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千銃士(短編)

0704Rindouaoiさんの呟き
口の中切った或いは火傷した、っていう貴銃士の怪我をキスで治すマスターが思い浮かんだ
うちの子では出来ないので誰か使ってください
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と言う事で書かせて頂きました!
改めて有り難う御座います!

CPは珍しくアリちどです。
しかも一気にすっ飛ばして無事にくっついてる二人(安心安定のトム&ジェリとも言う)の話です。ちょこっとだけ破廉恥っぽい話題が出てきますが、艶っぽさは殆ど無いと思います(それもどうかと)





別に困らせたいと思っていた訳では無いし、今まで散々泣かせてしまった分、たまには恋人らしい戯れ事の一つでもしてやるか。
そんな気紛れに発しただけに過ぎない言葉だったと言うのに。
だれか教えてくれ、どうして俺様は一応『恋人』と言う関係である筈の彼奴に「破廉恥で御座いまする!」と罵られているのか、を。


【Read an Emotion】


「いや、待て。どうしてそうなる?」
「アリ・パシャ殿が申されたのでは御座らぬか。『口の中を切ってしまったから治してくれ』と」
「ああ、確かに言った。何故それだけで『破廉恥』になるのか理由を言え、と俺様は聞いているのだが?」


改めて尋ねてみるも、罵られた理由が思い当たらない。
そもそもこの女の一応の役職はメディックでは無かったか?
確かに俺様を含め、極一部の貴銃士しかこいつの正体を知らないし、実際はメディックとは程遠い役職に存在しているとは言ってもだ。治してくれと頼んで何故罵られているのか意味が分からない。


───…嗚呼、否、この馬鹿は前からそう言う所があったがな。


価値観の違いか、又は置かれていた立場や国の違いなのかは分からないが、俺様の目の前でぶつぶつと唇を尖らせて文句を言っているこの馬鹿は、普段はそう自我を出し過ぎたりはしないのだが、時々、そう時々だ。俺様相手には今のように文句を言ったり、不機嫌な面を晒してきたりする。

マフムトやエセンには先ず見せない表情だ。むしろ今の様な文句を言っている所すら見た事が無い。
その度に思う。
何故、この女は数ある貴銃士の中でも態々文句を言いたくなる俺様を選んだのか。
そして俺様もまた、全く言う事を聞かない上に面倒な事この上ないこんな女が良いのか。
他の基地に居る、それはもう従順そうなマスター達を傍目で見掛ける度に思う事だった。

はあ、と。
俺様は大きく溜め息を吐くと、目の前で不細工な面を晒している御人好しな馬鹿女の両頬を抓った。
「にゃにしゅるのでしゅるかー!」と、何とも情けない声が聞こえてくるが無視だ。此処まで付き合ってやっているのだから、いい加減理由を答えろと続けると、「なゃらば、抓るなーっ!」とさっさと払い除けて距離を取りやがる。


「おい」


声を掛けたが、軽く睨みながら両頬を擦っている。と言うか今度はお前が無視を決め込むのか。
本当に良い度胸をしていると行き場を無くした怒りをどうするべきか考えていると、


「………くち」

と言う呟きが聞こえてきた。


「は?」
「ですから、口の中を切ったから治して欲しいので御座ろ?」
「そうだが?」


だからそれを先程から言っているのだろうが。
何なのだ、お前は。同じ事しか言えないオウムか無駄に出来の良い人形か何かか?
そう言ってやりたい言葉を飲み込みながら次の言葉を促すと、


「口の中だけでは何処を怪我しておるのか分かりませぬ。アリ・パシャ殿の口の中に指を突っ込んで確認しようとした所で、其れが口内でも奥の場合は確認出来ませぬでしょう?」


そんな答えが返ってきた。
言われてみれば確かにそうだろう。
指を突っ込まれる趣味も無ければ、何処を切っているかと尋ねられても正確な場所を伝えられそうに無い。
直接見た方が治し易いのならば躊躇するのは当然か。
そう納得しようとして「…待て」と一瞬脳裏に過った”破廉恥の意味”に気付き、逃げられてしまう前に目の前の女の腕を掴んだ。


「…………つまり、だ。千鳥、お前の言った”破廉恥”とは、指で確認するのでは無くお前の舌で確認した方が速い…と?」


嗚呼、何だ。
意味が分かれば何とも安直で、今更過ぎる恥じらいを見せてくるのか。
今までの、否、この貴銃士の身を優先し、己の事に関しては二の次、三の次な御人好しならば、恐らく「口の中を切った」と言っても特に抵抗も無く”舌で確認もすれば、この女の回復の力ならばキスする事で難無く癒す事が出来るだろうから、相手が驚く隙すら与えずとっととキスして治してしまう”。
其れが俺様相手には「破廉恥だ」と恥ずかしがって出来ないのだ。

頬を紅く染め上げ、上目遣いに睨んでいる馬鹿女が、今は有り得ない程に愛らしいと思ってしまう。
嗚呼、俺様も大概だ。
既にやる事は散々やっているし、散々泣かせたと言うのに、未だに恥じらいを見せる生娘みたいな反応に釣られてしまいそうになる。


「………其れで?治してくれるのか、くれないのか?」


ゆっくりとだが確実に逃げ場を塞ぎながら、「…そろそろ誰か通り掛かるかも知れないが?」と耳元で囁いてやると、今度は瞳を潤ませ泣きそうになっている。

嫌な訳では無いのだろう?
なまじ見えない故に、何処まで傷付いているのか気になってもいるし、何よりも心配してくれているのだろう?
其れが戸惑ってばかりで出来ないのは、偏に厄介過ぎる『恋心』が原因で。その腹立たしい『恋心』の相手が俺様だと言うのならば、それはそれで悪くない。
誰に対しても平等で、優先順位など付けない様な馬鹿正直過ぎる御人好しが、俺様には取り乱し、感情を曝け出しては様々な表情を見せてくるのだ。


───……何とも思わない、その辺の連中に向けられるのならば面倒な事この上ないが、相手がこの女なら…悪くない。


「治す気が有るのならば早く治してくれ」


そう囁く己の声色が毒のような甘さを潜ませている事も、この毒が吐き気を催す程に嫌悪していた感情から来ているモノで、その感情の正体も分かっていると言うのに。


───…この女にならば構わないと思ってはいるが、甘い睦言すらくれてやるつもりも無ければ、愛の告白など出来る筈も無い俺様が、唯一出来る事と言えば、今の様にからかい混じりに囁いてやる事しか出来ないとは、な。


総てをこの手に掴む為に必要な演技ならば幾らでも出来る。幾らでも、望むままに与えてやる事も厭わない。
だが、演技では騙されない女相手に一体何と言えば良い?
信じる筈も無ければ、軽く流される可能性の方が遥かに高いと言うのに、何を今更伝えれば良いのか、否、最初から伝えるつもりすら無い言葉を何れだけ吐き出した所で虚しいだけだ。
全くらしく無い事この上ない。
言わずとも、仮に伝えたとしても、本当に伝わって欲しい”想いの深さがどれ程なのか”……この女に理解出来る筈が無いし、俺様もまたこいつの本心が理解出来ないのと同様に、語るだけ無駄で無意味な時間を費やすだけだ。


「…………全く、困ったお人で御座いますな。何時もの自信過剰は何処に隠してしまいましたので?」


自嘲気味に笑う俺様を見ていたらしい千鳥がそんな言葉を投げ掛けて来る。


「ふん、らしくないのはお前もだろう?」
「当然で御座いましょう?…此れでもつい数ヵ月前までは生娘で御座いましたので」
「戦国生まれが良く言ったものだな。無駄に年だけ重ねて拗らせていただけでは無いのか?」
「何故、私はこの様な失礼極まり無い男士(おのこ)が良いのか…時々、自分自身が分からなくなりまする」
「ならば忘れて、違う男に身を委ねるか?「お前ならば良い」と受け入れる奴は居るだろうからな」


口に出した瞬間に心が軋むのが分かった。だが、同時に『この軋みがある限り、俺様はこの女が欲しいのだ』と、そう実感出来るのも事実だった。
試している訳では無い。だが、言わずにはいられない。
愛の言葉の代わりに何度でも発してしまう言葉の数々は、互いの心をただ悪戯に抉るだけだと分かっている。其れでも言わずにはいられない。
こんな俺様の矛盾には流石のこの女も気付いているのだろう。


「生憎と。散々拗らせた戦国生まれの私には「忘れて違う者の元へ行く」等と言う選択肢は最初から持っておりませぬ故、貴方様に飽きられたその瞬間も、それ以降も、この心は貴方様に向いておりましょう。
私と言う存在が、消えて無くなるその瞬間まで、私は私として生きるだけで御座いまする」


ふう…と小さく溜め息を吐くと、千鳥は俺様の頬に掌で優しく触れながら「アリ・パシャ殿も協力して下され。この高さでは背伸びしても届きませぬ」と困った様な微笑みを浮かべている。

俺様よりも遥かに小さな身体を抱え上げると、大人しく身を委ねた女の唇に己の唇を重ね合わせた。
戯れる様に絡み合う舌の温かな感触と、女にも広がっているだろう鉄錆の味がどんどん薄れていく時、切れていた傷口がすっかり塞がっている事を本当は互いに気付いていた、だが、互いに気付かない振りをした。


「は……も、痛くは有りませぬか?」
「さあ、な。気になるならば、納得出来るまで調べれば良い。時間は空いてるから付き合ってやっても構わないぞ」
「ふふっ、元よりそのつもりで御座いましょう?」


全く素直では無い御方だ、と微笑む女を抱えたまま。
俺様はそっと誰も入っては来れない部屋に、狂おしい程に愛しく、腹立たしい程に生意気で、全く思い通りにならない恋人を人知れずに閉じ込めた。


(終)


きっと閉じ込めた先の部屋で色々やってる(笑)
面白い位に名前を呼ばない所がアリ・パシャさーん!!
「好き」すら言わないアリ・パシャさーん!?
そもそも馬鹿馬鹿言ってるけど、そんなお馬鹿ちゃんが好きなんじゃ無いですか!
何処まで天の邪鬼なんですか、もうっ!
って突っ込みながら書いてました(笑)
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