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百神(短編)


「シン、休まないで本当に大丈夫なの?」

「嗚呼…平気だよ」



そう言いながら船の上から地上を眺めている僕の横で、シャマシュは作業に集中しているのか何やら慌ただしく動いている。
普段見慣れている夜の地上では無く、人間達が忙しなく活動している様は、僕にとってはとても珍しく、何時間見ても一向に飽きが来ない。
だけど……さっきから作業に集中しているからとは言え、シャマシュがこちらを見ようとしないのが気になるな。


ちらり、と彼女の動きを目で追ってみた。
何となくだけど何時もよりもぎこちなく見える。もしかしたら……と、僕はゆっくりと彼女に近付いた。


やっぱり、気付いていない?
可笑しいな、幾ら作業に没頭しているからと言っても此れだけの至近距離で気付かないだなんて有り得るのだろうか?


何となくビクビクしている様にも見えなくは無いシャマシュの掌に、僕はソッと触れてみた。
「ひゃっ」と途端に可愛らしい声と、ビクンッと大きく身体を震わせている姿を目の当たりにして、僕は『嗚呼…やっぱり』と小さく笑った。



「そんなに緊張しないでよ」



クスクスと笑いながら、シャマシュの耳元で囁くだけで大袈裟な位にビクビク震えていて……まるで錆びた人形みたいにギクシャクした硬い動きしか出来ないシャマシュを見て、微笑ましくて笑いが止まらない。
余りに僕が笑うからか、悔しそうに唇を噛み締めているシャマシュに「こら」と注意するけれど、見詰めるだけで益々固まって動けないらしい。


どうしてそんなに緊張しているんだろう?
どうしてそんなに僕に気を遣うんだろう?


僕が役目の為に船に乗っている間は、シャマシュ自身は冥界を旅している最中である事が多い。
僕よりも遥かに多い仕事量。でもシャマシュはそれらには何の不満も持っていないのか、普段から入れ違いの様に擦れ違うのが日常の風景だった。
だが、入れ違いで出発しようとするシャマシュの腕を掴まえて「一緒に行っても良い?」と咄嗟に言ってしまっていた。少しでも彼女の傍に居たかった、だから思わず腕を掴まえてお願いしたのを「良いわよ」と承諾して貰えたから、今此処に居るのが正しい。


だが……本当は迷惑だったのでは無いだろうか?
僕が一緒に居ると作業に支障が出るのでは無いか、と心配になって一定の距離を保っていたけれど、実際はただ緊張しているだけなのかも知れない。
そう思うと安心して、笑ったのが正しかったのだけれど……シャマシュが頬を膨らませて怒っているのが伝わったから、余計に可愛らしくて笑ってしまったのだけれど。



ギュウウウ…と、目を強く閉じているシャマシュの頬も耳朶も真っ赤に染まっている。頬も勿論膨らませているけれど、本当に怒りを感じていると言うよりも……強く意識されて恥ずかしいと思っている様に思えたから。
僕はシャマシュの手を取ると、自分の胸元に彼女の手を押し付けた。自分の心臓の音を聞かせる事で、本当は……僕もシャマシュと同じなんだよと伝えたくて。
物凄くドクンドクンと激しく鼓動を打っているのは分かっている。きっとこの鼓動と緊張はお互い様なんだと言いたかった。
「え?」と驚いて僕の顔を見詰めて来るシャマシュに、「あのね?……僕だって君と同じだよ?」と小さく言葉を紡いでいった。
自分でも分かる位に緊張しているのが分かる。それはとても恥ずかしいけれど、『自分だけが』と思っているシャマシュに、少しでも安心して貰えるなら…と、そう思うと何故か逆に誇らしくも思えたから。



「緊張するなって方が無理だ。こうでもしないと君と二人きりに為れないからって、らしくない事をしている自覚も有るけど……それでも君の傍に居たかったんだ」

「シン……」

「御免ね?……僕の我が儘に付き合わせてしまって」

「そんな事無いわよ、シンは我が儘なんか言ってないわ!その……私だって貴方が居てくれて嬉しいんだから、だからそんな風に謝らないでよ」

「シャマシュ、有り難う」



そう素直な気持ちを伝えると、シャマシュもまた同じ様に素直な気持ちを返してくれる。
皆が彼女の事を、元気で底抜けに明るくて…責任感がただ強いだけの女の子だと誤解しているけれど、本当はそれ以上に周りを見ていて第三者の為にと頑張り過ぎてしまう位、とても優しい子なんだ。
そんなシャマシュだからこそ僕は何時もそれとなく手助けしていた。昔からずっと其れだけは変わらない。
彼女がドジをして泣きべそを掻いているとつい手を差し伸べてしまうし、「有り難う」と言われると心地好く思える。
助けてくれるのが当たり前だと思わず、かと言って「助けてくれだなんて言ってないわ」とはね退けたりもしないシャマシュの素直さと認められる強さ、それこそがシャマシュの一番の長所であり好きな所だとハッキリ言えるから。
だからこそ今までも、そして此れからも……僕は、僕に出来る範囲でシャマシュを手助けしてあげられるのだろうと思う。


皆の誤解を解きたいと思う反面、変な注目を浴びせられるのも何となく不愉快で……だから僕は極力他の神々同士の会話に参加するのを控えている。
変にシャマシュを話のネタに持ち出されるのが不愉快で、下手に好敵手を増やしたくないからだ。勿論、これらは僕の勝手な言い分で有る事も分かってはいるけれど……それでも嫌なものは嫌だった。



───…でも、参ったな。



僕は内心かなり焦っていた。普段から入れ違いの生活を強いられているから、不足していたのは事実だが……まさか逢えたら少しは解消されるだろうと思っていた慕情が、一気に劣情へと進化してしまうなんて予測すらしていなかったからだ。
信じられない位、身体が別の方向で熱を帯びて来ている事が分かる。
前にギルガメッシュが『その気になれば絵でも何でも、興奮さえ出来れば処理は出来る。一人で処理するのが馬鹿馬鹿しければ何処か適当な器を見付けて処理すれば良いだけの事だろうと思っていた』と、生前を振り返りながら話していたが、同時に『気に入った女が目の前をチラチラ歩いているだけで”その気”になるものじゃ無いのか?』とも言っていたが、まさか僕までそれに当て嵌まるなんて……。



───…まるで最初から『其れだけが目的だった』みたいでは無いか。嫌だな、そんなつもりは無かったのに……。



そう必死に落ち着かせようと呼吸を整えるも、熱くなる身体と劣情は治まらない。
仕方がない、と……僕は「でも…やっぱり僕は君に謝らなくてはいけないみたいだ」と苦笑半分自嘲気味に呟いた。
だけどシャマシュは僕の呟いている言葉の”本当の意味”に気付いていないらしい。
「だから謝らないでって言ってるじゃない」と、言う言葉を耳にした時には、僕の身体は自発的にシャマシュの身体を抱き締めていた。



「え?」



と、酷く驚いている様だがやはり理解は出来ていないらしい。
其れでも構わず、抱き締める腕に力を込めながら、「傍に居られたら未だ我慢出来ると思っていたのに…余計、歯止めが利かなくなってるみたいだ」と、どうすれば伝わるだろうかと考えながら言葉を紡いだ。
でも肝心のシャマシュには全く伝わっていないらしい。



「え、だから…どうしたの?歯止めが利かないって何が?」

「…………分からない?」



流石に目眩がしそうだ。オロオロしながら尋ねて来るシャマシュを、少し不満気な目で睨んでしまったけれど……そのオロオロとしている姿を見ていると『仕方がないな』と白旗を上げたくなるから不思議な気分だった。
改めて「仕方ないか」と覚悟だけして、本当は”あからさま”な方法を取りたくは無かったが……と不本意ながらも伝わらないなら『仕方がない』と、シャマシュの手を取り自分自身の下腹部へと触れさせた。勿論、布越しだと言うのに……其れでもどんどん存在を主張している”自身”に、シャマシュに対して申し訳ない気持ちが溢れて来る。



「え、え……うえええ!?」



すっとんきょうな声が直ぐ傍で聞こえて来た。それは仕方がないだろう。
僕だって逆の立場ならばきっと同じ反応を返している。勿論、相手が愛しい彼女で無ければ辛辣に切り返しているに違いない。
それでもハッキリと分かって貰いたかった。僕がどれだけシャマシュの事を欲しているのか、こういう意味合いでも欲しいと思っているのだと理解して貰いたかったから。
とは言え、目を白黒させて僕を凝視しているシャマシュを見ていると益々気まずく思ってしまう。
僕にとってはとても長く、でも実際には然程経ってはいなかったのだろう……少し落ち着きを取り戻したらしいシャマシュに尋ねられた。



「あの、シン……大丈夫?」



大丈夫か、大丈夫じゃ無いか。
そのどちらかしか選べないなら、きっと今の状況は大丈夫では無い。だから無理を承知で頼む事しか、今の僕には出来なかったから。



「大丈夫じゃ、ない……御免、無理を承知でお願いするけど……もっと君に触れても良いか?」



きっと断られるだろう。
そう思いながらの頼みだった。
だが、シャマシュからの返事は僕の予想を大きく裏切り…逆の意味で酷く焦ってしまう回答だった。



「え、と…船の上だから、あんまり激しくしないでくれたら良いわよ」



……………え?
ちょっと待ってくれ、君…本当に良いのか?此処で、君にとっては任務中の、しかもこんなにも明るい船の上で……流石に嫌じゃ無いのか?
余りに簡単に了解が貰えて、逆に僕は不安に駆られた。不安のままに尋ねた言葉も、取り乱し過ぎて何だか失礼な問い掛けをした、と我ながら思う。



「本当に?……君、僕の言ってる意味…きちんと理解出来ているのか?」

「失礼ね、私だって…今のシンがとても切羽詰まってる事くらいは分かるわよ!」



案の定、シャマシュからは「失礼だ!」と怒られてしまった。
当然だ、むしろシャマシュから見ても『切羽詰まっている』と察しられてしまう位、余裕が無くなっているのだから。
そう思うと何だか滑稽に思えて笑ってしまった。勿論、自分自身にだが。



「御免…確かに君に対して失礼過ぎたな」



そう伝えながら、シャマシュの額やこめかみ、瞼や頬に軽く触れるだけのキスを与えていくとシャマシュの身体が小さく震えてた。「あ……」と震える唇から可愛らしい声が、僕の聴覚を刺激している。
聴覚だけじゃ無い、只でさえ熱くなっている身体が益々熱く疼いて苦しくなる。唇を顎から首筋へと移動すると、「ん………」と吐息に近い声が聞こえて来た。



ぞくぞく、と僕も”らしくなく”震えてしまう。こんな普段聞かない吐息を耳にしたら余計に。



───…不味いな、歯止めが利かなくなる。このまま最後まで抱いてしまう訳にはいかないのに。



僕は良い。仕事自体は終わっているし、このまま最後まで抱いてしまっても、シャマシュ以外の第三者に何かしら文句や注意を言われる筋合いは無いからだ。
だが、現在任務中のシャマシュはどうだろう?
きっと第三者が好き勝手に騒ぎ出すに違いない、僕から手を出したと言っても『関係ない』と言い放つ連中だって出てくるだろうし……程々に止めなくてはいかないと思うのに、触れる指が、触れる唇が、熱くなる身体そのものが、貧欲に『もっともっと』と彼女を求めているのが良く分かった。



どうしよう、と本当に困っていた時……ふわりと髪に柔らかくて暖かいモノが触れて来る。
おそるおそる触れて来るモノは、シャマシュの掌だった。そう言えば……こんな風に触られた事って殆ど無かったな。
別に触れられて悪い気はしていない、だけど余り触られると別の意味で少し困ってしまうから。



「こら、余り触らないで貰えないかな?…これでも直ぐに縺れて後が大変なんだから」



そう言うとシャマシュからは「だって気持ち良かったんだもの」と返って来る。
そう言われてしまうと、悪い気はしないものだから妥協するしか無いじゃないかと苦笑を漏らした。



「仕方ないな…なら、後で直して貰えるか?」



そう伝えると「勿論よ」と頷いて来る。
「ずっと触ってみたかったんだもの。その為にティアマトの髪やアマテラスの髪を結わさせて貰いながら、実はコッソリ練習させて貰っていたんだから」とまで言われてしまうと、妥協すると言うよりも少し呆れて……同時に酷く愛おしくて堪らなかった。
「そんな事していたのか?」と呆れ気味に呟いても、きっと効果なんてものは望めない。
愛おしくて、愛おしくて堪らないのだから。「君らしいね」と呟いた言葉にも、つい想いを込めて言ってしまっていると言う自覚もあったから、髪の話は此れで終わりだと唇をシャマシュの柔らかい双方の山へと移動させる。
ちゅっ、と半ば緊張しているのには目を瞑り、ただ愛でるつもりで触れていると「イシュタルさん達みたいなプロポーションなら良かったのになあ」と、少し傷付いている様な声が聞こえて来た。



「え?」



シャマシュの呟きに思わず反応して彼女の顔を見上げてみると、思っていたままの少しなんてものでは無い……酷く傷付いた表情を浮かべているシャマシュと目が合った。
その傷付いた顔を見て「ああ…」と、初めて深く触れ合った時の事を思い出しながら、「まだ気にしていたのか?」と内心複雑な気持ちに成りながら……彼女の頭を小さく撫でてみる。



「君が気にしている程、僕は君の身体が貧相だとは思わないけどな……むしろ抱き心地とか、腕の中にスッポリ収まるサイズで丁度良いけど……?」

「でも、もう少し胸とかお尻とか大きく為りたかったんだもの」



正直な気持ちを伝えた所で、シャマシュ自身が納得してくれなくては意味が無い。
実際にシャマシュ本人が思っている程、僕はシャマシュが発育不良だとは思っていないし、他の女神達と彼女を比べるのは失礼だと思っているから気にも止めていないのだ。
シャマシュには言っていないが、前に酔っ払ったイシュタルに冗談半分で口説かれた事も有るが……ハッキリ言ってしまえば僕は鳥肌が出る位に退いてしまい、その事を知ったギルガメッシュやエンキドゥに大笑いされてしまったのだが。
情けない事この上無いが、退いても尚口説いて来るイシュタルからフォローしてくれたのがアスタル様やポセイドン様達だったりで本当に良い迷惑だったのを思い出す。
後でティアマトから「貴方の本気を試しただけみたいよ。彼女なりに”お姉さん”の事が心配だったみたいね」と聞いた時に、心外だと思う反面少し安心したけれど。



「うーん……心配しなくても大きくなると思うけどな、確か異性に揉まれたり…ドキドキすると大きくなるって聞いた事が有るし」



そう言えば、と。
少し苦い思い出と共に、アプス達が前に話していたのを聞いた事が有ったな…と思い出した。
あくまでも夫婦になってから”その手の機会”が増えたからかどうかは分からないけれど、胸とかお尻が大きくならないか?
と言う程度の話題だったけれど、意外に面々に思っていたのか「妊娠したらもっと大きくなるのは、きっと子供に乳を飲ませてやる為だろうな」とか、最後の方は何だか微笑ましい話題になっていた様にも思う内容だったけれど。
でもその話を僕と同じ様に聞いていたらしいダスラが「それは嫁さん達がアンタ達の事を今も未だ好いてくれてる証拠だな」と珍しく会話に参加……した訳では無かったけれど、「ただ揉めば良い訳じゃない」とか「恋愛時のドキドキとか、まあ行為時の気持ち良さや興奮が女性ホルモンの分泌を促進しているだけだ」とか、彼なりの優しさで僕に教えてくれた事だったのかも知れないが、僕には未だその違いが分からなかった。
だから『聞いた事が有る』としか口には出さなかったのだが、余程切実な思いらしく真剣な表情を浮かべたシャマシュに食い付かれた。



「それ本当なの!?」

「あ、ああ…前にアプスやイザナギ様達、ほら夫婦神の彼等が話していたのを聞いただけだから確証は無いけど、夫婦になって触れ合う機会が増えたら胸とかもふくよかになって来たって言っていたけど?」



勢いに飲まれそうになりながらもそう答えると、「そうなんだ……」とやはり思い詰めた表情はそのままにシャマシュは何やら考え込んでいる。



「因みに話していたのは、アプスとイザナギ様にポセイドン様とオシリス様だったかな。シヴァ様やハデス様は少し引き気味だったけど、フッキ様も加わって楽しそうだったよ」

「ねえ、もしかして話の発端はポセイドンさんから?」

「ああ、そうだったね。『前々から大きかったけど、夫婦になってから益々大きくならなかったか?』って言い始めて…それから盛り上がっていたみたいだけどね」



そ、そうなんだ。
とだけ言うと、シャマシュは妙に凍り付いたかの様な表情で固まっている。
顔なんて真っ青だ、まるで絶望を感じてしまっているかの様に。そう思った時、まさか……と僕は思った。
まさか僕まで彼等の会話に参加したり、この手のネタで比較しては盛り上がっているとか……そんな事を思ってしまったとか、そんな事は無いよね?
もしそうだとすれば冗談じゃない、僕はむしろ嫌いなんだけど?
そう思った瞬間、言葉が自然に紡がれていた。そんな誤解をもしも本当に受けていたとすれば、心外なんてものでは無いし……何よりも知らない所で傷付かれているなんて二度と御免だから。



「言っておくけど、僕はその手の話には極力参加しないし…むしろ君の事を誰かと比較されるのは許せなくて、本気で怒るからか皆も君の話題はまず出さないよ。だから安心して?」



そう言葉を紡ぎながらシャマシュの頭を撫でると、シャマシュは少し複雑そうな表情を浮かべて小さく微笑んだ。
今にも泣きそうな表情を見せながら微笑むシャマシュを見て、『もしかして…』と一つの推測が生まれて来る。



───…もしかしたら、シャマシュはただ僕が彼女の事で何か悪く言われているのでは無いか…と思っているだけなのかも知れない。もしもそうならば酷い誤解だ。
そんな事で傷付かないで欲しいのに、僕はどう言えばシャマシュに伝わるのだろう?



そう思いながらもどう伝えるのが一番良いのか、良く分からない僕は思考に捕らわれた。
全ての者に良い評価が得られる訳も無い、中には良く思わない者だって居るだろうし……そんな目まで気にする必要は無いと思う。だが責任感が強く、明るく朗らかな気性を持つシャマシュにとっては、自分の事で相手にまで悪い評価を付けられるのが許せないのかも知れない。
優しい子だから『申し訳ない』『悪い』と思ってしまうのかも知れない。言いたい奴等には言わせておけば良いと僕自身は思っているのに。
そもそも失礼な話なのだ。全く関係ない連中に、好き勝手に評価されるだなんて……失礼極まりない事だと思う。そんな失礼な連中の、適当な評価なんて気にする価値も無いと思うのだが……。



そう考えていた僕の身体に、シャマシュはギュッと抱き着いて来た。
抱き着かれた途端に、柔らかな感触と暖かな体温が僕の身体にも通って来ている様な、そんな幸せな錯覚に、僕はクラクラと軽い目眩を起こしてしまう。だが、ハッキリと目眩を起こしたのはシャマシュの唇から紡がれた次の言葉だった。



「シンが好きよ」



まるで電流が走ったかの様な衝撃。それ以上に胸を貫く強い痛み。
身体中に帯びていた熱が一気に爆発した様な、そんな強い痛みが僕を襲った。硬直した身体が何を意味しているのか分からない程、僕は馬鹿では無いけれど。
「あれ、大丈夫?」と言う声が聞こえて我には返れたが、それでも焼き尽くされそうな身体の熱は治まらない。「良いか?」と尋ねる事すらもどかしく、「え?」と言うシャマシュの声が言葉として形作られる前には、行為を再開するべく深い口付けをしていたのだが。



「あ、あ……ぅん…ふ…」



欲望の赴くまま胸を揉みつつ、性的な感情を高めさせる為に『ちゅうっ』と態と音を立てながら乳房を吸うと、シャマシュの唇からは可愛らしい声が聞こえて来た。
船の上で行為をしている故に、シャマシュの柔らかくて綺麗な身体が傷付かない様にと、前もって着ていた服をシャマシュの下に敷いていて良かったと思いながらも、それでもやっぱり寝台の上で触れ合った方が良いな、と内心思っていた。
勿論、止められなくなっているのは僕自身なのだが。だが、身体が熱くて止まらなくなっているのは僕だけでは無いらしい。



こんなにも日の当たる場所で、しかも上半身だけ脱いでいる状況なんて滅多に無いからか変に意識して興奮してしまう。
それはシャマシュも同じなのかも知れない。そもそもこんな逃げられない船の上で、上半身だけ裸の男に乗られている状況なんて先ず起こらない筈だから。
それとも……もっと他に興奮する理由が女性には有るのだろうか?
「はあ……」と息を整える事も儘ならないシャマシュの白い腕が、僕の後頭部に回される。
髪を掻き撫でられる感触が、酷くもどかしくも有り……酷く気持ち良いと思った。



切な気に僕を見詰めて来るシャマシュは、普段から見ている明朗な姿とはかけ離れていたが、こんな風にただ僕だけを必死に求めてくれている姿を見れるとは思って居なかっただけに、まるで世界の全てを手に入れたかの様な気持ちにさせてくれる。
この目に僕の姿が映ると、まるで僕の全てが彼女に囚われている様に錯覚して……それが酷く幸せだと思った。



───……いっそ、このまま最後まで奪ってしまおうか…?



再び重ね合った唇の熱さに、思わずそんな考えが頭を過ったけれど……否、シャマシュは太陽神としての責務を今は全うしなくてはいけないのだから。
その二つの感情が僕の心を支配し鬩ぎ合わせて(せめぎあわせて)いた。



「あ、ああっ……んくっ、あ……」



柔らかな二つの存在の内の一つを、出来るだけ壊さない様に優しく触れて揉んでみて、もう片方の小さくて可愛らしい突起に唇を寄せながら軽く吸うと、其れだけで可哀想な位に身体を大きく震わせている。
本当はこれ位で止めておいた方が良い事だって分かっている、其れなのに『もっと暴きたい、もっと深く求め合いたい』と思ってしまうのは、僕の醜い欲望なのだろうか?
そう思い、彼女も同じ様に思ってくれているのでは無いか……と思ってしまうのは、只のエゴでしか無いのだろうか?



そんな風に思いながらも、もう片方の手は、僕の指は彼女のもっと深い…誰も触れた事の無い”シャマシュの弱くて敏感な場所”へと移動していた。
柔らかな丘へと移動し、その場所を出来るだけ優しく撫でると、可憐な声をあげて益々身体を震わせている。
暫く撫でるだけに止めていたが、薄く淡い茂みが朝露を浴びた様な湿り気を帯びているのに気付き、出来るだけ傷付けない様に……細心の注意を払いながら濡れた中心部へと指を入れてみた。



「ああ………っ!」



一際高い声をあげたが果てた訳では無い様だ。ぴくんぴくん、と身体を痙攣させてはいるが瞳は未だ正常の、普段の明るい朱色の瞳をキラキラと輝かせている。
この綺麗な瞳に映るのが僕だけなら良いのに、今…この時だけでも僕の事だけを求めてくれたら良いのに。



キラキラと輝く瞳が、ゆらゆらと揺れている。
きっとシャマシュの心も役目との重さに、僕に対しての気持ちの狭間に揺れては鬩ぎ合わせているのだろう。
奪うだけならば簡単だ、このまま最後まで想いの侭に求めていけば良い。お互いに高め合えば良いだけの話だ。
僕だけでは無い、シャマシュもまた僕の事を求めてくれている。ならば躊躇う必要は無いじゃないか、揺れる心の侭よりもどちらかハッキリ決断した方が、お互いの精神状態にも良い筈だ。



ギリギリの状況まで考えた。どちらが良いかと考えて、そして僕の中では『最後までしてしまおう』と結論付いてすらいたのに、実際には全ての動きが止まっていた。
僕自身も驚いていた。心が求めていたのか、身体の方が彼女を求めていたのか……そのどちらでも無いのか、最初から双方共に求めていると思っていただけに、どちらが勝っていたのかの判断は付き兼ねるが、それでも結論付けた行動とは逆の判断を僕の身体がした事だけは間違いなかったから。



「…………え?」



はあはあ、と息を荒くしながら僕を見詰めるシャマシュを見て、あどけない表情を浮かべているシャマシュを見て、それでも多少の期待も抱いていたのだろう表情を浮かべているシャマシュを見て、僕は心底『止めて良かった』と思った。
良かった、もう少しで間違えてしまう所だった。下手に追及される要素を作る訳にはいかないのに、一時の欲望を満たす為に取り返しのつかない真似をしてしまう所だった。
内心ホッと胸を撫で下ろし「御免」とシャマシュに謝りながら、乱れていた彼女の服を直していく。



「幾ら何でも任務中の君にこれ以上の行為は酷過ぎる。君は特に責任感が強いのに、せめて続きは君の任務が終わってからで無いとね……?」

「シン……でも……」

「大丈夫。さっき君に触れられて、僕は未だもう少しだけは我慢出来るし……どうしても我慢出来ないならば、君だけは先にイかせてあげるから」



白々しい。
本当は最後までするつもりだった癖に。
そう内心悪態を吐きながら言葉を続けると、シャマシュは冗談じゃないわと言い返して来た。



「わ、私だけなんて嫌よ!シンが我慢するなら、私も我慢するわ!!」



当然じゃない!
と、力強く胸を叩いているけれど……今はきっとシャマシュの方も僕にむやみやたらに触れられて、身体の方が酷く熱く疼いて辛い筈なのに。
でもシャマシュはきっと『僕の方が辛いだろう』と思っている、女の自分よりも男である僕の方が苦しい筈だと、そう思っているからこそ『一緒に頑張ろう』とそう言ってくれたのだろう。
そんな彼女の優しさに応えなくては、と僕は思った。応えた上で、一番最善な選択を彼女に伝えなくては。



「御免ね、シン……今日はエレシュキガルにお願いして、出来るだけ早く貴方に逢いに行くから……待っていて?」

「ああ。僕も真面目に任務を熟すから、きちんと終わったら…もっと深く触れ合おう。むしろ僕から君の所へ逢いに行くから、其れまで待っていてくれるか?」



身支度を整えると、シャマシュの額に額をコツンと合わせてからそう言葉を紡ぐ。
『君から』では無くて、『僕から』って言わなくては。男の寝室に、女性であるシャマシュの方が入り込むのは良く無いから。
自分の事は棚に上げて、きっと”あの人”は僕にでは無くシャマシュを責め立てるに違いないし、周りの神々に好き勝手に噂されるのも心外だから。
僕自身は気にしないが、女性のシャマシュにとってはどれだけ傷付けてしまう事なのか……想像すら出来ないが、それは酷く傷付けてしまう不名誉な事である事だけは解るから。だから僕は「待っていて欲しい」と伝えたのだけれど。



「シャマシュ?」



何故だろう?
シャマシュは何故か固まったまま動こうとはしない。
何か気に障る事でも言ってしまっただろうか?
少し焦っていた僕の唇に、暖かくて柔らかいモノが押し付けられた。そのモノがシャマシュの唇だと分かる迄にはそう時間は掛からない。
普段は恥ずかしがってシャマシュからは余りされない行為だ、恐らくは僕の気持ちを汲み取ってくれた上で、その返事として口付けしてくれているのだろう。
僕よりも少し小さな身体を、僕は精一杯の想いを込めてギュッと強く抱き締めた。



(終わり)



シン様視点で書いてると、こう…やっぱり自分の癖が出てくるなあと……!
夢で見た時よりかは大興奮しておりませんが、また見たいから見せろコノヤローッ!!!!!!ΣI(///□///)I

最近(百神の・笑)アレス兄様!好き好き言い過ぎてるからか……アグニたん×主人公(♀)も良いけど、アレス兄様←主人公(♀)も良いなあと思う様になって来て、色んな意味でヤバイ気がしております。
CPと言うよりも、兄様を一方的(に見える)に慕う主人公(♀)のほのぼの系かコメディっぽいのが好きなのですが…!


アグニたん「おい、主人公(♀)!お前、俺の事どう思う?」

主人公(♀)「アグニ様の事ですか?好きですよ」

アグニたん「そ、そうか…そうだよな!」

主人公(♀)「可愛い”蜥蜴たん”の頃からアグニ様が好きですよ」

アグニたん「まだそのネタ引き摺るか!蜥蜴たんは止めろ!忘れろ!頼むから!!」

主人公(♀)「えー…可愛いのに……」

アグニたん「全く…で、俺が好きだってのは分かったけどな……他にも好きな神が居るのか?」

主人公(♀)「え?居ますよ。シャマでしょ?ダヌママでしょ、ヴァルキリー様もそうだし、ペルセポネ様もアマテラス様も……もう皆さんが好き過ぎて、名前を挙げられない位です(胸張り!)」

アグニたん「ふーん………男は?」

主人公(♀)「はい?」

アグニたん「だーかーら!男の神はどうなんだって聞いてんだろうがっ!!」

主人公(♀)「むむむ……難しい質問ですね、トール様もケイロン先生もハデス様もシン様もアスタル様もクーフーリン様も……もう皆さんが好き過ぎてて、敢えて挙げろと言われたら逆に困りますよ」

アグニたん「分かった、質問変えるぞ。男の神限定で強そうな魔神が出て来たら、真っ先に『来てくれ』って呼ぶのは誰だ?」

主人公(♀)「アレス兄様です!」

アグニたん「そこは嘘でも俺って言え!……って言うか、お前アレスの事が好き過ぎだろっ!!」

主人公(♀)「えー…だってアレス兄様はアレス兄様で有って、嫌いになる理由も有りませんし……アレス兄様が大好きなので、会いにも行きたいのですよ」

アグニたん「大好き!?今、大好きって言ったよな?言ったよなあ!?」

主人公(♀)「勿論、皆さんも大好きですし…アグニ様も大好きですよ」

アグニたん「嘘だあぁぁぁ!!」


みたいな(笑)





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