本編2
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試合開始から、第一戦、第二戦、第三戦が目の前で繰り広げられる。
真田さん率いる兵と、伊達さん率いるヤーさんは、見事に互角だった。と思う。素人の目からみただけだから、実際どうなのかはわからないけど。
でもはじめは「政宗さん出ないんじゃんチェッ」なんてこっそりいじけていた自分が、気づくと椅子をけって立ち上がり、大声を振り絞って「頑張れ!!」を何十回も繰り返している。
いやいや違うからね、わたしそんなタイプじゃないもの。
きっとわたしがこんなに声を張り上げているのは、この会場がそれほどの熱気に包まれているから。甲子園球場とかどこかのスポーツのスタジアムとか、観客と選手が一体になっている、あの雰囲気がこの時代でも起こっている。
結局 今の試合は、真田さんのチームが勝利。わあわあと歓声があがり、わたしもうっかりそれにまざる。
「ななし殿! 勝ちましたぞ!!」
「はいいいっ、おめでとうございます!!」
いい勝負だった、すごくいい勝負だった!と感動のあまり、すっかりハイになった真田さんとぎゃあぎゃあ騒いでいると、突然後ろから首根っこをつかまれ息が止まる。何この恒例的ないじめ! さっきも猿飛さんにされたし!!
「ぐへエ!! なっ何するんですかこじゅ…え」
あれ。あれあれ。
今度こそ百パーセントの確率で小姑だと思ったら、政宗さんでした。なんとか着物のあわせと首の間に指を引っかけ、酸素の通り道をつくりながら首をめぐらせると、政宗さんでした(大事なことなので結論のみ二回言いました)
まさかの政宗さん(よほど大事なので三度目)の行動に、わたしだけでなく政宗さんの背後にいた小十郎さんもちょっと目を見開いてる。
「ま…さむねさん?」
「Sorry. 首に虫がついてると思ったらあんたの黒子だった」
「な…! ひっひどくないですかそれぇぇ!?」
やっぱり政宗さんは政宗さんだった。ちいぃっ、今一瞬でも「ジェラシーですかエヘヘ」とか思った自分が悔しい。いいもん、ツンツン政宗でもご飯二杯はいけちゃうんだから! そうやってわたしが悔しがる姿を見てせせら笑うといいわ! その笑いにこっちが悶えてやる。
「ふーん……。旦那、」
「どうした、佐助」
「あっちもどうやら、やる気みたいだぜ?」
「む?」
真田さんとコソコソ話していた猿飛さんは腕をのばし、わたしの着物のすそを握った。それをくいっと引かれ、わたしは素直に一歩後ろへ下がる。
間にいたわたしがそうやって消えたことで、政宗さんと真田さんが直接顔を向かせる状態になった。
その瞬間、二人とも一気に顔を険しくしておっそろしい目で睨めっこ。
すいません、めっさ怖いんですけど。
「あっちい!!(火花が!)」
「何ふざけてんですか猿飛さん、とりあえずあの木刀で体中の穴突き刺していいですか?」
「こえーよ。俺様はただ空気を読んだだけ。な、片倉の旦那」
「どの口がほざいてやがる」
じろり、なぜか猿飛さんからわたしにまで そのおっかない目線がやってきましたよ。思わずつばをごくりとのんで、思い切り目をそらす。
「まー、二人とも頃合いでしょ。旦那、ほら」
猿飛さんはどこから出したのか(ポケットあるのか、白いポケットどっかにあるのか?!)真田さんの使っている槍を、そのまま本人のもとへと放り投げる。真田さんはつい受け取ったものの、政宗さんと猿飛さんの顔を交互に見て眉をひそめる。
「し、しかし…今回は部下のみで…」
「かてェこと言うなよ、真田幸村。こんだけ盛り上がって、アンタにはまだ火はつかねェか?」
「!!」
真田さんは政宗さんの不敵な笑みに一瞬目を丸めたけど、やがて元の超真面目な顔で頷いた。おお、もしかして。
わたしが目を輝かせたのがわかったのか、政宗さんがこちらを見て、フと笑った。ギャアアアアしぬ!! キュン死!! フィルターしなくてもしんじゃううう!!
「ななしどの!!」
「ギエエ!?! 声でかい!!」</b>
気配もなく、わたしの耳元で叫ぶ真田さんは、さっきとは打って変わりやる気満々だ。しかし目が合った途端、言葉はつっかえつっかえだ。なんなんだこの人は。
「そっそれがし…!! か、必ずや!!」
「あ、はい。頑張ってくださいね!!!」
どうせ政宗さんが勝つけどね、と本音は引っ込めておいて(え? ひどくないですよ全然)、当たり障りのない励ましをする。真面目な真田さんは一拍おいてガクガクと頷き、張り切ってステージ台から飛びおりた。
続いて向かおうとする政宗さんに、わたしは真田さんばりの大声を出そうと口を開いた。
「政宗さんっ、大好きです!!」
「関係ねえ!」
小十郎さんにスパーンと気持ちよい音がするほど素早く、頭をはたかれちゃいました。いってええ!!
「そうやってわたしをどんどん頭悪くさせてるんですよ!? それでストレスたまるのはそっちなんですからね、わたし知りませんからね!」
「なら俺に叩かせるような言動は慎め」
「うん、ごもっとも」
「猿飛さんんんん!!」
二人にいじめられている間に、大将二名は土俵で早くも武器を構える。わわ、政宗さん格好いい…。惚れ直したね、うん。
一方、ステージに残った猿飛さんと小十郎さんは、わたしを間にはさみ、その土俵を見下ろした。思ったけどこの二人って並ばないよね。絶対政宗さんとか真田さんとか、今みたいにわたしをはさんで横に立つんだよね。
「(仲悪いんだなーきっと…。お調子者な猿飛さんに小姑の小十郎さんだもん、うん、そうに違いない)」
「片倉の旦那ぁ、悪いけど一回、嬢ちゃんはたかせてくれねえ?」
「構わねェ」
「ウッソデース!!」
あれーおっかしいな、声には出してないんだけど二人とも青筋が立っていらっしゃる! なんなんだ! 少しは一般人らしく気づかないフリをすればいいのに!!
そして結局小十郎さんに後頭部をはたかれ、痛みとともに前のめりになって倒れそうになったわけだけど。
「じゃ、やってもらいましょーか」
猿飛さんがきっかけとなり、真田さんと政宗さんを取り囲む野郎共たちがワアァ…!と鬨の声をあげた。
「……妙に静かだな、まつ」
「ええ、犬千代様…」
城内に入りはしたが、いつもの過激な なりをしている兵士たちが見あたらない。
近くで戦が起こった様子も、そういった話も耳には入ってこないのだから、城を出払っているというわけでもないはずだ。
と、門をくぐったところでまつが耳をそばだてた。よくよく聞くと、ある方角から声が聞こえてくる。
「犬千代様!」
好き勝手に走り回る夫をたしなめ、ジェスチャーでその方向を指さす。
こくりと頷いた夫と二人そろって忍び足で、その場所……つまり例の試合場へ向かった。
その間 堂々と登場することはお互いに頭になく、どうしてか見つからないように、茂みに隠れて移動する。
「!!」
そして、そこで行われている光景に、表現豊かな夫はともかく、さすがのまつも度肝を抜かれた。
囲む兵士に隠れてはいるが、時々戦っている本人たちが飛んだりして顔がはっきりと見えたのだ。
「伊達政宗と、……真田幸村! だよな、まつ!」
「え、ええ!」
なぜ、虎の若子がこの奥州に。真っ先に考えられることは、甲斐と奥州が手を結んでいて、友好試合をしている……ということだろうか。
まつはすぐにそこまで考えたが、夫は興奮のあまり茂みをガサガサと揺らしている。
「いいなあ、楽しそうだ! そういえば前田家で身内だけの試合があったが、あれよりもこっちのほうが気合いが違う! 慶次もいなかったしな」
「そうでございまするな」
武器のぶつかり合いに生じる、甲高く鋭い音が耳にはきついが、それをぶつからせている本人たち、そしてそれに取り込まれている兵士たちは全く気にならないようだ。
あの独眼竜と、虎の若子が、戦場ではなくこういった場所で戦う。それがどれだけ異様な光景で、不思議なことなのか、果たして本当に自覚している者はこの場にいったいどれだけいるのか。
いや、そんなことはどうでもいいのかもしれない。まつはまぶたを閉じた。こんなことができることが、平和な証なのだ、きっと。西の国はまだ戦が終わらないが、少なくとも今、この奥州と、恐らく同盟を組んだ甲斐は平和で。
それが全てだ。
「まつっ、某もう我慢できん!!」
「! 犬千代様!!?」
いよいよ辛抱ができなくなったのか、茂みから飛び出した夫を、慌ててまつは追いかけた。
「まっさむうねすわああああああん!!!」
力の限り絶叫しても、ヤーさんたちの野太い声にはかなわない。聞こえてますかダーリン、わたしの愛の告白が!!
まあ聞こえているはずはないだろう。政宗さんはずっと真田さんから目を離さないし、歓声すら耳に入ってないと思う。本当に真剣に、真田さんと勝負しているんだ。
そんな政宗さんが、わたしは大好きです!
「あい!! らぶっ!! まッ!?」
「そろそろ黙ろうか(旦那が!!)」
政宗さんの名前を呼ぼうとしたわたしの口が、猿飛さんの手によってふさがれる。チッ人の恋路を邪魔しやがって!
「いい加減にしてください、蟹呼んで合戦しますよ!?」
「あは、意味わかんない」
「じゃ、今度猿飛さんの為に『さるかに合戦』のお話してあげます」
猿飛さんの笑顔がどうもむかついたので、二・三歩離れてやろうと、まあ前方を見ずに歩き出したわけで。
自分が今いる場所が、ステージのすれすれだったりするわけで。
「あ、嬢ちゃん」
突然踏み出した一歩目が、スカッと踏み外す。やばっ落ち……
「グエエ!!」
そんなわたしを助けてくれたのは、保護者こと小十郎さんだった。助け方は相変わらずの「首根っこつかみ」だけど。のど痛めてるからね。今日一日だけで大分首・のどダメージくらってるからね。
しかしその時、反動で片方の草履が勢いよく脱げてしまった。それは野郎共の方へ、円を描きながら落ちていく。
「………ぉぉぉぉ」
落ちていく。
「……ぉぉぉぉぉおおおお」
落ちて…ん?
「おおおおおっっぐあァ!?!」
「ええええええ?!!」
見ず知らずの人が、別の方向から全速力で駆けてきて、わたしが蹴りはなった草履を顔面で受け止めてしまった。
さらにその人は、大げさなほど地面をローリングし、野郎共の輪を蹴散らして内部に突入してしまった。
「うおお?!」
「わっ!?」
「誰だ!?」
なに?! わたしの草履、あそこまで破壊力(というか、スピードというか!)あったの!?!
慌てて状況を把握しようと上を見上げても、小十郎さんや猿飛さんは呆然としたまま。
勿論それは、戦っていた当事者たちもだった。
「Whats?!」
「なんだ?!」
刃を交え、距離をとろうと間をあけたところに、その人物が砂だらけでちょうど止まった。よくよく見ると、その人は半裸で、色黒で、体中傷だらけの男の人。
なぜ、半裸だし。
「犬千代様ぁぁっ」
さらにどこからか登場したのは、緑色のバンダナで頭を覆った超絶美人さん。しかしその手にはなぜか薙刀が握られている。
武器、ということは。もしかしたら、
「こっ小十郎さん…! 侵入者ですか…?!」
「……あながち、間違っちゃいねーだろうな」
小十郎さんの声が一段と低くなる。ええっマジでか! すごいデタラメに言ってしまったんだけど!!
緊急事態に心臓をどきどきさせながら、わたしは倒れ込んだまま動かない男に駆け寄る美女を見続けていた。
どうしたもんか、この状況。
幸村さんと伊達さんのVS勃発リク、ありがとうございました!