番外・現パロなど様々
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝食がすんだわたしは、少し緊張しながら甲斐からのお客さんを待っていました。
勿論伊達さんはここの城主なので、そこでお土産を受け取ったり、わたしの事情を説明してくれているはずです。
結局、わたしをよく知る他国の知人が部屋を訪れたのは、お昼前のことでした。
そして、現在。
「ななし殿おおおおおお!!!」
「旦那、ちょっと落ち着いて」
目の前には、二人の男性がいらっしゃいます。
頭を両腕ではさみ、雄叫びをあげながらめいっぱい振り回している人。
と、それを止めようと奮闘する人です。
絶叫する男の人の頭に巻かれている赤いはちまきが宙をゆらゆら漂う姿に、ついつい目がいってしまいます。
「これが落ち着いていられるかあああああっっ!!!」
「ひいっ!!」
さらに声を張り上げる、はちまきの人。心臓に悪いです。
びくうっと肩をはねたわたしに気づくと、今度はすがるような目をされました。
「ななし殿…誠で、誠に、それがしを……この、真田源次郎幸村をお忘れになってしまったでござるかっ!!?」
この人に見つめられると、嘘がつけない気になります。勿論嘘を言うわけがないんですが…。それよりも、相手がこうも取り乱すと、自分が冷静になってきていました。
「すみません、本当に申し訳ありません…」
頭を下げて謝罪しながら、
「(普通なら、こういう反応だよなあ…)」
と、頭の隅っこで思ったりしました。
今まで伊達さんも片倉さんも、真田源次郎幸村さん(どこで区切ればいいのかわかりません…)のように愕然としていませんでしたから、かえって、こんな状況が新鮮なのです。
それに、ここまで がっくりと肩を落とす彼を見て、伊達さんの言った通り、きっとわたしとは気の置けない仲だったんだとわかりました。それが嬉しくも、やはり申し訳なくも思います。
お互い黙ってしまった為、部屋にしばらく沈黙が……かと思いきや。
「旦那、嬢ちゃんにこんなことさせる為に責めたんじゃないんだろ。いい加減この状況を受け入れろよ。伊達の独眼竜から話聞いた時は、冷静だったくせに」
「? ……そういえば、途中から記憶がないような」
「座ったまま放心してたのかよ。そりゃ冷静に見えるはずか…」
もう一人の、鮮やかな髪の色をした男性が ため息をつきました。
そしてわたしの頭を無理矢理あげさせ、にこりと微笑みます。
……妙に迫力があるのはどうしてでしょう。
「俺様のことも忘れちゃってんだろ?」
「は…はい…。すみ」
「いーっていーって、謝らなくて。とりあえず名前教えとくわ。俺は猿飛佐助。この、喧しい男の部下ってところかな?」
「わかりました。猿飛さん、でよかったですか?」
「そうそう。で、さっきも自分で言ってたけど この人は真田幸村。……ああ、嬢ちゃんは『幸村さん』って呼んでたから、そう呼んであげて」
「なっ…さ、佐助…」
ああ、助かりました。わたしは猿飛さんの助言にお礼を述べて、くるりと首を回しました。
「幸村さん、このたびはご迷惑をかけてすみません」
「ゆっ……!?!」
たちまち赤面する幸村さんが、なぜか猿飛さんを睨みつけます。それが不思議だったのですが、それでも構うことなく、彼のあぐらにのった両手を掴みました。
「!!?」
「でも、わたし諦めません。頑張って、幸村さんのことや、猿飛さんのことも思い出せるように努力します」
だから、それまで待っていてください。
そう言い切るわたしの熱意が伝わった幸村さんは口を真一文字に結び、頭を縦にひたすらシェイクしました。そのせいか、両耳から煙が吹き出しているような気がします。それに手の暑さが尋常ではありませんが、大丈夫でしょうか。
「そ!!」
突然、幸村さんが叫びました。
「…そ?」
「ソれがし、用事をオもいだしタでゴザルっ!!」
「えっ」
急に片言を話し始めた幸村さんに、驚いて手を離しました。
それを待っていたかの如く、シャキーンと擬音がついてきそうなくらい張り切って立ち上がる幸村さん。用事とはなんでしょうか?
「旦那?」
「幸村さん?」
目を丸くしたのは、猿飛さんもです。
幸村さんはそのまま硬直したかと思いきや、次の瞬間にはもの凄い早さで部屋を飛び出していきました。
「……幸村さんを、傷つけてしまいました」
やはり、自分を忘れられるということは、苦しいことですよね。
そう呟いて俯くわたしの肩を、猿飛さんが軽くたたきます。
「大丈夫だって、そういうんで逃げたわけじゃないから(旦那め、もったいねー!)」
「そうでしょうか…。あんなに速く走っていくなんて、余程ショックだったと思います…」
「いや、単に はず……。ま、いっか」
何か言いかけた猿飛さんは、わたしの前にあぐらをかいて座りました。
そして何かを確かめるように、まじまじと見つめられます。
「俺様も正直、アンタが記憶なくしたって独眼竜から聞いた時は驚いたけどさ。でも思ったよりウジウジしてなくて良かったよ」
「はい、おかげさまで。伊達さんや片倉さんたちが励ましてくれましたから」
「(伊達“さん”、片倉“さん”ね…)」
二人のことを思うと嬉しくなります。気づけば、自然と笑顔になりました。
すると、猿飛さんがぽかんと口を開けていました。
「うわ」
「え、えっ? どうかしましたか?」
「いや、嬢ちゃんにも純粋な笑顔ができるんだと思って」
「………」
それは日頃のわたしは、純粋な笑顔がないということなんでしょうか。
それとも、この人に対してだったり…?
妙に気になる言葉に考え込んでいると、言った本人が人差し指を立てました。
「ね、もう一回笑ってみてくんない?」
「? はい?」
「だって今しかないだろ、嬢ちゃんの素直な笑顔が見れるの。はい、笑ってー」
「ふふっ。意味もなく、いきなり笑えませんよ」
猿飛さんの強制さがかえって面白く、吹き出してしまいます。
結果的に笑ってしまったのですが、相手の反応に驚きました。
「うーん、可愛いね。こりゃ新発見だわ」
「! な…えっ!?」
面と向かって言われると、どうリアクションをしていいのかわかりません。
慌てるわたしを、猿飛さんがニヤニヤしながら眺めました。
「あは、照れてる照れてる」
「か、からかわないでください…っ」
「いや~楽しいね。恥ずかしがる嬢ちゃんって新鮮新鮮」
「新鮮って…。……あの、さっきから思ってたんですけど、…わたし、そんなに嫌なやつだったりしたんですか?」
どうも、先程からの猿飛さんの口調に引っかかりがあるのです。
わたしの真面目な顔つきに、笑うことをやめた猿飛さんは答えました。
「いや、いつも自分に正直で、嬢ちゃんは嫌なやつなんかじゃなかったぜ。けど、なーぜか俺に対しては敵対心むきだしなんだよな」
「そうだったんですか。…どうしてなんでしょう?」
「それを思い出すのが嬢ちゃんの仕事。ああ、そういや真田の旦那とは仲良し…あっ、いや、慕ってたな、すごく」
「え? わたしが、幸村さんをですか?」
新事実です。
慕っていたというのは、憧れでしょうか。それとも……。
「うん。あの二人の反対(暗黙だったけど)を無視して甲斐に遊びに来たこともあったし、俺達がこっちに来るたびに真田の旦那とよく遊んでたぜ。あの時の嬢ちゃんは、すごく輝いてたなあ…。俺様がきたらしかめっ面になってたけどな」
「う゛…すみません」
「気にしてないって。……でもたまに思うよ。もしここじゃなくて甲斐で出会ってたら、また状況が変わってんじゃねーかとか」
「……状況、ですか?」
つまり、わたしが記憶喪失になっていなかったということでしょうか。
よくわからないままそう尋ねると、かえってきたのは苦笑いでした。
「内緒。やっぱアンタにゃ素直になれねーや」
その夜。
早朝 旅立ってしまう真田さんと猿飛さんを労う為、宴が開かれていました。
しかし猿飛さんは忍の部下と連絡をとるために、席をはずしています。
残された幸村さんと伊達さんにはさまれているわけなんですが…。
「………」
「…ゆ、幸村さん、おいしいですか?」
「うむ、誠に美味でござる!!」
「………」
「……(み、見れない…!)」
何故でしょうか。
伊達さんの表情が思わしくありません。どこが具合でも悪いんでしょうか。なぜかこの人が黙ってしまうと、落ち着くことができません。
八つ当たりされませんように、と願いながら、ゆっくりと伊達さんのほうを向いて、恐る恐る聞いてみることにしました。
「あの…何かありました…?」
「Nothing in particular.」(いや、別に)
心配させて悪かったな、と頭をなでられ、思わずホッとします。それから慌てて「いえ、」と手を振りました。
なんとなくわかりました。伊達さんほどの位なら、毎日いろいろな政治におわれて大変なんだろうと思います。それでこんなに疲れているに違いありません。
ちょうど新しくお酒の入った瓶がきたので、わたしは酌を取ることにしました。
「伊達さん、どうぞ」
「...Thanks.」
驚いたように少し目を見開いた伊達さんでしたが、ニッと笑って杯を取りました。こぼれない低度にお酒を注ぎ、杯から瓶を離します。
ところが伊達さんは杯に口を近づけて、一端行動を止めました。
「…? どうかしましたか?」
「いや…少し思い出してな」
それは事実だったようで、わたしを見てくすりと笑む伊達さん。
まさか微笑むとは予想しておらず、不意をつかれてドキッとしました。
一体 彼は、何を思いだしてるんでしょうか。
「真田殿、外で猿飛殿が呼ばれておりまする」
「んむ゛!!」
「わっ、幸村さん大丈夫ですか?!」
食事にがっついていた幸村さんは兵士さんに呼ばれ、焦ったようにモゴモゴさせました。それから大きくのどをふくらませ、ゴクンと飲み込んだのがわかりました(詰まらなくて良かったです…!)
兵士さんに連れられ広間を出て行った幸村さんを見送っていると、
「Hey.」
隣の伊達さんに声をかけられました。振り返ると、同じように幸村さんを見ていましたが、すぐに視線をわたしに合わせました。ちょっと眉をひそめています。
「誰に言われたんだ、アイツの呼び方」
「え? あいつ…って、幸村さんのことですか?」
「Yes.」
「猿飛さんにです。わたしが今まで幸村さんと呼んでいたそうなんですけど、……違いました?」
「What? Damn him...!」(あの野郎)
うっ、怖い!!
怒鳴ったわけではありませんが、なかなかの声量で吐き捨てる伊達さん。そして忌々しそうに出入り口を睨みつけました。
どうやら伊達さんは、本気で不機嫌モードに突入したようです。すぐに気づくことができた為、刺激しないように肩を縮こまらせました。
でも、確かに猿飛さんからそう聞いたはずなんですけど…。
「………」
「………」
「………」
「(うう…)」
結局 それから会話ができず、わたしと伊達さんだけが気まずいまま、宴を終えることになってしまいました。
「(いったい、わたしはどうすれば良かったんでしょうか…?!)」
神様でも仏様でもえんま様でもかまいませんから、助けてくださいっ!
軋んだ歯車
どうしてモラハラの筆頭はお喋りじゃないんだ。