本編
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夕方、空がオレンジ色から伊達政宗色(※紺色ともいいます)に染まってきたころ、城下から笛の音や太鼓の音が聞こえてきた。現代とはまた違いのあるこの時代の夏祭りに、私も次第にドキドキしてくる。ましてや奥州じゃなくて甲斐だもんね、甲斐! 奥州の夏祭は去年経験したから知ってるけど、甲斐は初めてだ。ていうかこんな経験自体初めてだしね!!(本当になぜ私なんだ・・・?!)
それにしても、
「遅いなあ真田さん」
そろそろ出ておかないと、混むんじゃないかな? そう思って真田さんに言おうにも、当の本人がどこにいるのかわからないのだから、私は部屋から動くことができない。もし部屋を出て、その後真田さんが迎えに来てたらややこしいことになっちゃうし。それに、と自分の着ている物を見おろした。
甲斐で買った、藍色の浴衣。これはできるだけ綺麗なまま今日を過ごしたい。そして奥州に帰って政宗さんに観てもらうのだ。多分私の予想だと、あちらさんはすっっっっっごく寂しがってる。普段の私が「おしくらまんじゅう!」的な、そりゃもう押し押しすぎるから、今の「せーの、せーの!」といった綱引きみたいに引きすぎにはとっても弱いに違いない。これを別名「押して駄目・それなら引こう・ほととぎす」という!!(あれっ違うなこれ・・・) ふふふ待っててネ政宗サン!
なんて思ってたら、急に部屋のふすまが開いた。
「ななし殿!」
「真田さん!」
「遅れてしまい誠に申し訳ないでござる!! さあ参りましょう!」
「え?ってえええええええ!!!!(早ッ!!)」
言うより早く、真田さんは私の手をがちっとつかむと部屋を飛び出し、あっという間に城下におりていった。その間の私はというと、走る時間よりも飛んでる時間のほうが長かったですハイ。運動会で応援団の子が旗を持って走る時とかあるよね、あの旗そっくりでしたさっきの私。ていうか真田さんも浴衣着てるのに(赤色を予想してたんだけど、意外にも灰色がかったもの。でもハチマキの赤のせいでなんだか奇妙だな・・・)走りにくさを見事に吹っ飛ばして爽快に走るもんだから、思わず「真田さんって本当に人間なんだろうか」なんて考えるほど。いや、それを言ったら政宗さんもだけど(ビーム出せるしね、ビーム!)
とにもかくにも、やっとこさ舞台に着地した私と真田さんは、にぎやかな城下町に一歩踏み出したのだった。
屋台を回って、晩ご飯も焼きイカで満腹になった頃。
祭も本格的に盛り上がってきて、祭の中心部である広場にいくと、櫓の上にどでかい太鼓と、頭にねじはちまきをしたオジサンがバチを持って踊っていた。すっごいな、甲斐の夏祭りは奥州より熱いみたいだ。だって奥州は、オジサンが必死になって太鼓叩いてなかったし。この甲斐のオジサンは凄い、あまりの力にバチが手から離れて櫓をこえ、下の私たちに落ちてくるんだから(あぶねええええ!!) ところが甲斐の民衆は怒るどころか爆笑で、わざわざ渡しにいくほどだ。どんだけ心が広いんだよ甲斐の人たちは・・・!
そして御輿かつぎで人と人がぶつかり殴り合いに発展する、なんて衝撃なことも、隣の真田さんも愉快そうに見守っているし、どうやらこれが毎年の甲斐の祭みたいだ。
うんうん、すごく楽しい。こんなに暴れて騒いでもみんなが楽しめるのは、きっと甲斐だけなんじゃないだろうか。他の国だったら絶対取り押さえとかになってるだろうしね。でもこの甲斐は有り得ない、だって当の本人たちが熱いし。
「真田さん、甲斐ってすごくいいですね!」
「そうでござろう!」
自信満々に、けれどいばるわけでもなく、真田さんは嬉しそうにそう答えた。ああうん、笑顔計画完了まであともうちょいだったかな! もうちょっと満面の笑みで答えてほしかったなーなんて思ったけど、私はそれよりも、甲斐の祭が楽しくてしょうがなかった。
「ななし殿、そろそろ疲れてござらんか?」
「いえいえ、まだ大丈夫です!」
歩いている最中そう言われ、私は元気に返した。けれども実際足はガタガタだ。慣れない下駄は長時間はくとキツい。非常にキツい。親指と人差し指の間に鼻緒がくいこむわ、きちんと足をあげて歩かないとこけそうになるわで、結構苦労してたりする。
でも、真田さんの優しさに甘えてちゃいけない。小十郎さんから色々言われた時も、むりやり聞こうとかしなかったし、猿飛のアホのからかいに困った時すぐかけつけてくれた。だから私が今「疲れた」と正直に言っちゃうと、「それではそれがしが休憩所探してくるでござる!」とか言って真田さんが頑張りすぎるに違いない。
「(昼間の仕事から祭って、絶対真田さんも疲れてるよね・・・)あ」
考えすぎたのがいけなかったのか、持っていたハンカチを落としてしまった。ちょうどりんご飴を食べていたためすぐに拾えなかった私より先に、真田さんがかがんで拾ってくれた。
「すいません真田さん、ありが」
「ななし殿、鼻緒擦れをおこしているでござるよ! やはり無理をされていたとは!」
「え?!(な、なぜバレた!!)」
そして気づいた。さっき真田さんがかがんだ時に、きっと足を見られたんだ。ていうか鼻緒擦れだったんだ、どうりで結構痛いはず。
のんきにそう考える私とは180度性格の違う真田さんは、あわあわと慌ただしそうに、空と私を交互に見合っている。え、何? 鼻緒擦れってそんなに重病なの?! たしかにジンジンして痛いけど、でも歩けないわけじゃないよ。
「ななし殿、これから走れるでござるか?」
「は、走る?! ・・・ごめんなさい、ちょっとそれは・・・」
「しっしからば・・・! 御免!!」
「え、鹿ラバー? ってうわあ!」
真田さんは私の背中と膝裏に手を回すと、勢いよくかかえた。ギャアアお姫様だっこ! まさか破廉恥コールが多い真田さん自身が、女の子を抱えるとは。 あ。もしかして私女の子として見られてないってことか?(がーん!) ・・・・・・と思ったけど、どうやらそれは違うよう。抱えた後、真田さんが顔をうつむかせてブツブツと何か唱えていると思えば、
「なんという破廉恥・・・! 破廉恥にも程がある・・・!! それがしは武士失格だ・・・!!!」
「落ち着いて真田さんん!! 全然武士失格じゃないです、ていうか何これ破廉恥と武士関係あるの!?」
ていうか真田さんなんでいきなり? そうぽつりともらすと、真田さんはハッとしたように顔をあげた。
「そうでござった! ななし殿っ、しっかりつかまっていてくだされ!!」
「え? どこを? え?! どこを・・・ををををォォォォ?!!」
走り出した真田さんは行きと同じく素早いけど、そのぶん私の体が浮く瞬間も半端じゃない。慌てて首にかじりついたその時、その背中越しに何かが光ったのが見えた。
「あ、花火だ」
真田さんは真面目すぎるけど負けん気強いイメージ。