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千銃士(短編)

12月いいねして下さった方に一言メッセージを伝えます
なタグで、普段はこの辺りのタグはしないのですが折角なので…と呟いた所、いいねをして下さった方がいらっしゃいましたので、ふと思い浮かんだ短文を送らせて頂くべくちょこちょこ書いておりました。

最初にいいねをして頂いて有り難う御座います!嬉しかったです!

普段は思っていてもなかなか出来ないので、当方宅のマスターとマフムトさんに気持ちを代弁して貰いました(///ω///)♪





マスターには少し困った癖が有る。
それは他の基地に存在している貴銃士達のマスターの癖ならば、さほど困る事も無いだろう些細な癖では有るのだけれど、其れでもこの基地に居るマスターは他とは少々事情が違うからか、やはり困った癖なのだと余は内心はらはらしているのだけれど。

さて、今日は一体何を作っているのやら。

日々の雑務の合間に縫い上げていく小さな人形を眺めながら、余は苦笑を漏らしていた。


【ブラックダイヤモンドにカルサイトを添えて】


「………出来たで御座いまする!」


恐らくはずっと見ていた事には気付いていないのだろうマスター───千鳥が嬉しそうな声を上げながら完成した二つの人形を並べている。
一つは余も良く知っている彼にとても良く似ているので先ず間違ってはいないだろうが、はて?
もう一つの娘は何処かで見覚えがある様に思うのだが、一体何処で見たのやら?

小首を傾げていた余と目があった千鳥が漸く余の存在に気付き、「うわあああ!」と珍しく声を上げて驚いている。


「ま、マフムト殿?一体何時から其処に居りましたので?」
「ん?確かお昼過ぎに此処に来たから、四時間位前だね。途中で休憩にしないかと思い声も掛けたのだけれど、集中している様だから一段落付くまで待っていようかと」
「四時間も…否!そんなにずっと待ってるお人が何処に居りまするか!其処まで待つ事は在りませぬ、もう少し強く意思表示して下さいまし」
「とは言っても余は特に何もする事が無かったからね。ならば貴女が作っているそれ等が無事に仕上がる様に祈りを捧げている方が有意義だろうと思ったのだが」


そう伝えると、「それは有意義な時間だとはとても思えませぬが…」と、それでも余が納得している事を、何れだけ議論しようとも妥協する訳が無い事を既に知っている彼女は、溜め息一つで流してくれるのだから有り難い存在だと思う。
恐らくは何処の基地に居るマスターもそうだろう。その基地に居る貴銃士達にとって何者にも替えがたい守るべき存在であり、愛しい存在なのだと少なからずは思っているだろうと思うのだ。

其処まで考えて、「それでその新作達はまた誰かへの贈り物なのかな?」と余は彼女に尋ねると、「そうなので御座いまする」と出来上がった二つの人形を余の掌に乗せて来る。
両の掌に仲良く転がっている二つの人形を改めて見てみても、やはり一つは良く見慣れた彼の姿そのものでしか無く、もう一つの人形は何処かで見たような姿をしているなとしか分からない。


「はて…一つはアリ・パシャだと分かるのだが、もう一つは誰なのかな?何処かで見たような気はするのだが思い出せないのだが…?」
「ああ、マフムト殿はちらりと見掛けただけだと思いまするので覚えが無いのは当然で御座いましょう。先日の定例会議の時に逢ったマスター殿で御座いますからな」
「先日の…?おお!あの道に迷って遅れてしまった日に行われていた会議の事だね」
「う、そうで御座いまする。あれは…不覚に御座いました。初めて向かった場所だからと言って道に迷ってしまう等……」
「ふむ。確かあの時、地理に詳しい者が迎えに来てくれたのだったね。おお、そうか…あの時、アリ・パシャと共に居た娘に似ている気がするから、あの娘の姿を真似て作ったのだね」


千鳥の言う通り、あの日は初めて足を踏み入れた土地だった事と、余と千鳥にとっては文化圏そのものが未知で有ったが故に道に迷ってしまい、その時まだ土地勘の有ったマスターと貴銃士が探しに出てくれていたらしく、どうにか合流出来たから事なきを得たと言う、後で状況を知ったブラウン・ベス達から「定例会議の場所が毎回変わるのも問題なのでは無いか?」と詰め寄られていた恭遠の姿を思い出した。
その時に出逢った貴銃士がアリ・パシャで、そんな彼と共に居た娘が彼のマスターなのだろう事は一目見て直ぐに気付いたのだが、たまたま外に出た時に遭遇したらしい余り良い印象とは言えない輩に言い寄られていた娘を庇う為にと言うべきか、はたまた牽制した、もしくは敢えて見せたのか。
困っていた娘に気付いて助けに向かおうとした千鳥よりも先に動いた彼は、何を思ったのか白昼堂々と、周りに人が居るのにも関わらず、娘の唇を奪ったかと思えばその輩共に視線だけを向けて不敵な笑みを浮かべたのだ。

この基地に居るアリ・パシャが見たら凍り付くか、絶句するか、又は意外に「ほう…余程”大事”だと見える」と半ば呆れ気味に頷いているかの何れかだろうし、同じく探しに出てくれていたらしい違うマスターと共に居たエセンが呆気に取られていたから、案外それ位の反応で遣り過ごすかも知れない。
しかし、余の基地に居るマスター───千鳥はとても貞淑な大和撫子だ。大和撫子の意味は余り分からないが、イエヤス達がそう言っていたからそうなのだろう。そんな千鳥の反応は勿論違っていたのだ。


「はっ、はは破廉恥で御座いますぞ!!」


そう叫ぶなり自慢の蹴りが炸裂…は流石にしなかったのだが、珍しく声を上げて取り乱し、不躾に二人に指を指して怒鳴り付けたのである。
迷子になっていたのは余達だからかそれ以上の追及は抑えてくれていたが、「公衆の面前で等と…恥を知りなされ!」と暫く怒っていたから余程恥ずかしかったのだろう。

アリ・パシャと共に居たマスターからは謝られていたが、そう謝る程の事では無いだろうと思っていた余はやんわりと千鳥を宥めながら、その娘には「驚いただけだから気にする事は無いよ」とフォローする程度に止めておいたのだが、逆に不思議そうな表情を浮かべていたので、どうやら彼女達の所に居る余とは大分異なる様だと言うことは分かったのだけれど。

そう言えば基本的には出不精らしく、自身の所属している基地の中でさえ迷子になるのが皆の良く知る余の姿だそうだから、少なくともマスターと共に『定例会議』に連れ立って来る事も殆ど無いらしい。まあ、此れが個体差と言うことなのだろうが。
出不精と言うのはそうだろうと思っている。余も最初の頃は良く迷子になっていたし、目的もなくふらふらと出掛ける様な真似は控えているから、全てが違う訳では無いのだが……はて、他の基地に属している余はフォローすら入れないのだろうか?

大なり小なり各々のマスターを気に入って現れていると思うから、何だかんだ見えない所ではフォローもしていると思うのだけど。
少なくとも余は戦闘には極力参加していない分、協力者を募ったり、物資の補給に回ったり、手に入れた情報の信憑性を確認し、其れを各々必要だと思う者に渡したりはしているのだが……はて?


不思議そうに小首を傾げていた娘の瞳が実に印象的で、『嗚呼、こんな娘だから隣に居る彼もまた手を差し伸べてしまうのだろうね』と微笑ましく思ったのを克明に思い出した余は「…そうだ」と、今朝ポケットの中に出来ていた石を二つ取り出すと、「此れを人形の中に入れてあげなさい」と千鳥に手渡した。


「これは?」
「今朝ポケットの中に入っていたのだよ。何となくだがこの二つの石は、彼等の元へ届けなくてはいけない気がするのだよ。だから入れて貰えると嬉しいのだが…」
「マフムト殿がそう仰られるのならばそうするのが一番良いのでしょうな。なれば有り難く受け取りまする」
「ああ、良かった…何となくだが彼等の瞳の色に似ているだろう?」


余の言葉に改めて気付いたらしい千鳥が「確かに」と石を一つ近付けながら呟いた。


「とても深い黒い石ですが、この印象的な形はダイヤモンドで御座いますな。ふむ、ラーレ殿と共に居たアリ・パシャ殿のイメージに合いまする」
「ブラックダイヤモンドと言うそうだね。この石はとても強いパワーを秘めた石で、悪魔ですらこの石の力を欲しがり、手放さないそうだよ」
「何と…益々アリ・パシャ殿が欲しがりそうな石で御座いますな」
「ブラックダイヤモンドは何者にも加担せず、永遠に誰の味方にも敵にもならない存在らしいね。人の様に誰かの味方であったり、敵になったりする事も無く、必要とされている者の元へと現れると言われているみたいだよ。エゴも無く、欠落したものも無く、その強いパワーを発しながらただ必要な者の元へと現れる」
「聞けば聞く程、此方のアリ・パシャ殿から文句が出そうな石で御座いまする」
「ははは、だから早く人形の中に隠しておくれ。アリ・パシャとエセンに見付かったら大変だからね」


そう伝えると千鳥は慌てて人形の一つを手に取り「ふむ、なればブラックダイヤモンドはラーレ殿の中に入れまする」と娘の形をした人形の糸を器用にほどいている。


「おや?千鳥もそう選ぶのだね」


考えていた事と似ていたのだろうか、そう思うと何だか嬉しくなってしまう。千鳥はそんな余の気持ちには気付かずに言葉を続けた。


「強い力を秘めておる石、それもアリ・パシャ殿に似ている石ですからな。まるでアリ・パシャ殿に守られている様な気がして、ラーレ殿も心強かろうと思いまする」
「ははは、確かに。だが…案外アリ・パシャの方が娘の人形を選ぶかも知れないよ?」
「ぬ、確かに…否、其れでも結局は本当に欲しい者の所へと石が渡った訳ですので大丈夫では無かろうかと」
「そうだね……カルサイトも強いエネルギーを持っているが、とても優しい守護石だ。きっと逆になったとしても問題はないよ」
「何と!そうなのですか?」
「嗚呼、浄化してくれる石でとても暖かく調和や精神的にも正常に保ってくれる、とてもサポートに徹している石なのだよ。此方もあの二人には丁度良いだろう?」
「確かに。マフムト殿は良くご存じですな、私には綺麗な石でとても力の有る事しか分かりませぬから、凄いと思いまする」


ほうほうと頷きながら黒と淡い黄色の石を眺めている。
そう、仮に娘の人形を選んだとしても構わないのだ。娘の中に存在しているブラックダイヤモンドの強い力を彼が欲する事で、『彼女ごと手中に収めたいと思う本音』に気付くだろうし、彼自身の人形を選んだとしても、彼の中に存在しているカルサイトが『娘の心を映し出しているかの様な石に守られたい、本当に望んでいる力は此方なのだ』と気付くかも知れないから。

それに…この二つの石の意味。
ブラックダイヤモンドは不滅の愛、頼りになる伴侶を得る、思いが相手に届く等の意味があり、カルサイトには愛情を育て、二人の関係を安定させる、トラウマを解消させる等の意味が含まれていた筈だ。

彼等が人形の中を開けた時、この二つの石に気付いたその時、一体何を思うのか?
それは何と幸せな事だろうか、と思うと余はこの困った千鳥の癖も愛しいとさえ思ってしまうのだから、全く本当にはらはらさせられて心配だと言うのに結局は許してしまう事の方が厄介なのだろうと思うのだけれど。


「マフムト殿?」
「ん、嗚呼…千鳥、実はねこの二つの石にはこんな意味も含まれていてね…」


千鳥の耳元に唇を寄せながらそっと内緒話をする様に、二つの石の意味を教えながら。
さて彼女にも幸せの共犯者になって貰おうかと内心そんな事を考えていた。


《終》
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