番外・現パロなど様々
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「さ、猿飛さん…?!」
翌朝、部屋を訪ねてきた彼の顔を見たわたしは、一度 目をこすりました。
昨日までなかったこぶが、猿飛さんの片方の頬にできあがっていたのです。
思わず凝視してしまうほどの、頬の腫れ具合。まるで、誰かに本気で殴られたような、見ているこちらが痛くなりそうなくらいです。しかし本人はぴんぴんしているようなので、安心しました。
「いったいどうしたんですか、そのほっぺ?!」
「それが聞いてよ嬢ちゃん! 昨日の夜、」
待ってましたとばかりに口を開いた猿飛さんでしたが、
「自業自得ゆえ、佐助の事は気にされずとも結構でござる!!」
一緒に入った幸村さんが、目をとじながら刺々しく言い放ちました。それに猿飛さんがちぇっとそっぽを向いてしまいます。
……こんなに不機嫌な幸村さんを見るのは初めてなのですが…。逆に考えれば、それほど悪いことを猿飛さんがした、ということなんでしょう。
そして簡単に挨拶がすむと、幸村さんは立ち上がりました。
「帰るぞ、佐助っ! これ以上ななし殿にご迷惑をおかけするわけにはいかぬ!!」
「だからぁ言ってんだろ、俺様は二人の為を思って…」
「嘘をつけェ! お前の場合は面白さを追及したかっただけだろう!!」
「……なんだ、ばれてんの」
会話についていけなかったわたしは、首をかしげました。
出発をする二人についていき門まで出ると、そこには既に兵士さんたちが馬を用意して待っていて、片倉さんもいました。
……あれ?
「(伊達さんは…?)」
どこにも、あの人の姿が見あたりません。かといって寝坊したということはとても考えられません。
片倉さんのもとへ駆け寄り、尋ねることにしました。
「おはようございます。あの、伊達さんは?」
「政宗様はお忙しい身だからな。たまにこうして見送りができねえ時がある」
「…そう、なんですか」
ちょっと残念な心境に、自分は何も気づくことはなく。
幸村さんと猿飛さんはわたしと違い、さして気にされてもないようなので、安心しました。
「でも、それならしょうがないですね…」
「ななし殿ぉぉ!!」
一方、愛馬の背をなでていた幸村さんが、くるりとこちらに向かってきました。何かを決意したような、真面目な顔つきでどきりとします。
幸村さんの大声に心臓をバクバクさせながら、こちらも頑張って元気よく返事をしました。
「は、はいっ! なんでしょう!?」
「誠に申し訳ないでござる。実はそれがし、ななし殿に申し上げねばならぬことが…!」
「え…? …幸村さんがわたしにですか?」
すると幸村さんは、ハッとした後急に口をもごもごさせてしまいました。
隣の片倉さんがイライラしているのがわかりますが、とりあえず黙って様子を見守ることにします。
「………(うぐう…! 何故、言えぬのだ!!)」
「………(此奴、葛藤してやがる…)」
「…あの、幸村さん…?」
わたしと幸村さんが向かいあい、そして片倉さんが腕組みをして沈黙する光景は、はたからみたら異様にうつったのかもしれません。
気のせいか、さっきまで近くにいたはずの兵士さんが数歩以上離れています。
「…あのさ旦那、無理して訂正しなくていいんじゃない?」
頬をかきながら猿飛さんが出した助け船に、しかし わたしは咄嗟の漢字変換ができませんでした。
「ていせい?」
なんのことだろうと幸村さんをもう一度見ると、突然頭を下げられました。
「え?!」
え……ええっ! 一体何事ですかこれは?!
「すまぬっ!! やはり、やはりっ、それがしからは…!」
「え、いや、えっと…ちょっと、話が見えないんですけど…」
オロオロするわたしをよそに、片倉さんがぎろりと幸村さんを睨みつけています。
「てめェ、このままで帰るつもりか?」
「片倉殿…」
「か、片倉さん…まあまあ…」
責めるような口調と顔つきが怖いです、片倉さん…。
どうしようかと焦っていると、黙り込む幸村さんを見かねた猿飛さんが、間に割って入りました。
「勘弁してよ片倉の旦那、ちょっとした遊び心の『変更』だぜ? それに、後は記憶が戻った時の嬢ちゃんに任せればいいだけだろ」
じゃ、俺達急いで帰らないといけないんで。
早口でそう捲し立てながら、幸村さんの首根っこをつかみ馬まで放り投げる猿飛さんは、まさに万能人でした。
そして二人がもの凄いスピードで城を飛び出していき、背中も見えなくなった頃。
会話の中心人物でありながら、全くそれについていけなかった わたしは、未だ不興顔であろう隣の人を見上げました。
「………あの…片倉さん、」
「気にするな。体が冷えるぞ、早く中に入れ」
片倉さんが少し微笑み、背中を押して促します。
「…はい」
まるで気をつかってくれているようで、それに毒気を抜かれてしまったわたしは、大人しく従うことにしました。
朝餉もすみ、戻った部屋で少し考えた後、わたしは医務室に向かいました。
「……あの…」
ところがお目当ての人物は、患者さんの為に用意されているはずの寝具に寝そべっていびきをかいていました。いつもであればもう起きているはずなんですが。
「…あのー、すみません」
気持ちよさそうにグウガア言ってますが、こちらも急ぎといえば急ぎ。近寄って体を揺すってみるものの、大した反応はありません。
こうなれば、心を鬼に。
そして童心に。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「ンガッ!?!」
鼻をつままれたお医者さんは、真っ青になりながら一声あげると、勢いよく起き上がりました。
息も絶え絶えに、あたりを見回すその目が、ようやくわたしを捉えます。
「おはようございます」
「……アンタ、実はもう記憶戻ってんじゃねーの?」
「いえ、全く何も思い出してない状態です」
「俺の名前くらいは教えてやろうか」
「いえ、むしろ思い出さなくても構わないです」
「…なんで早起きな俺がまだ起きてなかったのか興味ねえ?」
「いえ、まつげの長さ程も興味ないです」
「何その微妙な境界線?! もう嫌この患者!!」
両手で顔を覆いながら、背中を向けられてしまいました。どうやら面白がりすぎたようです。
どうしてでしょう、わたしもお医者さんに会うまでは普通なのに、この人といるとイタズラ心というか、心に余裕ができて遊んでしまいます。
しかし、なんだかんだ言ってもお医者さんはやはりお医者さんで、一度こちらが謝ると、不機嫌オーラを全開で放出しながらも話を聞いてくれました。
「…あ? 城下におりる?」
「はい」
勿論、遊びに行く為ではありません。少しでも記憶の材料が見つかる可能性がある場所だからです。
城内は、それこそ毎日いろんなところを回ったのですが、たいしてピンとくる場所がありませんでした。
「それなら、後は城下におりるしかないと思ったんです」
「はぁ…まあ、いーんじゃね?」
「…賛成は嬉しいんですけど、鼻に小指を突っ込みながら言わないでくれませんか。別に俺には関係ないしぃ、みたいな雰囲気がプンプンしてますよ」
「んなことねーよ、俺は謙虚だからな。少しだけだ」
「ちょっと空の一升瓶持ってきます」
半分本気で、そしてもう半分は早速 部屋を出ようと、腰をうかせて部屋を出ました。
「ちょっ嘘だって、待ってうぞッ…ア゛ア゛ア゛ア゛小指がささったァァ!!」
実に面白そうな光景でしたが、部屋に戻りたい衝動をこらえました。
「(あ、そうだ)」
自室へ帰る前に一言、片倉さんか伊達さんに伝えようと思ったのですが、お二人ともお忙しいようで、どこを見回しても見つかりません。
しかたなく、自分の部屋に戻ると筆をとって、紙に「城下に出かけてきます」と記し、文机に乗せました。
「このコート、使っていいのかな…」
着物が多い中、現代のコートが箪笥の奥にしまってあったことに今朝気づいたのですが、恐らくここにあるということは私物のはずです。
もしかすると目立つかもしれませんが、寒さを少しでも防げるのなら、視線なんて気にしません。着物の上から袖を通さず羽織ると、一緒に入っていたマフラーも首に巻きました。
これで、ほぼ完全防備です。
「よし、こんなもんかっ」
城下に一人で行くという行動に、不安と興奮がわき上がります。まだ見えない成果を期待しながら、わたしは部屋を後にしました。
人知れず、ため息がもれる。
『ため息ついたら幸せ逃げちゃいますよ』
どこからか、懐かしいtensionの声がした。
「誰が原因だと思ってやがる…」
一人呟きながら、廊下を曲がる。やや慎重に歩いているのは、二人分のお盆が両方の手に乗っているからだろう。朝から多忙だったが、昼前になりようやく時間ができた。
ななしが記憶をなくしたことで、自分の側近が幾分か甘くなった気がする。それは今まさにこの状態で、普段であれば「危険だから」と(真面目な顔で)止められていたかもしれない。
しかし今の彼女は大人しく、むしろ自分達から一歩離れている、ような感覚だった。
そんなことを感じて面白いわけもなく、今日もこうして態々ななしの昼食を持って歩いている自分は、滑稽なんじゃないかと思った。
「…ななし」
返事がない。寝ているのだろうか。
確かめようにも両手がふさがっている為、少し考えた後 足で器用にふすまを開ける。
ななしはいなかった。箪笥から着物がはみ出ている。
部屋の中央には、白い紙が落ちていた。文机には筆が出しっぱなしだ。
風で吹き飛ばされたのか…とぼんやり考えた脳に、あの光景がflashbackする。
部屋に落ちていたななしの私物。
何より消えてしまった、ななし。
「………」
まさか。
そう笑い飛ばすことができず、最悪の展開に背筋がぞわりとした。
「ななし」
呼びかけても、返事があるはずもなく。
落としそうになったお盆を脇に置くと、部屋に入り、白い紙を拾いあげる。
そこにはななしの文字で、城下に行く旨が載っていた。それを読み、高鳴る心臓が徐々におさまっていくのがわかる。
ほうっと息をついたものの、また別の心配が脳内をよぎった。
もし、これで城下にいなければどうなるのか。
以前であれば考えることもなかった予想だが、一年前の事実からすれば、ありえないことではない。
この書き置きを残した後に、消えてしまったのだとしたら?
その時、開きっぱなしの扉から風がふいてきた。
その冷たさのおかげで、自分の脳がcool downする。
「…俺らしくもねェな」
心配をすることが、ではない。
無人の部屋で、あれこれ考えることが、だ。
素早く立ち上がると、部屋を飛び出した。
出る寸前に一瞥した食事のお盆は、ここに残しておくことにした。
「必ず見つけ出して、冷めた料理を絶対に食わせてやる」
それくらいの気持ちをもたなければ、一年前を思い出しそうだったのだ。
「はっ!!!」
両手にいっぱいの食べ物を持ってニコニコ歩き出した瞬間、わたしは愕然としました。
わたしは…わたしは…!
「いったい、何をしてるんだぁっ…!!」
ここには遊びにきたわけではないのに、気づけばお店の人や城下の皆さんに声をかけられていました。
「あげるよー」と軽い口調で美味しそうなものをもらったり、その場でいただいたり、え、何このグルメロケ?と自分で自分に突っ込みをいれるのは最早当たり前な状況。
この城下の人々は本当に優しい方ばかりで、なぜかわたしの顔を知っているようでした。かといって仲良しというほどでもないようですが、……もしや以前のわたしは有名人なのでしょうか。
「なんて、ないない」
なんとも笑える考えを一人で手のひらをヒラヒラと振ることで一蹴します。
それよりもどこか座れる場所がないかとキョロキョロしていると、数メートル先に、長いすらしき物体を発見しました。
少しだけ食べて、残ったものはお城に持って帰ろう…と、歩き出したわたしの肩を、
「!!!?」
後ろから、誰かが掴んできました。ぎょっとして振り返れば、見知った顔が息を切らせた状態で立っていたのです。
「わあっっ!! だ、だてさん!?」
驚きのあまり声に出してしまいましたが、伊達さんはわたしを確認すると、手を放しました。いったい伊達さんがなぜ城下町にいるんでしょうか。全然予想もできません。
それにしても、随分と走ったようです。もしかしてわたしのせいでは…と気づき、慌てて頭を下げました。
「す、すみません、わたし何かしでかしましたか?」
「……なんでアンタが謝る必要があるんだ。その謝り癖、直したほうがいいぜ?」
「いや…一国の主様を、そんなに走らせてしまったので…。それとも、お城で何かあったんですか? でもそれなら、部下の方…というか馬をつかって、」
「何もねェよ」
「へ?」
その返事にきょとんとするわたしに、伊達さんは目を合わせることなく空を見上げました。
「アンタ、どれくらいここにいたんだ?」
「え? えっと…。うわっもう日が暮れそうじゃないですか」
伊達さんと同じように夕暮れ空を見てびっくりしました。夏に比べて日が落ちるのが早い冬。なのできっと夕方ではないにしろ、案外長いこと城下にいたことは確かです。
「昼はどうした?」
「ああ、呉服屋の隣にあるお店で簡単にすませました」
「…そうかい」
ホッとしたような、ちょっと不機嫌そうな、へんてこな表情を浮かべる伊達さんに首をかしげます。ううん、今日の伊達さんは不思議です。
何も用事がないのに、どうしてここまで走ってきたのか。運動でもされていたんでしょうか。ちょっとあり得るかもしれません。
その時、一陣の風がわたしたちを襲いました。昼間とは違い、また一段と冷たくなっています。
コートを羽織っているにも関わらず身震いをしましたが、目の前の伊達さんは、わたし以上に薄着です。コートを貸そうと考えましたが、生憎サイズの関係で断念しました。
かわりに、首に巻いていたマフラーをいったん外します。
「伊達さん、どうぞ」
「Ah? なんだ、その長い布は」
怪訝そうな表情を浮かべる伊達さんを安心させるように、微笑みかけました。
「これ、マフラーっていうんです。首に巻いて、寒さをガードするんですよ」
一人用のようですが、それでも通常の長さより大分余裕があります。きっと寒がりな自分の為に長いものを選んだんだろうなあと内心思いながら、伊達さんに片端を差し出しました。
「首にゆるく巻いてください。きつくやっちゃうと危ないです」
「こうか?」
「はい」
伊達さんが女の子チックな色のマフラーをしていることが少し面白く、笑いそうになりましたが、なんとかこらえます。そしてもう片端を持ちながら、わたしの首にもそれを巻いていきます。
結果的に、二人分の首がきれいに巻くことができました。
「(すごく、距離が近いですけど…!!)」
「確かにあったけェな。Thanks, ななし」
「い、いえっ…!」
すぐ隣に、それこそ肩と肩が触れ合う位置に伊達さんが立っているので、恥ずかしさのあまり緊張してしまいます。
それを悟られないように、けれども伊達さんの顔は見ないように、少し先の地面とにらめっこしながら問いかけました。
「伊達さん、これからどうしましょうか? お城に帰りますか?」
「そうだな。アンタの部屋に忘れ物しちまったんで、取りに行かなくちゃならねェ」
「わかりました、わたしも一緒に帰ります」
近づきすぎず、離れすぎず頑張ろう、と一歩踏み出したわたしの手を、何かあったかいものが包みました。それは伊達さん側の手です。
一体なんだろうとその手を見下ろしたわたしは、素っ頓狂な声をあげてしまいました。
「てっ…手、つなぐんですかっ?!」
「嫌か?」
「えぇっ!? いや…ちが、違います、嫌じゃないです! けど…!」
まさか伊達さんと手をつないで帰路につくとは夢にも思わず、せっかくさっきまで装っていた平静さが見事に吹っ飛んでしまいました。
寒がっていた体が、今は熱くてたまりません。その熱により、手が汗でベトベトになってるんじゃないかと本気で心配になってきます。
大きな手でわたしの片手を握ると、伊達さんは意地悪そうに笑いました。
「あんたが消えるといけねーからな」
「え? …そんな、わたしは勝手に消えませんよ」
「それが消えたのさ。一年前」
突然のカミングアウトに、わたしは瞠目しました。
あれだけ騒がしい性格(らしい)な自分が、伊達さんたちの前から消えてしまった? ……あれ、でも今はこうして伊達さんと一緒にいる…。
全く思い出せないわたしは混乱したまま、伊達さんに聞きました。
「どうして、そんな…?」
「さあな。ただきっかけは俺がつくった。俺のせいだ」
「………」
あっさりながらも、自ら責任があると言い出す伊達さん。記憶のないわたしには、どうフォローすべきか、追及すべきか判断ができません。
「……帰るぞ。アンタの『家』に」
ただ黙って、伊達さんの手を、少し強く握り返すことしかできませんでした。
怖いもの、それは
(きみがいなくなること、拒絶されること)
デレというか心配性筆頭モード。