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「ううむ……」
まいった。
小銭袋を手にとり、ぶるぶると振ってみる。けれど、チャリンという金属音はまったくしなかった。
今度は逆さまにして揺すってみる。しかし、何も落ちてこない。
どうやら、この間もらったばかりのお小遣いが、もう底をついたらしい。らしい、っていうのは、金額気にせずに買いたいものを買い漁ってたせいです、はい…。
それにしてもこれはヤバイ。まず一番に、政宗さんではなく小十郎さんの顔が目に浮かぶ。きっとあの、鬼のような形相で、わたしの両足をひっつかみグルグル回した後地面に叩きつけるんだ。そんなの絶対にやだ!
「…よ、よし」
とりあえず可愛いからと購入した新しい着物を、棚の奥に押し込む。これが実は原因だったりする。だからバレたらまずい。
ごくり、と生唾を飲み込むと、わたしは棚から離れた。そして握り拳をつくり、一人こそりと決意する。
「隠れバイトしようっ!!」
もしこれが現代だったら、履歴書だの学生証だの必要だったことだろう。しかし、ここは昔。戦国時代。履歴書どころか学生なんて職業すら存在してない!
そして現在、城下町のとあるお店で、わたしは「ここで働かせてください!」と頭を下げていた。
「……あんた、見た感じ苦労してなさそうだね。根性がないとこの仕事きついよ。あたしゃ根性がない奴は男も女も嫌いなんだ」
「大丈夫です、根性もしつこさもばっちりあります!! 思わず相手が引くほどに!」
「ふーん……」
頭を上げると、お店の人と目があった。とっさにへらっと笑う。するとそれを見たおばさんは、満足げに頷いた。
「いいねえ、その笑顔! あんたここで働きなよ」
「!! は、はいっ! ありがとーございまっす!!」
ニカッと笑うだけでハイ採用!! 素晴らしい時代…いや、国ですね、政宗さん!
最も、笑うだけでOKっていうのは、ここが今でいう喫茶店みたいな「あんみつ屋」で、接客時の笑顔が物を言うから。難しいことはできないけど、笑顔で応対ならコンビニのバイトでも出来てたし、大丈夫。
店長もといおかみさんに背中をバシバシ叩かれながら、わたしはその日から早速お店に立つことになった。それは昼から夕方の閉店にかけて、雑用からお客の注文取り、料理を運ぶなど、とにかくナンデモだ。人手が足りないということを後から聞いたから、この時はただ必死だった。ぶっちゃけ働けば働くほど稼げるからラッキー☆と軽く思ってたわけだし。
そしてようやく、のれんを下げたおかみさんから声をかけられた時、わたしはヘトヘトになっていた。き、きつい。こんな毎日をおかみさんと、もう一人の青年がやっているのかと思うと、賞賛ものだ。
「お、終わりですか……」
「うんうん、ご苦労さん。やっぱ若いのがいると店の回りが違うねえ」
「そうだね、おかみさん」
同意をする青年は、手ぬぐいで髪を隠しているからどんな髪型かはわからない。けれど顔立ちも良いし、現代で言うなら「YOUやっちゃいなよ」と声をかけられそうな感じだ。勿論一番良いのは政宗さんだけど!! そこは断定ね、断定っ!!
青年は微笑みを浮かべながら、額の汗をぬぐった。
「おねーさん、お疲れ。明日もまた来てくれるんだよね?」
「あ、はい。できたら短期で雇っていただきたいんですけど……」
「ふーん、見かけによらず苦労してんだ。そんな年から…」
「ええ、そうなんです。まあ何もかも軽はずみな行動をした自分が悪いんですけど」
「!!(軽はずみ?!)」
「?!(どんな博打したんだ、この娘は…!?)」
それを聞いた二人がぎょっとしたことに気付かず、わたしはため息をついた。
この賃金じゃ、最低一週間は働かなくちゃ。それまでバレないといいんだけどな。
「ななし」
たまたまななしの部屋を通りかかった。そこにちょうどななしが部屋を出ていくもんだから、なんとなく声をかけた。それだけだ。
「げっ政宗さん!!」
「もう一回言ってみな」
「やあだあ、政宗さんじゃないですか~!!」
冷や汗をダラダラ流しながら言い直すななしだが、怪しさを全く隠せていなかった。本人は気付いてんのか知らねーが、ななしは嘘をついたり何か隠していると明らかにおかしな行動をするもんだ。……何も隠していなくても、おかしな行動はしょっちゅうだが。
どうやらこの俺に隠し事をしているらしい。上等じゃねえか。
「Hey,wait. どこに行くんだい?」
「え、ああ…お、おでかけ! おでかけなんです、一人で!」
「一人で?」
「そう、一人で! だってみんな忙しい忙しいって断っちゃうんですもん」
確かに、今は他国からの要請で戦の準備が進んでおり、誰もななしの相手なんかしてくれねーだろう。俺もこの後広間に行き、参謀と話をしなくちゃいけねえ。
だが、何かが引っ掛かる。
「アンタ、」
「あっところで政宗さんは なんでここの廊下通ってるんですか? ああっそうかあ、わたしに会いに来てくれたんですね、ありがとうございます! でもすいません、先ほど申し上げたようにちょっとおでかけなんです、大丈夫、夕方には帰ってきますから!! じゃ、行ってきまーす!!」
「おい」
「筆頭!」
背後から部下が駆けつけてくる、尋常じゃねー様子だ。思わずそちらに気をとられ、すぐにななしのほうを向いたが既にそいつはいなかった。逃げ足の速さだけは天下一品のようだ。
「なんだ……………ん?」
ななしが立っていた場所に、手ぬぐいが落ちている。どうやら急ぐあまり気づくことがなかったようだ。取り上げた時、汗の匂いがした。だがななしは汗っかきでもねえし、手ぬぐい自体持っているのを見たことがない。
誰かから、借りたということか? それなら、なんの為に?
「……………」
「あのォ~筆頭…既に戦地にいる他国からなんスが…」
「…ああ」
どうやら思ったより戦況は良く、俺達の手を借りるまでもない。そう聞いた途端、次にやることなんざ決まっていた。
「ならしばらくは様子見って事だな」
「そうなりやすね」
「OK. ……悪ィが急用ができちまった。俺の代わりに広間の奴らへ その報告をしてくれねェか」
「合点承知でさァ!!」
頼んだぜ、と念を押してから、俺はななしが向かった方向へ走り出した。
この俺に、隠し事たァいい度胸だ。
覚悟はできてんだろうな、ななし?
「ありがとーございました!」
団子を十本も食べていってくれた太っ腹な出っ腹さんを見送り、わたしは肩を回した。ううん、今日もよく働いてる、かな。
初めはお金の為に頑張っていたけど、今はそれだけが理由じゃない気がしてきている。毎日ほぼ初対面の人と会話して、満足して帰ってもらって、それさえも楽しみになっているのだ。
それに。
「お疲れ、おねーさん」
「お疲れでーす」
振り向けば、爽やか青年の笑顔。
にへらっと笑うと、わたしは心の中でもう一度呟く。
それに、この青年は、このわたしを唯一 「変態!」とも「漢みたい」ともいわない。ありがとう神様、この人とこの時代で出会わせてくれて。おかげでわたしはグレることなく頑張っていけてます。
「はい、これ。おかみさんから」
「うわっいいの?! 団子じゃん」
この数日ですっかり青年とうち解けたわたしは敬語がとれていた、といっても相手もそんなに気にしてないみたい。
さっきのお客さんを最後に、お店は空いた。働いててわかったんだけど、どうやら一日の間にこういった時間が何回かあるみたいで、その間に掃除したり団子を作ったりするそうだ。ううん、時間を無駄にしない所がさすが商売人という感じ。
で、お客さんがいない今、小腹の空いたわたしを見透かしたようにおかみさんからお団子のプレゼントがあったわけで。ああ、気のせいじゃない、いつもより美味しそうなのは絶対に気のせいじゃない。青年からありがたくそれを頂戴して、ああ、とそこで思い出した。そういえばわたしも青年に渡すものがあったのだ。
「そういえば昨日、手ぬぐい借りちゃったままだよね。ちゃんと洗ってきたよー」
「ああ、そうだったね。それにしてもわざわざ洗って返すなんて、律儀だよね」
「え、そう?」
昨日は有り得ないくらいの高気温で、汗を拭くものも持ってないわたしは汗をかいた顔に髪がへばりつくことにイライラしていた。そこで青年が自分の手ぬぐいを貸してくれたのだ。そのおかげで、途中からだけど、仕事も順調に終えることができたわけ。いやあ、この青年のボランティア精神には感服だねえウン!
「ちゃんと忘れずに……あ…あれ?」
袖口に入れておいたはずが、どれだけ探っても手に当たるものがない。念のため逆の方と懐もチェックしたけど、やはり無かった。まさか、と真っ青になるわたしに青年はフッと笑んだ。
「いいよ、昨日みたいな暑さはもうしばらくはこないだろうし。生地もおかみさんからもらってあるし、また作るから……」
「だっだめ!! 来た道戻って探してくる!」
「あっ」
顔を青年に向けたまま外へ飛び出した。…のが、いけなかった。ちょうど真正面から、誰かにぶつかってしまった。うわあああさっきから何をしてんだあたしゃあァァ!!?
「すっすいません! いらっしゃいませ!!」
慌てて一歩下がり、顔を上げる。その目の前にいる、お客さん…いや、人物。
視界いっぱいに入った瞬間、わたしの心臓がでんぐり返しをしそうになった。
「むハッ!!?」
「ようななし。Hey,Boy! 団子くれねーか」
「(俺だよな…?)へっへい!」
絶叫しそうになった口を政宗さんの大きな手が塞ぐ。青年が慌てて奥に引っ込んだのを確認すると、その手を離した。そして椅子に腰を降ろすと、わたしをジロッと睨んだ。う゛、怖い。
「いつからだ」
「……バイトは…えーと…六日、くらい?」
そういえばもうすぐ一週間経つんだ。ああ、ギリギリバレちゃったなあ。
一方、政宗さんは目を見開いていて、どうやら驚いてるみたい。
「Whats?! ……この事は誰かに話したのか?」
「いーえー。だってみんなシカトするし」
その時、青年が団子を持ってくる。頬をふくらませそっぽを向いたわたしと政宗さんを交互に見やると、またぺこりとお辞儀をして、奥に引っ込んでしまった。どうやらわたしの知り合いだとわかってしまったみたいだ。もしくは恋人? はたまた夫!?(うはっナイス青年!)
「…そのニヤけた面、なんとかならねえか」
「無理ですね、政宗さんだから」
「ところでコイツを知ってるかい」
めっちゃスルーされた、どうでもいいとばかりに…!! まあいいや、とこっそり落ち込みつつ政宗さんの懐から現れた物に、今度はわたしが目をくわっと開いた。そ、それはあの青年の手ぬぐい!! わたしが落としたと思ってたやつだ!
「それをどこで?!」
「アンタの部屋の前だ。妙に汗くせーが…」
「まさにそれです、ありがとうございます」
笑顔でそれを受け取ろうと伸ばした手を、政宗さんは バシンとはたいた。痛い! なんてこった、まだ彼の機嫌は直ってない。
「俺の問いにはまだ答えちゃいねーだろ。コイツを知ってんのか?」
「知ってます、わたしの落とし物です」
「そうか。じゃあコイツはアンタの物ってことかい」
「あーいえ、借りた物です。昨日、さっきの青年に」
「…………」
憮然とした表情で団子を口にする政宗さん。わたしは今まさに新入社員として、社長に突然呼び出され「きみ、クビね」と言われそうな雰囲気にのまれていた。まあありえないけどね、そんなこ
「今日限りで、アンタは辞めだ」
あったよ。簡単にクビ言い渡されたよわたし。
あるにはあった、けど、納得できないからね!?
「まっ待ってくださいよ!」
「そもそもなんでアンタが働く真似をしてるのかが疑問だ」
「真似じゃなくて働いてますから! ……実は、お金を遣いすぎてしまって…。それで、自分で稼ごうと思ったんですよ」
「………」
しばらくわたしの冷や汗っぷりを眺めていた政宗さんは、深い深いため息をついた。そして小銭を椅子において立ち上がると、突然わたしの手を握りしめた。ギャア!!
「なっふ、ふォあ…!?!!」
「ちゃんとした言葉喋れよ」
「いっいやだって政宗さんがそんな日頃しない事突然するもんだからあのちょっとてんぱってあれっこれどう反応したら正解だったんですかいきなりデレされても困るかなあとか思ってしまったんですがでもやっぱり嬉しいのでとりあえずいつもみたいに興奮していいですか!?」
「既にしてんだろーが」
まともなツッコミを受けながら(ああ…こんな会話も久々だぜ…!)わたしはお店を出た。椅子には空になった皿にのった串、と、小銭、そして青年の手ぬぐい。
「あの…おかみさんにお世話になったのに、まっったく挨拶してないんですけど」
「今日はもう引き上げだ。明日、俺と行けばいい」
「…りょーかいデス。政宗さんと、一緒にですね!!」
ああ畜生、惚れ直しちゃうじゃないか!!
足踏み揃えて1・2・3!
「それにしてもアンタ、六日もよくバレなかったな」
「それだけ放置プレイかまされてたってことですよ」
「……ななし」
「なんですか?」
「すまなかった」
「……………」
「……………」
「……ちゅう、してくれたら許してあげますけど」
「一生許してもらわなくてかまわねえ」
「うああああ嘘です!許します!何もしなくてもッ!!」
政宗さんが最近デレをみせるようになってきました。