番外・現パロなど様々
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朝食がすんだ後、小十郎さんに命令されて畑まで向かおうと外に出た時。
その人物は、後ろからわたしに声をかけてきた。
「おい、そこの」
振り返ると、オレンジ色の髪が風になびく美女が凛として立っている。なんだか目立ちそうな感じだけど、今まで見かけたことのない人だ。
赤と黒の色合いが素敵すぎる衣装は、わたし的にどこかの西部劇を思い出す。でもただの美女ではないようで、よくよく見れば、腰に巻き付けたスカート(というか布?)からチラチラ見える太もも……には、数々の拳銃が収納されていて。うわお、銃マニアですか。
でもその格好までがすごく似合っていて、というかこんな美女に会うのは久しぶりすぎたわたしは、もう一度声をかけられるまで、正直見とれておりました。
「ふ…ふつくしい……ッ」
「? 聞いているのか」
「あっ、はい!? なんでしょう!」
「独眼竜はどこにいる」
「………」
「………」
その人は、わたしが黙り込んだので、少し言い方を変えた。
「独眼竜…伊達政宗に、会いに来た」
わざわざ言い直してくださいましたよ。
大丈夫です、聞こえてます。聞こえてるんです。
「ま…政宗さん、ですか…?」
「そうだ。此処にいるのだろう」
「います、けど……」
でも、わたしってばほんと醜い女ですから、あの、こんな美女を前にするとイコールあれの単語と結びつけてしまうわけで。
みるみる上がっていくボルテージを力にして、相手のクールなオーラに負けないよう、両手に拳をつくると、目をつぶって声を張り上げた。
「いっ言っておきますけど!!」
「なんだ」
「縁談なら、おとこわりしますわよ!!?!」
おとこわりって何?!(失敗したァァ!!) 色々と痛いけど、とりあえず牽制だけはしてみた。
さて、これで相手がどう出るか…と顔をあげると。
「…………………」
わあ、すごい冷たい表情。というか無表情。
政宗さんでもなかなかしないほどの顔っぷりだ。
思わず一歩後ずさっても、お姉さんは眉をぴくりとも動かさないまま、プロ並みのポーカーフェイスで口を開いた。
「先程から、何を勘違いしている。会いに来た、と言っているだろう」
「だっ、だって、政宗さんに会う女性は大体縁談ですもん! おまけにそんな美人でスレンダーで! さては色仕掛けでもしようってんですか!」
「愚弄するな。そのような下等な行動、考えすらしない」
「(がぁぁぁん!!!)」
わたしの存在否定されちゃったんだけど! 脳内に雷が落ちたよ。いや、猿飛さんや政宗さんたちに笑われるのはまだ平気だけど、初対面の女性に真顔でダメ出しされたら、そりゃ誰だって衝撃受けるよ。
どうしよう、相手がすごい怖いし(口端少しも上がらない!)美女だし完璧だから(主に体型)泣きそうだ。
うぐう、と歯をくいしばっていると、お姉さんの目線があがった。わたしの後ろを見ていたので、無意識に首を回すと、小十郎さんが歩いてきていた。小十郎さんはわたしを見た後にお姉さんに気づいて、スッと目を細める。
「孫市か」
「え? 知り合」
「久しぶりだな、竜の右目。独眼竜に会いに来た」
「えっ?!(かぶせてきたし!)」
「ああ、政宗様なら鍛錬場だ。行け」
「わかった」
「えっ、ちょ…」
あの人は誰?!ていうかわたしは放置ですかぁぁ?!と小十郎さんに詰め寄ろうとすると、先に首に腕を回され、ぐえっと締め上げられる。しぬ!いつも冗談ぽく言ってるけど実は毎回きついんだこれェェェ!!
「こっこじゅさんん!! 何をするんですか!?」
「てめーはこれから労働の時間だ! 逃げたらタダじゃおかねェからな!」
「……そ、そうだった…!」
無駄に筋肉質な腕から解放されたかと思えば首根っこをひっつかまれ、畑へと連れて行かれる。
でも、ああああああ駄目だってェェェ!!
見知らぬ女と政宗さんが二人きりとか!!!
「やあぁぁぁだああああ!!! 邪魔するぅぅ!! 政宗さんといちゃつくううう!!!」
「駄々こねてんじゃねえ!!」
「あべしッ!」
拳骨をくらい、今度こそ泣きべそをかきながら、わたしはお姉さんの背中を睨みつけた。
「くっ……牛の刻参り……!」
「夜中に部屋から一歩でも出たら、のどに刀通すぞ」
「すいません、既に刀がのどについてます(抜刀術かよ!)」
労働がようやく終了し、わたしは泥だらけのままで政宗さんの鍛錬場へ走った。少しでも早く、政宗さんとお姉さんの邪魔をしなければ!!
きたねー面で政宗様の前に出るな、と小十郎さんに叱られたけど、ここは無視。大丈夫です小十郎さん、愛があれば顔に泥がついていたって!!
「政宗さあぁぁぁん!!」
ザザザァッと足をすべらせながら、なんとかストップする。
そこでわたしが見た光景は、
「……………」
ガキィン!
パァン!
……という、危険すぎる金属音がたくさんぶつかりあい、銃弾が目にもとまらぬ早さで駆け抜ける。
お互いが少しも動作を止めることなく、舞うようにして武器を繰り出す。
「……こ、これは」
わたしが予想していた「男と女の密会」と大違いなんですけど。
だって二人とも、すごい本気で戦っている。
その光景が、怖くて、でも凄く凄く格好良くて、わたしはポカンと、それこそ口を開いて見守るしかなかった。そのうち、政宗さんが刀をいったん下ろした。するとお姉さんも、構えていた銃を太ももに巻いているケースに収納する。
「Ha!! 相変わらずやるな、三代目」
「お前こそ。…だが、やはりからすだな。その腕では、我らの力量にはほど遠い」
「勘違いも程々にしな。手加減してやってんだぜ?」
「そうか。…ならば」
瞬間、また別の銃(筒がめっちゃ長い!)を取り出し、政宗さんへ乱射するお姉さん。政宗さんは何が楽しいのか、にぃっと笑うと地を蹴って宙を舞い、攻撃から逃れた。
「か、かっこいい…! 惚れ直しました、政宗ひゃん…」
鼻の下がダルンダルンなわたしだったけど、
「あれっ何してんスか姐さん…(! 鼻の下がのびてる!)」
「あ」
別の方向から、おにぎり頭の小太りにいさんがやってきた。手ぬぐいで汗をぬぐう姿が、いろんな意味で似合うなあ。
わたしのところまで歩いてくると、政宗さんとお姉さんの戦闘を見つけ、おおっと感嘆の声をあげる。
「ありゃァ雑賀衆の頭領じゃないッスか!」
「え? 頭領って…もしかしてボス?!」
「ええ。ああ見えて、雑賀衆の頭ァはってんスよ」
「マジですか!? ……ていうかすいません、雑賀衆って、なんです、か…?」
「雑賀衆を味方にすれば必ず勝ち、敵にすれば必ず負ける! 名のある武将たちからそう言われるほどの、凄腕の鉄砲傭兵集団ッスよ!」
「てっぽーしゅうだん!!」
ああ、だからあんなに銃がたくさんあるんだ…というか、まさか鉄砲集団のボスって。マフィアにでも転職できそうなグループのリーダーがあんな美女ということに驚いた。
いいなあ、あんなお姉さんがリーダーなら多分ここの人たちみたいに「死んでもついていくッス!!」ってなるんだろうな。怖そうだけど。
そんな妄想をしているわたしに、おにいさんは「ああ、そういや」と人差し指をついと動かした。わたしの部屋を指しているようだ。
「それはそうと姐さん、さっき例のタヌキが姐さんの部屋に入っていくの見たんスけど…」
「おおっタヌキちゃん!!」
タヌキちゃんを見かけることが少なくなった今、この情報はすごく嬉しいことだ。
で、でも…。ちらっと政宗さん&お姉さんの方を見ると、やはりこちらには一切気づくことなく本気モードで戦っている。
ていうか、なんだろう、密会ではないにしろ二人とも楽しんでいるような、ちくしょう、すごいムカムカする! 政宗さんのばか! 浮気者ぉ!! さっきまでは見えなかったけど今になっていちゃついているオーラが…っ!!
くうっと歯をくいしばりながら、鍛錬場に背を向け、歩き出す。そんな突然の行動に、おにいさんはハテナマークを頭に浮かべながら声をかけてきた。
「姐さん?」
「……ッありがとうございます! わたし、タヌキちゃんとイチャコラしてきますね!」
「へ? あ、へェ…。つぅか姐さん、筆頭に何か用があっ」
「ありまっせん!!!!!!」
目のつりあがったわたしに言い返されたおにいさんは、ぎょっとした顔で固まってしまった。…これって、思い切り八つ当たりだよね。ごめんなさい、おにいさん。
しかしわたしの後悔とは裏腹に、我に返ったおにぎり頭のおにいさんはニヤッと笑っていた。
「姐さんが雑賀孫市に、かァ…。筆頭、もてる男は辛いッスね…!」
「ターヌキちゃーん!」
部屋に入り、ど真ん中で寝そべるタヌキちゃんに両手を広げる。にしてもど真ん中って、わたしがいない間はここが自分の部屋と認識しているんだろうか。まあいいけど。タヌキちゃんなら許す!!
タヌキちゃんは立ち上がると、トテトテ歩いてわたしのところまでやって来た。歩く萌え要素を抱きかかえると、早速頭をなでる。するとタヌキちゃんは、くうと鼻先をわたしに向けた。その瞬間、さっきまでのイライラ感が120%吹っ飛び、テンションがMAXを超えちゃいましたよ、ええ!
「ぐはあああっっ!! なんという破壊力のある萌えっぷり…!! かわいいっ可愛すぎます隊長! どうやったらそんな目ができるんですか、どうやったらそんな萌えポーズができるんですか?! むしろやめて隊長、そんな純粋すぎる目で邪なわたしを見んといてぇぇ!!」
そのテンションのまま、タヌキちゃんを抱きしめて、あとは畳の上をひたすらローリング。やがてわたしが目を回し止まっても、タヌキちゃんは平気なようで、わたしの腕からスルンと離れた。うう、これが人間と動物の差か…。というか気持ち悪くなってきた。
「あー………」
さっきのタヌキちゃんよろしく、大の字で仰向けになる。
開け放った障子の窓から吹き抜ける風が涼しい。天井を見つめているうちに、徐々に回復してきた。
「…………」
政宗さん、楽しんでるんだろうな。部下の人たちも言ってるもん、政宗さんの暴れっぷりは見ていてスカッとするって。ということは、政宗さん本人も、小十郎さんや真田さん、お姉さんたちを相手にして戦うことが、すごく楽しいことに違いない。
わたしじゃ、お姉さんのように戦えないし、というか武器が使えても政宗さんの相手すらできない。
……あれっわたしって…。もしかして本当に、
「……タダ飯喰らい…」
サアァー…ッと血の気がひくような単語だ。また、例の小姑から日々突かれる単語でもある。そのたびに「そんなことありません!」と無駄に元気よく反論していたけど、あれっよく考えたらわたし、政宗さんの為に何もしてなくね? というか小十郎さんの手伝いすら、城の掃除すらまったくやろうとしてなくね?(よく元気よく言い返せたよね昨日までのわたし!!)
あれ? ということはわたしの立場、なくねェェェ?!
どうしよう、これであのお姉さんが政宗さんに気に入られて「奥州に住めば?」「うんいいよ」的なノリで簡単にここに住むことになったら、わたし本気で怖い!! やばい!
「いかんっ、とりあえず、ななに…何をしよう!?! 掃除、そうだ、掃除! そうだ掃除にいこう!!」
ここで「まずわたしの部屋を掃除する」という考えはない。とりあえず城の掃除をして、ああ、この人でも掃除くらいするんだなというイメージを植え付けることが大事なのだ。
そうと決まれば、と、毛繕いをするタヌキちゃんを見る。
「ごめんねタヌキちゃん、ちょっと用事ができちゃったから………あれ?」
途中まではこちらを見上げていたタヌキちゃんだったけど、突然顔をそむけた。そしてふすまの方に向かってキィと威嚇のポーズをとる。え、何なに?! もしかして敵とか…いや、まさか! でも、と不安にかられるわたしとタヌキちゃんをよそに、足音が近づいてきた。それが近づくほど、タヌキちゃんが余計に怒っているような。
どくん、どくん、と心臓が波打つ。何、めっちゃ怖いんですけど。政宗さんはどこにいるんだァァァあっ、お姉さんとか。チクショー!!
そしてついに足音が止まり、
「入るぞ」
ふすまが開いた。
「ぎゃああああぁぁぁぁ…ぁ…あ…あり…?」
とっさに放った絶叫が、やって来た人物を見るなりやんでいく。
「ま、政宗さん…たちじゃないですかぁ」
「一人で何発狂してんだ」
「発狂じゃありません!!」
タヌキちゃんが威嚇する中、入ってきたのはわたしの(ここ強調!)政宗さんとお姉さん。
なんだあ、と胸をなでおろすわたしに対して、タヌキちゃんは依然として警戒をしていた。主に、お姉さんに。
「? タヌキちゃん、大丈夫だよ~」
安心させようと抱き上げても、お姉さんから目を離さない。
首をかしげるわたしとは違い、あちらは納得しているようだった。
「野生の獣は、火薬の匂いに敏いからな」
「え? 火薬?」
「そうだ。我ら雑賀衆は銃や火薬を使った爆薬を扱っている。その匂いが、体に染みついている」
「あ、ああ……そうなんですか」
あのおにいさんが言っていた集団だもの、そりゃそうだ。それにしてもきっとこの人、現代だと自衛隊に入りそうだな、なんて妄想をふくらませる。ていうか火薬の匂い、しないんだけど。どちらにしろタヌキちゃんはこの匂いを察知して、さっきからお姉さんを威嚇してるってことか。ううん、野生ならではの行動ってわけね。
うんうんと頷いて、それからハッとする。
しまった、わたしはお姉さんと仲良くなっている場合ではないのだ!!
「な、何用ですかお二人で!! わたしは忙しいんです!」
「「嘘をつけ」」
「なんで声そろえる必要あるんですかァァァァ!!!!?」
気が合うの見せつけるためですか、いちゃついてるの見せつけるためですか、アン!? 威勢だけは張ってますけど、多分もう少しで泣きそうです、ななしは。あとちょっとした何かでもう政宗さんに「ばかー!」と叫んで部屋を飛び出して池に飛び込んじゃいそうな。でも泣いたら負けだと思っている、だって諦めたらそこで(恋愛の)試合は終了しちゃうもの! 先生、恋愛がしたいです!
そうしてなんとか泣きそうな感情を押し殺し、そっぽを向きながら、腕を組んでみせる。筆頭相手に不遜な態度ではあるけど、今はそんなの関係ない、男と女の問題なんだから!
「わ、わたしのことは放っておけばいいじゃないですか!」
「そうもいかねェ。こいつがアンタに挨拶しておきたいんだとさ」
「え。お、お姉さんがですか…? ていうか政宗さんが会い」
「No.」
「即答!(やべえもう泣く!)」
それにしても、どうして、明らかにわたしを差別的に見ているお姉さんが。
タヌキちゃんに威嚇されても完璧にシカトしているお姉さんが。
このわたしに、挨拶だなんて! あっいよいよか、宣戦布告。奥州の女王の座はわたしのものだ、とか、上から目線で言われたらわたしは いったん池の水を桶でくんでその涼しい顔にぶっかけてやるつもりです、本気で。…多分これを小十郎さんに言ったら「んな戯れ言ぬかすのは世界中探してもななしだけだろ」と一蹴されそうだけど。
メラメラと燃えるわたしを見たお姉さんは、
「雑賀孫市だ」
このたった一言だけ発して、口を閉じられました。
え、ええ~……。本当に挨拶だけじゃん。拍子抜けしちゃったよ。出で立ちも格好いいけど言う言葉も簡潔である意味格好いいよお姉さん。
ちょっとテンションが落ちた(というか落ち着いた)ので、ここは素直に自己紹介をしておこう。
「わたしはななしです。あっ政宗さんの将来の妻です!」
「………そうか」
フッと笑うお姉さん、もとい雑賀さん。あ、あれ? 初めて会った時から全然笑わなかった雑賀さんが、なぜかわたしの真面目な顔で笑ったぞ。でも馬鹿にしたような笑いではなく、なんだか微笑ましそうな表情だった。
突然の雑賀さんの変わりよう(?)に動揺してしまい、とりあえず政宗さんを見る。なぜかタヌキちゃんを見ていた政宗さんは、わたしの視線に気づき、雑賀さんを見る。チッ、なぜそっちを見るんだい!!
「契約先に向かっている最中じゃねーのかい、孫市」
「ああ…少し長く居すぎた。お前の女を怒らせるわけにもいくまい」
「気にすんな。こいつァこういう奴だ」
「そうか。ならばいい」
わあ、本当に気にしてないようですよこの人! 遠慮なさすぎです。
でも、こんな美女の名前が雑賀孫市って…。時代が時代だから納得できなくもないけど、もう少し可愛い名前でもいいと思う。
「あの、雑賀さんは、政宗さんの…友達ですか?」
「…さあな。少なくとも、お前が気にする間柄ではない。独眼竜と上手くやることだ」
「は、はい」
城の外まで雑賀さんを見送った後、タヌキちゃんを抱えたまま政宗さんの隣で歩く。
「雑賀さんを待ってた人たち、本当にみんな銃持ってましたね。というか凄い怖かったです、雰囲気」
「まァな。てめェらの頭が一人で他人様の城に乗り込んでんだ、気が気じゃなかったろうよ」
「あはは、ですよねー」
そんな会話の最中、ちらっとその表情を見上げてみると、どこか嬉しそうな顔だった。必ずしも味方という間柄ではないらしいけど、敵でもなさそうだ。きっと真田さんのような戦友感覚なのかも。
もし、その戦友が元気にやっていることがわかって政宗さんが嬉しいのなら、わたしは嬉しいはずなんだけど…駄目だ、無駄だとわかっているのにどうしても悲しくなってしまう。相手が女性なだけで、どうしてわたしは嫉妬しちゃうんだ。いつきちゃんはそんなことなかったのに。やっぱあれか、ボンキュッボンのべっぴんさんが政宗さんと同等の立場でしかも格好いいから悔しいのかな。
しゅんとするわたしを慰めるように、タヌキちゃんが小さな手をのばして顔をぺちぺちと触った。
うう、この癒し系め…一生離さんぞ!!
「ななし」
不意に、政宗さんが声をかけてきた。なんでしょうと返事をする前に、タヌキちゃんをひょいとつまみ上げられる。途端にわたしとタヌキちゃんが吠えだした。
「何するんですか!? そんなつかみ方ナシです、ナシ! せめて抱っこしてくださいよ!」
「Don't walk so close to me! 見てて暑苦しいぜ」
「は、はあ? どん…うぉ…? もーいっかい! もーいっかい!」
「ほら、てめェもてめェで歩きな」
背中のあたりを掴まれたタヌキちゃんは、政宗さんに床におろされると、一声ないて茂みへと走り去ってしまった。多分「コノヤロー覚えてろよ!」みたいな感じだと思う。完全に悪役が逃げる用の台詞だけど。
ああ、オアシスがぁぁ…っ!
「タヌキちゃんが逃げちゃったじゃないですか~!」
「No problem. すぐにまた来るさ」
「うそだァァ! 政宗さんは知らないでしょうけど、タヌキちゃんって実はレアなんですよ! なかなか現れないんですっ希少価値に値する癒し系なんです」
「へェ…」
ブツブツと文句を垂れるわたしをちらりと見て、政宗さんは足を止めた。そのまま一歩進んだわたしは、突然止まった政宗さんが不思議で振り返る。
「あのタヌキが来るのと、今から俺がななしを連れて川へ涼みに行くのは、どちらがrareだと思う」
「世界で一番レアなデレ政宗さんを愛してます!!!!」
ゲヘヘ、現金なやつですみません!
簡単に傾いた天秤
(またねタヌキちゃん、ウフ!)
if雑賀さんと出会ったら。ちなみに「そうくっついて歩くな」って言ってました。