本編2
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前田さんが奥州を出て数日後。
わたしは朝から廊下を雑巾がけしていた。訳も教えてもらえず、朝食後小十郎さんにここまで連行されてきたのである!
そしてただいま、雑巾がけ五往復目。
「~~~~ッあああああ!!! もう疲れちゃったよおおお!!」
「うだうだ言ってる暇あんなら、足動かせ!!」
「ぎゃあ! セクハラ!!」
「変態の塊に言われても説得力ねェよ」
おしりを小十郎さんに思い切りひっぱたかれ、馬のようにまた廊下をドタドタと走る。そしてようやく一往復するとゼーハーしつつ、そこで監視していた小十郎さんに尋ねた。
「あの…、政宗さんは、どこですかね…? 教えてくれたら…ほんと…! 頑張ります、…本当です!!」
「教えるわけねェだろうが」
「な! なんでですかああ!!」
くわっと顔をあげると、わざわざしゃがんで目線をあわせた小十郎さんが、ニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。
「この雑巾がけが、政宗様直々の指示だと言っても、まだ言うのか?」
「喜んでやらせていただきまーす!!」
他ならぬ旦那様からのお願いならっ、たとえ雑巾がけだろーが小十郎さんの背中流しだろーが、なんでもする!!
「片倉様ァ! 筆頭がお呼びです!」
そんな時、部下のヤンキーさんが小十郎さんを呼んできた。立ち上がって歩き出した姑は、しかしすぐに足を止め、わたしを指さす。あの、なんか指さされるとすごいむかつくってこと、知ってます?
「それをあと十往復やったら道場に来い」
「じゅっ……じゅううう?!!! やめてください、わたしの腰が使い物にならなくなっちゃいます!」
「安心しろ、元々使いもんにならねェ」
「………」
すいませーん、一人じゃ怖いので誰かわたしと一緒に丑の刻参りやってくれませんか!?
息を切らしたわたしは、大の字になると足を投げ出した。そして、なんとか十往復した廊下を見下ろす。うん、まあきれいっちゃあきれいだな。
さて、政宗さんからの任務を遂行したわけだし、としばらく休憩をとったわたしは、小十郎さんに言われた通り道場へと向かった。
ちょっと離れた場所に立って、こちらを向いていたのは政宗さんと小十郎さん。その二人と何やら話をしているのか、こっちに背中を向けている男性らしき人物二人。……って、わかりやすすぎる。
思わず笑顔を浮かべながら、まだ離れたままわたしは二人に対し声をあげた。
「真田さん、猿飛さん!」
「おっ」
「!! ななし殿!!」
振り返った二人の反応は、はっきりくっきり別れていた。
猿飛さんはちょっとびっくり、という感じ。
で、真田さんは…。
「お久しぶりにござる、ななし殿! 元気でござったか?!」
「は、はいっ、そりゃもちろん! 真田さんも相変わらずパワフルですね~、あ、元気ですねっ」
あ、あれ?! すごい笑顔なんだけど、すっごい笑顔なんだけど!!?
たしか真田さんて、熱血男でもそんなにニコニコ笑ったりとかはなくて、真面目な表情しかしてない……はずだった。
ところが今、わたしを見た途端ものすごい速さで駆けつけてきて、満面の笑みで、なんなんだろう、漫画で言うと「ぱあぁっ」というオーラが全身からはじけている。キャラ変わってるよ!! わたしがいない間に何があったの、真田さんんん?!!
慌てて猿飛さんを見ると、こちらも笑っている。ただし、真田さんのような純粋な笑顔ではなく、何か企みのあるような含みのある笑顔だ。
「猿飛さん、真田さんはいつからイメチェンしたんですか?!」
「んー言ってる意味がわかんないけど、真田の旦那がこうなった理由?」
「そっそうです! だって前はこんな…わんこみたいな真田さんじゃなかったでしょ!」
「(甲斐の武将をわんこ呼ばわりって…!)まあね。でもね嬢ちゃん、人って変わるんだよ」
は?と首をかしげるわたしに、猿飛さんはそれ以上何も言わずこちらまでやってきた。その後ろに続くのは、仏頂面の伊達組。
「今日は頑張らないとねー旦那、いいとこみせないと」
「い…いいとこ…」
猿飛さんの言葉を反復した真田さんは、わたしを見下ろしたまま少しポーッとした表情を浮かべた直後、ハッとして頭をブンブンと振った。首がとれそうですよ、将軍さーん!! 遠心力の関係か顔が真っ赤だ。
「なっ何を言うのだ佐助っ! それがしは全身全力でぶつかるのみ!!」
「あらまー…素直じゃないんだから」
「あのー、仲むつまじいとこ割ってはいって申し訳ないんですけど」
一言断りをいれて、わたしはずっと気になっていた疑問を二人にぶつけた。
「今更かもしれないですけど。なんで猿飛さんと真田さんが奥州に来てるんですか?」
「あれっ、何? もしかして嬢ちゃん知らないの?」
「え? なんかありましたっけ…」
「アンタの脳みそは飾りかい」
そこでやってきた政宗さんが、冷たく吐き捨てる。しかしわたしは今日やっと政宗さんとまともに話せた(会話だもん!)ので、嬉しかったりするのです。おかげでいつものバイオレンスな台詞もかわいらしく聞こえるわ!
「も~違いますよ政宗さんっ、わたしの脳みそは9割政宗さんのこと考えてるんです☆ 残りの1割はそのほか諸々ですけど」
隣で甲斐コンビのテンションががた落ちしたことなんてつゆ知らず、わたしは政宗さんに思い切り抱きついた。ぎゅうっと。
……あ、あれ。
抱きつけた、ぞ? いつもならこのまま技にもっていかれると思ってたのに。いや、別にいいんだけどね!? むしろこのまま抱きしめれてすごい幸せなんだけども!
「……あー…あの…政宗さん? …どうかしたんですか?」
「Sorry,朝からちぃと忙しくてな。疲れてんだ」
「あっそうなんですか」
なんだか申し訳なくて離れようとしたら、突然首根っこをつかまれて強制的に離されてしまった。おっととと足をなんとかばたつかせながらバランスをとったわたしは、どうせ小十郎さんだと思い振り向いて睨みつける。
ていうか今はわたしもちゃんと空気読んだよ! ちゃんと離れようとしたのに!! なんかそれより先に無理矢理離されるとムカッてくるよね、うん。
「何するんですかっ!! こ……」
振り向きながら気づいた。
小十郎さん、政宗さんの後ろにいるんだけど。
てことは……!
「やー、悪いねぇ(これ以上 旦那の気分沈ませちゃまずい!)」
「さっさるとび!! ……さん!」
「何その無理矢理感」
そんなに憎い?と首をかしげる猿飛さんに、ウン!と元気よく頷く。すると青筋を立てながら猿飛さんは笑った。つまり笑ってない。
「だから謝ったでしょ、悪かったねって」
「謝ってすむなら警察と裁判はいらないんですよ。さっお縄についてください」
「あはっ何言ってんの嬢ちゃん。相変わらず意味不明ー」
奥州軍と違って、わたしに鋭いツッコミをいれることなく大人的スルーをかます猿飛さんでした。
こ、の、男は…!!(間違ってないかもしれないけどね、あちら時代の方々からしたら)
さて、道場で一通りコントを終えたわたしたちご一行は、メイン会場へと向かった。その途中で話を聞いたわたしは、前田さんが来ている間に小十郎さんが伊達軍を鍛えていたことを思い出した。ああ、そういえば練習試合があるんだっけ。
ん?! 試合…!?
「…てことは、政宗さんも練習試合に出るんですか?! なんで言ってくれないんですかっ旗とか応援歌とかつくってないんですよ!」
「誰も出るなんて言ってねーだろ」
「ななし殿、此度の試合は我々武将ではなく、部下たちによる試合でござる」
「あ、そうなんですか…。なんだ…じゃあ真田さんも試合しないんですねー、残念です」
「な…」
わたしの隣を歩いていた真田さんが、びっくりしたように振り返る。そりゃそうでしょ、久々に熱血真田さんを見れると思ったのに。
そして真田さんは 手をあちこちにぱたつかせ、一生懸命知恵をしぼった。
「そ、それならば!! 一兵卒の格好をすれば参加が……」
「できない、できない」
猿飛さんが呆れながら、意見を却下する。あ、すごいしょんぼりしてる。ど、どうしようすごい元気づけたくなる…!!
今度はわたしが慌てながら、前方を歩く政宗さんと 真田さんを交互に見た。
「大丈夫ですよ真田さん、また機会がありますって! ね、政宗さん!」
「俺に聞くな」
「それがしはいつでも構いませぬぞ、政宗殿!」
「ですって、政宗さん!」
「………(聞いちゃいねえ)」
でも政宗さんだって真田さんのこと結構ライバル視してるから、いつかは武将同士の試合もするだろうし。それまで楽しみにしておこうっ。
そして城内にある大きな広場へ着くと、既に伊達軍と真田軍がメンチをきりあっていた。オウオウオウナンダコルァ(主に伊達軍)とかヤンノカコルァ(主に伊達軍)とか、今にもカラスたちの戦いが始まりそうな雰囲気だ。
だがしかし、わたし以外の上司四名はまったくそれに動じることなく、広場の前方に造り上げられたステージ台にのぼっていく。
政宗さんはステージ台ぎりぎりまでいき足を止めると、男達で埋め尽くされた広場をゆっくり見渡した。そのまますうっと息を吸い込み、声を張り上げる。
「Are you ready guys?!」
イエエエエエエ!!! と元気よく拳をふりあげる伊達軍に対し、真田軍はシーン…と静まりかえっている。うん、わかりやすい。
次に真田さんが政宗さんの隣に立ち、背中を反らせながら、政宗さんの倍くらい息を吸い込み腹をふくらませた。
「たかが試合! されども試合だ!! お館様の名に恥じぬよう伊達軍と戦えェェェい!!」
こっちはオオオオオオオオオ!!!!でした。どっちかというと甲斐の皆さん方のほうがうるっ…元気!
「さ、嬢ちゃんはこっちに座ってー」
猿飛さんに肩を抱かれ、三つ横に並んだ 木で作られた椅子に座らされる。わたしもここから高みの見物ってやつ? そして両隣には、真田さんと愛しの政宗さん。背後にはなぜか猿飛さん。
小十郎さんは政宗さんの横に立つと、巻物を取り出し声を張り上げた。
「これより真田軍と伊達軍の練習試合を開始するっ!!」
時は遡り、数日前のこと。
奥州内を、とある夫婦がさまよっていた。
妻はたくましく足を運んでいるが、後方では夫が千鳥足で背中を丸めている。
半裸で腹を両手でおさえている姿は、腹を冷やしたあまり腹痛かと思う。
しかし、実際は違った。
可哀相と感じるほどの腹の音が壁となっている両手を通過し、静かな道いっぱいに響く。
「まつうぅぅぅ~~…某、腹、へったああぁぁぁ……」
「情けない音を出さいますな、犬千代様」
「ううう~~…しかし…」
食べ物をねだる夫をぴしゃりと叱りつけ、まつと呼ばれた妻は思案した。
奥州に来てはや数日、前田の甥はまだ見つからない。しかし奥州へ向かったのは事実なのだ。
前田家の主がいつまでも家をあけるのは流石にまずい。
その為一刻も早く見つけ、場合によっては動けないような体にして連れて帰らねば。
勿論それは「場合によりけり」であって、本心からそうしたいわけではないことをまつはわかっている。
……はず。
「頼むまつっ、ほんの少しで良いから…」
「…それなら構いませぬが…。しかし、そろそろ食料も尽きてまいりました」
「むっそれは真か!! ならば某が魚を釣ってくる!!」
まつ、待ってろよお!と意気込んで走り出そうとする夫を、慌てて引きとめる。
魚も何も、辺りを見回すが海や川らしきものはまったく見あたらない。
これで行かせてしまうと、今度は夫まで探す羽目になってしまう。
そんな面倒事は御免被ると思い、まつは夫の首根っこを捕まえたまま口を開けた。
「犬千代様、落ち着いてくださいませ。ここは一度、奥州を治める伊達主君に直接お会いし、慶次の行き先を尋ねましょう」
「うむ、そうだな! 飯も食えるしな!」
「まあ、犬千代様……」
呆れたとばかりに言うまつの表情は、笑顔の夫につられ、やはり微笑みを浮かべていた。
そして、今日。
「着いたな……まつ…」
「ええ……犬千代様…」
二人の前には、城門がそびえ立っていた。
ちょうど食料が尽きた時でもあった。
これより暴風域入ります。
まつねえちゃんの口調が変でも目をつぶってやってください。