本編
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真田さんが階段をかけあがって鳥居をくぐった時、花火はピークに達していた。坂道を走りこの急な階段を飛んでのぼったことで、さすがに息をきらせた真田さんは私をおろすと、ふう、と大きく息をはいた。
どおん、と大きな音を立てて花火が咲く。城下町で聞いた時は「おお!」と色々な声があがったけど、ここはとても静かで、真田さんがわざわざここに連れてきてくれた理由がわかった。きらきらした花火がゆっくりと夜空に消えていくと、また新しい花火が空ではじける。
現代の花火は色々な形があって見て楽しめるけど、この時代の花火はひたすら、基本の形しかない。けれど、とても綺麗で、職人さんの気持ちがこもっている気がした。まあ素人がそんなこと言っても説得力ないんだけどね。
立ったまま花火にずっと見入っていた私に声をかけて、真田さんは階段に腰掛けた。誰もいないし、普通に地べたに座るよりも階段に座ったほうが良い。真田さんの隣に座ると、また別の花火があがった。とっても大きくて、明るくて、大胆で、
「あの花火、真田さんみたいじゃないですか?」
「花火が、でござるか?」
きょとんとする真田さんに、大きく頷く。でも、花火をここまで堪能したのは初めてかもしれない。ケータイに撮ろうとかメールで教えようとか考えずに、ただ堪能して、眺めて、「あ、何かに似てる」なんて思えること、きっと現代じゃあできなかったと思う。
真田さん、と声をかけてから、私はにこっと笑った。
「ありがとうございます」
どうして急にお礼を言われたのかわからない表情をした真田さんだったけど、ややあって、はにかんだ。やっぱり真田さんはめいっぱいの笑顔よりも、照れた笑顔のほうが似合ってるかもしれない、かな?
「ななし殿・・・。・・・それがしも、お礼を言わなくてはいけないでござる」
「? 私に?」
「ななし殿にでござる」
その後ちょっと顔をうつむかせてから、真田さんはぽつぽつと話し出した。
「それがしは幼き頃からずっと父の背を見て育ってきた。毎日剣だけに触れ、お館様や武士を目指していたから、おなごや遊び、というものにはまったく無関心で・・・だからその、今はそれを少し後悔している、かもしれない」
「え、なんでですか?」
「もっと、いやそういう意味ではござらん!が、もう少しおなごや遊びと関わり・・・というべきなのだろうか、佐助のように仲良くできていたら、それがしは今日、もっとななし殿を楽しませていたと思う」
驚いた。
まさかこの人、今日の祭、ずーっと私を楽しませようなんて考えてたったことですか?
いやいや・・・いやいや、それはないだろう。そう思いながらも、確かめてみると、素直は真田さんはコクリと頷いた。
なんだこの青年。どこまで純情なんだ。隣の自分がものすごく汚れてる感じがするんだけど。
愕然というべきか呆然というべきかダダダダーン(『運命』風に)というべきか、とにかくショックを受けている私に気づかず真田さんは続けた。
「それがしにはおなごの気持ちが微塵もわからぬゆえ、どこに行けば楽しいのかも、何が好きなのかも、点でわからないのでござる。それゆえ、今日は仕事と称して急いで城下を回り、あちこちの店を下見しており、そのせいでななし殿の迎えに行くのが遅くなってしまい・・・」
「そ、そういうことだったんですか・・・! なんかすいません、無理させて」
そうとは知らずにのんきに待ってた私って、アホウにもほどがある・・・! 真田さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
でも、そうと聞いたら黙って過ごせないのが私。何か恩返ししよう、恩返し。とてつもなく巨大な花火がぱらぱらと散るのを眺めながら考えたけど、そういえば真田さんって何が好きなんだ・・・知らないや。政宗さんなら知ってるんだけどね、たとえばななし☆なーんちゃっ
「ギャアアアアアアアァァァ!!」
「ななし殿おおおおお!!!?!!」</b>
散ったはずの花火がここまで降ってくるとは・・・!! ちょうど頭のてっぺんをすれすれこえて落ちてきたかけらは、舌打ちと同じような音を出して後ろ側にぽてんと落ちた。あぶああぶな・・・っ! 座高がちょっとでも、0.1cmでも高かったら死んでた・・・!! おそるおそるてっぺんに手をのばすと、それより先に真田さんの腕がのびてきた。
「危ないでござる、火が!」
「えええええ!!!?」
あっそうか、さっきの舌打ちみたいな音って、かけらが髪をかすったんだ・・・ってえええ!(この歳でこの性別でこの状況でアフロなんて嫌だァァ!!) なんとか、急いで真田さんに髪についた火を落としてもらい、ホッとする。真田さんは「大変だったでござるな」と苦笑して、私も同じように笑った。
「これはあくまでそれがしの偏見でござるが、ななし殿はよく危険な目にあうでござるな」
「あはは、それは偏見じゃありませんよ真田さん。残念なことに事実です」
「しかしななし殿はたくましくて、危険な目にあっても生き残る、まさに武士のようでござる!」
「ありがとうございます」
真田さんが懸命にフォローしてくれるので、私は素直にありがたく感じた。武士か、うん・・・武士か・・・(遠い目)
「それがしはななし殿のような強いおなごを見たことがござらん。なんというか、飾り気もなく、・・・その、接しやすいでござる」
「(あ、それは素直に嬉しい!) えへへーそれほどでも! 私も真田さんみたいな純情青ね・・・じゃなくて、熱血漢は見たことありません」
「そうでござるか」
直後どおんどおんと連発される花火に、驚いて目を向けると、真田さんが「そろそろ終わりだろう」と言った。そっか、もう終わりかあ。この祭が終わったら、甲斐を出なくちゃいけないな。
たった数日間だったけど、楽しかったし、まだいたいなあという気持ちは正直ある。でもやっぱり・・・。
「ななし殿は、伊達政宗殿を好いておられるのだな」
「・・・? ・・・そうです、ね、はい」
突然の話題転換に驚いたけど、きちんと返事をした。すると真田さんは困ったように笑うと、
「そうでござるな・・・。それでも、それがしは・・・・・・」
「・・・真田さん?」
次第に声がちっちゃーくなっていく。でも花火のほうが明らかに大きくて、たとえ隣でも聞こえないほど。
真田さんってばどうしたんだろう、と思った時だった。
「I found it.」
聞き覚えのある声がして、え、と階段を見おろした時、その黒いものは飛び上がった。そこでタイミングよく、今度は青色の花火が音をあげた。その光に映し出されたのは、
「ま、ま、」
マイダーリ…フェブアッ!!
タイトルが時々話にはいってるんだけど気にしないでください。