刀剣乱舞(女性審神者の本丸)
一振り目の大倶利伽羅さん(倶利ちゃん)、二振り目の光忠さん、三振り目の光忠さんの視点は書きましたし、その中でもちらほら…と出てきた二振り目の大倶利伽羅さん(伽羅ちゃん)。
一振り目の倶利ちゃん曰く、「疲弊しがちだった俺を見るに見兼ねて出てきた」「俺よりも素直」「疲れているだろうに…大丈夫か?」
二振り目の光忠さん曰く、「どの大倶利伽羅も大切にしたいと思っているけど、愛しいのは伽羅だけ」「どうして変わってしまったの?」「「馴れ合うつもりは無い」んじゃ無かったの?」「僕は君の所に帰って来たかったんだ」
三振り目の光忠さん曰く、「不安定な二振り目の僕に振り回されていて可哀想」「上手く落ち着いてくれれば良いんだけどね」
ですが、そんな二振り目の大倶利伽羅さんこと『伽羅ちゃん』自身は、どう思っているのか?
夫々の彼等を書きながら纏まって来た、伽羅ちゃんの心情を書いてみます。
《みつくり》の筈が、伽羅ちゃん→審神者みたいな状況になっていますが、『主』への気持ちと言う感じであり、CPでは御座いません。
当方宅の三振りの大倶利伽羅さんは多種多様ではありますが、『主(審神者)』に対してはまだ好意的です。
一振り目(倶利ちゃん)は蜂須賀さんの教育の賜物で、諦め気味かつ手が掛かるとか思っているけど放っておけない。「使いたい」発言に関しても、我が儘言っていても憎めないし、適度に自由にさせてくれるから「お互い様か」とか思っている。
三振り目(倶利伽羅)は程々にしか協力しないものの、『子リス拾いました』みたいな感情で適度に構っている感じ。ちょろちょろ動き回る姿が女童みたいで放っておけないな、とか思っている。
二振り目(伽羅ちゃん)は、此方の話で細かく書けたら良いなと思います。
二振り目の光忠さんが伽羅ちゃんの本心的な物を知る時が来たら、きっと初々しくも優しい伊達男な光忠さんとたまーに甘える(?)伽羅ちゃん。な《みつくり》になってくれるのでは無いかと…(;´д`)
↓↓
なあ、アンタは此処の”主”なんだろう?
……ああ、知っている。アンタはこの国の人間では無いから、俺の言葉をきちんと理解出来ないと言う事は”一振り目の俺”からも聞いて知っているからな。
だから聞いて欲しいんだ。誰かに意味を聞く必要も無ければ、知る必要も無い。
ならば何故、俺がアンタに話すのか?
……そうだな。此れは只の懺悔だ。返事が欲しい訳では無いし、ただ聞いて欲しいだけの、俺の我が儘だ。
アンタが俺の言葉を間違える事なく理解出来る相手ならば、俺はアンタにも何も言わず、ただ俺の出来る事だけをこなしていただろう。
……ああ、そうだ。
アンタと俺は何処か似ている様な気がしたから、俺の話を聞いて欲しくなった。ただ其れだけだ。
忘れてくれて構わない。作業の片手間に流している音楽の様な物だとでも思ってくれて構わない。ただ、俺の話を聞いて欲しい。其れだけだ。
《切望》
永い永い時の中、俺は数え切れない程の『人間の生き様』とやらを見続けて来た。
人間の移り変わりと共に時代は流れ、直接振るわれる事も無くなってしまっても尚、『護り刀』だと大切に大切にされてきた俺は、同じく数え切れない程の”物”を見送り、人間を見送り、その中で生じる想いを受け入れながら、時代そのものを見送り続けた。
命ある者達は、相手を愛し愛され子を成し、育み、成長した子らもまた誰かと出会い、愛し、再び子を成し育み…そうして命と血脈を延々と繋げていく。
無論、その連鎖の枠組みから外れる者も居れば、必死にしがみつく者もいる。
”刀”である俺は、その命の連鎖に組み込まれる事が無い分、彼等の様な存在が尊く、愛しく、見守りたいと思うに値する価値の有るものだと思っていた。
寂しい等と思ってはいけないのだ、と俺は己を戒めた。”刀”として生まれた時のあの焔と龍は、所有者を護る力であれと願い打たれた作り手の想いが形となり俺の一番最初の記憶となって残っているのだから。
大磨上され無銘刀となってからも、俺の中にはあの焔と共に龍が残っていた。彫られた倶利伽羅龍が俺自身を証明し、俺の全てでもあった。
光忠が水戸へ嫁入りした時も、貞宗が離れた時も、国永が離れた時も、俺は彼等に何も言えず、ただただ見送る事しか出来なかった。言葉の一つも浮かばなかった。彼等は残念がっていた様にも思えたが、だからこそ気休めにも為らない言葉なんて掛けるべきでは無い、と。
俺はただ唇を閉ざし、見送り続ける事で彼等を送り出した。
そんな悠久とも思える時を過ごしている間に、俺の周りをウロウロしていた付喪神達も一つ、また一つと眠りに就いていった。俺自身も世代が代わっていく度に住む場所が変わっていったから、仕方の無い事だとも思う。
むしろ人の世は特に変わっていく物だ。俺達”付喪神”にとっての一年と、人間達の一年の速さが違う様に、激動の中で変わっていくのが人の世だと俺は思っていた。
だから眠りに就く”付喪神”達にも、俺は何も言わなかった。否、言えなかった。
俺は『護り刀』だ。他の何を引き換えにしても、俺自身を差し出したとしても、所有者を護る。其れが俺が大磨上されても持ち続けた矜持……その思いだけが、俺を現世に留まらせた。
そんな時だ。
光忠…二振り目のあの光忠が、関東大震災の中、被災し焼刀したと聞かされたのは。
目の前が真っ暗になった。
「会える筈が無い」とは思ってはいても、其れでも光忠があの一振りを、この目に見る事が叶わなくとも『存在している』と信じる事すら許されなくなったのだ、と思い知らされた───あの時、俺は初めて絶叫した。
信じたく無かった。例え、最期の時は『一人』で迎える物だと分かってはいても、其れでも、何故、何故『俺』では無く『光忠』だったのかと───そう嘆き、叫び、慟哭へと変わっていた。
今の様に『人』の姿をしていたならば、恐らくあの時の慟哭は……血でも吐いていたのだろうな。
滑稽で、無様で、その時初めて俺は『人間達の儚さの中に有る直向きさ』に気が付いた。だから『血』を残し、『次』へと繋いでいくのだと気が付いた。
刀は折れたら其れで終わりだ、次に繋ぐ事など出来はしない。
俺はそんな人間の命を屠って来た、葬って来た。『刀』として生まれた宿命だが、そうする事で所有者を護るのが俺の役目だと思っていた、それ以上の願いを抱く事など愚かでしか無い。
だと言うのに、俺は『折れた先』を想像し、理解していた筈の先を漠然と思い知らされ、慟哭した。
人間達の様に、命ある者達の様に、先へと繋げる事が出来ない『俺』もまた最期の時がやって来る。
その時、烏滸がましくも『俺』が死に、血を吐く程の苦しみを『誰か』に与えてしまったら?
『護り刀』である『俺』が、無様に護る事すら出来ず、ただの鉄の塊へと還った後、あの苦しみを、あの嘆きを、与えて見送られるのか?
…………見送る事はとうに慣れた。
だが、見送られた時に嘆かれる事には慣れそうに無い。恐らくだが俺は此れから先も慣れる事は無いだろう。
だから、もしこの先俺が折れたとしても、アンタは決して哀しまないでくれ。嘆かないでくれ。
あの慟哭を、主であるアンタにまで味わせたくは無い。特に『人間』であるアンタには、な。
一人で戦い、一人で死ぬ。俺は其れで良い、それ以上を望んではいないから。
……………?
どうした、何故そんな顔をする?
ああ、殆ど理解出来なくて悪いと思っているのか…それは気にしなくて良い。
言った筈だ「ただ話を聞いて欲しかっただけだ」と。「理解出来なくて良い」し、理解が出来ないアンタだから聞いて欲しいと思ったんだ。
何時も穏やかに微笑みを浮かべている”審神者”である”主”の娘が、哀しそうに俺を見詰めている。
理解出来なくても何となく察したのかも知れない。当然だろう、片言であろうともこの主は言葉を覚えようと努力しているのだから。
哀しそうに微笑む主の頭をそっと触れると、「残念ですね」と言葉を紡いでいく。
「もし、私が伽羅クンの言葉が分かたなら、もっときちんと覚えてられるですのに」
「覚える必要は無い、ただ聞いて欲しかっただけだ。他の誰でも無く、アンタが俺の”主”だから、聞いて貰いたかった……ただの我が儘だな」
「でも、伽羅クンの我が儘、嬉しですよ?……倶利さんも時々しか話してくれんですから」
「時々…か。否、アンタは知らないだろうが、俺達がアンタ達と会話する事自体が滅多に無いと思うが」
「そうなのです?」
こてん、と首を傾げる姿は幼い童子そのものだ。否、目の前にいる”主”は、確か成人はしていると聞いていた筈だが。
そう思いながら「そうだ」と答えると、「どうして…なのかは、今のお話が理由です?」と首を傾げたまま尋ねてくる。
「そうだな」と返すと、「お話は嫌いですか?」とやはり尋ねてくる。
「アンタは質問ばかりだな」
「駄目ですか?」
「いや…アンタは煩くないからマシだ、と思っている」
「良かたです。殆ど分からんですけど、お話、聞けて嬉しーですよ」
「……そうか」
漸く嬉しそうに微笑む”主”を見て、俺はほう…と息を吐いた。
分からなくて良い、もし俺が折れても、この本丸には俺の他に”大倶利伽羅”は何振りも存在している。
其れでもこの”主”は、俺が折れたら哀しむのだろう。何振りもの”大倶利伽羅”を等しく慈しむ掌を持つ、この”主”は。
どの刀にも平等に慈しむ”主”は、きっとどの刀が折れても、嘆き、哀しみ、慟哭するかも知れない───其れが恐ろしかった。
だから此れは……俺の我が儘だ。
命ある者を愚かだと思いながらも尊く、愛しいと、見守りたいと思った俺の様に、アンタもまた”刀”である俺達を愛しいと慈しむ。
そんな俺とアンタは愚かしい程に良く似ている、そう思ったから。
━━━…アンタは、何も知らないでくれ。何時までも変わらず、俺の言葉なんてものに気付かないでいてくれ。
そのままのアンタにならば、たまにこうして話してやらなくも無いから。
「我が儘が嬉しい」「聞けて嬉しい」のならば、気が向いた時に話しても構わないと思っているから、だから…。
「アンタは、変わらないでくれ」
と、そう祈る様に俺は囁いた。
(終)
伽羅ちゃん編です。
書けば書く程に、根が深い事に気付いてしまって「光忠さん、不安定になってる場合じゃ無いよね…!」と思いました(笑)
と言うか、二振り目の光忠さんが伽羅ちゃんのトラウマスイッチになっている模様。
倶利ちゃんが忙しそうにしているのを見るに見兼ねて出てきた、のが切っ掛けでは有りますが、内面が似ていると気付いた伽羅ちゃんは、ほえほえ審神者に対してはこんな感情を抱いている様です。
二振り目の光忠さんが「どうして変わってしまったの?」と傷心→嫉妬してしまっている理由の大半が、伽羅ちゃんの上記感情が原因ですね…。
正確には伽羅ちゃんは変わったと言うよりも、成長したと言いますか……や、やっぱり変わったのか(;´д`)
審神者に対しての感情は、二振り目が一番好意的みたいですね。
皮肉にも言葉が通じないから、とか…むしろ言葉が通じ合う様になったら《くりさに》一直線になっちゃうじゃないか、ヤダーッ!!(笑)
いや、より近い存在っぽくなるので兄妹か姉弟色が強くなるだけですが。
殆ど独白になってしまって申し訳御座いません…!(;A´▽`A
一振り目の倶利ちゃん曰く、「疲弊しがちだった俺を見るに見兼ねて出てきた」「俺よりも素直」「疲れているだろうに…大丈夫か?」
二振り目の光忠さん曰く、「どの大倶利伽羅も大切にしたいと思っているけど、愛しいのは伽羅だけ」「どうして変わってしまったの?」「「馴れ合うつもりは無い」んじゃ無かったの?」「僕は君の所に帰って来たかったんだ」
三振り目の光忠さん曰く、「不安定な二振り目の僕に振り回されていて可哀想」「上手く落ち着いてくれれば良いんだけどね」
ですが、そんな二振り目の大倶利伽羅さんこと『伽羅ちゃん』自身は、どう思っているのか?
夫々の彼等を書きながら纏まって来た、伽羅ちゃんの心情を書いてみます。
《みつくり》の筈が、伽羅ちゃん→審神者みたいな状況になっていますが、『主』への気持ちと言う感じであり、CPでは御座いません。
当方宅の三振りの大倶利伽羅さんは多種多様ではありますが、『主(審神者)』に対してはまだ好意的です。
一振り目(倶利ちゃん)は蜂須賀さんの教育の賜物で、諦め気味かつ手が掛かるとか思っているけど放っておけない。「使いたい」発言に関しても、我が儘言っていても憎めないし、適度に自由にさせてくれるから「お互い様か」とか思っている。
三振り目(倶利伽羅)は程々にしか協力しないものの、『子リス拾いました』みたいな感情で適度に構っている感じ。ちょろちょろ動き回る姿が女童みたいで放っておけないな、とか思っている。
二振り目(伽羅ちゃん)は、此方の話で細かく書けたら良いなと思います。
二振り目の光忠さんが伽羅ちゃんの本心的な物を知る時が来たら、きっと初々しくも優しい伊達男な光忠さんとたまーに甘える(?)伽羅ちゃん。な《みつくり》になってくれるのでは無いかと…(;´д`)
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なあ、アンタは此処の”主”なんだろう?
……ああ、知っている。アンタはこの国の人間では無いから、俺の言葉をきちんと理解出来ないと言う事は”一振り目の俺”からも聞いて知っているからな。
だから聞いて欲しいんだ。誰かに意味を聞く必要も無ければ、知る必要も無い。
ならば何故、俺がアンタに話すのか?
……そうだな。此れは只の懺悔だ。返事が欲しい訳では無いし、ただ聞いて欲しいだけの、俺の我が儘だ。
アンタが俺の言葉を間違える事なく理解出来る相手ならば、俺はアンタにも何も言わず、ただ俺の出来る事だけをこなしていただろう。
……ああ、そうだ。
アンタと俺は何処か似ている様な気がしたから、俺の話を聞いて欲しくなった。ただ其れだけだ。
忘れてくれて構わない。作業の片手間に流している音楽の様な物だとでも思ってくれて構わない。ただ、俺の話を聞いて欲しい。其れだけだ。
《切望》
永い永い時の中、俺は数え切れない程の『人間の生き様』とやらを見続けて来た。
人間の移り変わりと共に時代は流れ、直接振るわれる事も無くなってしまっても尚、『護り刀』だと大切に大切にされてきた俺は、同じく数え切れない程の”物”を見送り、人間を見送り、その中で生じる想いを受け入れながら、時代そのものを見送り続けた。
命ある者達は、相手を愛し愛され子を成し、育み、成長した子らもまた誰かと出会い、愛し、再び子を成し育み…そうして命と血脈を延々と繋げていく。
無論、その連鎖の枠組みから外れる者も居れば、必死にしがみつく者もいる。
”刀”である俺は、その命の連鎖に組み込まれる事が無い分、彼等の様な存在が尊く、愛しく、見守りたいと思うに値する価値の有るものだと思っていた。
寂しい等と思ってはいけないのだ、と俺は己を戒めた。”刀”として生まれた時のあの焔と龍は、所有者を護る力であれと願い打たれた作り手の想いが形となり俺の一番最初の記憶となって残っているのだから。
大磨上され無銘刀となってからも、俺の中にはあの焔と共に龍が残っていた。彫られた倶利伽羅龍が俺自身を証明し、俺の全てでもあった。
光忠が水戸へ嫁入りした時も、貞宗が離れた時も、国永が離れた時も、俺は彼等に何も言えず、ただただ見送る事しか出来なかった。言葉の一つも浮かばなかった。彼等は残念がっていた様にも思えたが、だからこそ気休めにも為らない言葉なんて掛けるべきでは無い、と。
俺はただ唇を閉ざし、見送り続ける事で彼等を送り出した。
そんな悠久とも思える時を過ごしている間に、俺の周りをウロウロしていた付喪神達も一つ、また一つと眠りに就いていった。俺自身も世代が代わっていく度に住む場所が変わっていったから、仕方の無い事だとも思う。
むしろ人の世は特に変わっていく物だ。俺達”付喪神”にとっての一年と、人間達の一年の速さが違う様に、激動の中で変わっていくのが人の世だと俺は思っていた。
だから眠りに就く”付喪神”達にも、俺は何も言わなかった。否、言えなかった。
俺は『護り刀』だ。他の何を引き換えにしても、俺自身を差し出したとしても、所有者を護る。其れが俺が大磨上されても持ち続けた矜持……その思いだけが、俺を現世に留まらせた。
そんな時だ。
光忠…二振り目のあの光忠が、関東大震災の中、被災し焼刀したと聞かされたのは。
目の前が真っ暗になった。
「会える筈が無い」とは思ってはいても、其れでも光忠があの一振りを、この目に見る事が叶わなくとも『存在している』と信じる事すら許されなくなったのだ、と思い知らされた───あの時、俺は初めて絶叫した。
信じたく無かった。例え、最期の時は『一人』で迎える物だと分かってはいても、其れでも、何故、何故『俺』では無く『光忠』だったのかと───そう嘆き、叫び、慟哭へと変わっていた。
今の様に『人』の姿をしていたならば、恐らくあの時の慟哭は……血でも吐いていたのだろうな。
滑稽で、無様で、その時初めて俺は『人間達の儚さの中に有る直向きさ』に気が付いた。だから『血』を残し、『次』へと繋いでいくのだと気が付いた。
刀は折れたら其れで終わりだ、次に繋ぐ事など出来はしない。
俺はそんな人間の命を屠って来た、葬って来た。『刀』として生まれた宿命だが、そうする事で所有者を護るのが俺の役目だと思っていた、それ以上の願いを抱く事など愚かでしか無い。
だと言うのに、俺は『折れた先』を想像し、理解していた筈の先を漠然と思い知らされ、慟哭した。
人間達の様に、命ある者達の様に、先へと繋げる事が出来ない『俺』もまた最期の時がやって来る。
その時、烏滸がましくも『俺』が死に、血を吐く程の苦しみを『誰か』に与えてしまったら?
『護り刀』である『俺』が、無様に護る事すら出来ず、ただの鉄の塊へと還った後、あの苦しみを、あの嘆きを、与えて見送られるのか?
…………見送る事はとうに慣れた。
だが、見送られた時に嘆かれる事には慣れそうに無い。恐らくだが俺は此れから先も慣れる事は無いだろう。
だから、もしこの先俺が折れたとしても、アンタは決して哀しまないでくれ。嘆かないでくれ。
あの慟哭を、主であるアンタにまで味わせたくは無い。特に『人間』であるアンタには、な。
一人で戦い、一人で死ぬ。俺は其れで良い、それ以上を望んではいないから。
……………?
どうした、何故そんな顔をする?
ああ、殆ど理解出来なくて悪いと思っているのか…それは気にしなくて良い。
言った筈だ「ただ話を聞いて欲しかっただけだ」と。「理解出来なくて良い」し、理解が出来ないアンタだから聞いて欲しいと思ったんだ。
何時も穏やかに微笑みを浮かべている”審神者”である”主”の娘が、哀しそうに俺を見詰めている。
理解出来なくても何となく察したのかも知れない。当然だろう、片言であろうともこの主は言葉を覚えようと努力しているのだから。
哀しそうに微笑む主の頭をそっと触れると、「残念ですね」と言葉を紡いでいく。
「もし、私が伽羅クンの言葉が分かたなら、もっときちんと覚えてられるですのに」
「覚える必要は無い、ただ聞いて欲しかっただけだ。他の誰でも無く、アンタが俺の”主”だから、聞いて貰いたかった……ただの我が儘だな」
「でも、伽羅クンの我が儘、嬉しですよ?……倶利さんも時々しか話してくれんですから」
「時々…か。否、アンタは知らないだろうが、俺達がアンタ達と会話する事自体が滅多に無いと思うが」
「そうなのです?」
こてん、と首を傾げる姿は幼い童子そのものだ。否、目の前にいる”主”は、確か成人はしていると聞いていた筈だが。
そう思いながら「そうだ」と答えると、「どうして…なのかは、今のお話が理由です?」と首を傾げたまま尋ねてくる。
「そうだな」と返すと、「お話は嫌いですか?」とやはり尋ねてくる。
「アンタは質問ばかりだな」
「駄目ですか?」
「いや…アンタは煩くないからマシだ、と思っている」
「良かたです。殆ど分からんですけど、お話、聞けて嬉しーですよ」
「……そうか」
漸く嬉しそうに微笑む”主”を見て、俺はほう…と息を吐いた。
分からなくて良い、もし俺が折れても、この本丸には俺の他に”大倶利伽羅”は何振りも存在している。
其れでもこの”主”は、俺が折れたら哀しむのだろう。何振りもの”大倶利伽羅”を等しく慈しむ掌を持つ、この”主”は。
どの刀にも平等に慈しむ”主”は、きっとどの刀が折れても、嘆き、哀しみ、慟哭するかも知れない───其れが恐ろしかった。
だから此れは……俺の我が儘だ。
命ある者を愚かだと思いながらも尊く、愛しいと、見守りたいと思った俺の様に、アンタもまた”刀”である俺達を愛しいと慈しむ。
そんな俺とアンタは愚かしい程に良く似ている、そう思ったから。
━━━…アンタは、何も知らないでくれ。何時までも変わらず、俺の言葉なんてものに気付かないでいてくれ。
そのままのアンタにならば、たまにこうして話してやらなくも無いから。
「我が儘が嬉しい」「聞けて嬉しい」のならば、気が向いた時に話しても構わないと思っているから、だから…。
「アンタは、変わらないでくれ」
と、そう祈る様に俺は囁いた。
(終)
伽羅ちゃん編です。
書けば書く程に、根が深い事に気付いてしまって「光忠さん、不安定になってる場合じゃ無いよね…!」と思いました(笑)
と言うか、二振り目の光忠さんが伽羅ちゃんのトラウマスイッチになっている模様。
倶利ちゃんが忙しそうにしているのを見るに見兼ねて出てきた、のが切っ掛けでは有りますが、内面が似ていると気付いた伽羅ちゃんは、ほえほえ審神者に対してはこんな感情を抱いている様です。
二振り目の光忠さんが「どうして変わってしまったの?」と傷心→嫉妬してしまっている理由の大半が、伽羅ちゃんの上記感情が原因ですね…。
正確には伽羅ちゃんは変わったと言うよりも、成長したと言いますか……や、やっぱり変わったのか(;´д`)
審神者に対しての感情は、二振り目が一番好意的みたいですね。
皮肉にも言葉が通じないから、とか…むしろ言葉が通じ合う様になったら《くりさに》一直線になっちゃうじゃないか、ヤダーッ!!(笑)
いや、より近い存在っぽくなるので兄妹か姉弟色が強くなるだけですが。
殆ど独白になってしまって申し訳御座いません…!(;A´▽`A