本編
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いらっしゃいませ、と丁寧なお辞儀とともに迎えてくれたのは、若いおばさまだった。「おばさん」というよりも、「おばさま」のほうがしっくりくるカンジ。だってすっごく綺麗なんだもん、肌とか仕草とか。にっこりとした時にできる目元のしわが優しさをにじみ出していて、ちょっと緊張していた私はすぐにリラックスできた。
どうやらここの、いわゆる店長らしいおばさまは、真田さんを見てますます破顔した。
「これはこれは真田の旦那様、お久しゅう御座います。今日はどのようなお着物を?」
「いや、某ではござらん。こちらの姫君に合う浴衣をお願いいたす」
「真田さんっ、姫ってちょっと言い過ぎ・・・!!」
ビックリと同時に、顔がボッと爆発した。生まれてこの方「姫君」と呼ばれた事がない私には免疫なんてあるはずない。ていうか思いきり全国の姫さまに失礼だと思う、私が姫って(小十郎さんがいたら私より先に否定しそうだなあ・・・それはそれでチッ!)
ところが振り向いた真田さんは、真面目な顔をまったく崩さずに言った。
「ななし殿は政宗殿の許嫁でござろう。ならば姫が相応でござるよ」
「・・・え、えへへ! なーるほど!」
本当は妻なんだけどなあなんて思ったけど、許嫁でもOK! 単純な私はデレデレとして店内を見回した。ちょっと薄暗いかもしれないけど、雰囲気は良い。まるでここだけ別の世界のような、ずっとここにいて布を見ていたいなあと思う。
私より数倍カワイイ女の人が、筒状になった反物を嬉しそうに握って店を出た後、奥に入っていたおばさまが戻って来た。手にはさっき見た筒状が三つほど。
「私のような者が姫様のお召し物を探すなど、恐れ多い事ですが・・・」
「いやいやいや、私こそほんとっ、恐れ多いですから・・・! わざわざすみませんッ」
現代では自分で探して良いの見つけたら買うー、というスタイルだったけど、今は違う。しかも姫様って、やめてください自惚れる自分がいますから。
そして明らかに腰の低すぎる「姫」に、おばさまは眉をあげてきょとんとし、ややあってクスリと笑った。
「これが務めで御座いますから。ささ、これは如何でしょう?」
促されるままに、一つ目、二つ目、三つ目を順々に見ていく。現代でも売っていそうな模様もあれば、この時代ならではの高級感漂わせるものもある。ただ私は本当の「姫」ではなく、思いきり庶民派。ちょっと着てみたいなあと思いはしたけど、結局一つ目の高級感たっぷりなのは却下した。
「二つ目と三つ目・・・か。真田さんはどっちが良いと思いますか?」
ずっと無言だった真田さんを見ると、こういうのはよくわからないので、と断られてしまった。男の人は今も昔も、オシャレにはあまり興味がないのかな?
しょうがないので、私とおばさまで決める事にした。
二つ目は紅の生地に黄色の飛び柄、三つ目は藍色の生地に白い花の大柄。見る人からすれば地味じゃないかと思うかもしれないけど、私はそんな所が良い。おばさまは別の物を選んできましょうと提案してくださったけど、丁寧にお断りした。
「どっちが良いかなー」
「私個人としては、こちらが似合うかと存じます」
おばさまが手にしたのは二つ目の紅だった。私の活発さと若々しさを醸し出すならこの色だろうなあとは思うけど、ん、今 テレパシーで舌打ちが聞こえた気が・・・。
ただ、藍色もひかれるんだよなあ。だって、
「(藍色っていうイメージだもんなあ、あの人)」
政宗さんの事を思い出す。きっと今頃、私がいなくてとても寂しがってるはず。ああごめんなさい政宗さん、私ってばなんて罪な女!
でもせめてもの罪滅ぼしに、あの人と同じ色にしよう。やがて考え抜いた結論はそれだった。
「私、この藍色にします」
「それでよろしゅうございますか」
「はいっ」
奥へ引っ込み、試しに浴衣をまとってきたななし殿は可愛らしかった。おなごらしからぬ振る舞いは多々あるが、こうして見るとまるで大和撫子のようだ。
「どうですか真田さんっ」
「似合っているでござる!」
「ありがとうございますっ」
自信たっぷりにそう言うと、ななし殿はとても嬉しそうに笑う。その笑顔はきっと彼女しか似合わないような、素直すぎるものだった。
それが自分に向いているというんだから、嫌な気持ちは微塵もない。だからこそ即座に言えた、
「ななし殿は藍が似合うでござるな」
「えっマジですか?! 良かったー! ・・・へへっ、政宗さんも喜んでくれるかな」
「・・・・・・」
どうしてか理由は何となしにわかるが、答えたくなかった。
勝ちたいなあと心底思った時
浴衣については完璧無知なので「あれこれおかしくね?」なとこあってもスルーでお願いします・・・! ていうかヒロインちゃん笑顔にするどころか逆だよっていう。