二人台本
第三者視点
囚人@ここは、とある刑務所。
死刑囚を約200人ほど収容している大きな刑務所である。
ここでは、死刑囚の為にカウンセリングが行われていた。
一枚の壁を隔てて、神父は死刑囚に最後の祈りを捧げ、死刑囚は神父に罪を告白する。
今日も一人、少し変わった死刑囚が神父の元を訪ねた。
神父「次の方、どうぞ。椅子にお座りください。」
囚人「……。」
神父「お名前は?」
囚人「……。」
神父「ジェームズさん?」
囚人「……名前、知ってるじゃないか。」
神父「(囚人の聞き覚えのある声に動揺をごまかす様に)……ええ、勿論。ただ、貴方と少し距離を縮めたいと思ったからですよ。」
囚人「仕事だから、だろ?」
神父「えぇ、まぁ。」
囚人「隠さねえんだな。」
神父「わざわざ隠すことでもありませんので。」
囚人「死刑囚相手、だからか?」
神父「そういう訳では無いのですが、よくこのような会話はするので。」
囚人「つまんねえやつだな。ふわあ(欠伸)」
神父「(欠伸がうつる)……ああ、失敬。」
囚人「寝不足か?」
神父「いえ、あなたのが移っただけですよ。こんな場所で欠伸をしたり冷静に返答している貴方こそ、死ぬ事への恐怖を感じない。壁越しからでも伝わってきます。」
囚人「俺はまあ、それ相応のことをした自覚があるからな。」
神父「それ相応、とは?」
囚人「分かってるくせに聞いてくるんだな。」
神父「えぇ。でも、深くは知りません。だからこそ、私は知りたい。」
囚人「知りたい?俺の話なんか知ってどうすんだよ。」
神父「どうもしませんよ。ただ、神父として祈りを捧げるだけです。」
囚人「へえ。……お前、そんな仕事して楽しいの?」
神父「それなりには楽しいですよ。死刑囚の心情を直接聞ける機会なんて早々ありませんからね。私は望んでこの仕事をしています。」
囚人「まあ話を聞くだけで金は貰えるんだからな、いいご身分だ。」
神父「(咳払い)もちろん、楽しいばかりではありませんよ。死刑囚は言わばこの世で最も低俗な肩書きを持っている連中ですから、まともにコミュニケーションも取れない方や暴れて逃げ出そうとする方、私を殺そうとしてくる方もいましたね。(少し寂しそうに言う)ただ環境的には昔と比べれば大分マシにはなりましたが。」
囚人「お前もここで働いているからには、都合上ワケアリってことなんだな。」
神父「面白い話ではありませんがね。そんなことより、あなたはなぜ犯罪をおかしたのでしょうか?」
囚人「あくまで身の上話はスルーなんだな……俺は、金もなくなって、生きる希望もなくなって、どうせ死ぬなら昔の罪もまとめて全部精算してから死んでやる、と思ってな。」
神父「昔の罪……あなたは他に、何か犯した罪があるとでも?」
囚人「はぁ……仕方ねえから話してやるよ、どうせ死ぬ運命だしな。俺の話も特に面白い訳じゃないが。」
神父「犯罪が絡んだ話に面白いも何も無いと思いますよ。」
囚人「はっ、屁理屈だけは達者なんだな。」
神父「それ程でも。あ、甘いものはお好きですか?」
囚人「甘いもの?マシュマロとかチョコレート、あといちご大福はよく食べるな。」
神父「それは良かった。それではこちらのマカロンをどうぞ。私は特にバームクーヘンが好きなのですが食べすぎで虫歯になってしまい……如何せんこれだけは辞められなく……仕事に持ち出してしまう程抜け出せなくて、お恥ずかしい限りです。」
囚人「奇遇だな。俺も食べすぎで虫歯になった。」
神父「……死刑囚と一緒だなんて、とんだ失態ですね。」
囚人「はっ、神父もまともに人間してて助かったよ。」
神父「さて、貴方にはこちらのチョコレート味を差し上げましょう。私はイチゴのマカロンを……。では、頂きます(マカロンを食べる)ふぅ……やはり、このお店のマカロンは美味しいですね。」
囚人「いただきます。(マカロンを食べる)……確かに、美味しい。」
神父「それで、あなたの罪とは?」
囚人「ちっ……ごまかせると思ったが仕方ねえ。マカロンに免じて話してやるよ。そうだな……それじゃあ、俺の双子の兄の話からしてやる。
……兄、ワイアットは非常に能力が優れた人間だった。
兄は、頭もよく、運動が出来て、性格も良く、友人も多く、人気者で、親にも愛されていた。
兄は俺に優しくしてくれたが、俺はそれを同情されていると感じていた。親にも相手されず、勉強も運動も兄と比べて全て劣っていたからな。」
神父「なるほど……だから殺してしまった、と。」
囚人「よく分かったな、その通りだ。
ずっとため続けてきた小さな劣等感が16歳になる頃には抑えきれなくなって……気づいたら俺は、兄を手にかけていた。人を殺すのは容易かった。軽ーく手を掛けただけで、ぽっくりだ。」
神父「(身勝手なことを言う弟に対しての怒りをかみ殺す感じで)殺すのは……楽しかったですか?」
囚人「楽しいもクソもなかった。唯一俺に優しくしてくれた人間だったからな。今だからこそ、能力で劣っていた俺に気取らず優しくしてくれた兄には感謝している。いや、生きている間に感謝するべきだったんだ……。」
神父「と、言いますと?」
囚人「……俺は、兄と比べて劣っていると同時に、憧れを抱いていた。だから俺は、弟を殺した。弟を殺して、俺が兄になった。
俺らは一卵性双生児だったから、顔や体格にほぼ違いはなかった。騙すことは容易だった。
だけどな……俺から見た兄の世界と、兄が見ていた兄自身の世界は、あまりにも違いすぎたんだ。」
神父「兄は、優れていなかったと?」
囚人「……俺は、兄を殺した次の日、学校へ行った。
でも、学校であいつは……虐められていた。友達なんて居なかった。
思い返せば、俺に友達のことは話してくれても、家にも呼ばず会わせては貰えなかった。休日になっても、誰かと遊ぶ気配すらなかった。
俺の兄は、人気者なんかではなかった。」
神父「あなたの兄は、あなたを騙していたんですね。」
囚人「騙していた……優しい嘘だったんだ。兄として威厳を保つための。
そして、兄を愛していたはずの両親は、俺が知らないところで兄に暴力を振るっていた。俺たち子供の存在が忌々しかったんだとよ。
兄はきっと、両親から俺を守ってくれていたんだろう。」
神父「そんなことも知らずに、あなたは兄を殺してしまった。」
囚人「……俺は、最低な弟だ、今も、昔も。(深みが欲しい、ひとりごとのように自分に言い聞かせるように)」
神父「「では」笑いをかみ殺す感じが欲しい)では、あなたは何故再度人を殺してしまったのでしょうか?」
囚人「……どうせ死ぬなら、誰かを道連れにしてやる、と思ってな。」
神父「死刑囚らしい理由ですね。」
囚人「どうだ、これで終わりだ。大して面白い話ではなかっただろ?」
神父「えぇ、全く。けれど、良い話が聞けました。」
囚人「良い話、ってなんだよ。これのどこがいい話なんだ。」
神父「……旧約聖書に登場する、世界で初めて殺人を冒したカインという名の男は、明確に死亡したとされる記述が無い。」
囚人「……(間をくれ)何が言いてえんだ?」
神父「あなたの兄は、生きていましたよ。」
囚人「……(間をくれ)は?」
神父「生きていました。」
囚人「生きて、た……?いや、まてよ、なんで、お前がそんなこと……!!」
神父「……なんせ、私があなたの兄であるワイアットだからですよ、ジェームズ。」
囚人「(全く理解できない感じでためてて欲しい、「は!?」もはっきりとではなく、消え入るような感じで)は!?俺の、兄……!!そんなわけ……だって、森に死体を捨てたはずじゃ……。」
神父「あなたは子供だったのでしょう。気を失ったことを死んだと勘違いしたのでしょうね。私はすぐに目覚めました。」
囚人「嘘、だろ……なんで……。」
神父「……私は、家には帰らなかった。学校の友達からいじめられ、両親には暴力を振るわれ、挙句の果てに弟である貴方に殺されそうになった。そんな私の居場所などどこにもなかった。」
囚人「お、俺はそんなつもりじゃ……。」
神父「(被せるように)そして私は教会に拾われた。しかし、教会でも私の扱いは酷いものだった。雑用ばかり任されて……居場所はあれど、安息の地ではなかった。
年月を経て、私は神父になった。そこで私はこの仕事を押し付けられた。教会の人達は私のことを嫌っていた為に、ちょうど良かったのであろう。死刑囚なんて誰も相手にはしたくなかっただろうからね。
けど私にとっては、相手もしてくれない常人よりも、話をしてくれる死刑囚と語っている方が居心地がよかった。」
囚人「知らなかった……。」
神父「(怒りに振るえて欲しい)知るわけないだろう。私の元でのうのうと生きていたようなあなたが。私にずっと、守られてきたようなあなたが。」
囚人「……。」
神父「(ためがほしい)私はあなたのことが……ジェームズがずっと、憎かった。」
囚人「ご、ごめんなさ……。」
神父「でも、ジェームズは私が居なくなってから苦労を味わい、挙句死刑が決まった。……当然の仕打ちだと思ったよ。私の恨みは、これでとうとう晴らされた。(少し笑いながら)」
囚人「……そもそも俺がどうして弟なんて分かるんだよ。」
神父「……匂い、かな。ジェームズはいつも独特な匂いがする。私が嫌いな匂いだ。(口ではそういいながら本当は好きだという裏腹な言い方が欲しい)」
囚人「……俺のことが、嫌いだったのか。」
神父「嫌いだった。嫌いだったが、血の繋がった兄弟である事に代わりはない。……私の生き甲斐は、せめてもの優しさをジェームズに振り撒き、仮初でも憧れの羨望で敬われることだけだった。それでも尚、ジェームズは私を裏切ったのだけれども。」
囚人「俺はずっと……そんなつもりはなかったんだよ…………俺は……。」
神父「イエスを裏切ったとされるユダは『マタイ福音書』では後に自らの行いを悔いて受け取った銀貨を神殿に投げ込んで首を吊って自殺している。しかし、『使徒言行録』ではユダは得た金で買った土地に真っ逆様に落ちて内臓がすべて飛び出して死んでいたそうだ。」
囚人「……さっきから、イエスだのなんだのしつこいな。回りくどく言ってねえで直接言えよ。」
神父「……私たちみたいだ、と思ってね。」
囚人「俺もまだ死んでねえし、お前もそもそも死んでねえだろ。」
神父「さぁ、それはどうかな。」
囚人「(考えてハッとする感じ)お前、まさか……!!」
神父「(時計を見るためにためるか、まさかに被せるように言う)……時間のようだ。さっさと立ち去りなさい。あなたの罪は暴かれた。二度とここへ来ることがないように。」
囚人「ワイアット!待ってくれ!まだ俺には話してないことが……!」
(扉が閉まるSEが入ると望ましい)
神父@数年後、ジェームズは最後に「ありがとう。」という言葉を残して死刑が執行された。
そのまた数年後、ワイアットが水死体で見つかった。自殺だったそうだ。
囚人@ここは、とある刑務所。
死刑囚を約200人ほど収容している大きな刑務所である。
ここでは、死刑囚の為にカウンセリングが行われていた。
一枚の壁を隔てて、神父は死刑囚に最後の祈りを捧げ、死刑囚は神父に罪を告白する。
今日も一人、少し変わった死刑囚が神父の元を訪ねた。
神父「次の方、どうぞ。椅子にお座りください。」
囚人「……。」
神父「お名前は?」
囚人「……。」
神父「ジェームズさん?」
囚人「……名前、知ってるじゃないか。」
神父「(囚人の聞き覚えのある声に動揺をごまかす様に)……ええ、勿論。ただ、貴方と少し距離を縮めたいと思ったからですよ。」
囚人「仕事だから、だろ?」
神父「えぇ、まぁ。」
囚人「隠さねえんだな。」
神父「わざわざ隠すことでもありませんので。」
囚人「死刑囚相手、だからか?」
神父「そういう訳では無いのですが、よくこのような会話はするので。」
囚人「つまんねえやつだな。ふわあ(欠伸)」
神父「(欠伸がうつる)……ああ、失敬。」
囚人「寝不足か?」
神父「いえ、あなたのが移っただけですよ。こんな場所で欠伸をしたり冷静に返答している貴方こそ、死ぬ事への恐怖を感じない。壁越しからでも伝わってきます。」
囚人「俺はまあ、それ相応のことをした自覚があるからな。」
神父「それ相応、とは?」
囚人「分かってるくせに聞いてくるんだな。」
神父「えぇ。でも、深くは知りません。だからこそ、私は知りたい。」
囚人「知りたい?俺の話なんか知ってどうすんだよ。」
神父「どうもしませんよ。ただ、神父として祈りを捧げるだけです。」
囚人「へえ。……お前、そんな仕事して楽しいの?」
神父「それなりには楽しいですよ。死刑囚の心情を直接聞ける機会なんて早々ありませんからね。私は望んでこの仕事をしています。」
囚人「まあ話を聞くだけで金は貰えるんだからな、いいご身分だ。」
神父「(咳払い)もちろん、楽しいばかりではありませんよ。死刑囚は言わばこの世で最も低俗な肩書きを持っている連中ですから、まともにコミュニケーションも取れない方や暴れて逃げ出そうとする方、私を殺そうとしてくる方もいましたね。(少し寂しそうに言う)ただ環境的には昔と比べれば大分マシにはなりましたが。」
囚人「お前もここで働いているからには、都合上ワケアリってことなんだな。」
神父「面白い話ではありませんがね。そんなことより、あなたはなぜ犯罪をおかしたのでしょうか?」
囚人「あくまで身の上話はスルーなんだな……俺は、金もなくなって、生きる希望もなくなって、どうせ死ぬなら昔の罪もまとめて全部精算してから死んでやる、と思ってな。」
神父「昔の罪……あなたは他に、何か犯した罪があるとでも?」
囚人「はぁ……仕方ねえから話してやるよ、どうせ死ぬ運命だしな。俺の話も特に面白い訳じゃないが。」
神父「犯罪が絡んだ話に面白いも何も無いと思いますよ。」
囚人「はっ、屁理屈だけは達者なんだな。」
神父「それ程でも。あ、甘いものはお好きですか?」
囚人「甘いもの?マシュマロとかチョコレート、あといちご大福はよく食べるな。」
神父「それは良かった。それではこちらのマカロンをどうぞ。私は特にバームクーヘンが好きなのですが食べすぎで虫歯になってしまい……如何せんこれだけは辞められなく……仕事に持ち出してしまう程抜け出せなくて、お恥ずかしい限りです。」
囚人「奇遇だな。俺も食べすぎで虫歯になった。」
神父「……死刑囚と一緒だなんて、とんだ失態ですね。」
囚人「はっ、神父もまともに人間してて助かったよ。」
神父「さて、貴方にはこちらのチョコレート味を差し上げましょう。私はイチゴのマカロンを……。では、頂きます(マカロンを食べる)ふぅ……やはり、このお店のマカロンは美味しいですね。」
囚人「いただきます。(マカロンを食べる)……確かに、美味しい。」
神父「それで、あなたの罪とは?」
囚人「ちっ……ごまかせると思ったが仕方ねえ。マカロンに免じて話してやるよ。そうだな……それじゃあ、俺の双子の兄の話からしてやる。
……兄、ワイアットは非常に能力が優れた人間だった。
兄は、頭もよく、運動が出来て、性格も良く、友人も多く、人気者で、親にも愛されていた。
兄は俺に優しくしてくれたが、俺はそれを同情されていると感じていた。親にも相手されず、勉強も運動も兄と比べて全て劣っていたからな。」
神父「なるほど……だから殺してしまった、と。」
囚人「よく分かったな、その通りだ。
ずっとため続けてきた小さな劣等感が16歳になる頃には抑えきれなくなって……気づいたら俺は、兄を手にかけていた。人を殺すのは容易かった。軽ーく手を掛けただけで、ぽっくりだ。」
神父「(身勝手なことを言う弟に対しての怒りをかみ殺す感じで)殺すのは……楽しかったですか?」
囚人「楽しいもクソもなかった。唯一俺に優しくしてくれた人間だったからな。今だからこそ、能力で劣っていた俺に気取らず優しくしてくれた兄には感謝している。いや、生きている間に感謝するべきだったんだ……。」
神父「と、言いますと?」
囚人「……俺は、兄と比べて劣っていると同時に、憧れを抱いていた。だから俺は、弟を殺した。弟を殺して、俺が兄になった。
俺らは一卵性双生児だったから、顔や体格にほぼ違いはなかった。騙すことは容易だった。
だけどな……俺から見た兄の世界と、兄が見ていた兄自身の世界は、あまりにも違いすぎたんだ。」
神父「兄は、優れていなかったと?」
囚人「……俺は、兄を殺した次の日、学校へ行った。
でも、学校であいつは……虐められていた。友達なんて居なかった。
思い返せば、俺に友達のことは話してくれても、家にも呼ばず会わせては貰えなかった。休日になっても、誰かと遊ぶ気配すらなかった。
俺の兄は、人気者なんかではなかった。」
神父「あなたの兄は、あなたを騙していたんですね。」
囚人「騙していた……優しい嘘だったんだ。兄として威厳を保つための。
そして、兄を愛していたはずの両親は、俺が知らないところで兄に暴力を振るっていた。俺たち子供の存在が忌々しかったんだとよ。
兄はきっと、両親から俺を守ってくれていたんだろう。」
神父「そんなことも知らずに、あなたは兄を殺してしまった。」
囚人「……俺は、最低な弟だ、今も、昔も。(深みが欲しい、ひとりごとのように自分に言い聞かせるように)」
神父「「では」笑いをかみ殺す感じが欲しい)では、あなたは何故再度人を殺してしまったのでしょうか?」
囚人「……どうせ死ぬなら、誰かを道連れにしてやる、と思ってな。」
神父「死刑囚らしい理由ですね。」
囚人「どうだ、これで終わりだ。大して面白い話ではなかっただろ?」
神父「えぇ、全く。けれど、良い話が聞けました。」
囚人「良い話、ってなんだよ。これのどこがいい話なんだ。」
神父「……旧約聖書に登場する、世界で初めて殺人を冒したカインという名の男は、明確に死亡したとされる記述が無い。」
囚人「……(間をくれ)何が言いてえんだ?」
神父「あなたの兄は、生きていましたよ。」
囚人「……(間をくれ)は?」
神父「生きていました。」
囚人「生きて、た……?いや、まてよ、なんで、お前がそんなこと……!!」
神父「……なんせ、私があなたの兄であるワイアットだからですよ、ジェームズ。」
囚人「(全く理解できない感じでためてて欲しい、「は!?」もはっきりとではなく、消え入るような感じで)は!?俺の、兄……!!そんなわけ……だって、森に死体を捨てたはずじゃ……。」
神父「あなたは子供だったのでしょう。気を失ったことを死んだと勘違いしたのでしょうね。私はすぐに目覚めました。」
囚人「嘘、だろ……なんで……。」
神父「……私は、家には帰らなかった。学校の友達からいじめられ、両親には暴力を振るわれ、挙句の果てに弟である貴方に殺されそうになった。そんな私の居場所などどこにもなかった。」
囚人「お、俺はそんなつもりじゃ……。」
神父「(被せるように)そして私は教会に拾われた。しかし、教会でも私の扱いは酷いものだった。雑用ばかり任されて……居場所はあれど、安息の地ではなかった。
年月を経て、私は神父になった。そこで私はこの仕事を押し付けられた。教会の人達は私のことを嫌っていた為に、ちょうど良かったのであろう。死刑囚なんて誰も相手にはしたくなかっただろうからね。
けど私にとっては、相手もしてくれない常人よりも、話をしてくれる死刑囚と語っている方が居心地がよかった。」
囚人「知らなかった……。」
神父「(怒りに振るえて欲しい)知るわけないだろう。私の元でのうのうと生きていたようなあなたが。私にずっと、守られてきたようなあなたが。」
囚人「……。」
神父「(ためがほしい)私はあなたのことが……ジェームズがずっと、憎かった。」
囚人「ご、ごめんなさ……。」
神父「でも、ジェームズは私が居なくなってから苦労を味わい、挙句死刑が決まった。……当然の仕打ちだと思ったよ。私の恨みは、これでとうとう晴らされた。(少し笑いながら)」
囚人「……そもそも俺がどうして弟なんて分かるんだよ。」
神父「……匂い、かな。ジェームズはいつも独特な匂いがする。私が嫌いな匂いだ。(口ではそういいながら本当は好きだという裏腹な言い方が欲しい)」
囚人「……俺のことが、嫌いだったのか。」
神父「嫌いだった。嫌いだったが、血の繋がった兄弟である事に代わりはない。……私の生き甲斐は、せめてもの優しさをジェームズに振り撒き、仮初でも憧れの羨望で敬われることだけだった。それでも尚、ジェームズは私を裏切ったのだけれども。」
囚人「俺はずっと……そんなつもりはなかったんだよ…………俺は……。」
神父「イエスを裏切ったとされるユダは『マタイ福音書』では後に自らの行いを悔いて受け取った銀貨を神殿に投げ込んで首を吊って自殺している。しかし、『使徒言行録』ではユダは得た金で買った土地に真っ逆様に落ちて内臓がすべて飛び出して死んでいたそうだ。」
囚人「……さっきから、イエスだのなんだのしつこいな。回りくどく言ってねえで直接言えよ。」
神父「……私たちみたいだ、と思ってね。」
囚人「俺もまだ死んでねえし、お前もそもそも死んでねえだろ。」
神父「さぁ、それはどうかな。」
囚人「(考えてハッとする感じ)お前、まさか……!!」
神父「(時計を見るためにためるか、まさかに被せるように言う)……時間のようだ。さっさと立ち去りなさい。あなたの罪は暴かれた。二度とここへ来ることがないように。」
囚人「ワイアット!待ってくれ!まだ俺には話してないことが……!」
(扉が閉まるSEが入ると望ましい)
神父@数年後、ジェームズは最後に「ありがとう。」という言葉を残して死刑が執行された。
そのまた数年後、ワイアットが水死体で見つかった。自殺だったそうだ。