本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アイちゃんはわたしがようやく泣きやんだのを見て、ホッとした表情を浮かべた。彼女には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ごめんねアイちゃん、突然泣いちゃって」
「ううん、気にしないで。・・・でも知らなかったなあ、ななしちゃんがそんなに伊達政宗のことを好きだったなんて・・・」
「え?! ・・・・あ、うん・・・」
ぎくうっとしたけど、大丈夫、アイちゃんが言った「政宗さんが好き」というのはファンという意味だ。まさか偉人に恋愛感情を抱いてるなんて夢にも思ってないだろうなあ。
何も知らないアイちゃんは、わたしを励まそうと「そうだよ」と手を叩いた。
「きっと伊達政宗も天国で喜んでるよ~、自分のために一人の女の子が泣いてくれてるんだから」
「・・・えへ! そうかな、喜んでくれてるかな!」
思わず にへらっと笑うと、アイちゃんも にへっと笑う。違うんだよわたしと彼女の笑顔は。わたしはデレデレした表情だけど、アイちゃんは微笑ましいほどの可愛いデレデレした表情なんだよ。ああもう、なんでこんないい子がわたしの友達なんだ神様、ありがとう!!
「アイちゃん、そろそろ帰ろうか。わたし大丈夫だから」
「そう? じゃあ、本直してくるねえ」
「あっわたしも直すよっ」
そして帰宅したわたしは、非常にドキドキしながら夜を待った。
もしかしたら。もしかしたら、だけど、今日寝て起きたら、奥州だった・・・・・・みたいなことになるかもしれない。
まるで告白の返事を待つような心境で、わたしは夕食をすませ、早めに風呂へ入ると、部屋に閉じこもった。念のためケータイを探すけど、やっぱりない。
そんなこんなで、やって来ました就寝時間。ベッドに入ると、上半身だけ起こして神頼みをする。
「お願いです神様、奥州にトリップさせてください・・・!」
「ななし~、ちょっと入・・・」
「奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ奥州トリップ」
「やっぱいいおやすみ」
お母さんの声が聞こえた気がしたけど、わたしはそれどころではないのだ!!
そして ふうと息をはくと、わたしはようやく上半身を寝かせ、目を閉じた。
頭上の小棚に置いてある目覚まし時計で目が覚めた。
つまり、結果は失敗だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
わたしはこのまま政宗さんたちに二度と会えず、卒業して、忙しく働いて、別の人と結婚して、子供生んで、おばあちゃんになって、死ぬんだろうか。そしてそのうちに、「あれは夢だった」と自分に思いこませるのかな。
・・・そんなの、絶対に嫌だ。嫌だ、けど。でも、しょうがない。わたしはどうやって戦国時代にいったのかわからないし、どうやって帰ってきたのかもわからないのだ。深くため息をつくと、わたしは学校へ行く準備を始めた。
「まあ、なんとかなるよね・・・っ!!」
自分に言い聞かせる、その言葉。けれどその台詞は、その日だけじゃない。
翌朝も、いや、毎朝、自然と呟くようになった。
「ななしちゃん、おはよ~! 明日から期末テストだねえ」
「そうだねー、でも今回ヤバいんだよねマジで・・・!」
「え~うっそだあ、いつもそんなこと言って成績いいのななしちゃんじゃない」
「いや、今回はほんとしぬよ(だってこの授業したの何年前だっていう話だよ・・・!)」
その翌日から期末テストがはじまり、わたしは久々のテストでつまづかないように必死で勉強する。アイちゃんや他の友達と、色々な場所に遊びに行く(映画館は久しぶりで随分一人で騒いだ) テストが終わった翌日に返却があり、絶叫した後日に二学期が終わる。そしてようやく冬休みが始まる。
気づけばクリスマスなんてなんとなーく過ぎてしまって・・・・・・、なんていうんだろう、わたしだけこの現代の波に乗ることができていない。
「おふぁあ・・・・・・」
宿題もバイトないから、やることもない。寒い朝は小十郎さんに強制的に起こされることもない(お母さんは休日は、基本的に起こしてこないし) おかげで朝はたっぷり眠れる。でも、なんだか物足りない。
ケータイのカレンダーがあったから、今まであまり見ることのなかった、部屋の壁に貼られた月別カレンダーを眺める。今日は、十二月の三十一日。今日で、今年が終わる。
「・・・・・・大晦日は、家族より恋人と過ごしたかったなあ~~・・・なんちゃって」
冗談ぽく言ったけど、今のは本音でもあった。家族とも過ごしたい、けど、今は政宗さんに会いたい。会いたくてたまらない。よく悩む人がいるけど、遠距離恋愛なんてのは、わたしからすれば鼻で笑える悩みだ。同じ時代に、同じ時間に住んでるじゃないか。いつでも会えるでしょ。でも、わたしは違う。もう二度と会えないかもしれないんだ。
まさかこんなに自分が苦しむなんて思わなかった。好きな人ができても、それはしょせん赤の他人で、たまたまドキンてした、異性なだけで。でも違うんだ。どうしてなのかわからないけど、たまに家族よりも大事に思ってしまう赤の他人の異性、それが思い人なのかもしれない。
「会いたいよー・・・政宗さん・・・・・・」
もちろん小十郎さんにもだ。これからはちゃんと言うことも聞く。だから、夢でもいいから、もう一度二人に会わせてほしい。
布団の中でくるまったとき、お母さんがわたしを呼んだ。なんだ、朝っぱらから。
「起きなさい! 大掃除しないと、遊びに行かせないからね!!」
「げえっ!!」
ぎゃあああ忘れてた、夜にアイちゃんと年越すんだった! がばりと体を起こすと、シリアスなムードを吹き飛ばすように、窓を開け放つ。突然入ってきた冷気に体をぶるりと震わせながらも、わたしは「おし!」と気合いを入れる。
「死ぬ気で大掃除するゥゥゥァァァア!! 見ていてくだされおやかたさぶあァァァァア!!!!」
「うるさい!!!」</b>
「すんません」
お母さんに叱られはしたけど、真田さんのモノマネをしたら、なんだか楽しくなってきてしまった。いやあさすが真田さん。今度はわたしが怒られる側になっちゃったよへへ!(・・・)
そして、本当になんとかして大掃除を終わらせ、一息ついた頃には既に夜だった。夕方 帰ってきたお父さんが洗ってくれた湯船に一番先に浸かり、疲れをとる。ああ、あったかーい。やっぱりお風呂は41度だよね。
でもいい薫りがするのは間違いなく奥州のお風呂だ。一度だけゴエモン風呂?っていうのかな、でっかい桶に自分が入ったけど、あの時小十郎さんが意地悪に火をぼうぼう燃やしたおかげで、随分痛い目・・・いや、熱い目にあったっけ。
「・・・・・・なんかムカついてきたんだけど」
他にもある。それらをぽつぽつと思い出してくると同時に、フツフツと怒りがわいてきた。城下では「いや~ん小十郎様かっきょい~~」なんてハートマークがあっちこっちに飛んでるけど、城内では「ひいい小十郎様が怒ったぞ逃げろォォォォ!!」という恐怖の雄叫びがあっちこっち。
わたしはその両方の叫びを知ってるから言えるけど、小十郎さんは間違いなく外と中の顔をわけて(やが)る。というか、女性に関しても、わたしとその他の女性にわけてる、これ確実。
だいたいね、本当に渋くて格好いい人なら、わたしみたいな小娘相手にいびりするかって話だよ。渋くてアニキー!な人が女の子に真剣にプロレス技するかって話だよ!! むっきいいいい腹立つぜ小十郎ォォォォ!!
「ななしー、そろそろ時間じゃないの?」
お母さんがスライドドアの向こうから呼びかけてくる。何時?と問えば、30分以上も湯船に浸かっていた・・・ってえええええヤバイ!!
急いであがって着替えて準備して、時刻は八時半。それからご飯を食べて、ちょっと休憩して十時。すいません、ご飯より休憩時間のほうを長くとりました。
そして寒くないようにコートとマフラーをして着込むと、ようやく家を出る。お母さんとお父さんに「よいお年を!」と手を振って道路に出ると、二人同時に「前見ろ、前!!」と怒られてしまった。あぶねえ、もうちょっとスピード出して走ってたら車にダイレクト攻撃くらってたわ・・・!
世界が変わるまであと二時間
無駄に長引いてごめんなさい・・・!