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ピンポーン。
「……何やってんだアンタ」
「えへ、家出しちゃ」
「Good luck.」
「ノォォォォォォ!!!!!」
学校が終わり家に帰ると、玄関でお母さんが角を生やして待っていた。理由は言わずもがな、その手に握られているこの間あったテストの解答用紙。そこには、のび太くんが歓喜するような数字が赤いペンで乱雑に記されている。
そのおかげでさんざんガミガミと言われ、まあそれは我慢できますよ、だってわたしが悪いんだもの。しかし、その後がいけない。なぜかテストの話から徐々にわたしの人生についてずれていき、しまいにはバイオレンスな言葉まで出てくる始末。そして売り言葉に買い言葉、「もうこんな家出ていってやる!」と荷物もそこそこに家を飛び出したのだった。
「というわけなんです、だから泊めてください」
「それでわざわざ隣町まで来るアンタはすげーな」
普通近くの友達選ぶだろ、と政宗さんは言った。フフン、わかってないですね相変わらず。ピンチをチャンスに変える、つまりこの家出を利用して政宗さんともっと仲良くなるっていうのがななしちゃんの狙いなんだからね! 財布にもギリギリ電車賃入ってたしセーフ。ケータイは…ちょっと充電寸前だけど。
それに現実、政宗さんの家は有名な極道一家で、屋敷も広いしわたし一人分くらい余裕あると思う。そして何より政宗さんは優しいのだ、見かけによらず。第一今こうして、突撃お邪魔しても客室に案内してお茶を出してくれてるし。いや、ほんと惚れますわ。
「一泊なら構いやしねーが」
「やったー! ありがとうございますダーリン!」
「どさぐさに紛れて何ほざいてやがる」
感動のあまり抱きつこうとしたけど、それは小十郎さんにより阻止されてしまった。チッ、ほんとタイミング悪い…!
「政宗さんと一つ屋根の下で一緒に暮らしてるからって偉そうにしないでくれますか?!」
「俺がいつ偉そうにしてんだ、てめーの目は節穴か」
「違います、いつでも政宗さんを追跡監視できる千里眼搭載です」
「そうか、よし、目玉抜き取ってやらァ」
「ホギュアァァァァ!!」
両ほっぺをぐわしっとつかまれ、小十郎さんの太い指が目の前に迫る。お願いだからゴキゴキ関節鳴らさないでください怖いですからほんと調子に乗ってすいませんでした、わたしが偉そうにしてました!!!
「Hey,小十郎。その辺にしときな。どうせ今日は他の奴らが出払って誰もいねーんだ、アンタも遠慮することはねえ」
「政宗様…」
「ええっマジですか!?」
なんというベストタイミング! これって運命だよね! うわあやったー嬉しい、政宗さんと一夜を共にすることができるなんて。これで小十郎さんがいなかったら、なんて叶わない願望は抱かないよ、これでいいのだ。
そんな時。安心したせいか、お腹がグウ~と音を立てた。すぐに両手で抑えるようにしたけど、わかってます無駄だってこと。うう、恥ずかしい。二人の反応はやはり、呆れ半分笑い半分で。
「ななし」
「なんでしょう小十郎さん」
「飯の支度手伝え」
「! イエッサー!」
ピンときたわたしは、すぐに立ち上がり、荷物をその場に置いて小十郎さんに続き部屋を出た。
「小十郎さん小十郎さん」
「なんだ」
「えへへ、ありがとうございます!」
「…?」
「これって、花嫁修業ですよね!」
「……………」
前の方で小十郎さんが額に手のひらをあてていたらしいけど、わたしは気付かず、ニコニコ笑っていた。
「…だから、何度言えばわかるんだ!」
「わかりません! 何回やっても何回やっても! どうせ缶は最後までとっておけばいいんでしょ!?」
「てめーがキレてんじゃねェ!!」
やはり何事にも(わたしに対して)厳しい小十郎さんは、わたしに包丁の持ち方から鍋の扱い方まで徹底した教育を行っていた。一見だらけてるように見えますけどね、ごくたまに料理するんだから! 99%お母さんの手料理食べてるけど、年に一回くらいは料理するんだから! 学校でも調理実習とかあるしね、お皿洗い係で。
そんなわけでギャアギャアと言い合いしていると、ジリリリリとベルが鳴った。ダイヤル式の黒電話? 渋いな、カッコイイ。
それに小十郎さんが盛大に舌を打ち、台所を出て行った。その後ろ姿にわたしも舌打ちを…いや、ムリ。死ぬ。殺される。刺される。
「ななし!」
「? はーい!」
小十郎さんに呼ばれ、わたしも廊下に出る。受話器を持っていた小十郎さんは一言、「真田からだ」とわたしにそれを押しつけ台所に戻っていった。真田って、あの真田の兄さん?! 慌てて耳に受話器をあてる。
「もしもし、」
『ななしどの! 家出したというのは本当でござるか?!』
「(耳が…!)あ、あはは~…ほんと、です…」
ちくしょう、お母さんめ。友人の真田さん宅に電話しやがったな。ちなみに真田幸村さんご本人は気軽に幸村くんとかユッキーとか呼んでほしいらしいんだけど、小さい頃に空中へ思いきりぶん投げられた記憶があり、それがトラウマで未だに名字呼びだ(いい人だっていうのはわかるんだけどね、『たかいたかーい』の限度を知らないってどうなの?)
真田さんが落ち込んだようにため息をつく、その後ろで猿飛さんの声もした。真田さんのお友達で、こちらもわたしが小さい時に散々いたずらをしかけてきて、なかなか気の許せないお兄さんだ。わたしが警戒している、その雰囲気さえも楽しんでるんだからやってらんない!
『ほら、ちょっと貸して。もしもし~、ななしちゃん?』
「はい、どうもこんばんは」
『こんばんは~。で、なんでななしちゃんはこっちじゃなくてそっちにいるのかな?』
「は? こっちそっちってなんですか? ハッチポッチですか?」
『違うからね、誰もステーションの話してないから。いや、普通家出なら近所の真田宅か俺んちでしょ。なのにわざわざ隣町行ってるからさー』
「ああ、それはピンチをチャンスに変える為ですよ! それに言っておきますけど、真田さんの家は考えましたけど猿飛さんの家はまっっったく想定外ですから」
『へえ、ピンチをチャンスに……。つーか、俺様ってば嫌われてる? 悲しいねーななしちゃん大好きなのに』
「へーそうですか。でも大好きなら、小さいわたしを山に放置して家に帰って爆睡しないですよね!!」
根に持ってるからあれ、絶対墓場まで持っていくからあの恨み! 真田さんが夜通し探してくれたおかげで見つかったけど、あれ以来猿飛さんにはレッテルを貼ってあるのだ。
『しょうがないじゃん、俺の場合好きな子ほどいじめたくなるんだって』
「限度ってもんがあるでしょ、限度! ……で、話はそれだけですか? わたし今から小十郎さんのお手伝いで晩ご飯作るんで」
『晩ご飯だと?!!』
いきなり真田さんの声が耳に飛び込んでくる。猿飛さんと替わったみたい。ちなみに晩ご飯という単語で真田さんが驚いているのは、わたしがそういうタイプじゃないことをご存じだからだろう。……わかってるんだけど、そういう反応をストレートにされるとちょっとムッとしてしまいます。
「そうですよ、晩ご飯…」
『まさか、そのまましゅっ、しゅくはく…するつもりでは』
「勿論です! 政宗さんもOKって言ってくれたし、今日は政宗さんと小十郎さん以外誰もいないらしいですよ」
『…………』
「…? 真田さん?」
『……誰も、いない?』
「え…あ、はい…あの、真田さん?」
ブツッ、と電話がきれた。え、何? 今の真田さんの声。
…ま、いいや。受話器をおいて、わたしは気がかりを頭の隅に押し込むと、台所に急いだ。
それから数分のことだった。
「たのもォォォォォ!!!」
真田さんの絶叫が伊達家中に木霊する。それは玄関から廊下を伝い角をまがって、居間に料理を運ぼうとしていた台所のわたしたちにまで届く。
来たよ、例のお兄さん。本当に心配性なんだから、いい加減わたしから自立してよね、と思いつつ実は嬉しかったりします、すいません。馬鹿みたいに真面目だけどそんなところが好きだし顔もカッコイイし。ていうか実際 馬鹿だけど。
「うるせーのが来やがった…」
「全くですよね」
「お前が言えた義理か」
さっさと処理してこいと台所を再度追い出されてしまったわたしは、渋々玄関へ向かった。うわ、政宗さんと早速接触しちゃってるよ。とりあえず挨拶をしながら、政宗さんの隣に立ってみる。真田さんの視線が痛い。
「どうもです、真田さん。と、猿飛さん」
「やっほー」
「ななしどの、それがしが来た理由はわかっているでござるな」
「…わかってますけど、でも、お断りします。今日は政宗さんと一夜を共にするって約束したんです、ね、そうですよね!」
「知らねえ」
政宗さんの腕に抱きついたけど、するりと抜けられてしまう。でもいいんだ、拒絶されてるわけじゃないから。
だがしかし、それによって何かに着火した人物がいた。
「ということなので、お二人ともすいませんが」
「ならァァァアアアアん!!!」
「どわあっ?!!」
真田さんだ。目の奥で炎が燃えてる…ような気がするくらいに熱気がこもっている。なんだこの人、頑固一徹? 昭和のお父さんタイプなのこの顔で(いや、顔は関係ないか)
「ならんならんならんっ、絶対にあってはならァァァん!! ななしどのが、他の男と寝床を共にするなど…!! 破廉恥にも程があるッ!!!!!」
「いや、寝床って言ってないからねななしちゃんは」
「はい、一夜って言ったんです」
「五月蠅いッ揚げ足を取るな佐助ェ!!」
「俺だけ?!」
どうやら健全なる女子学生が家出で男の家に行くことに、極度に抵抗があるらしい。でも、そんなこと言ったって、政宗さんは昔からの付き合いあるし…真田さんや猿飛さんほどじゃないけど。
「こうなれば力ずくでも、」
「Stop.」
わたしに伸びた真田さんの腕を、スッと止めたのは政宗さんだった。それまでわたしたちのコントを生暖かい目で見守っていたけど、おお、なんでだろう、たった一言口にしただけなのにドキーン!てしちゃう…!
政宗さんは真田さんとは真逆なほどに、とてもクールだった。
「アンタの言い分はよくわかった。だが、こっから出てくのも残るのも、結局はコイツが決めることだ。…アンタがしのごの言っても、どうにもならねーんだよ」
「ぐっ……!」
「伊達の坊ちゃんもよく舌が回るもんだね。んなこと言われたら、答えなんて決まってんじゃん」
「おおっ、流石政宗さん! ということではい、わたしは一晩こちらに泊まって明日の朝こっそりと帰宅しますので、御心配なく!」
「……泊まる」
「はい、そうです」
「…それがしも、泊まる!」
「は………?!」
突然の宣言に、一同絶句。猿飛さんもあんぐり口を開けている。その中でただ一人、真田さんは拳を振りかざし熱のこもった口調で、
「ななしどの一人を、どこの馬とも知れん男共の巣窟に放り出してたまるか!」
いや……おとうさん?</b>
「あの…真田さん?」
「それがしは譲らぬ!」
「Shit,What a bother!(面倒くせえ!)」
「え? 何? 政宗さん今なんて言ったの?」
結局、一歩も譲らない真田さんに政宗さんは機嫌を損ねながらも了承した。流石、寛大です政宗さん…! ちなみに猿飛さんは一人でひっそり帰ろうとしたみたいだけど、真田さんにグワシと捕まり、諦め気味にため息。
「つーかさ、何やってんのアンタ?! 俺達泊まりに来たんじゃなくてななしちゃんを連れ帰しに来たんだろ」
「それはそうだが、ななしどのを無理矢理連れて帰っても、親子の仲が戻るわけでも…それにななしどのの意思も尊重せねば…」
「……ははーん、成る程ね。ななしちゃんに嫌われたくないんだ、へえ」
「なっななななぬゎにを!! 佐助ェそこになおれ!」
「えっ何? 猿飛さん、また何かしでかしたんですか?」
「いや、なんでもないよー」
後ろで二人でひそひそ話していたかと思えば…怪しいな。ま、いいか。それにしても真田さんも丸くなったなあ、昔のままだったらわたしが泣こうがわめこうが絶対に連れ帰ってお母さんの前に立たせていたに違いない。
ここです、と二人を居間に案内する。居間といっても広々としていて、ちょっとした宴会が楽に開けそうだ。そしてテレビがアナログというのがこれまた…イイ。
「さあさあごゆっくりー。今日は大河ドラマの特集番組があるんですよ、みんなで見ましょう!」
「何ちゃっかりくつろいでんだ!」
「ぐひっ!」
首後ろの襟を急激に引っ張られ、きゅうと首がしまる。ちくしょうダメだったか、せっかく政宗さんの隣に座れていたのに。結局小十郎さんに引きずられ台所へ一度帰還すると、料理を持って再度居間へ向かったのだった。
ご飯がすんだ後。
台所で小十郎さんと並び、夕食時に使用したお皿や食器を洗っていると、猿飛さんがやって来た。振り向くと、なぜか着物…ていうのかな、旅館で出される寝間着を身につけている。まさか、と、思った通り、
「片倉の旦那、先に風呂使っちゃってごめんねー」
「えええええ!! ということは政宗さんは」
「とっくの昔に入っちゃってたよ」
「えええええええ!!!」
「わめくより手ェ動かせ」
スポンジにお皿をこすりつけながら、わたしは願望が一つ消えたことに絶望した。ああ……ここに来てやりたくてしがたがなかった、あのミッション。
「政宗さんのお背中を流したかったのにィィィィィ…!! …あれっていうことは今政宗さんが着てるあれは寝間着ってこと? うはっ着物カッコイイ!!」
それを聞いた二人のテンションが一気に下がったことには、一切気付かなかった。だってしょうがない、わたしは政宗さん以外眼中にないのだから!!
「ていうかそれならそうと小十郎さんも教えてくれたっていいじゃないですか」
「余計教えてたまるか」
「ああああもう……これじゃあ、ただ普通にお皿洗ってお風呂入って寝るだけじゃないですか。何もハプニングないじゃないですか」
「いや、それでよくない? ななしちゃんって意外にスリル求めてんだね」
「恋する乙女がいつも欲しいのは、意味ある愛とスリルですよ猿飛さん」
ぶちぶち言いながらも小十郎さんの言いつけはきちんと守り、わたしは皿洗いを終えた。テレビはアナログだけど食器乾燥機はあるんですね小十郎さん。でも便利でいいや。
「ていうか猿飛さんは何しに来たんですか」
「相変わらず冷たいねーななしちゃんは。ななしちゃんの顔が見たくなったに決まってんじゃん」
「ワアー、アリガトーウ! トッテモウレシーイ!」
「完璧な棒読みじゃねーか」
呆れながらつっこむ小十郎さんにはスマイルでかわし、居間へ戻る。政宗さんがちょうど真田さんに酒を注いでいるところだった。いいなあ、ちょっと生まれるのが早かっただけなのに、お酒飲んでも何も言われないんだから。わたしがここでがぶ飲みしたら色々とアレだろうけど……一応未成年だし。
わたしに気付いた政宗さんは、ジェントルメンなことに労いの言葉をかけてくれた。
「Thanks a lot.(ご苦労さん) 小十郎」
「?! 小十郎さんん!? わたしじゃないんですか!?」
「Ah,ななしもな」
「うわああん言葉の暴力~!」
ちくしょうやはりわたしの勘は間違っていなかった、恋の最大のライバルは小十郎さんであるということを。負けないんだからねっ!
……あれ、ところで真田さんってお酒飲めるんだ。へえ、意外。飲めないイメージがあったんだけど。
「へえ~真田さん、お酒飲めるんですね」
「う、うむ…飲めないことはないが…好きというわけでも…」
「Hey,ムリして飲まなくてもいーんだぜ?」
「(むっ)…無理ではない、これくらい水も同然!!」
ガッ、ぐびっ、ごくん。
そして真田さんは倒れた。
「………」
なんという秒殺。というか、なぜここで見栄をはるんだろう…謎。
猿飛さんが、申し訳なさそうに「あー」と口を開いた。
「……悪いんだけど、早速部屋、借りるわ」
「Sure.(どーぞ)」
片手をあげ、政宗さんがコップを手に取る。ううん、わたしとしてはワイングラス希望…! どうやら政宗さんはお酒に強いみたい。えへ、こちらは希望通り!!
「ななし、やることがねーんだったら風呂に入りな」
「りょうかいでーす。……ちなみに政宗さんは二度風呂します?」
「Ha?」
「政宗様、お気になさらず。ついてこいななし」
「ぐえっ!! じ、ぶんであるげばず!!」
またもや首を絞められながら、わたしは浴場へ向かったのだった。小十郎さんめ、察するの早すぎでしょ…! 政宗さんめっちゃポカンってなってたでしょ、そこでわたしが真相言わないとリアクションとれないでしょ?!
その途中、別室に置いてあったリュックから、寝間着と下着とタオルを取り出す。そして小十郎さんが浴場から出ていったのを確認してから、服を脱いだ。
「ああ~やっと俺様自由の身だあ~」
別室に真田の兄ちゃんを放置…もとい布団に寝かせて、居間へ戻る。片倉はいなかったが、伊達がコップに酒を注いでテレビを眺めていた。その横顔が、まー色男だこと。ななしちゃんの気持ちがわかっちまうな。正直わかりたくねーんだけど。
「それ残ってたら俺にも頂戴」
「勝手に飲みな。コップは真田のでいいか?」
「オッケーオッケー、そういうの気にしないし」
ところが、実際飲んでみるとなかなかきつい。これを(勢いでとはいえ)一気に飲んだ真田サンがああなるのは、理解できるな。明日の朝起きたら、水飲ませてやんなきゃ。
「よくこんなの飲めるね、あんた。俺らより年下のくせにー」
「年齢なんざ関係ねェよ」
「はは、あんたが言うと本当にそう聞こえるわ。……ほんと、いいライバルだね」
真田幸村と伊達政宗。職業も年齢も違うが、恋愛ではお互いいいライバルのようで良かった。ま、当の本人はななしちゃんに向けてる感情が「兄妹のよう」と自分で勘違いしてるみたいだけど。
「これからもよろしくね、ななしちゃんと、真田の旦那を」
「…………さあな」
そんな時、俺の背中側にあるふすまが開いた。
「政宗様、明日の朝食は如何致しましょう?」
片倉のニイサンだ。どこに行ってたかと思ったら、朝ご飯の支度か。……人数がいないとはいえ、凄いな、朝食ちゃんと手作りで準備するんだ。
それに対し、あごに指を添えた伊達家次期筆頭は、ニッと笑った。
「OK. 俺が久々に腕をふるってやるよ」
「ひゅう、やるねえこの伊達男! 手料理で女心もイチコロってやつ?」
伊達の粋な発想に拍手する俺様だったけど、後ろで立っていた片倉の旦那が「そういや」と視線を向けてきた。
「おい、猿飛。お前真田をどこに寝かせてきたんだ?」
「へ? どこってそこの客室にだよ。布団敷いてあったろ?」
「あったが……誰もいなかったぞ」
「へ」
「…………」
「…………」
その刹那、ななしちゃんの悲鳴が耳に入った。
同時に、ズドンという重みのある音も。
「ななし!!」
脱衣所のドアを勢いよく開けたのは、政宗さんだった。そこで、猿飛さんと小十郎さんが後ろにいることに気付いた。
三人は、わたしと、鼻血を出して倒れている真田さんを、交互に見た。
「……えーと。…もしかしなくても、のぞかれた?」
「いや、違います」
どうやら三人ともわたしが真田さんにのぞかれたと思ったらしい。違うんだなー、それが。
「寝間着に着替えた後、真田さんがやって来て、突然泣きながら突進してきたので思わずブレーンバスターしちゃいました」
「バスター?! 『思わず』でバスターかける?!」
「いや、はじめ かけるつもりはなかったんですよ! でも咄嗟にかけちゃいました」
猿飛さんが慌てて真田さんへ駆け寄り、「おーい生きてる?!」と必死に声をかける。小十郎さんは呆れたように脱衣所を出て行く。そんな中、政宗さんは無言でわたしのところまで来ると、突然手首をつかみ立ち上がらせてくれた。といってもなんだか無理矢理っぽいけど。
そのまま脱衣所の外に連れてこられたものの、政宗さんはジッとわたしを見つめた。でも、なんでかな、あまりいい気分になれない。疑われてるような、変なの。わたしが首をかしげると、政宗さんはようやく口を開いた。
「なんともねーのか」
「え? ああ、はい! 大丈夫ですよ」
コクコクと頷くわたしに、政宗さんはようやく口の端をゆるめた。フッと笑うと、わたしへ手を伸ばし濡れたままの髪をぐしゃっとかいて、背中を向け歩き出す。な、何? 何、今の。
「………」
「おーいななしちゃん、ちょっと手伝って!!」
「あっはい!」
猿飛さんの声で我に返る。そうだ、真田さんを運ばないと。慌てて脱衣所へ戻り、ふと半身が映る鏡を見た。
「………」
わたしの顔は真っ赤っか。政宗さんがあんな顔するから…でも役得!!
夜も深まってきた頃。
猿飛さんが、ふいに腰をあげた。
「じゃ、そろそろ寝ようか」
「そーですね」
「つーかさ、ななしちゃんは誰と寝るの?」
「ま」
笑顔で一文字目を口にした瞬間、小十郎さんがギョロッと睨み付けてきた。お風呂上がりでまだ温まっていたはずの体温が一気に下降する。いやあねえ、男の嫉妬は醜いわよ!
「猿飛さんは真田さんとでしょー? 客室って他にあります?」
「あるにはあるが、ちいと遠いぜ?」
「え、遠いっていうのはここからですか? それとも政宗さんの寝床からですか?」
「ななし、そこになおれ」
怒り心頭の小十郎さんから逃れようと政宗さんのところまで走って逃げる。それにため息をついた、しかしクールな政宗さんは小十郎さんを片手で制した。
「Hey,Mellow out.(落ち着け) そんなに心配なら、全員で川の字になって寝りゃあいいだろう」
「やったー! 修学旅行!!」
「いいねえ、それ! 俺様一人で真田の面倒見なくてすむし!」
ヤッターヤッターヤッターマーン、と猿飛さんとハイタッチを交わす。政宗さんはコップに残っていたお酒を飲み干し、ニヤリと笑った。
「何事も楽しまなくちゃ、損だしな」
そして支度をすませ、わたしたちは広間に布団を敷いた。五人分の布団が、二人分と三人分に上下となって別れる。二人分のほうは政宗さんと小十郎さん、三人分はわたしが真ん中で両端が猿飛さんと真田さんになった。本当は政宗さんの隣が良かったのに、小十郎さんが頑として譲らなかったのだ。ちくしょう客人だぞ…いやだからか。立場弱いんだわたし。ふふん、いいもんね、この立場も数年経てば一気に上昇、小十郎さんを「ちょっと小十郎さん、ここ埃ついてるじゃない!」ってあごで使ってやるんだから!!
……つーか。
「布団と布団の間隔、ちょう狭いんですけど!!」
「え、普通こんくらいじゃねえ?」
「いや、確かに某家は昔は布団くっつけて家族で寝てたみたいですけど、わたしたち間違っても家族じゃないですから。一応わたしレディーですから」
「かたいこと言わない! 誰だっけ、修学旅行みたいってはしゃいでたの。修学旅行で布団敷いた時、友達とわざわざ離してた?」
「それは……ぴったりでした…けどぉ」
言い負かされたわたしは助け船を出してくれるであろう伊達家を見やる。しかしいつの間にか二人は部屋を出ていた。なんだ、寝る前にトイレか? そして結局布団は、こちら三人分はぴったり寄り添うかたちになってしまった。
布団を敷いた後 完璧に眠っている真田さんを引きずってきた猿飛さんは、指定の位置に真田さんを放るとすぐに布団へ入った。早っ、ていうか真田さんを布団にすら入れようとしない…!
「ななしちゃんやっといて。俺様寝るから」
「えええええ!! すればいいじゃないですか、ほらっ寒がってますよ?!」
「やだよ。言っとくけど、オカンじゃないからね。やるならななしちゃんがやったほうがあっちも喜ぶって」
「ええ~……」
後日聞くと、この日猿飛さんは色々ゴタゴタに巻き込まれていてとっても疲れていたらしい。それでも真田さんのワガママに付き合ってここまでしてくれるなんて………根はいい人なんだね、うん。単に真田さんに勝てないだけかもしれないけど。
ま、しょうがない。
そんな事実を知らないわたしは、猿飛さんのかわりに真田さんを布団に入れてあげることにした。伊達家はまだ戻ってこない、つまり一人でこの男を布団からいったん追い出し、入れて布団を掛けなければならない。……猿飛さん、手伝ってくれませんか。
「んーしょ…!!」
仰向けで大口を開けている真田さんの横に膝をつくと、背中に手を差し込み、どっせいと転がそうとする。しかし間違っても相手は体格の良い一般男性、日頃たいして筋肉を使わないわたしからすれば岩みたいなもの。ちっくしょうダイエットしろよ! いやすいません、真田さん全然太ってません。畜生なのはわたしです。運動してなくてすいません。マラソン大会の時コースに所々いる先生の目を盗んで歩きまくっててすいません。そのくせ運動部所属しててすいません。
「くう…! このっ、う、ご、け……」
「んん゛……」
少しは効果があったのか、真田さんが反応した。体を身じろぎさせて、仰向けから半回転、こちらに顔を向けた体勢になった。そのまま起きて自分から入ってくれりゃいいのに…! 実際はそんなこともなく、って、ええ!?
「さっ真田さん! おはようございます」
「………ななし、どの…」
ボーッとした顔で上半身を起こし、わたしを見る真田さん。といいますか、わたしの方向に顔を向けているだけで、焦点はあっていない。完璧に寝起きという状態だ。
「そのままじゃ寒いでしょ? ほら、下に布団敷いてあるんで自分で入ってください」
「………ななしどの」
「はい?」
突然、だった。
真田さんが倒れ込んできたかと思うと、両腕はしっかりわたしを捕らえていて、背中に手が回る。
さっきみたいに技をかける前に、わたしは真田さんに押し倒されてしまった。
「な……ちょっとォォ?! なっなん…真田さん?!」
「……………」
わたしの顔の両脇に手をつける真田さん。必死に声をかけても反応すらない。いやおかしいからね、日頃破廉恥連呼してる人がこんなことするなんて。それともあれかな。酔っ払うと人格が変わる人っているみたいだけど、まさか真田さんがそのタイプ? んな馬鹿な! 普段の生真面目さから思いきり180度変わってるしィィ!
ふんぬらばぁ!と真田さんの肩に手をあてて力を入れるものの、まったく効かない。むしろなぜか、その顔が落ちてきている気がする。
「猿飛さんっ、猿飛さん! なんか真田さんが変なんですけど!!」
「……………」
「ちっくしょう寝てやがる!!!」
もしくは面倒くさがって反応しないとか。こっちに背中を向けている為まったくわからない。とりあえず判明したのは猿飛さんは役に立たないということだけだ。
「さ、さな…真田さんっ、ほんとやめてください勘弁してください!」
超スルー。いまだに焦点の合わない目が異様に熱っぽい気がする。気のせいだ、気のせい。
「くっ…………やめてって言ってんでしょォォ!!」」
そんな時、真田さんの頭がガクンと垂れた。わたしの視界いっぱいにその顔があった為よく状況が把握できなかったものの、真田さんが首根っこを引っ張られ無理矢理起き上がらせて……あ、小十郎さん。と、政宗さん!!
「まっ」
「何 人ん家でいちゃついてんだ」
「あれが どういちゃついてるって解釈できるんですか!? わたし完璧に嫌がってましたけど!」
二人に助けられてホッとしたけど、あの、あれ、ちょっとアレ…ざ、ざんね…
「うがァァァァァァ何考えてんだあたしはァァァァァ!!!」
「うるせー近所迷惑だ!!」
「すいませんでした」
枕に頭をバフンバフンと打ちつけて煩悩を無理矢理消す。ちょっとクラクラするけどちょうどいい、うん。さっきのはナシ、ナシ!
と。
小十郎さんが掴んでいた真田さんの襟首を、政宗さんがとった。そのままズルズル、向かい側の、政宗さんが寝る場所だったはずの布団へ放り出す。そして、真田さんが寝ていた敷き布団をひっつかむと、その中へ入っていった。
これら一連の動作を、終始無言で、しかもめっちゃナチュラルにされるもんだから、わたしも小十郎さんも上手い反応ができなかった。普通だったらわたしの場合驚喜乱舞で小十郎さんは慌てて止めに入ると思う。
「…………あの、こじゅうろうさん。わたしどうしたら」
「…もう夜も遅ェ、寝ろ」
「え? …あ、はい」
どこか諦めたような口調の小十郎さんに、わたしはコクコクと頷くだけにした。やっぱり政宗さんにはなんだかんだで逆らえないというか。
電気を消そうとする小十郎さんに、慌ててわたしも布団の中へ入る。そして無意識のうちに体を横へ向けると、目の前に政宗さんの寝顔。なんというタイミング、あっちもこっち向いてる! あっちって政宗さんだよ、こっちってわたしだよ!
「………………」
鼻の中で何かの液体がつたっていくのがわかりました。なんか鉄くさい。わかってるよ鼻血だってこと!! しょうがないじゃないか政宗さんのねねねねがおをこっこんな間近で…ふおおお…ありがとう神様、そして生んでくれてありがとうお母さん。わたし間違ってた。こんな素敵なシチュエーションを生んでくれたのもわたしを誕生させてくれたのも全部お母さんのおかげなのだ。明日きちんと帰ろう、帰って謝って、次のテスト頑張るって言おう。
やがて、ぱちん、と電源が落ちて、部屋が暗闇に包まれる。政宗さんの顔が見えなくなってしまうけど、すっかりリラックスできたわたしは、深い睡魔に襲われたのだった。
光が、まぶたを通過しつきささる。
なんだちくしょう、とまぶたを開けると、朝日が差し込んでいた。あ、あさか……最近睡眠不足だったけど昨日はよく眠れたなあ。
頭だけ動かすと、どうやらわたしと政宗さん以外の皆さんは既に起床ずみのようで、布団が片づけられていた。その内の誰かはわかんないけど、どうやら気配りをしてくれたらしい(一番あり得るのは、小十郎さんかな)
「ん……ん?」
目をこすろうとして、初めて気付いた。片手が動かない。それは間違いなく、政宗さんがまだ眠っている布団の方向で。気のせいか、手をつないでいるような感覚で、熱くて。
まさか、ね。信じられない気持ちでその手を動かそうとすると、力がこもってきた。
「…………!!」
興奮、どころじゃない。何このデレっぷり。こっちが馬鹿なリアクションしたらそれこそ台無しだ。何より寝起きだしそこまでできない。
わたしは真っ赤になりながら、心臓を高鳴らせつつ、その手をぎゅっと握りかえした。これが今のわたしの精一杯の反応です。ああもう不意打ちすぎる…!! 朝起きたら好きな人から手を握ってもらっていて、しかも解こうとしたらそれを阻止。やめてくださいこれ以上何かされたら心肺停止状態になります冗談抜きで。
「(くそ~、早く起きて政宗さん…!!)」
早く起きてクールに「なんだこれ」と手を解いて欲しい。わたしはそういう気持ちで政宗さんをじいっと見つめていたんだけど、どうやらそれがまずかったらしい。
本当にその直後、ばちっと目を開けた政宗さんは、ゆでだこのような色をしたこの顔を見て、ニタリと笑った。その笑みを見た瞬間、なんとも言えない寒気が…いや、鳥肌、が立つ。
そしていつもより数倍の、そりゃ寝起きだからでしょう、とっても、そりゃとっても、エロボイスで言い放つのだ。
More Service?
もっといかが?
「おはよー、起き……ギャアアアア!! ななしちゃんが大量出血してる!!」
「なんだとォォォ!?!! ゆっ輸血だァァアア!! それがしの血を!! それがしの血をッ!!」
「血液型違うだろ!!(何かしやがったな伊達野郎め…!)」
なんだこのぐだぐだっぷり…! とりあえずななしさんは変態と純情割合9:1のかわいい子なのです。
リクありがとうございましたー!