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『小十郎さーん、起きてください』
「……ねみィ」
俺の一言も無視し、ななしが携帯電話ごしに催促をする。
しょうがねえ、とあくびをかみしめながら、起き上がった。
……午前七時。
せっかくの日曜日だというのに。
「…で、なんの用だ」
『つれないですね~。今日の予定ですよっ今日の』
「あァ? 知るか。てめェはどうしたいんだ」
それを耳に押し当て尋ねれば、まだ眠気が残っている脳にななしの声が響いた。
『どうしましょうかね? とりあえず政宗さんに突撃、みたいな!』
「みたいな、じゃねーよ。大体 政宗様は遠征中だ」
『チッ、んなことわかってますよ』
生意気な口調にすら笑みがこぼれる。
「また連絡するから待ってろ」
『はーい。朝から家事大変ですね、さッすがこじゅ』
すぐに電源ボタンを強く押した。
八時になるとまたななしからの電話がなったが、無視した。
そのことがしゃくにさわったのか、ようやく朝の仕事も終わりななしへ短いメールを送ると、すぐに返事がきた。
『すみません、急用ができてしまいました☆』
あの野郎。
思わず舌打ちをしたが、気を取り直して一人で休日を満喫してやろうと、外へ出ることにした。
舎弟に後を任せると、屋敷を出て公園へと向かう。
自販機近くのベンチに腰掛けると、前方で子供たちが走り回っていた。
その姿に、幼い政宗様とななしを重ねる。あれからもう十年も経ったのか。
……なんて、俺も年老いたな。
自分で自分に苦く笑うと、携帯電話が震えた。なんとなく予想はできる。
「ななしか」
『いや、なんか返信こなかったんで怒ったのかなって…』
恐る恐るといった風に呟くななしを鼻で笑った。
そんなことで一々怒るわけがない。
普通の女ならいざ知らず、ななしのことをそう簡単に嫌うわけがない。
「怒るかよ。お前と違って俺は大人だからな」
『そうですけどー…そう言われると、すごい反論したくなるのは自然の摂理でしょうか』
「知らねえよ」
『冷たいですねー。ところで今どこにいるんですか? まさか家でヒッキーとか』
「電話切るぞ。……公園で息抜きだ」
『えっ…プフッ! その強面で公園とか』
「じゃあな」
『あああああちょっ待ってえぇぇぇ!! すいませんでしたわたしが悪かったです似合います小十郎さんと公園超似合います素敵! やばい! 何かが!』
電話越しに騒ぐななしが可笑しくてたまらなかった。
そんな時、後ろから肩を叩かれ、携帯電話から耳を離し振り返る。
「や、片倉の旦那」
そこに立っていたのは政宗様の知人、猿飛だった。
朝からスーパーのセールにでも行ってきたのか、ビニール袋を下げている。
俺が通話中だと気づかない猿飛は、どこか気まずそうに言った。
「なんかその様子だと、元気みたいだな。良かった」
「? あぁ……」
「つーかむしろ、真田の方がやばいかも。相変わらず口からご飯こぼすし」
「それはいつもの事だろう」
「いや、いつもより酷い」
真面目な顔して頷く猿飛。
しかしいくつか、妙な言い回しがあり、疑問に感じた。
俺が、元気みたいで良かった?
真田の方が危うい…?
「何かあったのか?」
「…え? 何か、って…何かって、そりゃ、アンタ、もう平気なのか…? あんなことがあったばっかなのに」
「……釈然としねェ言い方だな。はっきり言いやがれ」
少し苛ついた口調で催促すると、猿飛は戸惑いの表情を浮かべながら口を開いた。
「いや、ほら……。…嬢ちゃん、先週亡くなったばっかだろ」
今度は片倉の旦那が動揺する番だった。
俺の言葉が上手く理解できなかったのか、どう反応すればいいのか困っているのか。
しかし次の瞬間には、鋭い眼光で睨め付けてきた。
「何を…ふざけたことをぬかしてやがんだ、てめェは」
「……マジかよ…」
どうも、冗談で怒っているようには見えねえ。
嫌な予感がむくりと起き上がる。
真田の旦那より、この男の方が、やばい状況のようだ。
「…アンタ、まさか…忘れたのか?! 目の前だったってのに!」
「何が目の前………」
言いかけて、突然、旦那の目の焦点が合わなくなった。
まるで何かを思い出しているような、こちらが声をかけても返事が全くない。
きっと今の自身の言葉が、引き金になったんだろう。
嬢ちゃんは先週、死んだ。
交通事故だ。
信号が青になったから渡っていたら、左折してきたトラックにひかれたのだ。
それを目の前で見たのが、嬢ちゃんが渡る先にいた、片倉の旦那。
伊達やうちの旦那は葬儀に参列したが、片倉の旦那は体調不良をうったえて出なかった。精神的なストレスもあったんだろうとみんながそっとしておいた。
……それが原因なのかもしれない。
ショックを受けすぎたせい、葬儀に出なかったことで嬢ちゃんの死を受け入れることができずにいるのか。
「…そんな……」
その手から、ずっと握りしめたままだった携帯電話が滑り落ちる。そのまま動かない旦那にかわり拾い上げると、何か喋っているのが聞こえる。
耳に押し当てると、「この電話番号は現在使われておりません」というメッセージだった。
「ンなはず…そんなはず、ねェんだ」
旦那の声は、今まで聞いたことがないほどに弱々しかった。
焦点はいまだに合ってない。
「…ねェんだよ、猿飛。…俺ァ、ついさっきまでななしと電話してたんだ。メールも、した。ななしから電話もかかってきた……」
「してないよ、片倉の旦那」
確認しても、着信履歴に今日の日付は、ない。
しかしアラーム機能を見れば、時間指定をすることでメロディが流れるようになっている。そのメロディデータは、生前嬢ちゃんが冗談半分で入れたボイスばかりだった。これで旦那は、嬢ちゃんから電話がかかってきたと思い込んでいる。
勿論通話だってしていない。今のように無機質なメッセージを嬢ちゃんの声に変換させてるんだろう。
メールだって、受信データは先週から全てエラーメールだ。
完全に以前の、男らしい片倉の旦那は、どこかへ消えてしまっていた。
「旦那、嬢ちゃんは死んだんだ」
「言うな…」
「アンタの前で」
「言うな言うな言うな言うなァァ!!!」
立ち上がり吠える男の姿に、公園で遊んでいた子供たちが逃げていく。
…きっと旦那の中の、嬢ちゃんはすごく大きな存在で。
その大切な人が目の前で、消えてしまった。
そんな現実がとても信じられず、こうして幻を見てしまっている。
「俺もこう見えていまだに引きずってるからさ、今のアンタにどうこう言うつもりはないけど…。…早く立ち直ってよ。じゃないと嬢ちゃんも浮かばれないから」
「……………」
黙り込んだ旦那に、携帯電話を返す。
するとタイミングが良いのか悪いのか、アラームが鳴った。嬢ちゃんの声で、「こじゅさん」と連呼している。
その声が懐かしく、涙腺がにじむ。
「…ああ、ななしか」
その涙が吹っ飛んだ。
アラームの声を止めると、何事もなかったかのように受話器に耳をあてて、しゃべり出す旦那。
「さっきは悪かったな…。猿飛がいきなり声かけてきやがってよ」
おいおい、さっきまでの俺との会話は無しかよ。
そんな軽口がたたけない。
最早 同情や憐れみよりも、恐怖を感じた。
「そうだな、ああ…。待ち合わせは交差点以外にしてくれ。あそこは胸糞悪くなる」
ふらふらと力なく歩き出す旦那。
その背中を見つめて見つめて、やがて見えなくなった後、重い重いため息をついた。
大事にするね
君の存在も台詞も声も何もかも。
死んだヒロインを妄想の世界で生かす小十郎さん。