本編
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たった一回まばたきしただけで、あれだけ騒がしかった音や声、そして何より人が消えた。後ろを振り向いても、アイちゃんの並んでいたはずの列はない。
そして場所が今までと全く違うことにも気づいた。ここは神社じゃない。降っていなかった雪がここではぱらぱらと降って、地面ではわたしの住む地域よりも随分降り積もってる。気温も大分低い(寒い! コート着てても寒いよ!)
ってことは、じゃあ、わたし・・・・・・!
「ぎゃあああ!!」
キョロキョロと周りを見ていると、突然 掴まれたままの手を引っ張られ、わたしは目の前の男にぎゅううと抱きしめられた。咄嗟に、反射的に離れようとしたけど、力がますます強まったので止めておく。それに、わたしは気づいた。
この、匂い。髪やお香の匂い、わたし知ってる。
「ななし」
耳元で聞く、低くて格好いい、何十日ぶりに聞く声。
やっぱりだ。
あの人は、
「政宗さんだったんですね」
本当に、政宗さんだ。くつくつと笑う声も、身長も、全然変わってない。それにこれは夢じゃない。寒さも感じる、人のぬくもりも感じる、懐かしい匂いがする。
胸板につけていた手をずらし、政宗さんの背中に回す。そしてここぞとばかりに、わたしは抱きしめた。
「ただいまですマイダーリン!!」
最高に幸せだ。煩悩バンザイ、縁結びの神様ありがとう! でもやっぱり小十郎さんに白状する気には到底なれません、ごめんなさい!! それにしても、アイちゃんに「ありがとう」って言えなかったのが唯一の後悔だ。もし万が一また帰ることになってしまったら、その時はちゃんとアイちゃんにお礼を伝えよう。
政宗さんはわたしの発言にいつものクールな扱いをせず、楽しげに肩を揺らした。あら、なんだか変。いつもならこの後ばりっとはがされたり、ダーリン発言を否定するのに。あっということはもしやダーリン認めたってこと?!!
そこまで思った時、あの文章を思い出した。何年かは忘れたけど、どっかの城主の娘さんと、政宗さんが結婚したっていう・・・。
・・・それにしても。
「・・・・・・政宗さん、あの、さすがに恥ずかしくなってくるのですけど・・・」
まだ抱きしめ合ってるわたしたちは、流石に村人たちの目につく。冷やかす人はいないけど、すごく微笑ましく見守っているおばちゃんもいれば、ケッと今にもツバをはいてきそうな青年もいる(あ、独身なんだ)
いや、わたしだってできればずっとこのままがいいよ。邪魔な奴いないしね!(主に小十郎さん) 政宗さんてば大胆なのはわかるけど、わたしこれでも生娘だしこういう破廉恥・・・じゃなかった、アメリカン的な行動には免疫ないんだよね!
そしてその考えが伝わったのかはわからないけど、政宗さんはようやくわたしを解放すると、何十日ぶりかのニヒルな笑みを浮かべた。ちくしょう格好いい!!
「相変わらずodd(風変わり)なsenseしてんな」
「なっ失礼ですねー! これは現代の流行ファッションで・・・!!」
「・・・やっぱりそうか」
「え?」
「アンタ、自分の世界に戻ってたのか」
その時の政宗さんの声は、ホッとしたような、悲しそうなものだった。なんだろう、気になるなあ。なんだよ今日の政宗さん、おかしいったらありゃしないぞ。
首をかしげて「政宗さん?」と顔を見上げると、政宗さんは真剣な眼差しでわたしを見ていた。
「悪かった」
「・・・・・・?」
「アンタに随分と酷いことを言っちまった」
「・・・それなら、わたしもですよ」
政宗さんを傷つけたのはわたしなのだ。それで政宗さんがううん、誰だって我慢できるわけがない。わたしだってきっと、好きな人相手でも怒るだろう。
わたしは首をブンブンと横に振って、「ごめんなさい」と謝った。
「わたし、部屋にいたはずなのに、気づいたら現代に戻ってました。それですごくショックだったんです、政宗さんに謝れなくて・・・それにもう二度と会えなくなったのかと思いました・・・」
「・・・・・・」
「それでね、政宗さんのこと本で調べたんです。本には、政宗さんが眼帯をしてる理由とか、・・・・・お母さんとの間に起こったこととか、色々ありました」
「なかなか俺も有名じゃねーか」
フンと鼻で笑う政宗さんに、わたしも眉を八の字にしながら笑う。どうやら今の政宗さんは、この二つの出来事にコンプレックスはないようだ。でも、帰る前の政宗さんには、後者のことを思い出させてしまった。
もしわたしが少しでも伊達政宗を知っていたら、あんなこと言わなかったのに・・・なんて言い訳はしない。無知は事実だ。
「それでわたし気づいたんです、政宗さんのこと、何も知らないってこと。眼帯は戦で負傷したのかとずっと思ってたし、お母さんだって、・・・あんな勝手なこと言っちゃったし。それを帰った後に知ったから、すんごーく後悔しました」
でも、今は違う。政宗さんが目の前にいるから。わたしは政宗さんの眼帯をしている目をジッと見た。そして真面目な表情で口を開く。
「あと、思ったんですけど」
「・・・なんだ?」
「やっぱ政宗さんは、隻眼のほうが格好いいです」
「・・・・・・」
一泊おいてから、政宗さんは高笑いをした。あ、あれー?! なんでここで笑われるのかな。わたしの予想では妻の殺し文句に政宗さんがドッキューン☆てきてまたハグ!みたいなノリだったんだけど!!
顔を手で隠し、いまだに笑い続ける政宗さんに、さすがにわたしは顔を引きつらせる。せっかくの台詞がパァだ。シリアスなムードもパァだ!
「えっあれっあの政宗さん? 言っておきますけど今のは真面目な台詞ですよ。ギャグ要素一切無しの恋愛シーンなんですよ!?」
「HAHAHA! アンタはやっぱそうでなくちゃあな」
何を思ったのか、上機嫌な政宗さんはにやりと笑ってわたしの頭をぐわしとつかみ、せっかくセッティングした髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。
「ホギャアアアア何すんですかちょっとォォ!!」
「アンタにゃ湿っぽいmoodは到底似合わねーよ」
「酷い! わたしだってたまには乙女チック路線に走りたくなるんですからね! ジャンル違いなのはわかってますよ、どうせわたしは何ページもあるいかにも少女漫画☆・・・の隣のページにある四コマキャラですよ」
「言ってる意味がサッパリわかんねーな、流石だぜななし」
「褒められてる気が微塵もしないんですけど」
あああちくしょう、さっきのラブラブは今いずこ・・・!!
がっかりとするわたしに、コートのフードをかぶせると政宗さんは「そのままで聞いてな」と強制的にフードを押さえつけた。そのせいでわたしは地面しか見えず、大人しくそのままの体勢でいることにする。
「・・・アンタを部屋に閉じこめて、客と話してた日あっただろ」
「ああ、ありましたねぇ」
「あれァな、縁談だったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エンダン?」
エンダン、えんだん、鉛弾、演壇、・・・縁談。
正確な漢字変換が終了し、ぴしい、と体が凍り付く。も、もしかしてその縁談は、あの、
「ももっもしかしてどこぞの城主の娘さんとか・・・!?」
「そりゃ大体そうだろうよ。どっかの大名がわざわざ娘自慢にきたんで大変だったぜ、付き合うの」
「・・・・・・そのお名前は」
「いちいち覚えてねェな。なんだ、縁談がこれ一回だと思ってんのかアンタは」
「ええええ! まさかたまに部屋に監禁されてた理由って・・・!」
「That's right.(その通り)」
「そんな・・・! わたしてっきり政宗さんがこういうプレイをお望み゛ッ」
頭に突然重みがのしかかり、わたしは即座に謝罪する。ちっくしょう、まさか政宗さんがこんなにモテモテだとは思わなかった!!!
それで結果は、とわたしが尋ねる前に、政宗さんは言った。
「断ったよ。誠に残念なことに、先約があるってね」
「えへッ、やっぱ・・・・・・てちょっと、なんですか誠にとか残念とか」
聞き捨てならんぞちくしょう! 睨み付けたいのはやまやまだけど、フードをかぶせる手が邪魔で頭が上げられない。
・・・でも、それがあのピリピリした理由だったのだろうか? 縁談でピリピリするのは、むしろ断られたあっちのほうだと思うんだけど。
「じゃあ、どうしてあの時はすんごい機嫌悪かったんですか?」
「機嫌? アンタにはそう見えたのかい」
「あれっ違うんですか?」
「・・・・・・」
政宗さん?と促しても、彼からの続きはなかった。かわりに頭をぽんぽんと叩かれ、一言、
「気にすんな、もう解決した」
と、ようやくフードを取ってくれた。そしてどこかに歩き出す。慌ててついていこうとすると、雪に足をとられ、前につんのめってしまった。
「ぎゃああ!!」
「・・・何やってんだアンタ。とろいな」
「だっだって、わたしの住んでる地域はこんなに雪つもりませんもん! ていうか政宗さんが急に歩き出したからびびっただけです」
「びびんなよ、仮にも奥州のqueenだろ?」
「え」
頭が真っ白になる。え、っとあれ、あ~、え?
嬉しすぎてどう反応すればいいのかわからないわたしに、すっと差し出された手。政宗さんはチェシャ猫のような口をして、
「そろそろ帰んねーと、風邪ひくぜ?」
その言葉にわたしはようやく手をのばして、政宗さんの大きな手をぎゅっと握った。
帰ってこれた、奥州に。
政宗さんのところに。
「・・・はいっ」
今改めて、感じた。わたしは今、現代じゃない。間違いなく、戦国時代にいる。
「わたしが」城下町の地面を踏みしめて、政宗さんに手をつながれて引っ張られてるんだ。
言葉にできない感情があふれ出てくる。けれど実際にあふれ出てくるのは、何もない。出るとすれば、お互いの、
「政宗さん。ただいま!」
「・・・・・・お帰り」
満面の、今年一番のダブルスマイル!
「そういえば、なんで政宗さんがケータイ持ってたんですか?」
「Ah,アンタの部屋に落ちてたんだ」
「ああ、やっぱ落としたんだわたし・・・。あっもしかしてアイちゃんからメールきてるかも! ちょっと貸してください。――――・・・・・・あの」
「What?」
「なんでこんなボロボロになってるんですか、ケータイ!!」
「Sorry,色々いじくってたら突然melodyがしちまったもんで、思わず叩きつけちまった」
「それアイちゃんからのメールゥゥゥゥ!!! しかも もうこれ明らかに時計機能しか使えないじゃないですか! 二つ折りがまっぷたつじゃないですかッ! あああ・・・ボタン押しても反応なし・・・」
「わかったから そんな箱にいちいち執着すんなよ」
「ううう・・・って、あれ? アイちゃんのメール届くの? ということはこっちからメール送っても届くんじゃ」
「もう使いもんにならねーけどな」
「わかってますよチクショー!!! ――――ああ、あともう一つあるんですけど、なんで政宗さん、外うろついてたんですか?」
「・・・・・・城にいたら退屈だったんでね」
城に着くと、小十郎さんが一番先に出迎えた。小十郎さんは政宗さんの背中に隠れたわたしに気づくことなく、「政宗様、お帰りなさいませ」と近寄ってくる。そこでわたしがぴょんと横にきたもんだから、ものすごく驚いていた。
「なっ・・・!」
「えへへー、ご無沙汰ですこじゅう じょッ!!」
「ななし、てめェ今までどこに行ってやがったんだ・・・・・・あァ?!」
「いあああああああ!!!」
口の両端をぐいいいいいっと引っ張られ、裂けるかと本気で思った時、ようやく小十郎さんが解放してくれた。酷い。酷いよ小十郎さん、口の端っこがジンジンするよ・・・!
「どうやらななしはてめェの時代に帰ってたらしいぜ、小十郎」
「なんと! ・・・・・・おいななし、随分と政宗様の手ェてこずらせたじゃねーか・・・」
「・・・・・・おお・・・!」
ドスのきいた声は今はそんなに怖くなかった。むしろ懐かしくて、もっと言ってほしい・・・って、わたしM? やだやだ、小十郎さん相手にMなんてやだ(そしたら今までの暴力が全部好きってことじゃん!ギャア!)
改めて小十郎さんをジロジロと見る。オールバックに鋭い目つき、片頬には古傷。間違いない。本物だ。
人っていうのは不思議なもので、どんなにその時苦手だった人でも、長い間会わずに再会すると、積極的になってしまう。あれっこれってわたしだけ?
「小十郎さん、お久しぶりです!!」
「うわっ!!」
てめェついにあの変態野郎と同類になったか!と叫ばれても気にしない(変態野郎って誰だろう?) わたしは小十郎さんに思いきり抱きついた。そういえば小十郎さんにハグしたのは初めてかもしれない。
「やっぱりどんだけむかついても、小十郎さん大好きです~~! お義母さん!」
「(むか・・・!)だァから、誰がお義母さんだ!!!!」
「小十郎 良かったなァ、範囲外でもねーようだぜ?」
「お、お戯れを政宗様・・・! 本気になさらずに」
「そりゃそうですよ、わたしは政宗さん命ですから☆」
「そうならいい加減離れやがれ!!」
「そんな冷たいこと言わずに! いいじゃないですか、嫁と姑が仲良しだと夫が安心するんですよ、ね~政宗さん」
「俺にふるな」
「姑じゃねェ!!」
お母さん、お父さん、アイちゃん、ななしはまたしばらくこちらにお世話になります。
また会える日まで、お元気で!!
来年もよろしく!
なんとか終わりましたー! 一区切りですので、無駄に今までの後書きなんぞ書いてます→