本編2
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翌日、朝ご飯をいただく為に広間へ向かいかけたわたしは、前田さんに何も伝えてないことに気づいた。誰かが伝えにいってるといいんだけど、いったん気づくとそれが気になってしょうがない。結局他力本願より自分で確かめに行こうということで、わたしは回れ右して前田さんの客室へ足を運ぶことにした。
「おはようございまーす。ななしです、入りますよ」
「おう!!」
やけに元気だな、と首をかしげながらふすまを開ける。そこには長い髪を高くくくり、夢吉ちゃんを腕に抱きつかせている前田さんが立っていた。もしやこの人、朝に強いタイプ? わたしまだ頭完全に起きてない状態なんだけど(あれっ逆にわたしが意外なの?)
前田さんはわたしを見やると、目を丸くして、それからプッと吹き出した。夢吉ちゃんも気のせいかこちらを見て笑っている。いや、気のせいじゃない。キキッて、鳴き声じゃない、笑ってやがる!! さ、猿に…猿に笑われた…!
「ははっなんだよその髪!」
「え?! 髪?」
「うん。つーかどんな寝方したらそんなはねっ毛になるんだ?」
この時代の鏡なんて持ってないわたしは、髪型をそんなに気にしたことがない。時折小十郎さんにガミガミ言われ水をぶっかけられ強制的に髪を直すことはあるけど。でもわたしの髪質はくせっけじゃないから、という理由もあるわけで。
まっさかー大げさじゃ、と半信半疑で頭をなでるようにしてみると、げっ、ほんとに逆立ってる。しかも寝かせても寝かせてもなおらない!! まずい、これでは小十郎さんに「歯ァくいしばれ!」と頭から放水を浴びせられる(あれっ歯くいしばらなくていいねこれ)
「ちょっ待って…あ、先に広間に行ってください! これから朝ご飯の時間なので」
「ああ、俺はいーよ」
「え?」
その口調は、遠慮とか建前上のわきまえとかいう部類ではなくて、本当にいらないから、というものだった。もしや既に食後?
「本当にいらないんですか?」
「うん。昨日たくさん食べ過ぎちゃったせいでまだ胃がもたれててさ。これから外で運動してくるよ」
「へえー」
「あ、そうだ」
前田さんはどこからか櫛を取り出しわたしの手におくと、
「いい人に会う前の女の子って、やっぱいーねぇ」
まるで老人のような口ぶりで微笑み、部屋を出て行ってしまった。……いや、なんか……孫娘を眺めるおじいちゃん…みたいな感じがしたんだけど。
でもそれは、つまり、
「……前田さんは、恋してないのかなあ?」
ぽつりともらすけど、誰も返答はしてくれない。そりゃそうだ、部屋の主は既に足音遠く去っている。ま、いいか。帰ってきたら今度は前田さんの恋バナで盛り上がろう。あのイケメンフェイス&ボイスで、女がいないわけがない!!
わたしの所持しているものよりも細かい前田さんの櫛。それをつかって髪をとかすと、不思議なことにさっきまで謀反を起こしていた一派がすっかり沈静化されている。おお、なんだこのスペシャル櫛!? やっぱスカスカの櫛じゃ駄目なんだろうか。新しい櫛買おうかなあ…でも前田さんくらいのやつは相当高そうだなあ…。
「よ、よし…! いざ、政宗さんのもとへっ!!」
何度もその部分をなでつけ確認しながら、わたしは広間へ走ったのだった。
「………ななしか。アンタも随分暇な奴だな」
「えへへー!」
ご飯を食べた後、小十郎さんは軍団を率い練兵場へ向かった。いつもは政宗さんが執務室から逃げないように見張ったり、わたしという名のゴキブリがカサカサと政宗さんに近づかないように脇差しに手をかけたりしてる小十郎さんだけど、今日は違う。なんでも甲斐の方々と近いうちに試合?というべきなのか、まあそういう親睦会をするみたいで。
そのおかげでわたしは今、政宗さんと庭でご一緒できてます。一緒といってもあちら様は木刀を手に汗をかきつつ素振り、わたしは縁側に腰掛けてうっとりと見惚れてるだけなんだけどね。その視線に気づいた政宗さんは振り向いて、わたしに気づいたようです。
「張り切ってますねー小十郎さん。まあそのおかげでお邪魔できてるわけですけど」
「HA! アイツがいなくてもいても、どうせここに来るんだろ?」
「オフコース! なぜなら、アイ! ラブ! ユー!」
わたしの熱狂的なラブコールを軽く鼻で笑うと(いいもん、慣れてるんだから…!!)、政宗さんは再び木刀に集中した。
その時の雰囲気、表情、目に、わたしはもう失神寸前。惚れ直すどころじゃない。もっともっと見ていたい、もっとずっとここにいて、とにかくこの場から一歩も動きたくない。変態的な言い方かもしれないけど、今の政宗さんを味わっていたい。
「ああー! 見つけたよ、ななし!」
「いい加減 空気応用しましょうよ」
え、何が?とわかってない顔で前田さんはわたしの横に立った。そしてわたしの視線の先をたどったのか、それとも気配を感じたのか、バッと庭先を見ると政宗さんに気づく。空気は読めないにしてもこの場にいて察したらしく、「あ、ごめん。邪魔しちゃった」と頭をかいた。
「ほんとですよー、何やってんですか恋のインストラクターのくせに」
「え、俺ってそんな肩書き持ってんの? まいった、照れるなあ」
「インストラクターって大体の意味わかります?」
「ぜんっぜん!!」
自信満々に胸を張る前田さんに、だめだこりゃと苦笑いする。
そして政宗さんに同意を求めようと庭へ顔を向けたのに、当の本人は素振りを再開していて、まったく声をかけさせてくれない。それどころか無表情のまま冷たくわたし達を突き放す。
「Do not make noise.(騒ぐな) ななし、そのお祭り男連れて運動でもしてきな」
「う゛………、はい…」
なぜかわたしまで退場させられてしまった。ていうか運動って、え、もしかしてわたし太ってきたのバレてる?! ち、ちくしょ…!!
庭から十分離れたところに来たわたしは、八つ当たり気味に前田さんをジロッとにらみ上げた。
「あの、前田さんは恋の天使ですか? それとも妨害しにきた悪魔ですか?」
ていうか完璧に八つ当たりですすみません、わたしも同罪です。
ところが前田さんは両手を目の前でパンと合わせると、それより深く頭を下げてしまった。
「ほんっとごめん!! どうしてもななしに教えたい場所があってさ、急いで探してたらまさか二人きりだとは思わなかったんだ」
まさかこんなに懸命に謝られるとは思わなかったので、わたしもすぐに両手を前に突き出し、「いやいや」と慌てて振った。
「そっそんなに頭下げないでください、わたしこそ八つ当たりしてるのに…! すいません」
「八つ当たりなんかしてないだろ、アンタが言うのはもっともだ。俺もアンタの立場だったら邪魔者とか思うよ」
ウンウンと頷きながら腕組みをする前田さん。その髪の茂み?から飛び出した夢吉ちゃんが、わたしの手に乗ると振っていたしっぽを止めて、頭をたれた。わ、わたしどんだけ影響与えてんの…?! いかん、こんないと麗しい小動物にしょんぼりは似合わないっ!
「もう気にしないでくださいっ、ほら、次いきましょ、次!」
何が「次」なのかよくわからないけど、とりあえず気分を入れ替えようととっさに口に出した言葉だった。それを察したのか元々そういうタイプなのか、前田さんはすぐに破顔して、力強く頷いた。
「さっすが! 独眼竜と夫婦(めおと)なだけあるね!」
「え、えへっ! そうですかあ~!?」
思わずニヒッと笑ってしまった、だって嬉しいんだもの!!
そんな時、前田さんが「あっ」と声をあげた。何かを思い出したように青空を見上げ、わたしを見下ろして口を開く。あ、そういえばわたしに何か用があったんだっけ。
「何か教えたい場所とかあるって……」
「うん! こっから遠くない場所にあるけど、山道だから歩くのはあんたにゃきついだろ。一頭借りれりゃ十分なんだけど」
「ああー…わかりました、ちょっと政宗さんに聞いてきますね!」
もしかしたら政宗さんがヤキモチ妬いて馬をかしてもらえないかもしれない、と思ったものの、あっさりさりとOKをもらった。ついでに帰ってこなくていーよ的なことも英語で言われたみたいだけどスルーしてやった。はん、ばかめ! それくらいでわたしが傷つくとでも?!
「さぁすがななし! ……ところであんた、涙目になって…」
「なってばぜん」
「…………」
先に乗馬した前田さんは肩頬をひきつらせながらも、うん、俺の気のせいだな、と頷いてくれた。そうそう、わたし、別に涙目とか、そんな、ショックとか…うけてないし!
またもや下がってしまったテンションを上げるために、前田さんの後ろに乗ったわたし(すごい、腕一本で引っ張り上げられた!)は人差し指以外をたたんだ右手を天に突き出した。
「いーんです、根暗旦那なんかほっときます! そして我々は素晴らしき世界へ旅立とうではありませんかっ!!」
「おう!! しっかりつかまってろよ、ななし!!」
「むげんのかなたへー! さあ、ゆくぞォォォォ!!」
「……なんか声野太くない?」
To infinity and beyond!
デズニシリーズは字幕より吹替が好きです