本編
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きっと現代では夏休みだろうなあ、と思う日。蝉がみんみんと鳴くわジージー鳴くわツクツクホーシとうたうわで、すごくやかましい。その背にルーペ近づけて太陽の光反射させて発火させてやりたいよ。いや、そんなことしないけど。そんなことしたら小姑に私の背中が発火させられちゃう。
この時代にはアイスはないけど、氷はある。その氷を小さく砕いたものを口に含みながら、私は自室にて、扇子でパタパタと顔を仰いでいた。畳の上でゴロゴロとしても、誰も何も言わない。政宗さんも小十郎さんも、お客さんが来たとかで 私を閉じこめてから相手してるし。別に閉じこめなくていいじゃないか、未来の妻をお客様に紹介するくらい大丈夫じゃないか。暑さのせいでイライラがつのっていた私は、仰向けになって叫んだ。
「マッサムネの、バーーーーーカ!!!」
「おっ相変わらず威勢がいいねェ」
「ぎゃー!!」
突然 目の前の天井から人間の顔が現れた。驚きすぎて大声をあげると同時に、まだ残っていた氷が一気にのどを通っていく。そのせいで私は思いきりむせた。そんな私を見て、ひょっこり登場した猿飛さんが 不思議そうに声をかけてくる。
「げっ・・・!ほ、ごっほ!!」
「あれっ、どうしたの? 埃が入った?」
「違います! ていうか、なんで猿飛さんが・・・!」
「んー、やっぱ聞いてないみたいね」
起きあがった私の隣に、猿飛さんはシュタッと降りてきた。相変わらず目立ちそうな迷彩服に、間違いなく忍び向きじゃない髪の色。よく生きてられるよなあ・・・(あれっ、これで目立つのに生きてるって、もしかして相当強いってこと?)
そしてあぐらをかくと、私を見てニッと笑う。
「もうすぐ来るよ、真田の旦那」
「へえー、真田さんが・・・いや、なんで?」
いったん納得しそうになったけど、慌ててツッコミをいれてみた。そういえば政宗さん達のいってたお客さんて、真田さん達のことだったのかな? でもそんなの理由にもならない。どうして甲斐の有名人がわざわざやってくるわけ? 首をかしげる私を見て、猿飛さんは目を丸くした。そしてため息を、ものすごーっく嫌味ったらたらしいため息をつく。
「酷いなあ、あんなこと言ったのに覚えてねーんだ、あー女ってやっぱ口先だけだねェ」
「え、えっ!?」
「伊達の旦那って、こんな女を嫁にするんだー、かわいそーお」
「なっなんのことなんですかそれ!?」
必死に思い出すけど、え、私何か言った?! 混乱する私に、すすす、と 音も少なく近付く猿飛さん。この野郎、テンパる私を見て心底楽しんでるな・・・!! むかっとするけど、猿飛さんが「教えてやろーか」と耳打ちしたので、思いきり頷いた。スッキリしないし、もしわからないままで真田さんに再会しても申し訳ない気がする。
「それはねェ」
「・・・・・・それは?」
「ななし殿おぉ!」
スパアン!!と素晴らしくスッキリする音で開かれたふすまの後ろには、久しぶりに見る真田さんがいた。すごく笑顔だったけど、猿飛さんがいるとわかった途端に眉をひそめる。きっと私に一番に会いに来たかったのね☆なんて都合のいい解釈は、政宗さんに対してしかないんだけど。まさかそれが合ってるとは思っていない私は、普通に挨拶をしようとした。けど、それよりも先に真田さんが口を開いた。ハレンチ発言かと思えば、あれっ、落ち着いてる。
「佐助。それがしはななし殿に用がある、」
「はーいはい、すいませんねーっと。でもさあ、この嬢ちゃん、旦那がわざわざ来た理由覚えてないんだぜー。ちょっとむかつかない? だから今 教えてやろうと思ってさ」
「う゛・・・す、すみません」
これは私が悪い。しかも結局教えてもらえなかったし・・・。肩をおとして本人の返答を待っていると、その人は無言で、すっと前に腰を降ろした。そして、
「遅くなって申し訳ない。ななし殿が喜んでもらえるような団子を日々探しすぎたでござる」
「え・・・」
私に差し出されたのは、笹の葉の包みだった。きょとん、としながらその包みを受け取り、開いてみる。すると とても美味しそうなお団子が3本。それを見て、私はようやく思いだした。去年の冬に 甲斐から逃げた指名手配犯から助けてもらった時、私は 謝罪を続ける真田さんに言ったんだ。思わず真田さんの顔を見上げると、はにかみながら 促した。
みたらしもきなこもついてなくて、普通に握ってあるお団子のはずなのに、とても美味しい。現代で食べたみたらし団子よりきなこもちより、印象に残る味だ。笹の葉でずっとくるまれていたので、その薫りも団子にうつっていて、余計に食欲を増進させる。
「美味しい・・・。美味しいです、真田さんッ! こんな美味しいお団子、食べたことありません! 奥州にはないですよ、この味は!」
「(おおー・・・すげえ、嬢ちゃんの天然的褒め殺し)」
「そうでござるか」
「(そしてなんだあの旦那のしまりのねー顔)」
「よくこんなお団子作るお店 探せましたね!」
その感激のあまり2本を一気にたいらげてしまったけど、残りの1本は、真田さんにあげることにした。はい、と手渡すと、真田さんは慌てて首を振る。でも、すごく食べたそうな表情を前にして最後まで食べることは、私にはできなかった。
「私はもう2本でお腹いっぱいです! 真田さんが食べてください、ね」
「・・・そ、それでは。いただくでござる」
丁寧に合掌してからいただく真田さんに、笑みがこぼれる。驚くことに、真田さんは私が 冗談めいた「団子を持ってまた来てください」という台詞を、きちんと守ってくれた。前の時は、うるさいなあとか、熱くてうざいなあとか、そんな風にしか思っていなかったけど。でも本当のこの人は、馬鹿正直なんだ。それで約束は絶対に守る人。約束を守るところは、政宗さんにそっくりだなあ。
団子を食べ終わった真田さんは、一歩後ろにさがると、「ななし殿!」と真剣な目で私を見た。その瞳に、瞬間的に惹きつけられる。でも続いた台詞に、拍子抜けしてしまった。
「もっももしよかったらば・・・甲斐の祭に、来てほしいでござる!!」
「・・・・・・まつ、り?」
「そうそう。旦那、これが言いたかったんだよねー」
「あ、猿飛さんまだいたんですか」
「ねえ、俺が嬢ちゃんに何をしたっていうの」
べっつにー、としらばっくれる私に猿飛さんは肩をすくめると(何この余裕ぶった態度・・・!)(真田さんと大違いだわ!)私に早速 答えを催促した。そんなこと急に言われても、困る。だって、
「もうすぐ奥州でも夏祭りがあるんですけど、政宗さんと過ごす予定が・・・」
「大丈夫だよー、それまでには帰すから」
「でもっ、浴衣とか準備しなくちゃいけないし」
「浴衣なら甲斐の物を買えばいいでござる! それがし、つきあうでござるよ」
「・・・あっ、そうだ政宗さん! 政宗さんがなんて言うか!!」
「「即答で許可をもらった」」
畜生。
誰に、何が、腹が立ったのかわからない、けど。
気づけば私はわざわざ立ち上がって拳をふりあげて、叫んだ。
「行けばいいんでしょー!!」
その許可をもらいに、真田は政宗達と会ってました。