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政宗さんは優しい人。
少々わたしがドジをふんでも、ポカッと殴って許してくれる。
多少の痛みはあっても、それが幸せだと感じるので全然気にならない。
こんなわたしを、政宗さんは好きでいてくれている。
その事実が、嬉しくてしょうがないのに。
「日頃懇意にしている大名から縁談の話がきたらしい」
ある日、廊下を歩いていたら目の前の兵士さんたちがそんなことを話していた。息が止まりそうになったけど、すぐに首を振って気を取り直すことができた。だって今までも政宗さんにそういった話はあったけど、全て断ってきていた。
今回も断るに決まってる。
「……えーと?」
断る、んだよね。
「突然押しかけて申し訳ありません。政宗様からお話は伺っております。ななし様、短い間でございますがよろしくお願い致します」
「…………」
縁談相手の女が、自室でくつろいでいたわたしに、微笑んだ。
大人びた顔つきから、年上かなあとぼんやり考えていた矢先に、今の一言が耳に突き刺さる。
短い間……よろしくお願いします? なんだそれ。
困惑するわたしを見て、女がわざとらしく指をそろえて口にそえた。
「まあ、失礼致しました。既にお耳に入っているかと思いまして…。私、七日ほど此方でお世話になることになりましたの」
「!?」
「父上から居候の身であるななし様を姉と敬い慕うように申しつけられておりまして、こうしてご挨拶にあがったのですが…」
「……そんなの…聞いてない…」
ていうか、わたしが姉なの? どう見ても君のほうが年上な顔つきしてますが。…まあこの場合わたしが長く住んでるという意味で姉なんだろうけど。
それにしても、どうしてこんな大事な話を政宗さんや小十郎さんは話してくれなかったんだろう。
わたしが泣くと思ったから?
怒ると思ったから?
「ご安心くださいませ、私、ななし様のことを追い出したりしませんわ」
「は?」
突然そう言い放つ女は、まるでもう政宗さんの正室を気取っている。
なんで、なんで、なんで? そんな偉そうな口をたたけるのか。
声にならない詰問は、脳内でぐるぐると回る。
そんな中 女は勝ち誇ったように、またクスクスと笑った。
「だって貴女じゃ、お話になりませんもの。政宗様は私をお選びになるはず」
「そ…そんなことない!!」
「あら、では何故政宗様から何もお話がございませんの?」
「それはっ…、」
あー、なんて嫌な女。
わたしが苦しむ姿が面白くて笑っている。
わたしと政宗さんの仲を引き裂くことが楽しくて笑っているんだ。
政宗さんを愛してなんかないくせに。
政略結婚なだけで、政宗さんを見てないくせに。
「お解りのはずですわ。あの方はななし様を傷つけたくないのです」
「傷つけ…?」
「つまり、自分が私という余所者と契りをかわすことを、ななし様に報せたくないのです」
契りをかわす?
そんな難しい単語が出てくるか。
契りって、なんですかそれ。
契約ですか。企業間通しの。
桃園の誓いか何かで義兄妹にでもなるつもりですか。
何かの印鑑でも押すんですか。
「七日後、貴女のかわりに私が、政宗様の正室となります」
ああー。
それはつまり、婚姻届の印鑑押すってことですか。
理解した瞬間、
「ただ先程も申し上げた通り、私はななし様とは仲良く過ごしたいのです。婚儀が終わり一段落しましたら、すぐに全国に文を飛ばし、大名との…」
突然目の前が真っ白になった。
かわりに一つの思いで胸も頭もいっぱいになり、体が瞬時に働く。
「ななし様、どちらに…」
遠い遠いところで、女の声がした。
「政宗さん」
たどり着いたのは、愛しい人の部屋。
そしてその本人もまた、そこにいた。
こちらに背を向けていたけど、わたしの声に体ごとこちらへ向く。
その光景は、酷く落ち着いていた。いつもと変わらないクールな政宗さん。
けれどわたしを見る目の色がいつもとは違い、なんだか可哀相に思う。
「ななし」
その声を聞いた瞬間、わたしは目がさめた。
ああ。
わかった。
わたし、勘違いしてた、やっぱり。
政宗さん、すごく元気がない。
だってこれは政宗さん自身が望んでいないことだから。
周りのじじい共がよってたかって今の状況をつくりあげたに違いない。
てっきり政宗さんと小十郎さんが馬鹿みたいな優しさでわたしに黙っておいたのかと思ったら、こういうことだったのか。
そういうことならば。
「今、わたしの部屋に女の人が来てるんです」
「…そうか」
「でも安心してください」
すると政宗さんは驚いたように目を丸くした。
その期待に応えるように、わたしはニコッと笑ってあげる。
「ちゃーんと殺しますから!」
「……な…」
もっともっと驚いたようで、政宗さんの瞳孔が開く。
あれっ予想以上に驚いちゃってる。なんでだろう、わたしがこのままジッとしてるわけないのわかってるくせにー。
ああそうか、わたしみたいな平凡な人間が人を殺せるわけないって心配してくれてるんだ。
もお、優しいなあ政宗さん。
ますます好きになっちゃうよ。
「大丈夫ですよ、手加減はしません。必ず息の根止めますから」
「何を…言ってんだ、ななし…!?」
「政宗さんたら、そんな心配しないでくださいよ~。わたしだってやる時ゃやるんです! 平気です、人の死体を見るのは。だってここ、死と隣り合わせの時代ですもんね」
両手に拳をつくり、エイエイオー!と片腕を天井につきだす。
政宗さんの為にやらなくちゃ。
わたしの為に殺さなくちゃ。
将来の為に始末しなくちゃ。
その為に。
次第にその使命感が、脳も思考も体も全て支配していくのがわかる。
今のわたしに必要なのは人間じゃない。
人を殺す武器だ。
「それじゃ、行ってきます」
「待て、ななし!」
元気よく部屋を出ようとするわたしに、手がのびる。
その手が、邪魔に見えた。
その手は、誰の手?
わからない。
でも邪魔だから、追い返そう。
素晴らしいほどに頭が冷えていたわたしは、胸元から隠し持っていた短刀を右手に持つ。
そして左から振りまき様に、その手のひらに切っ先を突き刺した。
「!! ……テッメェ…!!」
「ごめんなさい、政宗さんの手だったんですね」
でも、政宗さんが悪いんですよ。
わたしが折角、動きづらい政宗さんのかわりに動こうとしているのに。
勢いのまま政宗さんに倒れ込み、その手のひらごと畳に突き立てる。両手で短刀を畳にねじこませた為、結構深々と刺さった。
一方、わたしの下にいる政宗さんはそれきり何も言わず、脂汗をにじませながら、ただわたしをジッと見ている。
その目が酷く細く、ギラギラと光っている。ただなぜか、わたしはそれに恐怖を感じることはなかった。
そんなことより、ああ、痛そう。政宗さんの左手がみるみる真っ赤にそまっていく。
「ここで待っててください。すぐ終わらせて、走って帰ってきますから」
「ふざけてんじゃねェ!! 殺すなんて真似はやめろ」
「? 言ってる意味がわかりませんけど…。わたしがふざけて人を殺すわけないじゃないですか」
おかしいなあ。
政宗さんが「殺すな」なんて。
…おっと、ここでゆっくりしちゃいけないんだった。
彼の右手に捕まる前に立ち上がり部屋を出る寸前、刀が隅に飾ってあるのを見た。政宗さんの愛刀だ。
そういえばわたしの刀、今もう使っちゃった。
そのことに気づくと、足が勝手に刀へと向かう。
「おいっ、やめろ!」
制止の声は無駄だった。右から左に流れる。
手に取った刀は、ずしんと重かった。
でも持っているうちに、その重さが心地良くなる。まるで手になじむような…不思議な感覚。
この刀で政宗さんはいったい何人もの人を斬ったんだろう。
…ついつい思考が外れてしまうのは、愛ゆえだ、うん。
「すみません、ちょっとお借りしますね」
ちゃんと返しにきますから、とブイサインをしてから、わたしは政宗さんの部屋を出た。
従者は、ちょうど部屋を出ようとしたのか、わたしの正面に立っていたから、袈裟がけに斬ることができた。
その死体を踏み越え、部屋の奥でガタガタブルブル震える女を見つける。
「私が悪うございました…おやめくださいませ…!」
そんな哀願がきかないと悟れば、
「そんなことして許されるとお思いですか?!」
なんて強気に出ちゃう。
それも駄目だとわかったら、不敵に笑った。
「政宗様にご迷惑がかかりますわよ」
あー、もう、うるさいなあ、すごく、イライラする!!!
これ以上無駄な会話もしたくなかったけど、一応、無理矢理笑顔を浮かべながら一息に喋ってやった。
「ごめんね無理でしたわたしはアンタが嫌いでしょうがないので仲良くできませんでした、だから死んでください、死ね」
「う、うそですわ、うそ、う…あああああああああああっ!!」
逃げられないように、まずは足を壊す。
めちゃめちゃに斬ると、その両足がじたばたともがいた。
次に這って行かれないように、手を潰す。
これは刀を裏返して、峰でめった打ち。きれいだった指が、今ではぶくぶくに腫れ上がっている。
最後は動けないように、胴体を刺す。
心臓ではなく、胃のあたりを。
痛い、痛い、とわめいて、到底「いいとこのお姫様」とは思えぬ罵りに力をつかったそれは、徐々に元気がなくなっていく。
「殺して…もう…殺して…ください…」
「嫌です。わたしは『良い人』じゃありません。一気にケリはつけないんです。痛みと苦痛に絶望しながら、死んでください」
体育座りをして、そばで見守っていくうち。
ついに、女は動かなくなった。
呟くことも呼吸を整えようとする吐息もない。
何より脈がなくなっていた。
それでも血は、ありとあらゆる傷から、無限大のように流れ出ていた。
それをぼうっと眺めていると、地鳴りがした。それはどんどんこちらへ近づいていって、手前でいったん止まるのがわかる。
従者がちょうど頭だけ出して死んでるから、それに驚いてるんだろうなあ。
そしてゆっくりと、ふすまが開いた。
「政宗さん!」
左手に白い包帯をぐるぐる巻いて(それでも赤くにじんでいるけど)現れた政宗さんは、血だらけの部屋を見て呆然していた。
そんな政宗さんに早くほめてもらいたくて、足早に入り口へ戻り、ドキドキしながら顔を見上げる。
瞬間、わたしは天井を見上げていた。あれっと思っているうちに背中に痛みを感じる。畳に体を叩きつけられていた。
今度は政宗さんがわたしを見下ろしている。
両肩にかかる握力は、大して気にならなかった。強いはずなのに、強くない。
「政宗さん、左手を怪我しているのに、そんなに力を入れたら血が出ちゃいますよ」
政宗さんから返事はなかった。
ただわたしの肩に何度も力を込め、睨みつけるだけ。
おかしいな、喜んでもらえると思ったのに。
無言の反応に、ちょっと困惑する。
ややあって政宗さんが、絞り出したような声を出した。
「てめ…ェ…何…したか…」
その時。
わたしの頬にぽとりと落ちる。
それは政宗さんの片目から降ってきたもの。
「政宗さん…?」
ああ、泣かないでください。
どうして泣いているのかわからないけど。
わたしは泣かせたくてこんなことしたわけじゃないのに。
かわりに、正直に質問をぶつけた。
「政宗さんは、嬉しくないんですか?」
「…これで、喜んでると?」
「ないですねえ。うーん、なんででしょ?」
眉をひそめて、本気でうなるわたしに苛立ったのか、政宗さんがわたしの肩を一度浮かせて畳にたたきつけた。
それでも、いつものプロレスより全然痛くない。
「だってもう邪魔者はいないんですよ? あとはわたしと政宗さんが結婚すればめでたし、めでたしです。あ、それとも大名からの復讐が怖いんですか? それなら大丈夫ですよ~、政宗さんの率いる伊達軍はとんでもなく強いんですから、堂々と戦って滅ぼしちゃえばいいんです」
自信満々に言い切るわたしに対し、まばたき一つしない政宗さん。
ただ悔しそうに口元を歪ませ、睥睨のまなざしをゆるめない。
その目に鳥肌が立つ。
格好いいなあ。
やっぱり政宗さん、好きです。
「ていうか正直な話、政宗さんには泣き顔なんて全く似合いません。似合うのは、…きっと今のわたしみたいな顔です」
「………」
気づきませんか?
わたし、ずっと笑ってますよ。
「人を斬ることに快感をおぼえる、顔」
政宗さんの目。
また、瞳孔が開いた。
「愛してますよ、政宗さん。ずっとずっと。愛してる人の為なら、わたし、なんでもやります」
なんでも。
何度でも。
邪魔な存在がいる限り。
きっとこれが似合う
(これでわたしたち、「対等」になれましたね)
筆頭が非常に恐れていた事態、結果を、喜ぶ少女