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単発物(ジャンル問わず)

◇◇◇(Claudia ver.)

───…迷いの森。

その森に足を踏み入れた人間は皆…口々にこう言うらしい。

「迷いの森には、森を守る魔女が居て…森に異変が起こらない様に、森全体に術を施し…来る者を惑わせながら守っている。
だから…入っても、いつの間にか入口付近に戻って来てしまうのだ」



“真実かどうか”は、私には判らない。
只……人間が“魔女”だと呼ぶ【オウル】は、私にとって“育ての親”であり…森で生きる為の術を教えてくれた人。

私には【狼のシルベン】や【熊のブラウ】。

森と共に生き、森を愛している命ある動物や…植物達が“私の知る総て”。

人間が住む“家”と、“森”に…そんなに違いが有るとは知らなかった。
驚きの連続。
何て騒がしい“人間の街”。



━━━…どうして、私は“今”此処に居るの?…━━━




◇◇◇

本当に騒がしい“人間の街”。
まだ綺麗な表現をするなら、活気がある…と言うのが適切かしら?



……どちらにしても、“森”とは随分“違う”わね。




私は、ジャンから案内して貰った部屋の窓から…一人、街の風景を眺めていた。

森には無い“色”が混ざった不思議な世界。
不思議な堅い“壁”。
見た事の無い“石”……これは何と呼ぶのだろう?



最初は、初めて見る“街の風景”に…意識も向いてしまいがちだったけれど、それも直ぐに飽きてしまった。
確かに綺麗だと思う。
……だけど、此処には“何かが足りない”から……。




───…それは、きっと……




「……シルベン…ブラウ……」




そう、あの子達が居ない。
何時も側に居てくれた“あの子達”が…居ない。
私は、此処には居ない“二人(匹)”の事を思い出す。




人の世界は嫌。
私は“森”に帰りたい。

シルベンやブラウ、そしてオウルの元へ帰りたい……!




だけど…オウルは、

『人の世界を見て来る様に』

と言っていたから……だから、私は必死に耐えていた。


イザとなれば、私にはオウルが教えてくれた“弓”が有る。

でも……“何処に何が有るか”すら知らない私に、世界を見て来るなんて出来るのだろうか?




「………オウル…」




せめて…夢の中で会う位は許してくれるかしら?

私はそう思うと、直ぐさまベッドへと潜り込み…今日はもう眠ってしまおうと試みた。



それなのに……

眠ろうと思えば思う程、人間の声が耳に入って来てしまって…なかなか眠れない。


ああ…騒がしい。
何をそんなに騒いでいるの?
そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわ……お願いだから、もう少し静かに……静かに……!



「……静かに…してっ!!」

一体何なのかしら?
こんなに煩かったら眠れないじゃない。


……“人間”は何時眠っているの…?



壁に掛けられた時計に目をやり、半ば呆然としながらも…私はベッドに腰を下ろす。

時間は、眠っても良い時間だった。少なくとも…私はオウルに『お休みなさい』のキスをしている時間を既に過ぎている。



それなのに……昼間よりも人間は活気がある様に思えた。



「…何か……有るの?」


どう頑張っても眠れそうに無くて、私は小さな溜め息を零すと…寝着から服に着替え、部屋の扉に手を掛ける。



━━━…初めての“人間の街”。
初めての夜。…そして…初めての……━━━



何となく緊張して、でも不思議と怖いとは思わなくて…私は、夜の街を歩いていた。




◆◆◆(Gray ver.)

暫く共に戦い、旅をしていた奴等と別れた。


俺にとっては、取るに足らない“何時もの事”で有ったし…何より“ずっと共に旅をしていく”のは、俺の性に合わない。

興味の持てる話でも舞い込んでいれば、また直ぐにでも旅立てていたのだが……その時は特に大した話も無く、適当に休んだら【次はローザリアかクジャラート】にでも向かうか……等と考えていた矢先の事だった。

見知らぬ男に、声を掛けられた…と思っていたのだが、それはどうやら違うらしい。
“見知らぬ男”にとっては、俺は“見知った男”だと言うのだ。


……何か頼みたい事が有るらしく、俺と話したいと“男”は誘って来る。



───…たまには良いだろう…───



話を聞こうと思った事に、大した理由は無かった。
何も考えていなかったから…たまたま出会った“知り合いらしい男”の頼みを聞いただけに過ぎなかったのだ。




━━━…それが、まさか…こんな状況になってしまうとは…な━━━




俺は“今の自分”を見て、思わず苦笑せずにはいられなかった。


◆◆◆


━━━…“護衛”の仕事か…━━━


男の話はこれだった。
かなり“訳有り”な女を守って欲しい。
報酬は結構な額だが……護衛の期限は“無期限に近い”かも知れない。



どういう意味の“訳有り”か、は俺にとって問題では無かった。



───…要は“興味が魅かれるか、魅かれないか”?



それだけだ。


そこで、俺は男に“女の特徴”を尋ねる事にした。
興味が魅かれなければ断るだけだが、今は特に大した行き先も無い。



乗るのも一興か…程度にしか考えてはいなかったが、男の様子を見ていると多少の期待はしても良さそうだと思ったからだ。



「一緒に居なくてはならないのだ…気に食わない女と、無期限で共に居ろ…と言うのか?」

と俺が言えば、男…ジャンは渋々と言った表情で、女の事を語り始める。


話を聞く限りでは、かなりの上玉らしい。
加えて…上流貴族よりももっと“階級は上”の女かも知れない。



しかし女は“その事を知らず”、今まで森の中で住んでいた。



……余程、信用されていたらしい。



男は言葉を濁らせながらも、かなりの内容を俺に教えてくれた。



此処まで聞けば、流石に“女の正体”にも気付いてしまう。



━━━…やられたな。



俺は内心、大きな溜め息を零した。
どうやら“すっかり”ジャンの策略に嵌まっていたらしい。



これだけの“興味をそそられる女”の護衛か…悪くは無いな。



俺の心は決まった。



だが…一番“肝心”な事を聞かなくては。


「それで…その女の“名前”は?」


この時点で、正式に“女の護衛”を受けた俺は…ジャンと別れ、一人…メルビルの夜の街を歩いていた。

宿屋に戻る気にもなれず、只“何となく”歩いて“気分を紛わせたかった”俺の前に…一人の女が、如何にも“うさん臭い連中”に追われているのが、視界に入って来る。




“追われている女”は、遠目から見ても美しかった。

エリスの月に照らされた姿が、女の美しさを一層引き立てている気がする。




「……奴等に渡すのは惜しいな……」




誰に聞かせる訳でも無く、俺はポツリ…と呟くと、連中の背後に忍び寄る。

財宝の穴で見付けた“刀”の試し斬りをするのも一興か。
又は…適当に殴るだけでも構わないか?



どちらにしても、この“綺麗な女”を連中に“くれてやる”つもりは毛頭無い。



奴等は俺が居る事にも気付いてはいない様だ。


女を取り囲んで、下衆な笑いを浮かべている。


近付いて見てみると…“女”は、気丈…と言うよりも“むしろ感情の籠っていない”瞳で、男共を見つめていた。




───…まるで“良く出来た人形”だな。




拒絶している訳でも無く、喜んでいる訳でも無い。
只…表情が無いのだ。


追い掛けられて怖いと思っていない訳では無いだろうが、瞳が…澄み過ぎていた。




まるで…“仕方の無い事だ”と、諦めている様だな。


そう思った瞬間、

“この女の感情が揺れ動く様が、見てみたい”

と、俺は握っていた“刀”に力を込める。




俺はきっと“魅せられたのだ”、この人形の様な美しい“女”に……


『見返りが欲しい』とか、『興味が有る』とか…この時の“俺”は微塵も考えてはおらず、純粋に“女”を助けたい…と思っていた。




◇◇◇(Claudia ver.)

───…何故、追い掛けられているの…?



只、人間の街に来た。
只、余りの騒がしさに疑問を感じて…外に出ただけ。

エリスの月が綺麗だから、暫く見ていただけ。



それだけなのに…!



見知らぬ人間達に声を掛けられた。
何故か“私”の名前を知っていた。
腕を掴まえられた時、彼等の殺意を肌で感じ取った。



だから逃げた。



全く知らない石の道。
昼間と夜では、こうも違うのか…と思い知らされた“暗闇の街”。


今、一体“何処を走っているのか”すら判らない。


私は、縺れそうになる足を叱咤しながら…必死になって逃げた。




───…此処が“森”なら、足だって…!




足だって縺れない。息だってあがらない。


悔しい…と唇を噛み締めた。



その瞬間…

「……あっ!」


不意に世界が一変する。
膝がズキズキ…と痛んでいた。

もう…走れそうにない。



───…私は“此処で”殺されてしまうのだろうか…?



嫌い。
この人達も、この人間の街も……怖いし、嫌い。


でも…もう“終わり”ね。



私は小さく呼吸を整えた。

ただでは殺されない。
私には…オウルから教わった“弓”が有る。


もし…それでも助からない場合、それは“私の運命”だった…という事だから。



私は…前を見据えて、彼等の様子を確認した。



弓と矢の存在を、一層重く感じながら…私は静かに構える。



彼等は本気だとは思っていない様子だった。



だけど…私が矢を放つと、彼等も慌てて私の体を取り押さえ様と…一斉に伸びて来る。

勢いが有った為か、私の体が地に沈む。
頭を強く打ち付けたのか、目の前が真っ暗になりそうだった。


何とか堪えようともがく私を見て、彼等が笑う。



彼等の真意が分からなかった。
分かりたい…とも思わなかった。



視界がかなり遮断されてしまったからか、彼等とは“また違う気配”が側に居る事に気付いてしまう。
どうやら彼等は気付いていないみたいだった。



───…どちらにしても私は…───



この時の私には、助けてくれる人が居るなんて…考えてもみなかったから、この人が“どうやって助けてくれた”のか分からない。



視界が悪くて、只…エリスの柔らかな月に照らされた姿だけが……この時感じた“総て”で、その人が誰か…とかは何にも考えなかった。




「……シル…ベ…ン?」


薄れ行く意識の中で、逞しい腕に抱き抱えられながら……相手が“人間”だと分かっている筈なのに、この時の私の中では“相手が何時も側に居てくれた”狼のシルベンだと信じて疑わなくて……私はその腕の中、完全に心を許してしまっていた。




どうして間違えてしまったのか…は、きっと相手の持つ“研ぎ澄まされた気配”と……月明りの中で浮かんだシルベンの毛並みにも似た“長い髪”を、相手の男性がしていたからだと思う。


落ち着いてみると、顔すら覚えていない人に…と後で恥ずかしくなってしまうだろう事だけど、私は“その顔すら見ていない男性”に甘えて眠ってしまっていた。




◆◆◆(Gray ver.)

楽に死なせ過ぎたか…と、おそらく死んだ事も判らなかったであろう“男共”の顔を見ながら、刀を鞘に納め…倒れたままの女に近寄る。



傷だらけだが“まだ息の有る”女を確認すると、安心すると同時に…“折角の艶やかな肌に”と、もっと早く助けてやれば良かったと俺は無意識に舌打ちしていた様だった。



そんな俺も“らしく無い”と自分でも思う。



自嘲気味に女…いや娘を、ソッ…と抱え上げると、少し意識が浮上したらしい娘の瞳がゆっくりと開いていき……



「……シル…ベ…ン?」


と、誰かと間違えているのか…只それだけを呟くと、安心した様な柔らかな微笑を浮かべた。




あの感情の無い“人形”は、一体何処へ行ってしまったのか。




誰かと間違えている…とは言え、この微笑みは間違いなく“俺”に向けられたものだ。



思わず抱き締める腕に力を込める。
すると…彼女は安心しきった笑みを浮かべて、俺の胸元に擦り寄って来た。
キュッ…と、俺の長い横髪を引っ張って来る。



そんな頼り無げな娘を落とさぬ様に、しっかりと抱き締めたまま……俺は、取り敢えず“予約してあった宿屋”へと戻る事にした。



娘が気を失っていた為、何処に送れば良いのかはおろか……名前すら判らない。
そんな状況で“傷だらけの娘”を放っておく訳にもいかないし、助けた意味も無くなる。



下心が有る無いに拘らず…だ。



しかし運が良い事に、娘は俺と同じ宿に泊まっていたらしく…綺麗な娘だったから宿の店主も良く覚えていた様だった。

娘を案内した若い男が、『彼女は、この辺りが初めてだから…』とかなり念を押して来た…らしく、その事でも良く覚えていたらしい。

そんな状況だったからか……突然、外に出掛けて行き…一向に戻って来ない娘の事を、宿の店主達も心配していた矢先だったと言う。




───…成程、つまり彼女が……───




俺は手当も済み……今は穏やかに眠っている娘の寝顔を眺めて、


「…宜しく、クローディア……」


と、間違えてはいないであろう“娘の名前”を呟いた。




朝になり、ジャンから正式に対面し挨拶する事になる“護衛すべき娘”と…意外な場所で、意外な展開で出会ってしまった。
だが…おそらく彼女の方は、“助けたのが俺”だとは気付かないだろう。
状況が状況であったし、何よりも余り覚えておきたい出来事でも無い筈だ。



それに……俺も彼女に言うつもりは無い。



あの感情の籠っていない顔が、気を許せる相手に対してのみ向けられる“柔らかな微笑”と甘える仕草。


今度は…本当に“俺”だと認識している上で、見てみたいと思うから。

『助けられたから』…からでは無く、どうせならば“只の護衛から”始めたいのだ。




━━━…その笑顔は、どの財宝よりも優る。




俺は、朝になるのを待ち遠しく思いながら…彼女の部屋の扉を閉めるのだった。




<終>



何とか完成したので更新します!
……遂に書いてしまいました、ロマンシングサガ!!!!
しかも“グレイ×クローディア”ですよっ!Σ(///□//)

何気に“ミンストレルソングver.”なつもりで書いていますが、初代・無印でも問題無かったかも…な気がしなくも無くι


しかも、初代では連続でセーブデータが消える為…アルベルトからジャミルに主人公を交代した所、何故かデータは消えず…巨人の里に行けた経験(愛着も含み)から、今回の『ミンスト(MS)』でも速攻でジャミルを主人公に選んでいる私が……何故、グレクロ小説を書いているのか!!!?

はい…場違いなのは、重々承知なんですよ!Σ(Θ□Θ;)

だって…だって…大好きなんだよ……グレクロ。

と、言う理由だけで書いてしまいました小説ですが…少しでも楽しんで頂けると嬉しいです(^-^)Vv

……とか言いながら、一度じっくりと“クローディア編”序盤を確認の為に起動してみると…微妙に間違えて記憶していた事が判明したので、急いで手直ししました。

ちなみに本来ならば宿屋の外にジャンが見張りをしていたのですが……話の展開上、“ジャン不在か居眠り中”にクローディアが部屋を飛び出した…な感じで書かせて頂いております。
ですので…多分、部屋を出て来たグレイにジャンは酷く慌てるんですよ!
あくまでグレクロな小説ですので、好きな様に捏造してしまいましたι
FANの皆様…本当に申し訳御座いませんでしたm(_ _)m


2007.01.29(手直し 02.08)
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