本編
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ある晴れた日に、わたしは政宗さんから追い出されるようにして城を出た。実際追い出されたけど。朝起きたらいきなり政宗さんが立ってて、「今すぐ城下に降りて子分と散歩してこい!」と命令されたのだ。なんでだ、なんでいきなり城下なんだ? もしかしてわたし城にもう戻れないんじゃ・・・!! あ、ちなみに子分というのは人間ではなく、この前拾った犬です。
「まあいっか・・・。ポチ、いくよー」
あれ、無視? 声かけたのに、そのままぐでーと地面に横たわっている。まさか病気! かと思いきや、たんに寝転がっていただけだった。可愛いなあ、なんて わたしが頭をなでてやろうと手を出すと、いやがるように頭をずらした。まったく、この
でも、今はこんなことをしている場合じゃない。政宗さんはわたしの反抗を非常に嫌っているので(わたしが嫌いなわけじゃない・・・多分)、早く城から出ないと怒られてしまう。腕に抱かれる小さなポチを見下ろして、わたしはタタッと門に向かった。そして、現在に至るわけですが。
「お金持ってくればよかった・・・! 何、この素晴らしい景色は!」
朝っぱらから騒いでも、問題ない。だってここはにぎやかな市場だから! いろんな食べ物や衣が並んでいて、来る人も買う人も売る人も楽しそうだ。奥州って凄いんだなあとあらためて思う。
「すごいなあ、政宗さんは。こんなに平和なのも、政宗さんのおかげだよね」
「・・・本当に、そう思うだか?」
「え!」
まさか独り言に返事がくるとは思わなかったわたしは、仰天して見上げていた視線を下に降ろした。・・・か、可愛い!! その子は灰色の髪を二つに結んでいて、寒くも暑くもない日にノースリーブで、小さなおんなのこだった。
「お人形さんみたい!」
「へ? あっちょっと! おまえさんッ!?」
ポチを放り出すと(ワンワンと吠えられたけど無視! 反抗するお前が悪い)わたしはしゃがんでおんなのこを抱きしめた。すれ違う女性からはみんなお香とかいい香りがするけど、このおんなのこからは、昔を思い出すような、懐かしい香りがした。
わたしの素っ頓狂な行動に、しかめ面をしていたおんなのこは慌ててもがく。でもわたしはそれさえも可愛い、まるで妹を持ったみたいで、夢中で「かわいいいい」と言い続けていた。のだけれど。
「いつきちゃァァァん!!!」
「ふがっ!」
いきなり木の板(なんだろうあれ、船こぐオールかな)を顔にぶつけられ、わたしは倒れた。道ゆく人々からの視線が痛い。うわあ、どうしよ! これが政宗さんに知られたら、殺される。青くなったわたしに、手を差し伸べてくれたのは、さっきまで真っ赤な顔をしていたおんなのこだった。
「大丈夫だか? すまねえ、おらの仲間が乱暴なことしちまって・・・」
「あ、大丈夫だよ。わたしもいきなり、抱きしめちゃってごめんね」
「気にすんな! おらも別に嫌じゃなかっただ!」
にこっと笑うと、そのおんなのこ(いつきちゃんっていうのかな)はわたしを連れて、歩き出した。その後ろに、さっきの男の人たち3人が従う。なんか羽織に「いつき親衛隊」とか「いつき最高」とか書いてある。それを見てわたしも欲しいなあとか思ったけど、黙っておいた。そして着いたのは、市場から少し離れた、一つの民家だった。
「ここ、今 借りてるおらの家だ。遠慮なくあがってけれ」
「うん、ありがとう。お邪魔しまーす」
ちゃぶ台に、向かい合って腰を降ろす。ていうか、わたしといつきちゃんて初対面だよね。でも、なんでこうやって招待されてるんだろう。そう思っていたら、直後にその謎は解けた。
「・・・悪いけんど、おらは青いお侍は許せねえ。だから、おまえさんの言葉にちょっと腹が立っちまっただ」
「? 青いお侍? 誰?」
「おまえさんがさっき言ってた男だよ。伊達政宗」
「ああ。・・・でも、なんで?」
わたしもここにきて長いけど、物騒な事件は耳にしたことがない。きっと他の国は治安が悪い(と思う)のに、どうして政宗さんが嫌いなんだろう。
いつきちゃんは、親衛隊の人からもらった水を飲むと、わたしの目を見た。
「おらは、これから城へ行く」
「え!!! ・・・まさか、」
「んだ」
頷いて、いつきちゃんは言った。政宗さんに、もの申すということらしい。
政宗さんを見てきたわたしは、あえて大げさに言おう。
いつきちゃんが危ない!!
「ダメダメダメダメェェェェェ!!!!」
「!!!?」
ちゃぶ台をバンとたたいて、わたしは立ち上がった。いつきちゃんを危ない目にあわせるわけにはいかないし、政宗さんの悪い噂を流すわけにもいかない。そんなわたしの燃える瞳を見つめて、いつきちゃんは不思議そうに眉をひそめた。
「なんでだ? ・・・ああ、安心してくんろ。文句だけだ。おら 人の命はいらねえから」
「その文句がダメなんだよ! あの人すごいイジメッ子でジャイアンで、とにかく人から指図されるのが嫌いで、すぐ不機嫌になったり上機嫌になったりよくわからない人だし、男女関係なしに殴ってくるし・・・! わたしだって何度も文句言ってるけど、いつも鼻で笑われるだけなんだから!!!」
「・・・・・・でも、もう会う約束しちまったし」
わたしの恐ろしい政宗像を聞いて、いつきちゃんは少し怖じ気づいたようだった。「たしかに、前んとき、暴言ばっかりはいてただ」と納得する。親衛隊の人もシーンとしてしまった今、わたしは言わないほうが良かったかなあと後悔する。でも言ってしまったものはしかたがない。うんうん、と頷いたとたん、急にいつきちゃんに手を握られた。何! と彼女を見れば、瞳がキラキラしてるよ。
「・・・おまえさん、まるでお侍と仲良しみてーだな」
「なか・・・! ・・・えへへ、やっぱそう見える?」
上機嫌になるわたし。うん、だって政宗さんとは生涯をともにする(つもり)んだからねえ。ちゃんと仲良くしておかなくちゃ。ヘラヘラと笑うわたしを見て、いつきちゃんは言った。
「だから、一緒に来てくんろ!!」
「・・・・・・はい?」
「青いお侍と仲良しのおまえさんがいれば、いろいろと話しやすいだ。頼む、この通りだべ・・・!」
わたしの両手を、いつきちゃんの小さな手がぎゅううと握る。そのうしろで、親衛隊の方々も「ははーっ」と土下座をした。
・・・・・・・・・。・・・ここまでされて、断るのは・・・・・・ねえ。
「・・・・・・よっ、よよっっしゃああ! わたしが一緒にいてああげるよ!(超どもっちゃったよ)」
「!! おおお、ありがたいべ! 感謝するだ、・・・えーと・・・?」
「ななしっていいます」
「ななし!」
ああもう、そんな満面の笑顔で抱きつかれたら、後戻りも前言撤回もできないじゃないか!! よろしく頼むべ、ななし! と元気よく言われれば、わたしは「おおおうよ!」と冷や汗をかきながら返した。
どんとこーい!なんて言えりゃ良かったんだけど
いつきちゃんの言葉がわかんねえ・・・!