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単発物(ジャンル問わず)


「サランの町って何か良いな」


暫く船の上で生活をしていた私達でしたが、物資の補給の為に実に久方振りにエンドールへと船を停め、補給や船の点検等を手伝いながらも其々今夜はのんびり羽を伸ばそう。
との話になり、トルネコさんは奥様とお子さんの所へ、マーニャさんとミネアさんとライアンさんはエンドールの宿屋へ。
そして後の私達はエンドールでは無くサランへと、ブライ様のルーラで一気に飛んで来ました。
ユーリルがそんな事を言ったのには理由が有ります、一番はトルネコさん。たまには奥様とお子さんと、家族水入らずでのんびり過ごさせてあげたかったのでしょう。
次に……マーニャさんのストレスがかなり溜まって来ていたから、エンドールのカジノがお好き過ぎてて余り出来ない日が続くと「可笑しくなりそう」だと冗談混じりに言っているのを、姫様とユーリルの二人は気にしている様だったからです。
ミネアさんはマーニャさんを止められるのは私だけですから、と少し苦笑されておいででしたが…「夜の町に女性二人だけでとは、どんな輩に隙を突かれるか分かりませぬからな。拙者が目を見張らせておきましょう」と、そう言って下さったライアンさんの言葉に甘えて、と言うのも変ですが……私達は久方振りの故郷の夜を堪能していたのです。


《彼がサランを選ぶ理由(わけ)》


今の言葉は、宿屋に入る前の小さな本屋で見付けた古書を購入して、落ち着いた今、漸くパラパラと読み始めた私の隣で呟かれたユーリルの言葉でした。
「そうですか?」と本を横に置き、彼の髪が未だ濡れているのに気付いたので、乾いたタオルを使いながら拭いつつ尋ねてみました。


「自分で拭けるよ」


そう照れ臭そうに言いながらも大人しく拭かれてくれているユーリルは、既に私との付き合い方を熟知している様です。
今まで同世代の者と付き合ってきた訳では無かったからでしょうか?
……気付いた頃には年輩者との付き合いばかりに慣れすぎた私にとって、歳の近い姫様とユーリルとの付き合いは大変新鮮で…其れでも彼等よりも歳上だからか、ついつい構ってしまうのかも知れません。
姫様の美しい亜麻色の髪とは違いますが、ユーリルの翡翠色の髪も美しいと私は思います……が、当の本人達は気にしていないのか、無頓着な所が有るので『勿体無い』とついこうやって丁寧に拭かせて頂いてしまいます。
そんな私の仕種に苦笑こそすれ、拒絶されないのは有り難いと正直思います。


「それで、どうしてそう思ったのです?」


再度、ユーリルに質問すると、


「ん?うーん……何かさ、とても力強いなって思ったんだ」


と返って来ました。
此れには私も疑問を抱いてしまいます。
今まで様々な国、沢山の町や村に立ち寄れる機会が有り難くも得られましたから、その中からサントハイムの城下町であるサランを彼がそう評価して下さる理由が思い浮かばなかったのです。
「そうですか?」と首を傾げつつ、綺麗に乾いた髪に満足してタオルを横に置くと、「だってさ」とユーリルは言葉を続けてくれました。


「サントハイムの王様や兵士達が突然居なくなってから結構経つだろ?……其れでもサランの人達は必死に支え合ってる。
何時、帰って来ても良い様にって大変だろうに、そんなの微塵も感じられない位に明るく笑っていてさ。そう言う所が力強いなって思ったんだよ。だから何か良いなって言ったんだ」

「そう言う事ですか…成程。そう思って頂けると有り難いですし、何だかとても誇らしく思えますね」

「おべっかとかじゃ無いからな」

「分かっていますよ。貴方がそう言う意味合いで器用な方では無い事くらい理解しております」


にっこりと微笑むと、ユーリルは「それなら良いけど」と窓から夜のサランの町を眺めている様でした。


「あ、まだ有る。サランの町は何かあったかい」

「暖かい…ですか?」


それはただユーリル自身の気持ちの中で『暖かい』と感じてくれているのでは?
そう言いたくなるのを堪えながら「それは益々光栄に思いますね」と目を閉じる。


「其れならこの冒険が終わった後、ユーリルもサントハイムに来れば良いのよ!」


突然ガチャッとドアが開いたと同時に聞こえた愛らしくも凜とした声に、私とユーリルは驚き、開いたドアの方へと視線を傾けました。
其処に居た人物を見て益々驚いてしまいました。なにせ、私達が恋い焦がれつつも慈しんで堪らない姫様が胸を張り立っておられていたのですから。
軽快な足音を鳴らしながら私達の所へとやって来た姫様が、ユーリルの両手を強く握り「ね?」と言葉を繋げています。


「いや…『ね?』って言われても、僕にはどんな仕事をすれば良いのか分からないし…アリーナの役には立たないと思うけど」


しどろもどろに言葉を紡いでいるユーリルを見ながら、気持ちが理解出来るだけに少し苦笑してしまいました。
……と、言っても結局のところ、私もユーリルも、姫様には甘い所が有るのだと分かっているだけに様子を見守る事しか出来ませんでしたが。


「それに……全てが終わったら、一度は帰らなきゃ行けない、から」


歯切れの悪い言葉。
ユーリルの言葉に私は何と言えば良いのか分からなくなりました。ユーリルの故郷、彼の境遇を簡単にですが聞いた事の有る私にはどう伝えるべきなのか、修行が足りないだけなのかも知れませんが…言葉が思い浮かばなかったのです。
ですが、姫様にはそんな事は然したる問題では無いのでしょう。
太陽の様な明るく眩しい笑みを浮かべながら、力強く言葉を続けてくれました。


「大丈夫よ、ユーリル。その時は私も一緒に行くわ。私だけじゃ無いわよ、ミネアさんもマーニャさんも、ライアンさんもトルネコさんも…勿論、クリフトもブライも皆一緒よ」

「え?」

「だって、ユーリルは魔物達が好き勝手に荒らしてくれてたサントハイムに一緒に来てくれたもの。
本当はね、一人で帰るのは恐かった…だからユーリルが居てくれて嬉しかったの。だから今度はユーリルの村に一緒に行くの」

「で、も…」

「『嫌だ』って言っても付いて行くわよ、コッソリ一人で帰っていても追い掛けるんだから。ミネアさんとマーニャさんともお話してるの、だから絶対、ユーリルは一人にならないんだから!」


嗚呼、姫様は本当にキラキラと輝いています。
幼い頃から変わりません、姫様は何時だって力強く手を握って下さります。真っ直ぐ此方を見詰めて下さります。
とてもお優しい方なのです、そして王族としての責任も自覚もきちんとお持ちの方なのです。
自由奔放に大地を駆けられるのも今だけだと理解しているだけに、お痛わしいとも思います。出来る限り、いえこの命に換えても御守りしたいと思ってしまうのです。


ユーリルもきっと私と同じ気持ちなのでしょう。
姫様の言葉は、姫様の存在は何時だってストンと心の中に入り込んでくる。
ぽかぽかと暖かくて太陽の様な方、幼さ故に残酷な側面も無いとは言いませんが…其れでも私にとってかけがえの無い方なのです。
ユーリルは目を細めました。泣きたくなったのを堪えているのかも知れません。


「……ありがとう」


小さな、本当に小さな声は少しだけ震えていて、その声はユーリルの気持ちを素直に現していると私は思いました。


嗚呼、もう一つ気付きましたね。
私は先程のユーリルの言葉を思い出しました。『サランが力強い』と言っていた理由。
それはサランだけでは無く、サントハイムが、姫様が苦しくても何時でも明るく笑っているから。それらが力強くて良いと、ユーリルは言っていたのでしょう。
勿論『何か良い』と言っていた位ですので無意識だとは思います。其れでも数有る宿屋の中からサランを選んで下さったのは紛れもない事実なのですから。


そんな話をしている内にブライ様が部屋へと戻って来ました。
「姫!!男の部屋に何時までも居るものじゃ有りませんぞ!」と姫様が居るのに気付いたブライ様が姫様を叱ろうとされましたが、今夜は姫様の方が一枚上手の様でした。


「はいはーい、もう戻るわよ。じぃ、お休みなさい」


ブライ様の頬に軽いキスをすると、姫様は私とユーリルには「お休み!」と可愛らしくウインクして部屋へと戻ってしまったのですから。


「ひめーっ!!」


珍しく頬が紅く染まったブライ様の雷が落ちましたが、私とユーリルも似たような頬になっている様な気がします。


「えーと、寝ようか?」

「そうですね…そろそろ休みましょう。ブライ様、お体に障りますよ?」

「む、うむ……全くはしたない、王様に申し訳が立たんわい…!」

「マーニャさんに教わったのかな、あれ」

「ウインクはそうかも知れませんが、勝手に疑うのは良く有りませんからね」

「お休みの接吻は昔からしておったがのう…城を出てからは落ち着いとったと言うのに、安心しとったら直ぐこれじゃからな」


昔から、と聞いて何だか羨ましいと思ったのは内緒にして下さい。
姫様にとって王様と教育係のブライ様は特別なのでしょうが、やはりこんな話を聞くと羨ましいと思ってしまうのは私が浅ましいからなのでしょうか?
「……良いな」と小さく呟いたユーリルに、「そうですね」とコッソリ本音を混ぜながら。


私達の小さな本音を聞かない振りして下さったブライ様が、部屋の灯りをフッと消して下さったのを合図に私は目を閉じました。
この旅が終われば、きっと今の様に姫様の傍には居られなくなる身では有りますが、せめてユーリルは…彼の望む場所へ行けます様にと願いながら。


(終わり)


クリフト視点は意外に難しい事に気付いた(笑)
と言うか、クリフトの性格がFC版寄りになってる気がしないでも無く…!
リメイク版のヘタレっぷりも好きだけど、優等生も良いね
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