このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

刀剣乱舞(女性審神者の本丸)


ぶっちゃけ依頼札が足りないor所持枠を増やした分だけやって来る大倶利伽羅さんと光忠さん(数え切れない)なので、しれっとその辺りの話も入れられたら良いなあ、とか思っていたり。
……依頼札が本当に足りないんですけど、厄介な事にレベルがね。大倶利伽羅さん(一振り目)のレベルが66になりまして、依頼札が入手出来る《戦国の記憶(京都・椿寺)》の制限レベルが68以下。
と言う事で、今回は一振り目の光忠さん視点になります。
第1部隊、第2部隊、第3部隊の隊長と副隊長が出てきます。


↓↓


「さて、と。こんな物かな?」


何時もは第1部隊に所属して前線を駆けている僕だけど、今日は久し振りに主達と一緒に厨で間食用のお菓子作りに精を出していた。
刀として生まれてきた僕だけど、人間の真似事が出来るのも中々に貴重な体験だよね、と、僕自身は結構気に入っていたりする。
短刀君達も喜んでくれているし、何よりも伊達家で束の間でも一緒に暮らしていた倶利ちゃんや、他の大倶利伽羅達も心なしか楽しみにしてくれているみたいだし、何時もは余り表情を崩さない倶利ちゃん達が仄かに柔らかくなる。柔らかくなった表情に合わせた唇から、「美味い」ってぽつりと漏らしてくれる時なんて、もう嬉しいなんてもんじゃない。
此れって作り手として最高に格好良いと思うんだよね!
だから非番の時、僕は率先して主達が籠りがちな厨に足を踏み入れては色々と手伝いつつ、料理の腕を磨いている。

因みに、厨で料理を率先して作っては覚えて腕を磨いているのは、歌仙君や堀川君や…あ、あと伽羅ちゃんもそうだし、江雪さんも意外と上手だったりするかな。
江雪さんと伽羅ちゃんは第2部隊の隊長と副隊長だからか、遠征から帰った後なんかは良く二振りで一緒に居るって主や”二振り目の僕”が言っていたから、きっと遠征の相談をしながら作っているんだろうと思う。
”二振り目の僕”は何処か寂しそうに笑っていたけれど、まあ、この辺りは僕と”三振り目の僕”は触れない様にしている。
だって、ね。下手に刺激を与えて、伽羅ちゃんを傷付けないとは限らないじゃ無いか。
吹っ切れた様なら構わないかも知れないけれど、倶利ちゃんも伽羅ちゃんも、勿論”三振り目の倶利伽羅”とその他眠っている大倶利伽羅達も、僕にとっては可愛い弟分みたいな存在なんだ。幾ら”二振り目の僕”であろうとも、否、”僕だから”こそ許せない。
何だか話が逸れてしまったけれど、取り敢えず完成した本日の”おやつ”をお盆に乗せて、倶利ちゃん達の部屋に持って行く事にした。


───…確か、蜂須賀さんも来てるって言っていたよね。


作っている最中に通り掛かった倶利伽羅がそんな事を言っていたから、第1部隊の隊長と副隊長で今後の進軍方向を話し合っているのかも知れない。
蜂須賀さんが来てるから、いっそ洋菓子でも良かったかも知れないけれど、倶利ちゃん達の好みに合わせて”ずんだ餅”を作っていた最中に聞いたから、申し訳無いけど”ずんだ餅”で我慢して貰おう、と思いながら部屋に入った僕を、蜂須賀さんと江雪さんが迎え入れてくれた。


《第○回・隊長会議》


「あれ?今日は大所帯だね!」


倶利ちゃん達の部屋に足を踏み入れると、蜂須賀さんと江雪さん以外に石切丸さんと長谷部君まで来ていて、此れは足りないかな?
厨からもう少し”おやつ”を取りに戻った方が良いね。と、思いながら伝えると「否、その必要は無いよ」と蜂須賀さんが笑いながら止めてくれた。


「え、それはどうして?」

「大倶利伽羅…否、伽羅が準備してくれているからだよ。倶利伽羅は流石に増えすぎだからって、主が気付かない内に減らして来るって錬結部屋に向かったけどね」

「あ、あー…確かに。僕達が出陣する度に大倶利伽羅と”僕”が来てくれるもんね」

「数えるのも面倒な程に来ているから、もう付いて来るなと言っても、其れでも付いて来るからな。倶利伽羅もそろそろ減らしても構わないだろう、と言っていたし俺も同じ意見だから任せてある」

「うん、だよね」


僕の問いに蜂須賀さんが答えてくれて、倶利ちゃんもまた増えすぎている僕達に関して思っている事を話してくれた。確かに今の状況は圧迫している何て物じゃない。
と言うか、『レア太刀』と呼ばれる江雪さんが鍛刀されて顕現された事が奇跡だと言いたくなる位に鍛刀しても先ず顕現されないからか、出陣する度に僕達が競い合う様にやって来ている状態だったりする。
数え切れない位の僕達が来る位ならば、槍とか薙刀とか来てくれないかな…と呟いた僕に「気長に待つしか無いと思うよ。と言うか、君達にとって居心地でも良いのかな?」と蜂須賀さんに言われた時の虚しさは今でも残っていたりするんだけどね。


「そう言えば…君達は此れで何振り目になったのかな?」


お茶を飲みつつ尋ねて来た石切丸さんに「えっと」と思い出そうとする僕と、難しい顔をしたまま考え込んでいる倶利ちゃん。あ、倶利ちゃんも覚えて無いんだね。
内心ホッとしていた僕に、「……大倶利伽羅は20振り、燭台切は10振り目ですよ」と江雪さんが答えてくれる。


「…待って、どうして江雪さんが知ってるの?」

「………伽羅が申しておりましたよ。主と共に手入れを手伝っているから自然と覚えてしまった…と」

「あ、それが理由」


江雪さんの言葉に『うん、減らしてしまおう』と強く思った。主、僕達だけで30振りは酷すぎるよ。君ってば毎日手入れしてくれているじゃないか、負担が掛かり過ぎてるよ!
そう強く思っている僕の横で「倶利伽羅、見付かっていないだろうな?」と、倶利ちゃんがぽつりと呟いている。


「うーん…毎日手入れを行ってくれる様な主だからね。減った時点で気付かれると思うから、先ずは説得するべきじゃ無いかな?」

「聞いてくれるとは思わないがな…だが、圧迫しているのは事実だ。何か良い方法は無いか、蜂須賀?」

「そうだね…主の哀しむ顔は見たく無いから俺も考えてみるよ」


やっぱり第1部隊の隊長と副隊長としてずっと一緒にやって来たからだろう。倶利ちゃんが相談する相手は蜂須賀さんが先ず最初だったりで、嬉しい反面少し寂しいなとか思ってしまう。
勿論、この件に関しては僕に相談されても何も思い浮かばないんだけどね。
そんな話をしていると、「……心配は有りませんよ」と江雪さんが湯呑みを少し傾けながら教えてくれた。


「……手入れを手伝いながら、伽羅があの方に話しておりましたよ。不安になる事は無い、貴女の想いは分かっている、と。むしろ、この力が他の者の糧となるならば本望だ…とも」

「…成程、ならば倶利伽羅君は暫く戻って来れなさそうだね。其れでも主は哀しんでいるだろうから、慰めてからで無ければ彼も戻れ無いだろう」

「ええ……おそらく」


江雪さんの説明を受けて、石切丸さんが「主はどの刀を錬結に使う時も哀しんでは涙を流される様な方だ。君達も胸が痛むのでは無いかな?」と倶利ちゃんに尋ねている。
「そうだな」と倶利ちゃんも頷いた。「近侍の辛い所でも有るね」と蜂須賀さんも苦笑を漏らしている。
ああ、そうだよね。と、僕は思いながら空になっていた湯呑みにお茶を注ぎ、順番に彼等の前に差し出していった。


「嗚呼、主は本当に慈悲深いお方だ…!この長谷部、主にお仕え出来る事が何よりも幸せです…!」


長谷部君は幸せそうに此処には居ない”主”の姿を思い浮かべながら瞳をキラキラと輝かせている。
長谷部君は本当に今の主が大好きだよねって思う。加州君も主に可愛がって貰いたい!って口癖みたいに言っているから、本当にあの異国から来た”主”の彼女が大好きなんだろうなって、見ていて微笑ましくなる。
勿論、僕も主の事は好ましく思っているし、物静かだけど、声は可愛らしい小鳥の鳴き声みたいで、主の姿にとても似合う声質だと思うし、穏やかに微笑んでいると僕も心が落ち着いて来る。
倶利ちゃんも倶利伽羅も、主と一緒に居るのは苦痛では無いみたいだし、と言うか、大倶利伽羅達の中では伽羅ちゃんが一番”主”と仲良しなんだなあ…と分かっただけでも、何だか嬉しいなって僕は嬉しかった。


そんな事を話しながらお茶を飲んでいると、半ば疲れた表情を浮かべた倶利伽羅がお盆に”お菓子”を沢山入れた容器を乗せて戻って来た。
「あれ?錬結部屋じゃ無かったの?」と尋ねると、「伽羅と交代した」───何て、何ともまあ…酷い答えが返って来る。


「またか……おい、倶利伽羅。伽羅が居ないと話し合いにならない」

「その必要は無いだろう。第2部隊の隊長である江雪は此処に居るし、国重も呼んである。伽羅には後で俺達が説明すれば良い筈だ」

「いや……そんな問題じゃ無いよね?」

「何がだ、燭台切。俺はアイツにあれだけ泣かれたらどう言えば良いのか分からない。何よりも伽羅から付いていてやるから此方へ行け、と言われたんだ。他にどうしろと?」

「あ、伽羅ちゃんがそう言ったんだね。うん…伽羅ちゃんと主って本当に仲が良いみたいだね。ちょっと驚いたよ」


倶利ちゃんと倶利伽羅の話を聞いて、思わず追及する様な形で倶利伽羅に尋ねてしまったけれど、倶利伽羅は淡々と詳細について説明してくれた。


「……湯が足りなくなったな。蜂須賀、済まないが湯を貰って来るから少し休んでいてくれ。光忠、アンタはちょっと付いて来い」

「え?僕?」


倶利伽羅の説明を聞き終わったら、今度は倶利ちゃんが僕の腕を引っ張る。確かにお湯が無くなってしまった様だ。この後、話し合いをするなら心許ない気がする。
「オーケー、付いて行くよ」と立ち上がると、「序でに燭台切用の資料も持って来ると良いんじゃ無いかな?」と蜂須賀さんが倶利ちゃんに話している。
「そうだな…そうする」と倶利ちゃんも言っているから、厨の前に執務室かな?
と思いながら付いて行く僕の予想を裏切り、倶利ちゃんは何故か僕の部屋を開けた。


「あれ?其処は僕の部屋だよ?」

「知っている。だが今は此処で良い」


どう言う事だろう?
疑問を浮かべる僕に「正確にはアンタじゃなくて、二振り目のアンタに用が有る」と倶利ちゃんは真っ直ぐ”二振り目の僕”を見詰めていた。
今は人の姿にはなっていない”二振り目の僕”。倶利ちゃんはそんな”彼”を手にしながら呟いた。


「伽羅はアンタに言わないだろうからな。だから俺からアンタに言う事にした…倶利伽羅も納得済みだ。知らないのはアンタと伽羅だけだな……だが」


「そうしなければ埒が明かない」と続けた倶利ちゃんを見ていて、本当は不本意なんだろうな。そう思ったけれど、其れでも平行線のままな二振りを見ていると良くないなって事は僕にだって分かるから。

他の刀が入って来ない様に、と。
僕はそっと部屋の戸を閉めた。


「先ずハッキリ言っておくぞ。アンタにはそう見えないかも知れないが、伽羅がアイツ…審神者の傍に居るのは、『似ている』と思っているからだ。その中に色恋の類いは含まれていない。あくまでも兄妹の様な、肉親に対して思っている親愛の様な感情だと言う事を伝えておくぞ」


淡々とだけどハッキリと告げる倶利ちゃんの言葉を聞いて、「分かっているよ」と”二振り目の僕”が姿を見せた。分かっているけど、感情が追い付いていないらしく「でも…御免ね。まだ消化出来ないみたいなんだ」とその姿は今にも消えそうな程に儚くて、”二振り目の僕”の哀しみが痛い位に伝わって来る。


「倶利ちゃんと倶利伽羅が心配してくれているのは分かっているよ。僕も早く吹っ切れてしまいたい。”主”の事を僕だって嫌っている訳じゃ無いからね……でも、それ以上に伽羅が大切で、愛しいんだと思うんだ。伽羅に拒絶されるのが苦しい、哀しい…でも、そう思うのは変だとも思っている。だって僕は”刀”なんだから」

「燭台切……」

「矛盾しているよね?…”刀”として在る事が僕の全てなのに、それ以上に伽羅が愛しいと思ってる。その気持ちが膨らみ過ぎて、何時か壊れてしまうんじゃ無いかって思うのが怖いんだ」

「だから出て来ないのか?」

「……うん。倶利ちゃん達だけじゃなく”主”が待ってくれているのは良く分かっているんだけどね。伽羅を責めてしまうかも知れない。折角、皆と打ち解けて来ている伽羅に依存し過ぎてしまうかも知れないって、そう思うと怖くて怖くて堪らないから」


かたかたと震える”二振り目の僕”は、矛盾している気持ちと戦い続けているけれど、もう疲れて来ているんだろうなと僕は思った。
『刀』である自分を誇る余りに、『人間』の様に伽羅ちゃんを慈しむ感情を可笑しいと拒絶している。でもそれ以上に、伽羅ちゃんを愛しいと思う余りに、主に対しても伽羅ちゃんに関わる”全て”に対して嫉妬しては嫌悪してしまっている。───…それが辛くて苦しい、と必死に”彼”は耐えているんだろう。


「ならば言えば良い。伽羅に、アンタの気持ちを言えば良い。但し一度にぶつけるな。順番に、一つずつ、確実に伝わる様に伽羅に伝えろ…伽羅は決してアンタを拒絶しない」

「なんで、そんな事が言い切れるの?」

「俺もまた伽羅と同じ”大倶利伽羅”だからだ。固体差が有るのは事実だが、根本は同じ存在だぞ……だから信じろ。”俺”はアンタを拒絶したりなんかしない」

「倶利ちゃん……」

「早く消化するなり何なりして表に出てこい。アンタが出てきたら、第2部隊の隊長か副隊長になって貰いたいと江雪が言っていた。伽羅も其れを待っている」

「伽羅…が?」


”二振り目の僕”が驚いた顔を見せながら倶利ちゃんに尋ねている。「そうだ」と言うと、”彼”は初めて幸せだと伝わって来る様な微笑みを見せた。
嗚呼、”僕”ってこんなに嬉しそうに笑えるんだ。そう思うと気恥ずかしくなってしまうけれど、子供の様に笑う”彼”は酷く可愛らしかった。


「なら、早く消化させなくてはね……倶利ちゃん、有り難う」

「アンタに何か有ったら伽羅が哀しむからな。吹っ切れるなり何なりして、光忠の代わりにアンタも内番でもこなしてくれる様になってくれ」

「あはは、確かにね。このまま格好悪い所ばかり見せたく無いから、僕なりに考えてみるよ」


其処まで言うと、”二振り目の僕”は刀に戻っていった。倶利ちゃんは”彼”を元の位置へと戻すと、「光忠、待たせたな」と僕の方へと顔を向ける。


「いや、むしろ助かったよ。僕も”三振り目の僕”も吹っ切れてくれるのを待つしか無いかなって思っていたから」

「…だろうな。アンタ達がどうこう出来る問題では無い。だから言っておこうと思った。もう行くぞ」

「ははは、オーケー!今度こそ執務室か厨かな?」

「そうだな。先に執務室へ行く、その後は厨だ。その頃には伽羅も戻っているだろうからな」

「それで今日の会議は何を題材に話し合うんだい?」

「……資料を読めば分かる」


其れだけ話すと倶利ちゃんは何も話さず、執務室で僕用の資料を手渡すと、厨でお湯を貰ってから部屋へと歩を進めた。勿論、資料を渡してくれる位だから僕が居ても良いのだろう。
当然、僕も倶利ちゃんに付いて行った。むしろ「貰ったお湯は僕が持つよ?」と、倶利ちゃんが持っていたポットを持とうと腕を伸ばしたら、「アンタは資料を持っているから俺が持つ。当然だ」何て断られて、「それなら倶利ちゃんが資料を持てば良いよ!そっち重いでしょ?」と暫く言い合いになりながら部屋に戻ったのだけれど。


部屋に戻ると伽羅ちゃんも既に戻っていて、「済まない。待たせたな」と倶利ちゃんは伽羅ちゃん達に声を掛けてから腰を下ろした。
僕は長谷部君の隣を空けてくれていたらしいから其処に座ると、倶利伽羅がお茶を回してくれて「有り難う」とお礼を伝えると、「アンタは巻き込まれただけだからな」と、此れが彼なりの侘び代わりなんだと分かって面白かった。やっぱり大倶利伽羅達は皆、良い子で優しいと思う。それ以上に不器用な子達だとも思うけどね。


「さて、全員揃った事だし始めても良いかな?」


蜂須賀さんが僕達に同意を求めて来る。先に資料を読んでいた皆が頷く横で、漸く目を通す事が出来た資料に僕もまた視線を傾けた。
その文字を僕の目が辿っていったのを見計らった倶利ちゃんが、第1部隊の隊長として言葉を発する。


「『数珠丸恒次』が鍛刀で顕現されるかも知れない、と政府より通達が来た。しかしこの先ずっと、と言う訳では無いらしい」

「第1部隊は此れまで練度優先で厚樫山に向かっていたけど、鍛刀で顕現となると『依頼札』が兎に角必要になるからね。だから俺達は明日から《京都・椿寺》へ向かおうと思っているよ」

「だが、そうすると問題が生じてくる」

「問題?」


一体何が問題なのだろう?
疑問を抱いた僕に、倶利ちゃんは困っている様な表情を浮かべて「…練度の制限だ」と教えてくれた。
勿論、倶利ちゃんの言葉に僕達全員が固まった。確かにそうだ。
第1部隊は特に今まで無理はしない範囲で、とは言っても基本的に《進軍出来る範囲を増やす為に練度を上げる》事を最優先に出陣していた。
何だかんだで僕の練度は51。一番最後に第1部隊に加わった和泉守君でさえも練度は47だった筈だ。そんな状態だから、隊長をこなしては常に桜が舞っている倶利ちゃんなんて確か……。


「……《京都・椿寺》の練度制限はどうなっているのですか?」

「練度制限は68以下だよ。幾ら平均68以下だとは言っても、まだまだ実戦に乏しい刀を第1部隊に組み込む訳にはいかないからね」

「その辺りを心配すると言う事は、君達の中に練度制限に掛かりそうな者が居る…と言う事かな?」


江雪さんの質問に蜂須賀さんが答えて、その答えを聞いた石切丸さんが思案気味な表情を浮かべながら尋ねている。


「先ずは俺だ…練度は66。もう直ぐ67になるから時間の問題だな」

「その次は俺だね、練度は62。まあ今回の期間中に一気に上がる事は無いとは思うけど、其れでも厳しいとは思うよ」

「やはり君達が練度制限に掛かりそうなのだね」


ふう…と溜め息を溢す石切丸さんを見て、本当は良い話だった筈なんだけどね。と、僕は苦笑した。江雪さんも考え込んでいる。
そう言えば江雪さんは『和睦』で解決してくれるならばその方が良い筈だ、と考えている様な刀だった筈だよね。
だから確か遠征ならば、と第2部隊の隊長を引き受けてくれた筈…と思い出した僕は、江雪さんの方へと視線を傾けた。


「……鍛刀で顕現されるかも知れない期限は有限である事は聞きましたが、その期限はどの位なのですか?」

「確か百時間、だと書いて有ったと思う。政府からの通達を俺も読んだから、それ位で間違いは無い筈だ」

「そうですか……百時間…」

「江雪、アンタが出陣したくない気持ちは俺も良く分かっている。だが、今回は協力しても良いんじゃ無いか…と俺は思う」

「……伽羅」

「倶利達だけに任せる訳にはいかない。俺達も《大坂冬の陣》辺りならば何の問題は無い筈だ、遠征から戻って来た後に行けそうなら少しでも依頼札集めに出陣してみないか?」

「……依頼札集め、だけで良いのですか?其れだけが目的でも?」

「勿論だ。敵将を探しに行く訳じゃ無い、狙いはあくまでも依頼札だ」


資料を先に読んでいた伽羅ちゃんが江雪さんに説明しつつも説得している。話を聞いていて、確かに江雪さん達の部隊ならば《大坂冬の陣》が丁度良いと僕も思うよ。
その説得の仕方ならば、江雪さんも例え不本意であろうとも頷いてくれる筈。
そう心配になりながら見守る僕には気付かず、江雪さんは「そうですね…あの方が喜ばれるのなら、依頼札集めも予定に組み込んでおきましょう」と穏やかに微笑んでいる。


「全ては主の為、この長谷部…練度は満たない身ですが、依頼札を集めてみせましょう!」


力強く意思表明をしてみせたのは長谷部君だ。確かに長谷部君の練度は満たないなんて物じゃない。其れでも彼ならば直ぐに実力を取り戻していくだろうけれど。


「ならば第3部隊も同じく《大坂冬の陣》に行ける位には練度を上げた方が良いね。行けなくは無いが、怪我をしたら直ぐに引き返す事を強いられてしまうし、暫くは役には立たないだろうけれど、此方も出来る限り協力させて頂くとするよ」

「石切丸…有り難う!そう言って貰えると助かるよ!」

「なに、倶利伽羅君も主を喜ばせたいと思っている様だしね。其れに第3部隊は皆、主を喜ばせたい一心で遠征を繰り返してくれている……何も問題は無いよ」


第3部隊の隊長である石切丸さんと蜂須賀さんもまた話が盛り上がっているみたいだ。どうやら今回は比較的円滑に話が纏まってくれたらしい。
倶利ちゃんは安心した表情を浮かべると、僕が作った”ずんだ餅”を漸く口に入れている。
相変わらず綺麗な持ち方、食べ方で咀嚼している倶利ちゃんは”ずんだ餅”が本当に大好きなんだろうと思う。
目を細めて食べてる姿はとても無邪気で可愛らしい、なんて思ってしまう。


───ああ、また作ってあげたいな。


そう思ってしまう位には。
明日からはまた大変な毎日になりそうだけど、『数珠丸恒次』さんを顕現させるべく、依頼札を集める為の出陣を繰り返して行かなくちゃね!
と、僕は資料でしか見た事のない『数珠丸恒次』さんの姿に思いを馳せた。


勿論、鍛刀しても先ず短刀、脇差、打刀以外の刀が顕現されていない様な”主”だから、最後まで諦めずに依頼札を集めていこうぜ!
と言う話なんだけど、ね。

其れでも練度上げを念頭に入れている倶利ちゃんや蜂須賀さんにとっては、自分達のせいで僕達に経験値が入らないのが悔しいんだろうなって分かるから、そう言う所でも第1部隊の隊長と副隊長なんだろうなって思うけれど……。


「あ、茶柱だ」


───何か良い事が有ると良いなあ…。


明日からの出陣方向や全員の練度を確認しながら話し合っている各々の隊長と副隊長を眺めながら、僕は倶利伽羅が持って来てくれていた容器から煎餅を一枚手に取り、其れに歯を立てた。


(終)


地味に依頼札を集めるべく周回してますが、数珠丸恒次さんが来てくれる気がしておりません(笑)
と言うか未だに降臨されていません。凄い!



7/7ページ
スキ