番外・現パロなど様々
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「へっくしょい!!」
朝から元気のよすぎるくしゃみをするわたしを、片倉さんが眉をひそめて見ました。
「風邪か?」
「あ、いえ…風邪じゃないと思います。すみません、大丈夫です」
鼻をすすりながらそう言っても、説得力はなさそうです。呆れたようにため息をつくと、片倉さんはわたしから鍬を取り上げてしまいました。
実は今朝は、片倉さんの畑仕事を手伝うつもりだったんですが…。
案の定、片倉さんから解雇の宣告をうけてしまいました。
「そんな状態で外にいられちゃ、集中できねえ」
「わたしなら平気ですっ、お手伝い」
「いいから部屋に戻れ」
「わ、わっ」
頭をつかまれると、少し乱暴に髪をかき乱されました。おかげで髪がボサボサです。
困った様に眉を八の字にするわたしを、楽しそうに片倉さんが見下ろしていました。うう、思い切り遊ばれてます。
しかたなく、畑に出て行く片倉さんをその場で見送り、部屋に戻ることにしました。
そして畳の上に正座をして、ぼうっとしていると、女中さんが入ってきました。お盆に何か乗せています。
「ななし様、こちらをお召し上がりくださいませ」
「え…? これは、」
「とある大名様からいただきました、茶にございます。小十郎様より、ななし様におすすめするようにと…」
「(片倉さんが…)」
思い切り気遣われちゃってるなあ…なんて苦笑いを浮かべますが、女中さんはなんのことかわからず首をかしげます。
しかし深く詮索をすることもなく、わたしに向かってお盆ごと畳の上をすべらせると、女中さんはぺこりと頭を下げて部屋を出て行きました。
確かにお茶の入った湯飲みが乗っています。手に取るととても温かく、ホッとしました。
「……不思議な味だなあ…」
緑茶のように濃くもなく、それでも後味はしっかりと残りました。いったいどんな大名さんが、伊達さんに献上されたのでしょう。きっと上等なものに違いありません。
……それって、わたしが飲んでも良かったんでしょうか…。…ま、まあ、片倉さんからいただいたわけですし…!!
なんとか気にしないように、気晴らしをかねて部屋を出たのはいいんですが。
「う……寒い…」
異常なほどに外が寒いのです。さっき廊下を通った時、こんなに寒く感じてなかったはずが、色々重ね着している肌に寒さが直接あたっているような感覚でした。
これは部屋に戻った方が良いんじゃないか。
そう考えてすぐに踵をかえしたのがまずかったらしく、動きについていけなかった足がからまり、その場でドテンと転んでしまいました。頭に廊下の床が激突し、クラクラします。
「……い、…いった…!」
「ななし?」
「へ……え!?」
まさかの発見者が、伊達さんでした。顔から火が出そうになります。
廊下に寝そべるわたしを見て目を少し丸くしていましたが、いつまで経ってもそのままの状態なわたしを不審に思ったのか、近寄ると上半身を起こしてくれました。
「すみません…ごほっ」
「おい、アンタ、まさか風邪ひいたのか?」
「え…?」
朝、小十郎さんにも言われた言葉です。あの時は違いますと即答できましたが、今は「そうなのかなあ」と同意してしまう心境にありました。
「確かにくしゃみや足取りがおぼつかなかったりしますけど…」
「……それを風邪以外の何で表すんだ?」
呆れたようにため息をつく伊達さんに申し訳なく、また言い返すこともできません。「あー…、えー…う…」なんて母音を呟いていると頭上からクッと笑われてしまいました。
そして、よりによってお姫様抱っこの状態で部屋に入れてもらったわたしは、きっと正常であれば心臓爆発か、(恥ずかしさから)全力でお断りをしていたはずです。
しかし今はそんな気力もなく、また謝りながら布団に入れていただきました。
「アンタといると毎度あきねえな」
「う゛……。…何から何まで…いつもすいません…こほっ」
「Don't take it so seriously.」(気にするな)
布団の中で、ようやく落ち着くことができました。そんなわたしの横に腰をおろす伊達さん。
そういえばわたしに何か用があったのではないのでしょうか。恐る恐る尋ねてみると、あっさりと答えられました。
「いや、何も」
「…あ、そうなんですか?」
「ただ会いに来ちゃ悪かったかい」
「!! そっそんな、そんなことな、ッホ…ゲホッ!」
慌てて否定した結果、のどに見えない酸素が絡まりむせてしまいました。
「Sorry,からかいすぎた」
「い、いえ…。…あの、ここにいたら風邪うつっちゃうかもしれないので……」
それとなく、部屋から出ていったほうが…と遠回しにすすめてみたものの、伊達さんの返答はわたしの望んだものではなく、
「俺のこたァいいから、ゆっくり休みな。邪魔はしねぇよ」
いや、いるだけでゆっくりできないんですけど…!!
しかし伊達さんの優しさを裏切ることはできず、曖昧に笑うことでこの話は止めることにしました。
「……ん…」
布団の布がこすれあう音がして、目が覚めました。
どうやら知らない間に眠っていたようで、天井を見上げていると大きなあくびをしました。いったいどれくらい寝ていたのか…。
「…あれ…………?」
ふと、この状況に既視感をおぼえました。前にもこうして、体のだるみを感じながら天井を見上げていたような気がします。
しかしわたしは記憶を失ってから、昨日まで体調を崩したことはありません。それなのにも関わらず、単に気のせいだと思えない自分に疑問がわいてきました。
「Good evening.」
「あ…伊達さん」
しまっていたふすまの向こう側から現れたのは、伊達さんでした。そういえば、眠る前までいたはずの伊達さんがいなかったことに今気づきました。
ためしに手に力をいれ上半身を起こしてみると、いくらか楽に起きることができました。
まだ頭が痛みますが、いつも冷静で優しい伊達さんを見ていると、その痛みさえどこかに飛んでいってしまいそうです。
「随分眠っちまってたが、楽になったかい?」
「はい、おかげさまで………え、…? 随分、ですか…?」
「今は夕方だ。半日ぶっ通しで寝てたみてェだな」
「そうなんですかぁ……ん…?」
「どうした?」
「…わたし、伊達さんがいたのに寝ちゃった…ということですか?! すみ」
謝ろうとしたその口を、伊達さんの手が素早く抑えました。一瞬ポカンとしただけでしたが、温かいそれが口を覆っているという状況を分析した結果、恥ずかしくなり赤面してしまいます。
一方伊達さんは、手をどけた後 眉間に少ししわをよせて、強い口調で言いました。
「アンタがいちいち気にすることじゃねーよ」
「あ、う、はい」
以前から、わたしが些細なことで「すみません」を連呼することに、伊達さんは抵抗があるようでした。それはきっと、元々のわたしがそんなことを気にしない性格だったからでしょう。
そんなことを思っていたからでしょうか。
顔を俯かせていると、言うつもりもなかった台詞が弾みでこぼれました。
「伊達さんは、早く元のわたしに戻ってもらいたいと思ってますよね」
ハッとして、慌てて伊達さんを見上げます。い、今の発言じゃなんというか…言い方がちょっとまずかったのでは…!?
「さぁな」
対する伊達さんの返答はつれないものでした。
そのあっさりとした台詞は、なんと答えればよかったのか わからなかったからかもしれません。そう思い、苦笑いしながら返事をしました。
「気を遣わないでください」
「気なんてつかわねえ。一度だってアンタにかけたことねぇよ」
「……それは酷いですね」
「It cannot be helped.」(しょうがねえ)
きっと数日前のわたしならまともに受けとりそうですが、今は笑って返すことができました。
「………ななし」
「はい?」
すると伊達さんの手が、今度はわたしの頬に触れました。
心臓がドキンと跳ねましたが、相手が真面目な顔だったので こちらも笑うのをやめました。
「アンタが記憶をなくそうと、俺のことをどう呼ぼうと思おうと、俺にとっちゃ関係ねーのさ。ななしはななしだからだ。今までも、これからも俺が守る」
「………は、い」
なぜでしょう。
前に片倉さんにも同じようなことを言われましたが、伊達さんに言われると、胸が締め付けられます。苦しいはずなのに、その苦しみさえ心地よく感じてしまうほどに。
自然と、伊達さんから目線が下がっていきます。
「なんだか、おかしいです」
「アンタがおかしいのは元からだぜ?」
「そっ、そうじゃありません。…なんというか…」
この感覚を、わたしは知っているはずです。
胸が苦しくて、ドキドキして、緊張してしまう、この気持ち。
ちらりと伊達さんの目を見ると、心臓が一段と跳ねあがってしまいます。
「(も、もしかして…いやでも、)」
間違っていたら、かなり、めちゃくちゃ恥ずかしすぎる…!! でも妙な確信がさっきから、頭から離れません。
聞くか、聞かないべきか。
しばらく葛藤をしていたわたしですが、ついに我慢できなくなり、伊達さんの顔ではなくその下の、着物を見ながら尋ねました。
顔は、見ることができませんでした。
「伊達さん!! あの、その……ま、間違ってたら本当にすみません。すごく失礼なんですけど、わたしと、伊達さんって…特別な関係だったりします…か?」
伊達さんから返事はありませんでした。
しかしわたしの口は勢いに任せて、早口で捲し立てていきます。
「あ、の、あの…っ、伊達さんといると、すごくドキドキするんです。それで、そのドキドキが、なんだか、前に味わっていることのような気、」
頬にあった感触が消えた直後、今度は視界が暗くなりました。
後頭部と背中に回された手がさっきより熱く、力強く。
伊達さんに抱きしめられた、という状況を把握するのに、十秒ほどかかりました。
「(な…なっ…!?!)」
混乱する頭の中で、不思議とその手から逃れるという選択肢は思い浮かびませんでした。かわりに、一つ気づいたのです。
頭や背中に触れている伊達さんの腕が、小刻みに震えていることに。
「だ…て、さん…?」
困ったわたしはそう声をかけますが、また、相手からの返答はありませんでした。
もしかすると、ないのではなく、できないのではないかと、思いました。
「…………(ああ、きっと)」
わたしも、伊達さんも、お互いを大切に想える間柄だったのでしょう。
そして知らないうちに、わたしは心の底で、伊達さんは言葉の端に、それらを訴えていました。
今、あの人がどんな顔をしているのかわかりません。
なのにどうしてでしょう、わたしは段々悲しくなってきてしまいました。もしかしたら伊達さんは笑っているのかもしれません。
しかし今、抱きしめられることで、嬉しさより、悲しさがわたしの心を占めてしまったようです。
ただ、石が当たっただけです。それなのに。
「(なんで、こんなことになったんだろう)」
どうして「わたし」は記憶を失ってしまったんだろう。
どうして「わたし」は大切な人を悲しませているんだろう。
どうして「わたし」は政宗さんを思い出せないんだろう。
どうして「わたし」は。
『ななしちゃん』
「(え…)」
不意に、耳元で女の子の声がしました。まるで囁くような、優しい声色です。しかしこの場にはわたしと伊達さんだけで、女の子どころか人影すら見あたりません。
単なる空耳だろうか、と思った矢先、また声が耳に届きました。
『魅力的な人なんだね』
「?!」
『だって、本嫌い!歴史嫌い!なななしちゃんが、わざわざ自分からすすんで知ろうとしてる偉人だもん』
こ、これはいったい…?!
しかし この声は、聞いたことがあります。
ただどうして、いったいどこから!?
あちこちに首をめぐらせても、やはり誰もいません。
『あっ。ななしちゃん見て見て、あそこで除夜の鐘が鳴ってるよ~』
「(じょや…って、まさか………)」
やがて、理解しました。
これは、わたしが思い出している「声」なのだと。
あれだけ 無理矢理思い出そうとしていた理性を笑うかのように、本能が素直に記憶の引き出しをあけていき、あの子の声を聞かせているようです。
『いってらっしゃい』
『あの人のところ』
『諦めきれないんでしょ? あの人かもって思うんでしょ?』
あの人? あの人って?
それに、諦めきれない? わたしが?
自問自答をそうして繰り返した時、答えと同時に別の声が聞こえました。
『びびんなよ、仮にも奥州のqueenだろ?』
この、声は。
不思議な感覚だった。
まるで脳に浸透した水が隅々までいきわたることで、昔々のことからここに来て過ごして、喧嘩して、現代に帰って戻って……といったことが、刹那にビジョンとして次々と見えていく。
「…あ…」
それはまさに「思い出した」という状態だった。
思い出したのだ。何もかも。
わたしはななしという現代人で、ある日なぜかこの時代にタイムスリップして、こうして風邪をひいたところを、この男に助けられて。
「政宗さん」
その男に、恋をした。
「政宗さん。わたし、ななしです」
「………」
「あなたのことが大好きな、ななしです」
「……そうかい」
今こうやって抱きしめられて、鼻血が出そうなほど興奮しているななしです。
「よくわかんないけど、今、すごく幸せです」
政宗さん。
この呼び名が酷く懐かしい。そういえば六日間、わたしはこの人の名を呼ばなかった。気のせいか「伊達さん」と呼びすぎて、政宗さんと呼ぶのがちょっと恥ずかしいかも。
「ななし」
「はい」
「…俺もだ」
「え…何がですか?」
「…………」
政宗さんは答えることなく、かといって腕をはなすこともなく、ぎゅうとわたしを抱きしめたまま。
それでも結局、鼻血は出なかった。
かわりに、涙腺が少しゆるんだ。
「…あのう、どうします? 政宗さん」
「何がだ」
「この勢いに乗じて、あ~んなことやこぉんなこと、したくなっちゃいませんか?」
「ならねぇ」
「なっならないんですか…?! 今ならチューも一歩先のこともしたってオッケーな雰囲気なのに…!!」
瞬間、わたしを愛しく抱きしめていたはずの腕がパッ!と消えた。そして布団に入ったままのわたしから数歩離れる政宗さん。正直傷つく。
ていうか政宗さんてばどんだけ奥手なの。いや違うのか。いやあってるのか? とりあえずここは正論だ、正論!
「なんなんですか、その反応はっ!? おかしいです、すごく! ここは腕をちょっと緩くして、それで涙目のわたしと見つめ合って…ウヒャアア!な展開のはずでしょうに!!!」
「お前の脳みそがおかしい」
「おかしくありませんんん、わたしの意見は全国の女性も納得なはずですうううっうぶっ!」
わたしの表情に余程いらついたのか、そばにあった座布団をひっつかむとぶん投げてくる政宗さん。
ちいっくしょう、こちとら忘れがちだけど病人だぞ!! 文句を言いかけたものの、別のことを思い出したためそちらに気をとられた。あの、真田さんを幸村さんと言い続けていた件だ。
「わたしって真田さんのこと、今まで幸村さんって呼んでませんでしたよね明らかに。なんであの場で言ってくれなかったんですか!」
しかし政宗さんのお返事は、至極真面目だった。
「記憶がないアンタに、嘘を教えたという事実をつきつけると人間不信に陥るんじゃねーかと思ってな。それに、名前くらいどうってことねえ」
「ふ~ん……。とか言って、あんなにジェラシー燃やしてたじゃないですか~」
「そりゃ夢だ」
「ちょっ夢にしないでくださィィィ!! あっでも安心してください、もう政宗さんと小十郎さんとしか呼びませんから! ……っ」
と。
これだけ絶叫しまくったおかげなのか、咳のオンパレードが始まってしまった。そうですよね、記憶が戻ったからって風邪の症状は消えたりしないですもんね。
げっほがっほ!とむせるわたしに、政宗さんは「やれやれ」といった表情を浮かべると、乱暴ながらわたしを布団に寝かせた。
「あのー、なんで記憶がない時は優しいのに今はこんな手厳しいんですか?」
「何事もbalanceが大事だからだ」
「は?」
それはつまり、今のわたしにはツンツンで、記憶のないわたしにはデレデレというバランスということだろうか。ちくしょう、それなら記憶戻ってないふりすれば良かった…今更ながら後悔。
立ち上がった政宗さんは、やっぱりぶっきらぼうに言い放った。
「いいから寝てな。後で粥でも作ってやる」
「はああああああいっ! ゲッホゴホ!!」
「(馬鹿だ…)」
部屋を出て行きそうになった政宗さんの背中に、わたしは呼びかけた。
振り返ったダーリンへ、ちょっとドキドキしながら尋ねてみる。
「あの、もし起きてまた記憶なくなっちゃったらどうします? 今度はキ」
「今度こそ頭たたき割ってやる」
「絶対になくしません!!!」
くっそォォォォ!!!
六日間のデレ政宗さん、かむばぁぁぁぁぁっく!!
アンバランスな照れ隠し
「あっ小十郎さん! 記憶戻りましたよォ!」
「……そうか…」
「?! …ちょ…なんで微妙に残念そうな…!?!」
風邪ひいてたデジャブは本編の出会い話参照。ということで記憶戻りマシた!