番外・現パロなど様々
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「起きて、嬢ちゃん」
前髪を、誰かが優しく払う。そのくすぐったさに、ゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界が徐々に鮮明になる。
そこにいたのは、小十郎さんでも政宗さんでもなく、
「……猿飛…さん?」
「よく寝るねぇ、相変わらず」
からかうような口調に、目をこすりながら「うるさいですねぇ」と悪態をつく。ああ、眠い。なんでこんなに眠いんだろ…。
まだウトウトするわたしをよそに、猿飛さんがよっこらせと目の前に腰をおろす。ていうかこの人本当に遠慮知らずだよね。女の子の部屋に勝手に入るとか!
「ああ、もしかして配合間違えちゃったか?」
「はぁ…? はいごー?」
突拍子もないことを言い出す猿飛さんに、素直に聞き返す。すると鼻の先をかきながら、なんてことでもないかのように話した。
「特製の睡眠薬を作ってアンタに飲ませたはいいんだけどさ。まさか丸一日眠るとは思わなかったよ。普段は絶対、こんな失敗しないはずなのになぁ。まあしょうがないか、なんてったって嬢ちゃんの為だかんねー」
ハローハロー、猿飛さんが一人世界に入ってます。またなんかおかしなこと言っちゃって。
まだ彼の異変に気づかないわたしは、大きなあくびをした。
「ふわあ…! 猿飛さんのせいで大分寝ましたね、わたし」
「だから謝ってるだろ。すみませんねー」
「猿飛さんの謝罪なんて信用できません」
「ひっでー」
ケラケラ笑う猿飛さんを見ていると、ふと気づくことがあった。
衣服に血がついている。斑点のように。迷彩だったから、目をこらさないと見えないくらいだった。
それどうしたんですか、となんとなく聞くと、猿飛さんはアッサリと言い放った。
「ああ、独眼竜と真田の旦那の返り血」
「……………」
聞き間違えちゃった。
まだ脳が目覚めてないみたいだ。あ、この場合は耳か。そんな間抜けさに思わず笑いをこぼしながら、猿飛さんに突っ込みを入れる。
「あはは、何言ってるんですか、猿飛さん。なんで猿飛さんがあの二人の返り血つけてるんですか?」
「殺してきたから」
「…………」
「…………」
冗談ですよね。
ううん、冗談じゃないよ。
わたしの呟きに、そう律儀に返す猿飛さん。
「(い、いやいや、冗談でしょどう考えても…)」
だって目の前にいるのは他ならぬ猿飛さんですよ? すごいむかつく時もあるけど、真田さんを大事にしてて、わたしと政宗さんの仲に茶々をいれやがる、でも、とても面白いお兄さん。
そのお兄さんから、さっきまでの笑顔は消え失せていた。
「ついでに言うとね、ここ、嬢ちゃんの知ってる奥州じゃないから」
「…は…?!」
あごが外れるんじゃないかと思うくらい、口がばっくり開いた。
部屋を見回すけど、普段の自室だ。文机の位置も箪笥の種類も、何もかもいつも通りの部屋。そんな部屋があるのは、全世界探しても奥州の、政宗さんたちのいる城しかないのだ。
猿飛さんはわたしの様子を見て、なぜか嬉しそうに笑った。う、ちょっと気持ち悪い。
「それなら、あのふすま開けてみなよ」
「え…?」
指をさされたのは、廊下に出ることができるふすま。開けてみなよ、って…。そんなの、開けたら普通に廊下と庭が広がっているだけじゃん。
心の底からそう思っていたわたしは、なんの躊躇もせずにふすまを一気に開けた。
「………な…?!」
太陽の光を隠すほどに高くそびえ立つ、大量の木、木、木。
まるでこの部屋ごと、どこかの森の奥に瞬間移動してしまったような、不思議な感覚だ。
しかし振り返ると、わたしの部屋があって、猿飛さんが座っていて。
ただ、ここが城ではないことはわかった。
振り返った先には、小さな草葺きの家がぽつんとあっただけだから。
まさに庵(いおり)というものだ。ただ内装は、わたしの部屋がまるまるコピーされている。
「こ、これ…なに?! どうなってるんですか、ちょっと!」
「あはは、やっぱあんたの反応おもしれー! 頑張って揃えたかいがあったよ、うん」
「笑ってる場合ですかっ!? ここはどこなんですか?!」
「だから言ってるだろ、奥州でもない、甲斐でもない…。俺様だけが知っている秘密の場所」
「は…はあ?! ちょっ、さっきからわたしのこと馬鹿にしてるんですか? 意味がわからないんですけど」
よく理解できない。なんでわたしが、猿飛さんしか知らない場所にいるのか。それに、さっきの返り血がどうたらこうたら言っていたことも気になる。
不信感を募らせるわたしをよそに、猿飛さんは言った。
「まあ安心しなよ。伊達政宗と真田幸村のかわりに、これからは俺様が守ってあげるからさ」
「お、お断りします!! わたしは政宗さんじゃないと嫌ですっ」
猿飛さんの指がピクリと動く。
しかし一切気づかないわたしは、拳を握りしめてヒステリックに叫んだ。
「もう気がすんだでしょ。いい加減帰してください!!」
「いいじゃん、ここにいれば。前みたいにあんたを口やかましく怒る人間なんていない。悪戯でもなんでもやっていい。何か食べたいものがあれば俺様が用意しちゃうし、遊びたければ道具も準備する。着物だって上等な生地持ってるから、すぐに作らせることもできる。何も不自由することはないんだ」
「いや、そういう問題じゃないんです。わたしが、帰りたいんですって」
「へぇ、そんな怖い顔してまで、一体どこに帰るっていうの?」
不思議なことを聞く。
わたしは目に力をこめて、言い放ってやった。
「どこって、奥州に決まってます!」
「奥州ねェ……。なんで?」
「な…なんでっ、て、政宗さんが、」
「嬢ちゃんさァ」
突然の低い、低い声。
その恐ろしさに、声がひゅっと引っ込んでしまう。
「本当に、馬鹿だよな。何回言えばわかる?」
「え…」
「俺が殺したんだよ、あんたが好きだっていう男、あんたを好きだっていう男、全部。殺したの。真田の旦那を殺したのは、あんたをここに連れてずっと一緒に過ごすって言ったら反対したから。反対しなけりゃ旦那も誘ってやったんだけどね。本気で俺を止めてきそうだったから、一端引き下がった後 お茶の中に毒入れたらあっという間だったよ。とどめに首斬ればおしまいだったし。それより独眼竜が面倒だったな。だって俺様のことハナから信じてないし、毒盛ってもばれそうだし。だから嬢ちゃんがすすんで俺のところに来てくれたとか言ってやったら勝手に動揺して、隙がかなりできたよ。おかげで俺様みてーな弱虫忍者でも急所にお見舞いすることができてね。ああいう人間って、キレたらいつもより隙だらけになるからさ、単純単純。ああ怒らないでくれよ、別に悪口じゃないんだから。単なる事実を言ってるだけだぜ?」
わたしの反応なんて、一切見ていない。
ただ、自分が言いたいことをずっと並べていっているようだった。
しかし聞いていないわけじゃない。嫌なくらい、耳に突き刺さる言葉。
猿飛さんが、真田さんに毒を盛った?
猿飛さんが、政宗さんを……?
「どうしてもあんたが俺様のことを信じられないっていうなら、……見る? 証拠」
「え…………証拠って……、っっ!?!」
目の前の人物が、後ろ手に取り出した風呂敷は、右手と左手に一つずつ、何かを包んでいた。
球体が包まれているようで、スイカじゃないかと一瞬思った。
そして。
深緑色の風呂敷には変色した茶色の液体がべっとりついていた。
結び目をほどいて見ずども、想像できるものは、一つしかなかった。
「俺も躊躇したんだぜ、これでも。きっと『今の』嬢ちゃんなら悲しんで苦しんでしまうんじゃないかって。でもこれも現実だ。受け入れなくちゃな」
自分が全て仕立て上げたくせに、なんだその言いぐさ。
さばさばした猿飛さんの言葉は、冷たく、わたしの胸に突き刺さっていった。
現実? これが、現実だっていうの?
本当に二人とも、いなくなっちゃった?
「……………」
気づけば、ぼろぼろと涙がこぼれていた。
でも、声が出ない。あまりにも悲しすぎて、怖すぎて、のどがつぶれたような感じがする。
「ああ、泣いちゃった。ごめんね、あんたを泣かせたかったわけじゃないんだ」
猿飛さんが困ったように頬をかく。そしてわたしに近づこうと、邪魔そうに持っていた風呂敷を離した。
ドスン、と音を立てて球体が畳に着地する。
そのはずみで中の物が転がった。
そのおかげで、一つの風呂敷からは赤いはちまきが。
もう一つからは、茶色の髪が見えた。
「いやあああああああああああああああああ!!!!!!」
スピーカーなんか使わなくても、人間ってこんなに声が出せるものなんだ。
絶叫する中、脳の隅っこでそんなどうでもいいことを思った。
「ななし」
「……ま、さむね、さん…」
目がさめると、政宗さんがいた。
ああ、なんだ。
あれは夢だったのか。
悪夢、だったんだ。
「政宗さ…まさむね…さ…」
あの時の恐怖が鮮明によみがえり、ぶるぶる震えて泣き出すわたしを、政宗さんの手が優しく抱きしめる。
「安心しな。これからは俺がいる」
「はい…」
「だから泣くな。あんたを泣かせたかったわけじゃないんだ」
「はい………」
政宗さんの言葉をゆっくりかみしめて。
「……………え…………?」
今の、言葉…。
どこかで、聞いたことがあるような。
「政宗さん…ですか…?」
「………」
恐る恐る見上げると、政宗さんは微笑んでいた。
その笑みに、本能的に鳥肌が立った。
その顔は、パーツが全然違うはずなのに、ある人物を連想させたからだ。
「ななし。これからは、俺様がいるからな」
優しく髪をなでる政宗さん。
………俺「様」…?
「だから、もう笑ってくれるだろ?」
「……まさむ」
「だって今の俺は、伊達政宗なんだから」
「…………」
まさか。
最悪の状況を察した瞬間、
パチン
と脳で何かを切り替える音がした。
「……あれ?」
なんだろう。
わたし、今まで「何」を考えていたんだっけ。
なんで、わたし、こんなに涙流してるの?
思い出せないや。
「そんなこと」より。
「ここは…?」
「アンタの部屋だ」
「ああ、そういえば」
「ななし、もう平気か?」
「はい。…ところで、」
「政宗さん」の後ろにある二つの風呂敷には、何が入ってるんですか?
そんなに泣かないでほしい
俺様が欲しかったのは、君の笑顔。
自衛本能が働いたヒロインと「政宗さん」。