本編2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ななし。俺は馬を返してくるから、あんたは独眼竜のとこに行ってきなよ」
「ありがとうございますっ! いってきまーす!」
ようやく城に帰ってきたわたしは、前田さんの気遣いに感謝しながら政宗さんの執務室へ急いだ。その途中、小十郎さんが未だに部下の人たちをしごいていたのを目撃した。やった、今なら二人きりになれるチャーンス!
「失礼しまーす! 政宗さん、ただいま戻りました」
何重にも折り重なった紙をまとめていた政宗さんは、わたしを振り返ると「ああ」と口を開いた。
「随分と長かったな」
「すみません、途中で道に迷って右と左のどちらの道を行くか話し合ってました」
「へェ」
「帰り道なんですけど」
「……………」
すごい、なんとも言い難い視線を感じる。だってしょうがない、前田さんが帰りは適当に走ったら戻れたって言ったんだから。ていうか普通帰り道おぼえてないほうがおかしい!
何やってんだ、と突っ込まれる前に、わたしは慌てて両手をぶんぶん振った。
「で、でも! 目的地はとっても楽しかったですよ。きれーなお花畑があって、ちょうちょがたくさんいて、近くで木登りもできて、そのツルで綱渡りやったり、ぶらさがったり、なんだか鍛えられました」
「おい、趣旨違ってねえか」
結局突っ込まれてしまったけど、わたしはそれどころじゃない。なぜわたしが急いでいたのか、それは政宗さんに一刻も早く会いたいから、だけじゃなかった。
ずっと拳のままだった自分の左手の指を、それぞれ開いていく。
「ななしっ!!」
けれど、それより先に現れたのは息を切らせた前田さんだった。
すごく必死な形相で、わたしと政宗さんを交互に見る。
「どっどうしたんですか!? 前田さん!」
「悪ィ、急なんだけどこれから奥州出るよ。見つかっちまった」
突然の申し出に、わたしは思わず立ち上がった。
な、なんだってー?!
「えええええ!! …! もしかして追っ手にですか?!」
「ああ、そうなんだけど……っかしーなぁ、誰かが密告しない限り見つからないはずなんだけどなあ」
おかしいおかしいと言いながら前田さんはこちらをチラリと見やる。それがなんのことかわからず首をひねっていると、隣の政宗さんが口を開いた。
「そいつァ残念だったな、風来坊。アンタとは話してェことが山のようにあったんだが」
「……よく言うよ」
呆れたと言わんばかりの表情。またもやわからない。何、なんなのこの疎外感!
「あのーすいません、何が何やら」
「ああ、アンタは知らなくていーよ。…じゃ、俺行くわ。ありがとな、二人とも。すごく楽しかった」
前田さんのお礼に「いやいや」と恐縮するわたしの横で、「次は手土産持ってきな」とそれとなーく歓迎してくれる政宗さん。前田さんは微笑むと、わたしに向かって手招きした。素直にそちらへ駆け寄る。
廊下に出たわたしに、前田さんは 政宗さんには聞こえないように声をひそめた。
「ななし、ほんとにありがとな」
「いえいえ、むしろわたしこそ」
「独眼竜といつまでも仲良くしてな」
「大丈夫ですよ。前田さんが心配するほど、政宗さんはわたしに対して冷たくないですし」
「ああ、それはわかってるよ。でもさ、あんまりにも素直じゃないもんだから……。それでちょっと 妬かせただけでこの仕打ちだもんなあ。独眼竜って案外……」
「えっなんですか?」
「いや、なんでもない。とりあえずそれ渡して、仲直り頑張ってよ」
「任せてください!」
「それでさ、」
「はい?」
「もしアイツも右目も信じられなくなった時があったら、俺を呼んでほしいんだ。他の奴らじゃない、俺を」
その一言だけが、前田さんの顔から笑顔が消えた。真剣な目を見ていると、のみこまれそうだ。
どう返答すればいいかわからなくて、無意識のうちにコックリと頷く。それだけで前田さんに消えていた笑顔が戻った。
「まあ呼んでほしいっつっても、連絡手段ないけどさ! お互い想い合えば気持ちが伝わる恋人みたいに、仲間も想い合えば通じるってもんだよ」
「そうですね。わたし、前田さんと会えて良かったです」
へらっと笑うわたしに、前田さんは目を細めた。
けれどそれも一瞬で、すぐにニカッと笑った前田さんは政宗さんに「じゃ、またな」と声をかけ、わたしの肩に手のひらをポンと乗せたものの、一言だけ残してすぐに走っていった。
「俺こそ、ななしと会えて嬉しいよ」
「…………」
政宗さんじゃないけど、前田さんて、本当にお祭り男さんって感じだったな……。結局一泊しかしてないのに、たくさん騒いで相談にのってもらって…すごく仲良くなれた。
廊下から部屋へ戻りながら、
「…ていうか、前田さんて誰に命狙われてるんですかね」
「命は狙われてねえさ」
「えっ政宗さん、何か知ってるんですか?」
「気になるかい?」
ニヤリと妖しく笑う政宗さんに、慌てて首を横に振った。気になる、けど、聞いたらいけない気がする…!!
「…で、アンタは俺になんの用があるんだ?」
「あ」
いけないいけない、あやうく話がずれてしまいそうだった。
わたしは気を取り直すと拳をひらいて、手のひらに乗っているものを政宗さんに渡した。
「これ、わたしからのプレゼントです」
「こいつァ」
「愛の指輪です」
これは、前田さんに連れてこられた花畑の花をつかって作ったものだ。ダイヤとか飾りの部分には、うまく花が立てるように頑張った。
まあ本当はこういうのって男性から女性にするものだけどね! 何しろわたしと政宗さんには文字通りジェネレーションギャップがあるから、ここは目をつぶる。
「へェ」
「わたしの時代では、この指輪で愛を誓いあうんです」
まあ本当はこんな草花じゃなくてもっと頑丈な鉄使うんですけどね、と苦笑いするけど、政宗さんは何も言わずにその指輪をジッと見つめている。おい、無視かい。
ややあって、政宗さんは「Thanks.」と礼を述べた。それが嬉しくて、にやけながら両手の指をからめ、可愛らしく首の横に添えてみた。
「わたしは一生政宗さんを愛することを誓います、ウフ!」
「Ha! 何を今更」
「まったまたー恥ずかしがっちゃって! ささ、次はダーリンの番ですよ」
「...All right. 天下獲るまで他のモンに目を向けねェ」
「却下!!」
政宗さんは必死なわたしをケラケラと笑いながら、言った。
「おんなじモン誓っても、面白くねえだろう?」
「政宗様、先程までななしの奴がここに……おや、それは」
「……proposeの証だとさ」
「………(……今の政宗様は、誰にも見せられねェ…)」
前田の風来坊編完。なんか筆頭ほんとに根暗すぎる。