番外・現パロなど様々
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バレンタインデー。
それは恋する乙女が肉食・草食関わらず本気で相手にぶつかることのできる、乙女の為の日。
その相手というのは、勿論意中の異性だったり、はたまたライバルだったり。
「な……なんだ、この行列…!!」
どうやらわたしの場合、意中の人に出会う前にライバルをどうにかしなければいけないようだ。
朝、早速政宗さんにチョコを渡そうとしたら、三年生の廊下には全校女子の半数であふれかえっていた。そしてその女子たちは、それぞれのクラスに入る為に行列をつくっている。
「あっ猿飛さん!」
「おっす、嬢ちゃん」
三年生の教室に入ることができずウロウロしていると、猿飛さんが教室から出てきた。その手には可愛い包装の箱がたくさん抱えられている。わ、猿飛さんてこんなにモテるんだ。……知らなかった。
しかも教室から出たところを狙い、また数人の女子が駆け寄って渡していくものだから、猿飛さんと会話を交わすのにも一苦労だ。
「凄いですね、この密集具合」
「ま、今年は前田の風来坊が転校してきたからな。去年よりもっと増えてるはずだぜ」
「わーお。ていうか気のせいかな、わたし睨まれてません?」
「ドンマイ嬢ちゃん、すっげー睨まれてる」
勿論犯人は猿飛さんファンの方々から。
ひい、ただの悪友なのにこんな目で見られるなんて心外だ!
「わたしには政宗さんという心も身体も捧げる気満々の相手がいるというのに!」
「毎回受け取り拒否されてるけどね」
「黙ってください。あ、それで一応買ってきたんですけどいります? 義理」
「お、義理第一号。サンキュー」
「え゛。……まさかそれ、全部本命ですか?」
わたしから四角い箱を受け取りながら、大・小のハート型たちを見下ろし、猿飛さんは悪びれた風もなくあっさりと頷いた。
「らしいね。昨日までに前もってあちこち呼び出し受けてたんだけど、朝から真田を逃がす手伝いしてる間に忘れちまってさ、教室に帰った途端押しつけられた」
「う、うっわ!! ひどすぎますよそれ! 女の子の告白をなんだと思ってるんですか?!」
「文句は俺じゃなくて真田に言ってくれよ! 俺様だって好きで行かなかったわけじゃねーっつの」
どうやら(わたし以外の)女の子に優しい猿飛さんは、今回ばかりはなくなく真田さんの逃亡計画を優先してしまったようだ。
あれ、そういえば真田さん見かけないな。
「ていうことは今、真田さんは教室にいないんですね」
「ああ。緊急避難先で、多分、高い確率で、自己嫌悪に浸りながら嘆いてるはず」
「矛盾してますよー」
今は女子たちの声で騒がしいけど、きっと静かになれば真田さんの大声が聞こえてくると思うよ、と付け足す猿飛さん。ちなみに緊急避難先は応接室らしい。なるほど、考えたな。近くを通ったら大声ですぐバレそうだけど。
「で、嬢ちゃんの本命はどうなってんだ?」
「それが、あれ、見てくださいよ」
猿飛さん・真田さんと別のクラスである政宗さんの教室には、長蛇の列が。話している間にまた行列がのびてしまった感じがする。
「去年より女子が増えてるんですよ、政宗さんのクラス…!」
「体育祭が影響してんじゃね?」
憎々しげにうめくわたしを隣に、猿飛さんが冷静に分析する。確かに今年(いや、去年か)の体育祭は真田さん&政宗さん&前田さんのリーダーっぷりが格好良かった。
それで、一年生の女子も、今まで三人を知らなかった同級の女子も、ファンになってしまった可能性はある。
しかしわたしからすると、すっごくすっっっっごおく、面白くない。今こうしてる瞬間にも政宗さんは見知らぬ女子からチョコを受け取ってるわけで、
「グアアアアアッ!」
「え、何今の声、マジ怖いんだけど」
「今ならサイヤ人になれるんじゃないのちっくしょおおおお!!!」
「うっわ、嫉妬する女ってこえー」
「…いや、可愛い女の子相手に平気で水平チョップくらわせる猿飛さんのほうがマジで怖いです」
体育祭の時、生徒会種目というジャンルで学年無関係の男女混合二人三脚があったんだけど、たまたまわたしは猿飛さんと組むことになった。
しかし言いにくい話、どちらかといえば(ここ強調)足の長い猿飛さんと、足の短いわたしじゃリーチが違い、文字通り足を引っ張ってしまったのだ。そして大人げない年上の猿飛さんから、キレたついでに水平チョップをくらい、泣きながらゴールした覚えがある。
「でもあれは嬢ちゃんが悪いだろ」
「いや悪くないです」
「悪い」
「悪くない。むしろ大人げないですそっちが」
「伊達にハート飛ばして集中してなかったくせに」
「ぐぬ…!」
勝ち誇った顔をする猿飛さんをジロッと睨み、ふん!!と顔をそらす。
あ。
やべ。
いつの間にか倍増した猿飛ファンにガンをとばされている。
さすがに勝てる気がしなかったわたしは、二年生の教室に避難することにした。
「ちいっおぼえてろよ!」
「なんの捨て台詞?」
授業が終わるたびに、休憩時間を利用して三年生の教室に向かう。
しかし朝ほどではないけど相変わらず政宗さんのクラスに入るには十分以上並ぶ必要があり、わたしはそんな状況だった、一時間目後と二時間目後を諦めた。
かわりというわけではないんだけど、二時間目の後は前田さんに出会ったので渡すことができた。無駄足じゃなかったのが唯一の救いというべきか。
そして、三時間目が終わった後。
「三度目の正直だっ!!」
勇み足でまた三年生の教室へ。
ちなみに、なぜわたしが午前中こうも必死なのかというと、今日の三年生は午前中で下校になる。
おまけに政宗さんはお昼から用事があるようで、夕方も家にいないそうだ。その情報源は政宗さんと同じクラスの女子生徒で、そこから政宗さんファンに一斉に広まったらしい(個人情報保護法どこいった) ま、わたしは直接本人から聞いたけどね!
つまり、今日中にチョコを渡すとしたら、四時間目が終わるまでしかないわけで。その為、我々下級生は午前中は行列に時間を費やしているのだ。
「ななしどの!」
三年生の廊下に着いたところで、教室から出てきた真田さんに見つかった。
おお、ちょうどよかった。渡せたらなあって思ってたんだよね。
「避難、お疲れさまでした」
「? ああ…佐助に聞いたのでござるな」
気まずそうに笑う真田さん。この様子じゃ、猿飛さんの言っていたように朝は自己嫌悪で忙しかったようだ。
「チョコはもらわなかったんですか?」
「いや、教室に戻ったら机の上に乗っていたでござる。甘い物は好みゆえ、持ち帰って全ていただくのだが…。そ、その……」
急に赤面し、モジモジする姿に思わず笑ってしまう。昔から、言いにくいことを言い切るのに時間がかかることで定評のある真田さんは、健在のようです。
近所のお兄ちゃんが、ここまで変わらないのも素敵なことだと思うなー。良かった、不良の道とかに進まなくて。きっと猿飛さんのおかげだろう。
袋から猿飛さんと同じ種類の箱を取り出し、「はい」と手渡した。
「かたじけない!!」
たちまち笑顔になり、箱をがっちり掴んで抱きしめる。くうっこれで本当に年上か!(この可愛さ、年下だろうよ常識的に考えて!)
「ていうか喜びすぎじゃないですか、ちょっと足震えてますよ」
「い、いや…朝と休憩時間教室から飛び出していたら、女子から直接受け取っていないことに気づいたのだ。そこでななしどのから手渡しでもらえたことが嬉しくて」
「あはは、それ去年も言ってましたよー多分」
ケラケラ笑うわたしと、ギクッとしたように驚く真田さん(なぜそんな反応になる)
そこでチャイムがなってしまい、わたしは真田さんと別れた。
あー渡せて良かった、良かった。
……え、いや。
待て待て、わたし。
「まっ政宗さんに渡すの忘れてたァァァァ!!」
なんてこった、もう四時間目が終わった後しかチャンスがないなんて!
でも用事があるって言ってたから、あっという間に下校しちゃうかもしれないってこと? そんなの、やだァァァ!!
いっそのこと授業中に政宗さんを…いやいやそれは駄目だ、政宗さんの迷惑だし、女子軍に色々と目をつけられるし。
「(もう、四時間目が終わると同時に走っていくしかない…!)」
固く決意したその顔は、すごい形相だったようで。
教室に戻ってきたわたしを見て、友達が引いてました。
そして、運命の時。
「きりーつ、れい、ありがとーございましたー」
委員長とともに復唱した瞬間、わたしはアイシールド顔負けのダッシュ力……を想像しながら教室を飛び出す。さすがにあんな走りは無理だ…!
そのかいあってか、三年生の廊下には行列が見あたらず。
実は今までの間にほぼ全員が渡し終わってるから来てないという考えはわたしにはなく、勝った気分で政宗さんの教室に向かう。
「まっブ!!」
いきおいよく教室に乗り込んだ瞬間、あいているドアのはずが壁にぶつかる。
後ずさりしながら謝ろうと顔をあげると、なんと小十郎さんだった。
いまだに思う、この顔で政宗さんと同級なんて漫画でもあり得ないだろうと(死にたくないから、一生言えない意見だけどね!)
わたしの顔を見ただけで事情を察した小十郎さんが、馬鹿にしたように笑った。
「遅かったな、ななし」
「ちょっその笑みむかつくんですけど。何が遅いってい……まっまさか、もう帰ってしまったんじゃ!!?」
「そうじゃねェ。呼び出しだ」
「なーんだ」
それを聞いてホッとする。
しかし小十郎さんは「なんだじゃねェ」と眉をひそめた。
「意味わかってんのか、お前」
「え? 呼び出しって、職員室にでしょ? 違うんですか」
「……違うから言ってんだろうが」
頭をがしっとつかまれ(アイタタタ!)廊下を強制的に歩かされる。そしある程度歩いた場所で、窓に顔を押しつけられた。
「いだだだ!! 何す…」
窓から見えるのは、中庭。
そこに、一人の男子生徒と一人の女子生徒…の後ろに、二人の女子生徒が立っていた。
特に、男子生徒。こちらからだと後ろ姿だけど、長年付き合いのあるわたしからすれば、百メートル先からでも瞬時にわかる人物だ。
「…………政宗さんと、学校一のモテ美女じゃないですか」
「そういうことだ」
「え!? っま、ままままままままままさか付き合」
「うるせェ、誰も言ってねェ」
「ホッ! ですよね~! まあわたしにはわかってましたけど!」
「声に出てんじゃねーか」
ツッコミを入れ終わった小十郎さんが、渋い顔をして問いかけた。
「…お前、政宗さまがどれだけ慕われてんのかわかってんのか?」
「わ、わかってますよ…!」
と言いつつ、半分わかってない。
だって真田さんも猿飛さんもそうだけど、政宗さんは昔から政宗さんのままで、素直じゃないけど時々優しい、しかし結局は基本鬼畜な幼なじみだ。
そんな政宗さんのことがいつの間にか好きになっていて毎日アタックしているけど、決して気まずくなるようなこともなく、奇跡的にわたしたちの関係は変わることなく続いている。
変わらないから、気づかなかった。
政宗さんはわたし以外の人にはクールで優しくて、何より全然暴力的じゃない。そんな彼に惚れない女はなかなかいない。
わたしの予想をはるかに超えて、政宗さんはモテモテなのだ。
そんな事実、入学してから嫌というほど思い知らされていたのに、チョコを渡すための行列をあんなに見たのに、実際 告白の現場を見ると心臓にずっしりと何かがくる。
そんなわたしのことなんてつゆ知らず、政宗さんにモテ美女がチョコレートを差し出した。
「………」
「………」
「………ふっ…」
「…?(なんだこいつ気持ち悪ィな)」
「小十郎さん」
「なんだ」
「わたしがあんな現場見ただけでショック受ける、純情な乙女だと思っだんですか?」
「純情な乙女とは昔から思ってねえし、これからも思うつもりは微塵もねえが」
別の意味で否定する小十郎さん(強敵だ…!)
わたしは捕まったままの頭をその手から逃がすと、元来た道を歩き出した。疑問に思った小十郎さんに声をかけられるも、歩きながらクールに振り返る。
「政宗さんが告白されたとて、わたしには関係ありませんもん。政宗さんの好きな人はわたしだし、わたしは政宗さん大好きですし!」
直後、普段決して滑らない廊下で足がつるんと滑る。
受け身なんてとることもできず、固い床にガチンとしりもちをついた。
「思い切り動揺してんじゃねーか」
冷たい声にも負けず、黙って起き上がる。おしりが痛い。痛すぎて涙が出そうだけど、我慢する。
痛みついでに、ふと思いだした。ああそうだ、わたしってばまた忘れていたよ。
そのまま身体を回転させ、小十郎さんの前まで歩く。
「はい! 小十郎さんが文句言うと思って! ちゃんと用意しました!」
「何勝手にキレてんだてめェは」
刺々しい言葉とともにチョコを押しつける。
小十郎さんは呆れながらも受け取ってくれた。うん、この人やっぱ年上だ。
「またどうせ今年も、『すごく素敵なんだけど顔がめっちゃ怖くて直接渡せない!』な草食女子に、靴箱や引き出しにたくさんねじ込まれてるんでしょ」
「チョコレートに関しては正論だが、殴らせろ」
結構本気な顔だったので、90度のおじぎをしてから走り去った。
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁああああ~~」
お昼ご飯を食べ終わった頃には、三年生は全員下校がすんでいた。そしてわたしの鞄には、政宗さんへ渡すはずだったチョコが入っている。
結局渡せなかった。
そして、政宗さんは普通に帰って行った(窓からばっちり見えたよチクショー)
携帯電話にはなんの連絡もメールもない。チェッ、「チョコよこせ」とかくらい送ってきてくれたって良いじゃないか。
それともあれですか、もらったチョコ早速食べる為にそそくさ帰ったっていうんですか、フン。
「ちょっ、ちょっとななし…!」
隣の席の山田ちゃんが焦った声でわたしを起こす。いっけね、あまりにも気分が沈みすぎて顔突っ伏してた。
慌てて顔をあげるも、時すでに遅し。
「これは実に申し訳ない。私の授業は、卿には実に無価値な時間の様だ」
「!! まっまま、ま松永せんせ…!」
しっしまったァァァァ!!
入学時政宗さんに「こいつにだけは阿呆な面さらすな」と散々言われた、松永先生に声をかけられてしまった!!
目がばっちり合った瞬間、松永先生がわたしの顔をのぞき込み、冷たい笑みを浮かべる。
「ひっす、すみ、すみませ…!」
すみません泣いてもいいですか、めっちゃ怖いです、まるで首元に刀を突きつけられてるような感じだ。これは冗談にならない。
明智先生は不気味だけど、この先生はまた別の感覚で「なんでこんな人が教師になったんだよ」とつっこみたい。
しかし松永先生は青ざめるわたしを見て何か満足したようだった。顔を離して、「授業を続けよう」と教壇に戻っていく。
「(た、たすかった…)」
ああもうやだ、せっかくのバレンタインデーなのに、なんてアンラッキーなんだ…!!
そのテンションのまま授業は進み、何度か嫌みのように連続して当てられ(この授業が挙手制でないことを怨む!)さらに気分がダウンした。
長い長い午後の授業が終わり、放課後となる。
わたしは絶望的な表情を浮かべ、鞄をもって廊下に出た。
「結局、渡せなかったし…」
しょうがない。今日はもう諦めて、明日の朝に渡そう。
そう、思っていたのに。
「ななし」
「え」
目の前にいるのは、愛するダーリン。
喜びより、驚きのほうが大きかったわたしは茫然と立ち尽くす。
そんなわたしをみて、政宗さんが鼻で笑う。ちくしょう、格好いい!
「そのアホ面は一生なおんねーな」
「アホ面じゃありませんから! いやっていうかなんで政宗さんがここに…用事があったんじゃないんですか?」
「だから来たんじゃねーか」
「え?」
「帰るぞ」
「え…あの」
廊下を歩き出した政宗さんの言葉は耳に入ってくるんだけど、うまく理解できない。
しかしゆっくりしている暇はないようで、ハッと教室を振り返れば女子たちが目をランランと光らせている。
わたしは急いで政宗さんに続いて歩き出した。昇降口に向かい、靴を履き替えて外に出る。あれっそういえば政宗さんの荷物がない。それを尋ねると、「昼飯食いに帰った」と返ってきた。
え、ていうことは、
「!!」
ああ、ようやく納得できた。
理解した瞬間、世界がかわる。あれっ太陽の光がすごく温かいぞ、政宗さんの顔がすごくまぶしいぞ。
あれほど落ちていたテンションが、たとえるならばうなぎ登り。
顔中の筋肉がゆるみ、わたしはツンデレ政宗さんの腕に抱きついた。
「うわあああ政宗さん大好きです愛してます結婚してください今この場で!!!!」
「断る」
「そんな即答する政宗さんも好きィィ!!」
某変マユコックさんの如く運動場で絶叫すると、抱きついたはずの腕がするりと抜けられ、振りかぶって後頭部をがつんと殴られた。しかし今のわたしにはなんのダメージもない!
「でへへ照れ隠しですね、もうわかってますってば政宗さん!」
「うるせぇ」
あ、そうだ、チョコ!
二人きりで歩いてるんだから邪魔はないはずだけど、油断大敵。急いで鞄からチョコを取り出すと、横の政宗さんに渡した。
「これ、どうぞ!」
「...Thanks.」
フッと笑う政宗さんに、チョコを食べてない自分が鼻血を出そうになる。うわーん反則だろがい今の表情はァァァ!
しかし、今まで頭いっぱいだった目的が達成してしまうと、余計なことを考えてしまうのがわたしで。
「…あの、それで…どっどうでした?」
「どうって、何がだい?」
「いや、朝から休憩時間の度に三年生の教室に行ったんですけど、行列で並べなくて……。どれくらい、チョコもらったんですか?」
嫉妬丸出しの問いに、聞いた自分が嫌な気分になってしまう。
わたしってば何聞いてんだろ。数聞いたらそれだけショック受けるに決まってるじゃん。
「もらってねーよ」
政宗さんの発言は、本気で爆弾だった。
思考回路が吹っ飛び、その声につられるようにして顔がそちらに向く。
しかし彼はわたしではなく、渡したチョコレートの箱をじっと見ていた。
「今年は、ななしからだけだ」
「え、……えっ、ちょ…えええええええええええええ?!!!!」
嘘だッ!!とここで叫んだら、木の上にいるカラスがいっせいに飛び立ちそうなので我慢する。まあ結局絶叫したんですけど。
だがしかし、その答えはありえない、だってわたしはこの目で見たのだ、たくさんの女子が政宗さんに渡すチョコを用意して、並んで、……並んだところ、までだけど。
もしかして、教室の中では…、
「こ、断ってたんですか? …あのたくさんのチョコを」
「まあな」
「まっまあなって!! でも、学校一の美女からはあれからもらったでしょ、さすがに?!!」
「………見てたのか」
ジロッと見られ、自らの失言に気づく。
ぎくっとしたものの、すぐに悪いことじゃないと思い「見ました」と白状する。政宗さんは頭をかいて言った。
「あれも断った」
「な、なんで…だって、去年は普通にもらってたじゃないですか」
去年、二年生だった政宗さんは六時間目まで学校にいて、その間にもらった段ボールいっぱいのチョコをバイクで乗せて帰っていた。勿論、わたしのチョコももらってくれたけど。
突然の変わりように驚きしかうまれないわたし。
しかし政宗さんはこちらを一瞥して、答えてくれなかった。
「政宗さーん、帰りま…」
「ななし、こっち来て手伝え」
「…な…なんですか、その大量のチョコ」
「知るか。朝から休み時間ごとに机に置かれてんだよ」
「…そうですか、」
チョコレートを抱えた間から、ななしの表情を垣間見た。
「い…やあ、モテる人は違いますね! さすが政宗さんですっ惚れ直しました!」
泣きそうな顔で、笑っていた。
「………アンタが覚えてねーならいい」
「えっわたし?! えっと、えーと…(何、これ記憶力クイズ?!)」
「で、そういうアンタはいくつ渡したんだ?」
「去年と同じですよ、友チョコとして女の子数人と、猿飛さんと真田さんと小十郎さんと、あ、前田さんにも渡しました」
「……………前田にもかよ」
「いや、友チョコなんだからヤキモチやくことないじゃないですか…でも嬉しい! プフフ!」
「その面こっちに向けんな腹立つ」
「調子に乗ってすみません!! だが後悔はしな…いたたたァァ!!」
みんなの「第一号」
「あと松永先生、やっぱ怖いですねー」
「オイ、まさか目ェつけられたんじゃ」
「政宗さんのことばっか考えてたら授業疎かにしてまして」
「…………」
「ちょ、そんな複雑な表情しないでくださいよ…」
モラハラでバレンタインリクでした。ありがとうございました!