本編
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翌朝翌朝と言ううちに朝を迎えて、わたしは今、政宗さんと向かい合って夕餉を口にしている。そう、晩ご飯。朝ご飯じゃなくて、晩ご飯。
「・・・・・・・・・(聞けない・・・!)」
晩ご飯はいつもは朝ご飯同様政宗さんの横に並ぶけど、今日の政宗さんは朝からぴりぴりしていてクールじゃない。なので今日は自分から避難しておいた(八つ当たりは勘弁さ!) 朝から10時間・・・は経ってないけど、でも結構時間は経ってるから、今はマシだと思うんだけど・・・。お茶碗を持ちながら、向かい側といっても結構遠めにいる政宗さんの表情をこっそりとみると、なんだか苛ついてるというよりも何をしたらいいかわからないというか、とにかく一人でむっつり考え事してるみたい。箸もすすんでない。どうしたんだろう、小十郎さんに相談とかすればいいのに。やあねえ、男ってのは変なとこで意地はっちゃってんだから。ちなみにその小十郎さんは、今席を外してるんだけどね。
わたしはそれくらいのことしか思ってなかったけど、わたしと政宗さんの間の両端(?)に並び、御膳の前に座っているオニイサンたちは、自分のボスが機嫌悪いことに心なしかオロオロとしてる。あ、箸から米粒落ちましたよ。政宗さんの顔ちらちら見んなよ金とるぞコルァ。でもオニイサンたちは日頃から政宗さんのいろんな顔知ってるはずなのに、なんで慣れてないんだろう。まるでこんな政宗さんを見たことがないみたいな・・・・・・いやいや、それはないね。だってわたしと違ってオニイサンたちは長い間政宗さんと戦場を駆けめぐってんだから。怒った顔くらい見るでしょ。
「あ、たくあんがなくなった」
ぽりぽりとかじっているうちに、おかずのたくあんを完食してしまった。まだ食べたいなあと思ったものの、ここでは人のご飯をとるのは御法度なので、もらうのは無理だ。腹八分目が良いと言う姑さん(間違えた、小十郎さんだった)に従わない人は間違いなく彼の刀のサビになるだろうし。
チッ、わたしんちだったら、たくあんなんてたくさんあるのに・・・! たくあん食べ放題、食も進むってもんよ。ところがどっこい、あっちは飽食時代、こっちは戦国時代。やはり節約できる部分は節約しなくちゃ、ねえ。
「・・・・・・」
ちら。ちらちらっ。
「・・・姐さん、そんなに見られると食えねーんですが」
「あはは、ごめんなさい!」
思わず両ななめ前の御膳に目がいってしまうわたし。ううん、こうなったらご飯をぱぱっとたいらげて、それから、やっぱり聞こう。聞かなくちゃスッキリしない! 夜眠れない!
わたしは白いお米をガーッと口にかきこんで(行儀悪い?そんなの関係ねえ!)お茶をすすりふう、とため息をつくと、立ち上がった。そしてオニイサンたちの視線を身にまといながら、上座(と言うべきだよね、政宗さんは筆頭なんだし)へ向かう。
政宗さんはわたしが数歩分間をとって座ったことに気づくと、力無く笑った。変だ。本当に、変。
「政宗さん、風邪ですか?」
「・・・・・・No. 気にすんな、アンタにゃ関係ねー話さ」
「関係あってもなくてもいいですから、とりあえず一人で抱え込んじゃあれですよ、駄目ですよ!」
励ますように言ったけど、政宗さんは「ああ」と生返事のみ。思いきり上の空だ。なんだこの扱いは。わざとこんな態度をとってるんじゃないかと思ったけど、どうやらこれは本気でわたしをほっぽってる。
心配になってきたわたしは、後ろでオニイサンたちがこそこそと話してることも気にせず、政宗さんに再度話しかけた。
「何か困ってるなら、小十郎さんに話したほうがいいです。悩んでる政宗さん見てると、こっちも不安になってくるし」
「それなら見なけりゃいいだろう。たくあんやるから戻りな」
「あ、たくあんのこと聞こえてたんですね~ありがとうござい・・・・・・じゃなくて!」
危ない、思いきりリリースさせられるところだった。
わたしは政宗さんが徐々に眉をひそめていくのをまったく知らず、
「・・・小十郎さんに話せないことなら、お母さんとかに相談したらどうですか?」
自分ではグッドアイデアだろうと思った案を、そのまま口にした。
「・・・・・・・・・・・・」
急に部屋が寒くなった。あれっ何これ冷房きいてるの?と本気で思うくらいに、急激に温度が下がっていく気がする。
後ろを振り向いた時、どうやらわたしは失言をしたらしいことを、ようやく理解した。
オニイサンたちの真っ青な表情。本人たちは恐怖で真っ青だろうけどわたしからすれば憤怒のようでもあり思わず「ひい!」と悲鳴をあげる。なに、わたしが言ったのそんなに問題あった?!
あっ・・・・・・まさか政宗さんのお母さん亡くなってるとか・・・?
慌てたわたしは、手をあちこちに振りながらあわあわと弁解を始めた。
「あ、あの・・・政宗さん。もしかしてわたし拙いこと言っちゃいました・・・よね? ごめんなさい、あのそういう意味ではなくて・・・」
「いい」
「でもっ、政宗さ」
「いい」
有無を言わせない口調に、わたしの口はすぐに閉じた。なんだかわからないけど、わたし、どんどん墓穴を掘っていってるよね。
元の席に戻ろうかと思ったけど、でもこのまま去るのは気まずいし何よりわたしの妻としてのプライドが許さない。なのでわたしはアハハと笑いながら「でも」とまた口を開く。
「政宗さんのお母さん、会ったことないですけど・・・すごくいい人なんでしょうね! それからとても美人で優しいお母さんじゃないですか?」
「ななし、そろそろ黙らねーか」
いよいよ政宗さんも口調が荒れてきて、わたしを見る目つきが鋭くなる。
・・・な、なんだい。そんなに怒ることないじゃないか。たしかに空気よめないわたしだけど、でも、それでも必死に話しかけたのは政宗さんの気を紛らわせたかったし、いつもの政宗さんに戻ってほしかったわけで・・・・・・。
でもそれを言っても、今の政宗さんはうざがるだけだろう。なんだか寂しいなあ。わたしが何かまずい事を言ったのならきちんと言ってほしい。
「・・・すみませんでした」
「・・・・・・」
謝ってから、本心を話した。
政宗さん、あなた目の前の部下、ちゃんと見てるんですか?
「・・・でも、これだけは言わせてください。わたし、今の政宗さんは好きじゃないです。勝手に怒って黙って、みんなが心配してるのに相談もしないで一人でふてくされて」
「・・・あ?」
ゆらりと政宗さんが顔を上げる。あああやばいわこれ、龍の逆鱗に触れたわわたし。
それでも負けずに、わたしはあっかんべーをしながら叫んだ。
「もう知らないですっ!! 政宗さんの顔なんか見たくないですよーだっヘン!」
『お前の顔など見とうない!』
「――――!」
瞬間、政宗さんの右手が素早く動いた。何かを掴んだはずなのに、振った瞬間に消えている。
違う、消えたんじゃない。投げたんだ。わたしに向かって。
呆然と、動けるはずのないわたしの顔面に当たるはずだった お皿は、突如立ちはだかった壁に崩れた。
「こ、小十郎さん・・・・・・」
わたしを前から抱くような形で、小十郎さんは中腰で壁になっていた。いつの間に来たんだろう、とぼんやり考える。ふと視線を下ろすと、小十郎さんの足もとには湯飲みと急須が乱雑に放置されていた。
固い円盤が背中に当たったというのにこの人は顔色一つ変えずわたしを見おろして、「馬鹿野郎」と言った。冷たい口調でもあり、同時に状況のつかめていないわたしを気遣っているようでもある。わたしは心当たりがあるから、うつむいて「ごめんなさい」と謝った。
そういえば小十郎さんも、政宗さんのお母さんの話をしたらすごく変だった。
「・・・(でも、なんで?)」
訳がわからない。どうして、政宗さんはキレたんだろう。
いつもだったらわたしの馬鹿な発言に、クールに対応したりするのに、なんで? どうして本気で怒ったのか、わからない。お母さんを嫌ってるんだろうか。
混乱するわたしを一瞥した小十郎さんは、政宗さんの方に振り向いた。
「政宗様、貴方は今何をなされたか、御自分でおわかりでしょうな」
「・・・・・・」
無言の政宗さんは、小十郎さんを見て、わたしを見た。見たのかはわからないけど、なんだか視線を感じたから、恐る恐る、小十郎さん越しに政宗さんを見てみる。
そして、
「・・・!」
その目と目がかち合った瞬間、わたしは逃げた。
「おい待て、ななし!!」
小十郎さんの制止なんかこれっぽっちも影響なかった。
政宗さんのあの目のほうがわたしにはこたえたのだ。
頭に思い浮かんだ避難所は自分の部屋で、わたしはふすまを開けたまま畳にたおれこんだ。
「・・・・・・・・・どうしよ」
わたし、最低だ。自分の大好きな人を、傷つけてしまった。あの人の目は怒っても正気に戻ってもいない。いや、もとから正気だったのかもしれないけど。
すごく、泣きそうだった。まるで傷口をえぐられたような、その痛みで泣きそうな。
「・・・わたしのせいだ」
どうしよう。あんな顔をさせてしまったのは間違いなくわたしだ。生半可な好奇心で、なんということでもないといった風に言って、政宗さんの嫌がるそぶりを気にしないで、自分の身勝手なプライドで政宗さんを散々追いつめて、あんなことをさせてしまった。
「最悪だあ・・・」
謝る勇気もない。謝っても許してもらえないかもしれない、嫌われた、そうに決まってる。
どうしよう、どうしようと誰に問うているのかもわからない。
畳にしみができるのも気にせず、わたしは嗚咽をもらし続けた。
こつん、と手に何かが当たった。なんだろうと無意識に触ると、それは音を立てて手から逃れた。落ちたみたいだ。わたしこんなの持ってたっけ。
「・・・・・・あれ」
いつの間にか眠ってたみたいだ。泣き疲れて眠るってわたしどんだけオコチャマなの・・・! アホだなあ。
そういえば今何時だろう、まだ薄暗いけど。そう思って懐をゴソゴソとまさぐったものの、ケータイが出てこない。あれっ落とした? もしかして部屋に帰る時落としたのかもしれない。落としたら普通ゴトンとか音がするんだけど、聞こえなかったな。そんなに走るの速かったっけ、わたし?
「うーん・・・・・・いだっ!!」
ごろりと寝返りをうった直後、突然落ちた。そして床にドスンとしりもちをつく。いったああああ!! 眠気覚ましといっても しりもちはさすがにきついんだけど!! ていうかなんでしりもちつくの? しかもすごい冷たいし何このつめた・・・さ?
「え?」
畳じゃなくて、床?
「え?」
そこで初めてまわりを見たわたしは、絶句した。絶句して、およそ数十秒部屋を眺め回した後、目をゴシゴシとこすって、それでも消えない景色に、ようやく声を絞り出す。
「・・・ここ、・・・わたしの部屋だ」
あの時代にないはずの、ベッド(道理で寝心地がいいと思ったら・・・) そして窓についたカーテン、ふすまじゃなくてドア、ちゃぶ台ではなく椅子に机のセット。見間違うはずもない、紛れもないわたしの部屋だ。何年ぶりだろう、この部屋、ちっとも変わってない。
そして床についた手にコロコロと転がってきたのは、目覚まし時計からとれた乾電池。さっき落としたのはこれだったんだ、と思う。
・・・・・・・・・え。
・・・・・・いや、待て。待て待て、待て。
「ええええええ!!!?」
なんということだ。
わたし、現代に帰ってきてるーーーーーーーーーーーーーー!!!
最低で最悪な帰宅
まさかこのタイミングで現代に帰るなんて!!