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『伊達さんが謎の行動をしてびっくりしました』
昨日の夜、寝る前に書いた一行日記を布団の中で読み返して、わたしは無言で破きました。
「…何書いて寝てるんだ、わたしはぁっ…!!」
確かに、昨日の朝 伊達さんに意味もなく手を握られました。
はじめはビックリしましたが、手を離されて伊達さんが去った後、ふと顔に手をあてると熱があるくらいにほてっていて、それにもビックリしました。
どうしてあんなに体温が上がったのか、それは午前中いくら考えてもわからず、かといって片倉さんやお医者さんに相談する気も起きず。
現在、わたしは自然と人通りの少ない縁側に座り込んでいました。
「はあ……」
それにしても、今日はいい天気です。冬という季節の象徴ともいえる雪は今日も降っておらず、少ない雲の間から太陽がちらちらと見え隠れしています。
勿論、晴天といっても今は冬。ですが、凍えるほどの気温でもなく、何も羽織っていないわたしからすれば、ちょうどいい温度でした。
「(お昼ご飯、美味しかったなあ。……雪、降らないかな。つもるといいな)」
ぼんやりとそう思い、ふと、こんなことを考える自分を懐かしく感じました。
今までは思い出すことに躍起になっていましたが、なぜか今日は朝から行動していません。多分伊達さんのことを考えすぎていたんでしょう。
それで満腹感のまま縁側に座り、気持ちいい環境におかれていて、ついついどうでもいいことを思ってしまったようです。
でも、こんな時があってもいいんじゃないか、と片倉さんのおかげで考え直すことができるようになりました。
「いつも通りに生活しろ、かぁ…」
片倉さんが昨日、わたしに言ってくれた言葉です。はじめはそう言われたことに対して不服でしたが、今は嬉しく思えます。
今こうしてのんびりしていても、他の人からだけでなく、自分自身からも責められることがないのです。
「……へっくしょん!」
急に襲ってきた鼻のむずむず感にたえられず、大きくくしゃみをしてしまいました。
身体が冷えたのかもしれないと思い、部屋に戻るため立ち上がろうと両手を床につけた時。
……………。
「……ん?」
はじめ、気のせいかというほどの小さな音でした。
それが次第に大きくなり、トトトトト…とリズムよく、何かが駆けてきます。
どうしようと考えてしまい動けず、やがて曲がり角を通過してやってきた物体を見て、わたしは仰天しました。
「え、えええっ?!!」
なんと、一匹の狸でした。冬だというのに元気よくこちらに向かって走ってきます。
しかし狸を間近で見ているわたしは、どうやって受け止めて良いのかわかりません。
そこで慌てて、ようやく狸に背中を向けて腰をあげましたが、突然後ろにずっしりとした重みを感じて振り返りました。
「え…え゛え゛え゛え゛え゛っっっ?!!!」
目玉が飛び出るかと思いました。
狸ではなく、かわりに伊達さん(鎧姿ですが)がわたしの背中に乗っかっていたのです。まるでおんぶをねだるように、後ろからにゅっと腕ものびてきました。
いつの間に、現れたというのでしょう。
「だっ伊達さんん…!!?」
おお、お、おかしくないですか、伊達さんてこういう人でしたっけ?!
混乱するわたしを、何が面白いのかジッと見つめる伊達さん。
「ななっなんで…! 狸は…? なんで伊達さん…あれっ、え、なんで…?!」
口にできるのは「なんで」「狸」「伊達さん」だけです。他の単語なんて全く思いつきません。
さらに無表情で、かつ、至近距離で見つめられると、端正な顔立ちが見てて恥ずかしいといいますか、なんといいますか。すみません恥ずかしいというのは語弊があるのかもしれません。しかしこの感情は、恥ずかしいという表現以外に思いつかないものです。
とりあえず離れてほしいのですが、力は伊達さんのほうが圧倒的に強く、わたしの力ではどうにもなりません。何度離れてくださいと言っても、なんの反応もなくじぃっと見つめてきます。
その目が、異様に熱っぽいのは気のせいです。まるで何かに気づいてほしそうに、わたしの一つ一つの反応を見逃さないような。
もしかして、これは、伊達さんじゃなかったりするんでしょうか。
「(まさか、あの狸が…)」
た、狸が、にんげんに…。
たぬきが、伊達さんに、……。
ならわたしが今まで話してた伊達さんは?
さっきまでいた狸が伊達さんになって、伊達さんがいて、えーと、つまり狸が………伊達さんが………。
ん、ということは伊達さんが狸?
「(ああ、ゲシュタルト崩壊…)」
平凡ゆえに今の現状を享受することができず、段々と変な方向へ暴走しはじめた脳は、ついにオーバーヒートを起こしました。
それにより思考回路がショートしたわたしは、脱力して床に後頭部をうち、意識を手放すことになったのです。
「………ん…」
目をさますと、屋根が見えました。
きぃきぃ、という鳴き声にまじって、鼻で笑う声も。
ここは……見たことのある景色です。
仰向けの状態から上半身をゆっくり起こした時、ずるりと布がはだけました。眠気がまだ残っていますが、自分にかけられていたのが綿入れのはんてんだとすぐにわかりました。しかしわたしははんてんを着たおぼえがありません。
ぼうっとした頭であたりを見回すと、隣に伊達さんと、……あの狸がいました。
その光景を目にした途端、何が起きたのかを思い出しました。
「あっ!!」
「起きたか。Are you all right?」
「…はい…おっけー、です…。あ、すみません、もしかしてこの はんてんは…」
「ああ、そりゃななしのだ。女中が新しく作ったらしい」
「そうなんですか……。…温かいです」
はんてんを身にまとい、ほっと一息つきました。
それから、狸と伊達さんの姿を見て、もう一度ほっとします。伊達さんと狸が同一人物だという式がなくなったからです。
同時に、この時代では狸が化けるということがわかり、なんだか感動してしまいました。
「アンタも物好きだな。冬にこんなところで寝るとは」
「違うんです、その狸が伊達さんに化けて…」
「Ah? またやったのかコイツ」
「(また?)あの、その狸は…ペットですか?」
狸が伊達さんの手を引っ掻こうとわしゃわしゃ動いても、伊達さんは軽い動作で避けて遊んでました。つまり先程とは違い、狸はまったくこちらに寄ってこようとしないのです。
わたしの問いに対し、伊達さんはゆっくりと首を横に振りました。
「No. アンタの…ななしのFriendだ」
「……ともだち…」
どうやら以前のわたしは、随分と交友関係が広いようです。
動物に友達がいるなんて、と思わず他人事のように驚きました。
でも、まだ謎は残ります。
「どうしてその狸は、伊達さんに化けたんでしょう?」
「……気まぐれだろう。こいつはよくアンタに懐いていたからな」
「…そうですか…」
何かを思い出しているように、狸を見下ろす伊達さんは穏やかな表情でした。
その顔に、わたしは驚きました。あの日……記憶をなくしたと知らなかった時、あんなに怖かったはずです。
「……(大丈夫、かな)」
昨日は伊達さんの事情を考えすぎて無理でしたが、狸と遊んでいる今なら聞くことができそうです。
それでも少しばかりの勇気が必要だったわたしは、ひざの上で握り拳をきゅっとつくってから、伊達さんに話しかけました。
「あの、皆さんに聞いて回ってるんですけど。以前のわたしについて、何か知っていることがあったら教えてほしいんです」
「……知っていること、ねェ」
ついにはかみつこうと躍起になる狸から華麗に手を振りながら、伊達さんは呟きました。
しかし、ややあって肩をすくませてしまいます。
「…案外、知らねェな。俺のことは根掘り葉掘り聞こうとするが、アンタから自分のことを話すのは少なかったはずだ」
「えっ」
どうしてわたしは、伊達さんのことをそんなに聞いていたのでしょうか。
ふと一つ可能性が思い浮かびかけましたが、伊達さんの次の言葉に意識が集中してしまいました。
「だが、知ってることもある」
「! なんでしょうか」
どきどきしながら、伊達さんの答えを待ちます。
一拍おいて、伊達さんは、口を開きました。
「常にpositiveだったってことだ」
「へ」
「ま、他にもあるがね。後は自分で探しな」
「……なんですか、それ」
拍子抜けと同時に、なぜかおかしくて吹き出すと、伊達さんはニッと笑いました。
「それでいいのさ、俺たちは」
「……!」
どうしてでしょう。
その笑顔に、言葉に、胸がきゅうっと締め付けられてしまいました。
伊達さんの笑顔が、目に、いえ、脳裏に焼き付いてしまったのがわかりました。
急に笑うのをやめたわたしを不思議そうに、伊達さんが声をかけてくれましたが、うまく答えれません。
「あっ、あの…伊達さん」
「ん? なんだ」
「…わたし、あの、もしかして……」
伊達さんのことが、好きだったんでしょうか?
そんな告白はご存じですか?
衝動的ながらもそれらを口にしかけて、すぐに気づきました。
わたしは、居候で、伊達さんは、城主で。
特別な関係に、なるはずがないことを。
「……いえ、なんでもないです。すみません」
「…アンタはさっきから謝りっぱなしだな」
「あ、えーと…はい」
急に伊達さんを見ることができなくなり、顔が自然と俯きます。
自分が思い出す為なら、なんでもするはずでした。
それでも伊達さんと以前のわたしについて、直接本人に尋ねることに対して足がすくんでしまったのです。
なぜ恐れたのかはわかりません。
何を怖がったのかもわかりません。
「………まあいい。アンタが変人なのは慣れてるんでね」
黙り込んでしまったわたしに気分を害した風もなく、伊達さんはフッと笑ってくれました。
そして狸から片手を離し、俯いたままのわたしの頭をぽんぽんと、まるで子供をあやすように叩きました。
その感触が心地良く、今の今まで意気消沈していた気分がすっかり良くなってしまったほどです。
頭から伊達さんの手が離れ、ゆっくりと顔をあげます。横にいる城主はあくびを咬み殺しながら、背伸びをしていました。
「さァて、そろそろ小十郎が探しに来るか…」
「あ…、お仕事中だったんですね。すみません」
「気にすんな。俺がななしに会いたかった、それだけだ」
「……へ…」
ぽかんとするわたしを鼻で笑い、伊達さんは狸ちゃんを抱えてゆっくり立ち上がりながら、「ああ」と思い出したように呟きました。
「明日、甲斐から客が来る。もしかしたら何か思い出すかもな」
「…はい。…頑張ります」
ということは、わたしの知り合いが来るということでしょうか。
はじめは変態だなんだとさんざんショックを受けていたはずなのに、今日、動物だけでなく違う国にまで親交を深めていたわたしが、だんだんと誇らしくなってきました。
遙か遠くの人へ
(だから、頑張って起こします)
なんか別人格みたいになってきた…orz