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千銃士(短編)

今日、何時もお世話になっておりますリンドウさんからマスター同士交流のSSを頂いてしまいまして……こ、これはお礼短文を書くべきです…否、書かねば……!

と思いましたので、【初めての邂逅】からの続きとなっております。

勿論ですが、リンドウさんのSSを読んでいないと分かりにくい所が多々有ると思いますが、出来るだけ分かる様にを意識して書こうと努力だけはしておりますので、宜しければ読んで頂けると嬉しいです。


0704Rindouaoiさんから
創作マスター交流会 http://privatter.net/p/3429124
とりあえず書けましたのでぷらいべったーで投稿させていただきました!
なんだか長文になってしまいましたし、千鳥ちゃんの口調つかみきれてないと思うので、訂正してもらえると嬉しいです……
⇔返信先 Twitter Web Client
★ 返信 RT [s:45]5/16 18:14

す、凄かった!あんなにふわふわした説明しか出来なかったのに、こんなに綺麗にうちの千鳥を表現して頂けるなんて夢にも思わなくて……暫く拝みました!!しかしこう改めて見ても当方宅マスターの正体不明さよ…!!リンドウさん、本当に有り難う御座いました~!!(*≧∀≦*)>RT
Janetter for iPad
☆ 削除 RT [s:45]5/16 19:06


息を吐く様に人外マスター(付喪神)です。いきなりのネタバレですが、恐らく今までの短文諸々を見て頂いている方には今更なネタバレとなってますね(笑)
尚、此方はマフマスとなっております。





↓↓

久方振りに気持ちの良い娘に出逢った。
そう思うのは、私が人間では無いからであろう。
美しく澄んだ蒼い瞳、あの瞳はまるで海の様にも思えたが、同時に清々しい空の色にも思えた。
濡れ羽色の様に艶やかで深い深い宵闇を連想させる長い髪を一つに纏め、とても清潔感のある娘であった───だからこそあの娘に憑いていた”何か”が酷く気に障った。
私が拠点を置くこの場所で、この地に踏み入れても尚、娘にまとわりついていられたのは、偏に娘の魂を気に入っておったからだろう。今はまだ微力で殆ど気付かない程度で有っても、この心優しい娘はそのまま受け入れてしまい兼ねない。

娘と共に来た”彼”───ブラウン・ベス殿と娘はとても強い絆を感じられた。だから心配せずとも大丈夫なのだろうと思う。

だが……

この基地にいるブラウン・ベス殿を普段から見ているから分かる。彼もまたとても優しい心根の青年だ。加えてこの手の問題には慣れていない様にも見受けられた。

よもや、一応用意していたお守りを渡す事になろうとは。
交流の話が出て、「私で良ければ」と受けた後、軽いまじない程度の気持ちで繕っていたお守りに、彼から「念には念を入れておこうか」と餞別に渡された小さな石が二つ。

『天眼石』と呼ばれるこの石をどうして彼が渡して来たのかは、彼等に逢って理解した。


相変わらず底の見えない御方で御座いまするね。


彼等との会話を続けながら、私は今は恐らく基地の何処かで祈りを捧げているであろう彼の姿を思い出し、小さく笑みを浮かべた。


【夜ノ花~凪~】


娘───アイリーンと言う名前の娘から手渡された、彼女の基地で顕現されている貴銃士の一覧に目を通しながら、互いの知っている情報を答えられる範囲で答えていった。
貴銃士達の能力や、心銃の威力に体力の差についてなど。心の持ち方により絶対高貴が目覚めるタイミングや心銃をも左右されている事など。変わらない事も勿論有ったが、マスターの治癒能力の限界についての認識が少し違うのは、やはり私が『人間』では無いからだろうな。
そう再確認させられたのは少し哀しかったが、それは仕方の無い事だと私は笑顔の仮面を貼り付けたまま会話を続けていた。
そんな時間もあっと言う間に終わる頃、私は『そうだ』と、彼から貰っていた小さな天眼石を各々のお守り袋の中に仕込んだ。
『天眼石』とは黒い石の中に白い縞模様が『目玉』に見える事から付けられた石の事だ。「天から降ってきた神の目」とも言われている。災いを遠ざける、悪霊を追い払う、対人関係を円滑にしてくれる等の意味を持っている石だ。

この石が入っているのならば、ただの軽いまじない程度に込めた”神気”と混じりあい、効力はより強く発揮してくれるだろう。

問題はこのお守りが破れてしまった後だ。

破れてしまえば効力は失われる。それはより強く、邪悪な意識の塊が彼女の身に振り掛かって来る事を意味していた。
「その時は直ぐに来る様に」と伝えはしたが、そんな日が来ない方が良い事は誰が見ても明らかだろう。


「こんな事ならば、もう少し強固な物を作るべきであったか…」


そう呟いた時だった。


「何の話かな、千鳥?」


かさり、と。
草を踏む音を耳が拾ったと同時に発せられた声は、私自身が良く知っている愛しい彼の声だった。
嗚呼、やはり不思議な御方だ。月明かりしか辺りには光源は無く、皆が寝静まっている夜の森にわざわざ足を運んで来るなんて。


「…マフムト殿、まだ起きておられたのですか?」
「ん、嗚呼。あなたが宿舎から森へと向かっているのが見えたからね。幾ら問題は無いとは言え、もし、あなたに何か遭ってはと思うと、余は気が気では無くてね。つい来てしまったよ」


ははは、と笑いながらもその瞳には心配の色が見える。
「申し訳御座いませぬ」と謝ると「…否、それよりも風邪を引いてしまうよ。さあ、早く身体を拭いて着替えておくれ」と続けると、彼は枝に掛けて有った拭き布と着替え用の服を差し出してくれた。


「え、あっ!?」


恥ずかしい話だが、私は、彼から手渡される迄、今何をしていたのかをすっかり忘れていたのだ。嗚呼、恥ずかしい。否、彼には既に私自身でも知らない所まで知られているのだけれど。
基地内に設置されているシャワー室はその人数に比べてかなり少なく、何時も接戦が繰り広げられている状況である事も理由の一つでは有るが、私自身はどちらかと言えば『人の器を持っているに過ぎない私が使うのは烏滸がましい。出来るだけ人の子に譲るべきだ』と思っている為、普段は部屋に湯を入れた桶を持っていき、其処から身体を拭くか、今夜の様に森の奥にひっそりと存在しているこの小さな泉で沐浴をしている。
今はまさしくその沐浴の真っ最中だったのだ。


「み、醜い物をお見せして申し訳御座いませぬ……」


慌てて隠そうとしても最早無駄な抵抗でしか無い。それに言った瞬間に思い出した。
彼は、私が私自身を卑下する様な発言を好まない。「あっ」と恐る恐る彼の顔を見てみると、彼は私が私自身の失言に気付いた事に気付き「あなたは昼間邂逅した者達に意識が向き過ぎている様だ。余程気に入ったのだね」と苦笑を漏らしている。


「気に入っている、のかどうかは分かりませぬが……」


もそもそと泉から出て身体を拭き、持ってきていた服に着替えている最中、彼はただじっと月を眺めていた。身体を見られたくない私に対する気遣いなのだろうと思うと、どうして彼が私を選んだのかと不思議に思うのだが、そんな事を口にすれば彼を益々困らせてしまうのだろうと思うと唇を閉ざすしかなかった。

不思議で優しい彼だ。本心を出している様でその実、彼の本音を聞いた者は殆ど居ないだろうと思う。
恐らくは…と思う。彼の置かれた立場がそうさせるのか、他の貴銃士達との価値観に大きなズレが有る。似ているとすればカール殿もそうだが、視点が常に上に立つ者の視点なのだ。
己の弱さにも目を向けて、いっそ過少評価過ぎやしないかとも思える言動にも驚かされたけれど、その分、そのオッドアイの両の瞳で周りを良く見ている。
相手の心の機微を察し、彼なりの持論で相手に接している。
そんな彼になら話しても大丈夫じゃないだろうか、そう思った私は少しずつ昼間の出来事を彼にも伝わる様に話し始めた。


「とても気持ちの良い娘だったのです。共に来ていたベス殿もまた、娘を守ろうとする姿勢に好感が持てましたし、だからこそ……娘にまとわりついている影が気になった」
「ほう……影?」
「マフムト殿の国の文化では馴染みが無いと思いまするが、私の国には八百万の神々が各々を担当し守っておりますので、それ以外にも行き場を失った魂がこの地をさ迷っている。と言う感じの文化でしてな、その娘にまとわりついていた影もまた”何か”の魂だったので御座いまする」
「ふむ、魂か。それはさぞかし重かっただろうね」
「幸い、その魂はとても微力で有りました故、軽く払っただけで何処かに行ってしまいましたが、その娘…アイリーン殿は元々その手の輩に好かれやすい体質の持ち主の様でして、こうして会ったのも何かの縁。私に出来る事ならば…と思っておったのですが……」
「考えれば考える程、逆にどうすれば良いのか分からなくなったと言う所かな?」
「う、左様で御座いまする……」
「ふむ……」


少し考え込む様な仕種をしながら彼は暫く思考の波に身を委ねている様だった。やはり変な事を考えているだろうか?
でしゃばり過ぎる訳にはいかない。所詮、私は人の子とは違うのだから。
他の事では全く役に立たぬであろう私でも、私だからこそ手助け出来るかも知れない───そう思ってしまいらしくもなく舞い上がってしまっておるのやも知れない。
私は彼に「らしくも無い事を申し上げてしまった。忘れて下され」と声を上げようと唇を開いた。だがその前に「そう言えば」と彼が思い出したかの様に私の顔を見てこう言の葉を紡いだのだ。


「あなたは余やアリ・パシャ、エセンを連れてこの森の更に奥に立つ、菩提樹の所に連れて来てくれた事が有ったね」
「え、ええ…」


確かに連れて来た。私は彼等が顕現される度、この森の主であり土地神である菩提樹の彼女の元へと挨拶に向かうのだ。だが、それと今の話が繋がるとは思えず首を傾げてしまった。
彼はそんな私にくすりと笑みを深くしながら「あの時、あなたは余たちに教えてくれた。この地は、この森は、この菩提樹が守ってくれているのだと。だから挨拶に来なくてはいけないのだ、と」と続けると、「八百万の神々でさえも見知らぬ人間を助ける事は出来ないのだろう?」と、私自身が忘れていた当時の言葉を口に出す。


「余が居た場所ではそんな風習は無くて、逆にそれが新鮮だと思ったものだよ。そうやって語り続けられた風習を守り続ける”日ノ本”と言う国は素敵な国だと、ね」
「マフムトさん…」
「だから彼等がまた来た時、今度は菩提樹に案内してあげれば良いのでは無いかな?……そのアイリーンと言う者は、日ノ本にも馴染みが有るのだろう?ならば通じるものが有るかも知れないよ」


彼の言葉に目から鱗が落ちる思いがした。嗚呼、そうだ。どうして忘れていたのだろう?
でしゃばり過ぎず、でも少しは良い状況になるかも知れない。彼女の基地の辺りにも居るだろう”土地神”が彼女達を気に入ってくれればきっと何かしら助けになってくれる。


「貴方様は…本当に、凄い御方で御座います」


何れだけ手を伸ばしても、世界線の違う私には限界が有るのだ。彼女の世界には彼女だけの、彼女だから歩ける道程がある。
ならば私はただ願えば良い。彼女達の道先に光がある事を。
今度はもう少し、私自身の話でもしてみようか。
長い長いとある命の先の話を。私の原点の話を。

(終)
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