聖闘士星矢【アイオロス受】短編
「「ジャム?」」
久し振りに非番が重なったから、と言う事でアイオリアが朝から人馬宮に顔を見せていたそんな日に、任務明けで恐らくは夜明け前に戻ってきていたシュラが困った表情を浮かべて「昨日届いていたらしいのだが…」と見せてくれた小箱の中には可愛らしいピンク色の小瓶。
この正体に気付いた俺とアイオリアも『何故これをシュラに送ろうと思ったのだろう』と疑問を抱いたが、「桜の花で作ったジャムらしい」と一緒に同封されていた手紙に目を通しながら教えてくれた。
「サクラ? 嗚呼、確か日本の国花だったな……そう言えば今は丁度サクラの花が開花されている時期だったか」
「そうなのか? ならば贈り主はシュラに日本はサクラが咲いていますよと伝えたかったのかも知れないな」
「……その様だ。紫龍からだったのだが『日本は桜の花が何処も満開で、季節はすっかり春となっている。なので貴方にも春のお届けを』と」
正体が分かれば何て事は無く、青銅聖闘士の少年達は日本に戻り元気に過ごしている事が伝わってくる。
「そうか。ならばシュラはこのサクラのジャムを食した感想と共に何か送り返さねばならないな」
そう私が言うと、「それが…俺は昔からジャムを食べないので困っているのだ」と、珍しく途方に暮れた表情を浮かべて話してくれた。
「ジャムなのだし、朝食のパンにでも塗って食べれば良いんじゃないのか?」
「その習慣が有るのならば、俺も最初からお前達の所には来ていない……折角の休みを邪魔するつもりは無かったのだからな」
「邪魔だなんて、私もリアも思ってはいないぞ、シュラ。前の様にこうやってお前達が揃って人馬宮に居る所が見れるだなんて思っていなかったから、むしろ私はとても感謝している」
「アイオロス」
「兄さん」
私の言葉に二人は何処か安心した様に息を吐いた。全員が蘇った時、私の体がシュラの聖剣を受けた直後辺りの状態で蘇っていた事を知ったからだろうか?
皆に言われ暫く女神の、グラード財団の息が掛かった病院できちんと処置して貰い、しっかり入院して治療に専念させて貰ったと言うのに、二人は、いや他の皆もだ。同じ聖闘士だと言うのに、私が傷を負うのを怖がっている様に思うし、何処か私に気を遺っている。
まるで腫れ物、というよりも壊れ物を扱っているかの様な繊細さで接してくる彼等に、仕方の無い事だと理解していても、私は少し寂しさを感じていた。
ーーー…私は、皆と共に戦う事すら出来なかった。十三年の間、皆の中に痼りとして存在してしまった私と共に居ればどうしても思い出してしまうだろうに…それでもこうやって私と接してくれるのだ。それだけでも感謝せねばな…。
私のこの感情を伝えるつもりは無い。こんな些細な事でこれ以上彼等を煩わせたくは無いからだ。だから少し昔の事を思い返してみる事にした。
シュラがジャムを食べない理由について何となくだが心当たりが有る事に気が付いたからだ。確か、二人がまだ幼くてここ人馬宮で共に過ごしていた頃、タルトを作るにせよ結構色んな所で使う事が多いからと、ついジャムを切らしてしまいがちになるし、鍛錬に座学に任務にとやるべき事も多く、『ならば朝食だけはジャムを抜いて卵やソーセージと一緒に食べれば良いじゃないか』と、二人に食べさせていたと思う。もしかしたらこれが原因かも知れない。
「………済まない、シュラ。お前が余りジャムを使う習慣が無いのは、私のせいかも知れん」
「どういう事だ?」
「それがな」
思い出した事を二人にも話す事にした。否、恐らく理由はこれなのだろう。もう少しサボらずにジャムを合間で作ってやれば良かった。
半ば懺悔する気持ちで言ったというのに、話を聞いた二人は何処か嬉しそうに「そういう事か」と納得している。
「しかし理由は分かったものの、サクラのジャムは他のジャムの様にタルトとかヨーグルトに掛けても大丈夫なのだろうか?」
「兄さん?」
「ん? いやなイチジクや杏にオレンジとかならジャムにしてタルトを焼いたり、ヨーグルトに掛けて食べたりもしたが、サクラはどうだろうかと思ってな」
「成程、ならば味を見てみるか?」
「良いのか?」
「構わん。俺だけでは駄目にしてしまうだけだった物だ。アイオリアも気になるならば味見してみると良い」
そう言うなり、シュラは小瓶を手に取ると少し硬めに締まっていた蓋を簡単に開けて渡してきた。
取り敢えずと指で軽く掬って舐めてみると、仄かに『甘いかな?』程度の優しい味が口内に広がり、「これで焼くとなるとパンチは足りないかも知れないが、極力味を変え過ぎない様に作ってみようと思う。それでも良いか?」とシュラに確認を取ると、
「構わない。貴方の思うままに使ってくれ」
「……後で苦情は受け付けないからな」
一応念を押してはみたものの、恐らくシュラもアイオリアも文句なんて言わないのだろうなと苦笑しながら、私は窯に火を入れると、生地の準備に取り掛かった。
残っていた材料内でも作れそうで本当に良かった。ジャム自体の甘さが控えめなので若干甘さを加える事にはなるが、それでもくど過ぎない程度に留めておいた方が良いだろう。
ーーーシュラは甘過ぎる物は苦手だったからな。
大人になってもっと苦手になっているのかも知れない。幼い頃にギリシャの甘い甘いお菓子を口に入れて、目を白黒させて驚いていた姿を思い出し小さく笑う。
可愛かったのだ、本当に。
こんな事を言うときっと本人にも怒られてしまうだろうが、真面目で要領も少し悪くてついつい貧乏くじを引いてしまう。その癖、妙に潔くて男気なんてものまで出してしまうものだから、結局シュラが悪者になってしまう。
加えて繊細な所もあって気付いたら一人で背負ってしまっていて、本当は苦しくて辛くて悲しんでいるものだから、『相手もそうだ』と考えてしまうし、必要以上に寄り添おうとしてしまうんだよな。
そんな不器用なシュラが私は心配しながらも可愛いなと思っていた。アイオリアとはまた違う可愛さだろうか?
勿論シュラだけでは無くて、他の皆もそれぞれまた違った意味で『可愛い』と思っていた。アイオリアは本当の弟だしそれは揺らがないし変わらないのだが、皆が私にとっては『弟』で。だからより可愛いし、私に出来る全力で守ってやりたい。成長を見届けたいと考えていた。
其処まで考えて不意に思う。
私にとってシュラはどんな存在なのだろう、と。
可愛いと思うのも、成長したなと嬉しく思うのも他の皆と変わらない。だが、それ以上にもっと別の感情が含まれている様な、そんな気がするのに、それが『何』かが思い浮かべられない。
ーーー否、今は作る事に集中しなくてはな。
失敗なんてしたら目も当てられない。
バニラとメタクサを少し入れて、手で転がして紐状に伸ばして…本当はしっかり冷やした方が失敗も少ないが、人馬宮の居住区に冷やす道具なんて有る筈もなく、とは言ってもその度にカミュの所まで行って「冷やしてくれ」だの「氷を作ってくれ」だの頼めないから、私なりに冷やさなくても作れるタルト生地の配合を見付け出していた。
中身はシンプルにサクラのジャムだけになってしまったが、どうにか見た目も悪くないと思う。
窯の火を調節しながら綺麗に焼けたタルトを取り出し、最後に火を消してから「出来たぞ」と二人の前に置いたら「「おお」」と妙な歓声が上がった。
「凄いですね、兄さん。冷やしていないのに綺麗に焼けているじゃないですか!」
「クルラキァと言ったか? 貴方が良く焼いていたと言えばクルラキァや南瓜のパイを思い出すが、貴方はタルトも焼いていたのだな」
「ああ、確かにクルラキァもパイも良く焼いていたな……そんな事よりも問題は味だぞ、味! 極力変えていないから甘さが足りないか、逆に甘過ぎていないか心配なのだが……」
言いながら切り分けると、二人は行儀良く一口大に切ってから口の中に入れて咀嚼していく。
この時だけは本当に慣れないな…と思いつつ、私も恐る恐る口に入れると思っていたよりは甘さも感じられて、それでもギリシャのお店とかで買った物に比べると遥かに優しくて、これならば甘い物が苦手な者でも食べやすいのでは無いかと思うのだが…。
「……本当だ。甘さはかなり抑えられていると思いますが、何だか日本って感じがして、俺は悪くないと思いますよ」
「ああ……アイオロス。俺は今までジャムの甘さが得意では無かったのだが、貴方の作ったこのタルトは良いと思う」
「そ、そうか? それならば良かった」
二人からの言葉に私は漸く肩の荷が下りて、ホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても…シュラも言っていましたし気になったので、俺も記憶を辿ってみましたが、兄さんがタルトを焼いていた記憶が全く無いんですよね……」
「あれ、そうだったか? ジャムを作って早く消費したい時によく焼いていたのだがなあ」
アイオリアの言葉を聞いて、おかしいなと首を傾げた。確かにこの配合を見付けてからは良く焼いていたのだが……。
そう思い私自身の記憶も辿ってみて、そうして頭に浮かんだ人物は二人。その人物達は勿論、アイオリアでもシュラでも無かった。
「あ、そうだ! 私がこの配合を見付けたのは、お前達がそれぞれの宮で過ごす様になってからだから、何時も匂いに釣られてはカミュを引っ張って顔を見せるミロの二人に食べさせてたな! だからお前達は知らなかったのだな」
ああ、良かった。すっきりしたな、と安心した私に「「良くないっ!」」と二人の声が室内に木霊した。どうして怒っているのかが分からないのは、やはり大人びていると言われても私がまだまだ経験の少ない子供だからなのだろうか?
ーーー謝るべきなのだろうか? だが何で怒っているのかが分からんしな。
仄かに甘かったサクラの味が何故かほろ苦く感じた。
久し振りに非番が重なったから、と言う事でアイオリアが朝から人馬宮に顔を見せていたそんな日に、任務明けで恐らくは夜明け前に戻ってきていたシュラが困った表情を浮かべて「昨日届いていたらしいのだが…」と見せてくれた小箱の中には可愛らしいピンク色の小瓶。
この正体に気付いた俺とアイオリアも『何故これをシュラに送ろうと思ったのだろう』と疑問を抱いたが、「桜の花で作ったジャムらしい」と一緒に同封されていた手紙に目を通しながら教えてくれた。
「サクラ? 嗚呼、確か日本の国花だったな……そう言えば今は丁度サクラの花が開花されている時期だったか」
「そうなのか? ならば贈り主はシュラに日本はサクラが咲いていますよと伝えたかったのかも知れないな」
「……その様だ。紫龍からだったのだが『日本は桜の花が何処も満開で、季節はすっかり春となっている。なので貴方にも春のお届けを』と」
正体が分かれば何て事は無く、青銅聖闘士の少年達は日本に戻り元気に過ごしている事が伝わってくる。
「そうか。ならばシュラはこのサクラのジャムを食した感想と共に何か送り返さねばならないな」
そう私が言うと、「それが…俺は昔からジャムを食べないので困っているのだ」と、珍しく途方に暮れた表情を浮かべて話してくれた。
「ジャムなのだし、朝食のパンにでも塗って食べれば良いんじゃないのか?」
「その習慣が有るのならば、俺も最初からお前達の所には来ていない……折角の休みを邪魔するつもりは無かったのだからな」
「邪魔だなんて、私もリアも思ってはいないぞ、シュラ。前の様にこうやってお前達が揃って人馬宮に居る所が見れるだなんて思っていなかったから、むしろ私はとても感謝している」
「アイオロス」
「兄さん」
私の言葉に二人は何処か安心した様に息を吐いた。全員が蘇った時、私の体がシュラの聖剣を受けた直後辺りの状態で蘇っていた事を知ったからだろうか?
皆に言われ暫く女神の、グラード財団の息が掛かった病院できちんと処置して貰い、しっかり入院して治療に専念させて貰ったと言うのに、二人は、いや他の皆もだ。同じ聖闘士だと言うのに、私が傷を負うのを怖がっている様に思うし、何処か私に気を遺っている。
まるで腫れ物、というよりも壊れ物を扱っているかの様な繊細さで接してくる彼等に、仕方の無い事だと理解していても、私は少し寂しさを感じていた。
ーーー…私は、皆と共に戦う事すら出来なかった。十三年の間、皆の中に痼りとして存在してしまった私と共に居ればどうしても思い出してしまうだろうに…それでもこうやって私と接してくれるのだ。それだけでも感謝せねばな…。
私のこの感情を伝えるつもりは無い。こんな些細な事でこれ以上彼等を煩わせたくは無いからだ。だから少し昔の事を思い返してみる事にした。
シュラがジャムを食べない理由について何となくだが心当たりが有る事に気が付いたからだ。確か、二人がまだ幼くてここ人馬宮で共に過ごしていた頃、タルトを作るにせよ結構色んな所で使う事が多いからと、ついジャムを切らしてしまいがちになるし、鍛錬に座学に任務にとやるべき事も多く、『ならば朝食だけはジャムを抜いて卵やソーセージと一緒に食べれば良いじゃないか』と、二人に食べさせていたと思う。もしかしたらこれが原因かも知れない。
「………済まない、シュラ。お前が余りジャムを使う習慣が無いのは、私のせいかも知れん」
「どういう事だ?」
「それがな」
思い出した事を二人にも話す事にした。否、恐らく理由はこれなのだろう。もう少しサボらずにジャムを合間で作ってやれば良かった。
半ば懺悔する気持ちで言ったというのに、話を聞いた二人は何処か嬉しそうに「そういう事か」と納得している。
「しかし理由は分かったものの、サクラのジャムは他のジャムの様にタルトとかヨーグルトに掛けても大丈夫なのだろうか?」
「兄さん?」
「ん? いやなイチジクや杏にオレンジとかならジャムにしてタルトを焼いたり、ヨーグルトに掛けて食べたりもしたが、サクラはどうだろうかと思ってな」
「成程、ならば味を見てみるか?」
「良いのか?」
「構わん。俺だけでは駄目にしてしまうだけだった物だ。アイオリアも気になるならば味見してみると良い」
そう言うなり、シュラは小瓶を手に取ると少し硬めに締まっていた蓋を簡単に開けて渡してきた。
取り敢えずと指で軽く掬って舐めてみると、仄かに『甘いかな?』程度の優しい味が口内に広がり、「これで焼くとなるとパンチは足りないかも知れないが、極力味を変え過ぎない様に作ってみようと思う。それでも良いか?」とシュラに確認を取ると、
「構わない。貴方の思うままに使ってくれ」
「……後で苦情は受け付けないからな」
一応念を押してはみたものの、恐らくシュラもアイオリアも文句なんて言わないのだろうなと苦笑しながら、私は窯に火を入れると、生地の準備に取り掛かった。
残っていた材料内でも作れそうで本当に良かった。ジャム自体の甘さが控えめなので若干甘さを加える事にはなるが、それでもくど過ぎない程度に留めておいた方が良いだろう。
ーーーシュラは甘過ぎる物は苦手だったからな。
大人になってもっと苦手になっているのかも知れない。幼い頃にギリシャの甘い甘いお菓子を口に入れて、目を白黒させて驚いていた姿を思い出し小さく笑う。
可愛かったのだ、本当に。
こんな事を言うときっと本人にも怒られてしまうだろうが、真面目で要領も少し悪くてついつい貧乏くじを引いてしまう。その癖、妙に潔くて男気なんてものまで出してしまうものだから、結局シュラが悪者になってしまう。
加えて繊細な所もあって気付いたら一人で背負ってしまっていて、本当は苦しくて辛くて悲しんでいるものだから、『相手もそうだ』と考えてしまうし、必要以上に寄り添おうとしてしまうんだよな。
そんな不器用なシュラが私は心配しながらも可愛いなと思っていた。アイオリアとはまた違う可愛さだろうか?
勿論シュラだけでは無くて、他の皆もそれぞれまた違った意味で『可愛い』と思っていた。アイオリアは本当の弟だしそれは揺らがないし変わらないのだが、皆が私にとっては『弟』で。だからより可愛いし、私に出来る全力で守ってやりたい。成長を見届けたいと考えていた。
其処まで考えて不意に思う。
私にとってシュラはどんな存在なのだろう、と。
可愛いと思うのも、成長したなと嬉しく思うのも他の皆と変わらない。だが、それ以上にもっと別の感情が含まれている様な、そんな気がするのに、それが『何』かが思い浮かべられない。
ーーー否、今は作る事に集中しなくてはな。
失敗なんてしたら目も当てられない。
バニラとメタクサを少し入れて、手で転がして紐状に伸ばして…本当はしっかり冷やした方が失敗も少ないが、人馬宮の居住区に冷やす道具なんて有る筈もなく、とは言ってもその度にカミュの所まで行って「冷やしてくれ」だの「氷を作ってくれ」だの頼めないから、私なりに冷やさなくても作れるタルト生地の配合を見付け出していた。
中身はシンプルにサクラのジャムだけになってしまったが、どうにか見た目も悪くないと思う。
窯の火を調節しながら綺麗に焼けたタルトを取り出し、最後に火を消してから「出来たぞ」と二人の前に置いたら「「おお」」と妙な歓声が上がった。
「凄いですね、兄さん。冷やしていないのに綺麗に焼けているじゃないですか!」
「クルラキァと言ったか? 貴方が良く焼いていたと言えばクルラキァや南瓜のパイを思い出すが、貴方はタルトも焼いていたのだな」
「ああ、確かにクルラキァもパイも良く焼いていたな……そんな事よりも問題は味だぞ、味! 極力変えていないから甘さが足りないか、逆に甘過ぎていないか心配なのだが……」
言いながら切り分けると、二人は行儀良く一口大に切ってから口の中に入れて咀嚼していく。
この時だけは本当に慣れないな…と思いつつ、私も恐る恐る口に入れると思っていたよりは甘さも感じられて、それでもギリシャのお店とかで買った物に比べると遥かに優しくて、これならば甘い物が苦手な者でも食べやすいのでは無いかと思うのだが…。
「……本当だ。甘さはかなり抑えられていると思いますが、何だか日本って感じがして、俺は悪くないと思いますよ」
「ああ……アイオロス。俺は今までジャムの甘さが得意では無かったのだが、貴方の作ったこのタルトは良いと思う」
「そ、そうか? それならば良かった」
二人からの言葉に私は漸く肩の荷が下りて、ホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても…シュラも言っていましたし気になったので、俺も記憶を辿ってみましたが、兄さんがタルトを焼いていた記憶が全く無いんですよね……」
「あれ、そうだったか? ジャムを作って早く消費したい時によく焼いていたのだがなあ」
アイオリアの言葉を聞いて、おかしいなと首を傾げた。確かにこの配合を見付けてからは良く焼いていたのだが……。
そう思い私自身の記憶も辿ってみて、そうして頭に浮かんだ人物は二人。その人物達は勿論、アイオリアでもシュラでも無かった。
「あ、そうだ! 私がこの配合を見付けたのは、お前達がそれぞれの宮で過ごす様になってからだから、何時も匂いに釣られてはカミュを引っ張って顔を見せるミロの二人に食べさせてたな! だからお前達は知らなかったのだな」
ああ、良かった。すっきりしたな、と安心した私に「「良くないっ!」」と二人の声が室内に木霊した。どうして怒っているのかが分からないのは、やはり大人びていると言われても私がまだまだ経験の少ない子供だからなのだろうか?
ーーー謝るべきなのだろうか? だが何で怒っているのかが分からんしな。
仄かに甘かったサクラの味が何故かほろ苦く感じた。
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