええ、正確には真田さんに寝取られました」
「全然正確じゃないから、それ」
苦笑いしつつ返した猿飛さんが、ちょいちょいと手招きをする。…いや、手招きされてもさ。つまりこの幹を猿のようにのぼれと? 無理だね、わたし人間だから。
「大丈夫だって、ほら、縄に結び目つけてんの垂れてんだろ? 普通のおしとやかな女性ではないアンタの馬鹿力なら上れるって」
「普通に『君ならできる』ですむんじゃないですか?!」
口がへらない男だ、と文句を垂らしつつ、確かに上から垂れ下がっているロープを見つけた。ところどころに結び目ができているので、それを足がけにできるみたいだ。
ギ、ギ、とロープをならしながら、猿飛さんのいる枝まで上っていく。
「…ハァッハァッ…!」
「いらっしゃーい」
イラッ。
にひ、と笑って出迎える猿飛さんに、軽く殺意がわきそうになる。お、落ち着けわたし……。次期奥州のクイーンになるのだから、いい加減大人にならないと…。
「ていうか、もう疲れたんで降りていいですか」
「ここまできたなら上ればいいのに。…ったく」
腕をとられ、ぐいっと力任せに引き上げられる。
そのまま足をシャカシャカ動かして枝まで到達できたものの、勢いが止まらない。あばばば落ちるゥゥ!!
「わっ…!」
ぽすっと、柔らかい壁に勢いが吸収された。
「うわ、あぶね」
「…あー、ありがと…ございます」
猿飛さんに受け止められたようだ。顔を上げると、その顔がぐにゃりと歪んだ。
「………」
「え、何? まさかときめいてるんですか、美少女ななしちゃんに?」
「いや、間近で見ても、なんで独眼竜はこの顔で…」
「くらえやァ!!」
怒りにまかせて突き出した拳は、やっぱり軽々とかわされてしまった。わかってたけど、わかってたけども!
「まぁまぁ」
「アンタが言えた義理か!」
猿飛さんの手が、わたしの髪をがさがさとなで回す。政宗さんよりは乱暴じゃないけど、慣れてない手つきだなあと思う。
「はァー…。アイツもアンタくらい隙があればな…」
「え? ああ、猿飛さんの好きな人ですか?」
「……ま、同郷ってところだ」
「へー」
珍しく、わかりやすい嘘ついたな。やっぱ今日の猿飛さん、おかしいや。
それにしてもここ、なかなか良い場所だ。風がふくと、木洩れ日がゆれてなんだか気持ちいいし。
……背中は熱いけど。
「猿飛さァん、そろそろわたしを隣にうつしてくれませんか」
「めんどい。嬢ちゃん自分で動いて」
「無理! 落ちたら骨折しますもん!!」
「じゃあこのままー」
いつにも増して意地悪な猿飛さんは、きっと笑っている。
ていうかマジであっちぃ、これで汗かいて政宗さんに「お前汗臭い」とか言われたら、もうわたしは猿飛さんをつるし上げにする他ない。
「ところで猿飛さん、真田さんのとこ行かなくていいんですか? 襲われたらどうするんですか」
「いーんじゃね? むしろ襲った側を心配する」
「…ごもっとも」
今の真田さんは政宗さんとタッグ組んでるわけで、そんなところにモブ人間が「うおおおニャン美うおおおお」なんて突撃する想像すらできない。いや、そもそもあそこにニャン美ちゃんははいないか。うさみちゃんとパン美先生だ。
「ニャン美ちゃんはわたしですよね、常識的に考えて」
「俺様の常識と嬢ちゃんの常識は違うから、わかんねー」
「ああそっか、猿飛さんは可哀相な人だったんだ」
「その台詞、まんま くないではじき返すぜ」
「それならわたしは手裏剣にして返しま」
「その手裏剣ごとアンタに突き刺す」
「なんですかその容赦ない即答」
「まーね」
「……………」
「…………」
……………。
「……………」
「……あの……猿飛さん、マジでどうしたんですか…」
「はァ? 何が」
「え゛」
むしろ「お前が大丈夫か」と問いそうな表情に、言葉をなくす。
え……
「(えええええェェェェ!!)」
なんなのこの空気、わたしだけなの、落ち着かないのわたしだけ?!
明らかに猿飛さんのテンションおかしいもん!
そもそも出だしからおかしかったよね、現在進行形でおかしいよね!
それとも何、いつも真田さんといる時はちょっとキャラつくっちゃってるみたいな、実は今の俺が素だとか、そんなカミングアウトここでしちゃってる系ですか?
「いや、言っちゃ悪いですけど、今の猿飛さん、おかしいですよ。そもそもわたし相手にこんな体勢させないでしょ」
今も、わたしを後ろから抱きすくめている猿飛さん。
普段の彼ならば隣にわたしをうつし、ぐちぐちと日頃の話をするだろう、絶対。
果たして、彼はため息ののちに言った。
「………まぁ、…上機嫌ではねーよな」
「でしょうね」
ようやく猿飛さんから素直な言葉を引き出せて、ホッとする。
また、それをきっかけに猿飛さんはポツポツと話してくれた。
猿飛さんには好きな女の子がいて、その子には特別な人がいて、その人の為なら文字通りなんでもするらしい。で、先日お仕事中にたまたま出会ったらその子は包帯だらけで、特別な人が奇襲にあい、きっとそれを防ぐために奮闘した。そこまではいい。
その後に猿飛さんが「あんま無理すんなよ」と言うと、その女の子はなんてことのないように言った。
「無理をしなければ、あの方は守れない。無理をするのは当然だ」
わたしからすれば、どちらも正論…のような気がした。
この時代、武士はみんな武器を手にしていて、いつ誰に命を狙われてもおかしくない時代。本気で向かってくる相手には本気で立ち向かわなきゃいけないんだろう。
でも猿飛さんの心配も、やっぱり同意できて。
そこから考える、結果。
「……何やってんですか、好きな子怒らせるなんて。女心わかってないですねー」
「げ、なんでわかってんのさ」
「そりゃわたしも乙女ですから。心の底からオンナノコ!」
「わあ、そいつァすげえや」
「よっしもう帰る、政宗さんといっしょに胸の傷えぐりにきてやる」
「悪い。それは勘弁」
そんなんもう立ち直れねェから、と切実に言われ、しょうがないと呟く。
「とりあえず猿飛さんが超テンション低い理由はわかりました。で、事実を知ったわたしにどうしろと」
「別に。アンタどうもできないだろ」
「ひ、ひどい…」
「…わりィ。俺様アンタにしか甘えらんねーかも」
真田さんを守る猿飛さん。
好きな女の人を想う猿飛さん。
政宗さんたち同盟軍に気を回す猿飛さん。
仕事は有能だろうから慕ってくる人は多そうなのに、猿飛さんがこうして愚痴るのも、甘えることもできる人は、わたしみたいな…上下も恋愛も同盟もへったくれもない人間が、いいのかも。
「しょうがないですねー。今だけですよ」
「恩に着る」
後ろからお腹に腕を回され、背中にもっと温もりを感じる。
「あ、いっときますけど興奮はしないでくださいよ。すぐ逃げますから」
「大丈夫だって、俺の趣味は独眼竜とは違うから」
「……貶されてる、わけじゃないよな…?」
普段通り会話しつつ、わたしは自分にびっくりしていた。
政宗さんとこんな密着したらそれこそ鼻血だくだくだ。でも相手が猿飛さんだから、それはない。ないけど、やっぱ男の人だから少なからず緊張はするものだと思うのに。
なんでわたし、全然ドキドキしてないんだろ。
…あれか……よほど猿飛さんが圏外なのか(これを今の本人に言うほどわたしはSではない)
実は酷い扱いをされているとは夢にも思わない猿飛さんは、ふわあとあくびをしていた。
「あー…ねみ…」
「寝たらいいじゃないですか」
「仕事の最中に寝れるかよ」
「ちょっと、ここをどこだと思ってんですか? 天下の独眼竜が治める奥州ですよ。危険な奴なんてあっという間に三枚におろされます。…ていうかさっき自分で仕事放棄発言したくせに、矛盾してますよ」
「俺様は存在が矛盾してるからいーの」
「え? …ああ、人間だけど猿っていうことですか?」
「アンタだって猿だろ、年中発情期の」
「あ、ななしちゃんの堪忍袋が爆発しました」
くくっと笑う猿飛さん。その声が耳元でしたから、きっと肩に頭をうずめてるのかなあと思う。振り返ることはしない。
「…嬢ちゃん…」
「なんですー?」
「ありがと…な…。やっぱ……」
「………?」
「………」
「…………ん?」
ゆっくり振り向いて、猿飛さんのツンツンした髪が頬にささる。
ありゃ。眠ってる。
「あ、わかった」
全然ときめかない理由。
懐かないお猿さんがようやく心開いて嬉しい。
「よーしよしよしよし、よーしよしよしよし」
気分はまさに、ムツゴロウさんだ。
ただしチューはしない。
もつべきものは悪友だ</b>
猿飛さんと甘い雰囲気のお話。リクありがとうございました。