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百神(短編)


ーーー…未だに忘れられない想い出がある。

「ねえ、シン。如何してあの二人は何時も一緒に居るの?」

こてん、と。
小首を傾げながら尋ねて来る女の子に、「あの二人は夫婦だからだよ」と教えてあげた。

「ふーふ、ってなに?」
「夫婦って言うのは、男と女が一つ屋根の下で一緒に暮らす二人の事を言うんだよ」
「"ふーふ"は如何すればなれるの?」
「結婚するんだよ。皆に祝福されて、初めて夫婦になれるんだ」

其処まで教えてあげると、「そっか」と何やら頷いている。
一体、あの二人のどの辺りが気になったのだろう?
疑問だらけの僕に向かって女の子ーーーシャマシュが紅い瞳をキラキラと輝かせながら言ってくれた。

「それじゃ、私はシンとけっこんしてあげる!そうすれば何時も一緒に居られるんでしょ?」

呆気に取られた僕の目の前でシャマシュは嬉しそうに頷いている。まるで名案だとでも言う様に。僕は何て言ったら良いのか分からなくて只々困ってしまったのを覚えている。

ーーー…シャマシュも未だ覚えているのだろうか?

月夜の晩にそんな事を考えていた。
覚えているとは思えない、むしろ僕以外の誰か別の神や又は人間をその対象に選んでいる可能性だってあるだろう。所詮幼い頃の約束に過ぎないのだから、律儀に守ってあげる必要も無いし、忘れてしまっても良い筈なのだ。
其れなのに……如何して未だに忘れられないのだろう?
僕は小さく溜め息を零した。

あれから色んな事が起こった。突然、力を奪われて石の中に封じ込められてしまったり、漸く出て来られたと思ったら力自体が発揮出来なくなっていて、人間の解放者にも迷惑ばかり掛けてしまった。
そして漸く本来の力を出せる迄に回復したと思ったら、次から次へと石にされた神々が出て来るものだから、何だかんだと一向に落ち着く暇も無い状況だ。いっそ呪われているんじゃないのかとすら思ってしまう。

「……呪われていると言えば……シャマシュも未だ地上であの子と一緒に冒険中なのかな」

『親友』
と言えば聞こえは良いが、シャマシュは度々特定の人間を親友だと可愛がる傾向がある。
時として地上に降りて手助けしたり、助言を与えたり、道標になる様にと『法』を与えたりもした。人間は自分達よりも先に朽ちるのに、どれだけ慈しんでも守っても、何時かは腐り土へと還るのに……美しい建造物も風化されて跡形も無くなってしまうのにだ。
居なくなる度に泣く癖に、傷付く癖に、其れでもまた慈しむ。守ろうとする。
時に灼熱の太陽の光で厳しく罰しながら、何もかもを焼き尽くす炎の様な暑さで地上を覆いながら、其れでも必死に庇護しようとしている。傷付く事を恐れずに立ち向かおうとする。

ーーー…これを呪いだと言わずして何と呼べばいいのだろうか?

余り広く付き合う真似は出来ない僕にとって、シャマシュと言う女の子は不思議な存在だ。
其れを言えば、あの解放者の彼女達も同じ様な存在だと思ってはいるけれど。
其れでも同じ神、加えて幼馴染みの同僚と考えても、シャマシュに対する不思議で不可解な印象は彼女達よりも遥かに上回る。僕はそう認識している。

ーーー…なのに、シャマシュとの『約束』が忘れられない。

呪いだ、明らかに呪いじゃないか。
僕は唇を噛み締めた。
決して嫌いなのでは無い、むしろ好意的な感情を持っていると思っている。
でも……何だか僕ばかりがあの子の事ばかり考えているみたいで悔しいじゃないか。
幼い頃の可愛い約束も、人間相手に苦しんで悩んで泣いている姿を見てはフォローしていたし、直ぐにヤル気が空回りして失敗ばかりを繰り返すシャマシュを其れとなく手助けしていた。励ましたり、相談に乗ったり、僕の生活は常に彼女を中心に回っているのに、彼女の生活はそうでは無い。
やれ太陽神としての役目だとか、天体を統べるべく活動していたりだとか、他の太陽神達とも交流を深めていたりだとか、『親友』とも仲良くやっている……そんな有様だ。

其れなのに……。

「シンって、アルデ達と一緒に居ると柔らかく笑うわね。良い事だと思うわ」

そんな事を言われてしまったりで、言われた瞬間は何が何だか分からなかった。
確かに解放者の彼女達と居る時間は大切だと思っているし、楽しいとも思ってはいる。笑ってくれると嬉しくなる様な……そんな不思議な感情になるのも認めている。
でも其れは……相手が彼女達でなくとも、シャマシュが相手でも同じだと思っているのだ。
むしろなまじ他の神々との交流が乏しい分、シャマシュに対する扱いは他の神々に対する扱いと比べても雲泥の差が有るとも認識している。
其れなのに……当の本人には些か伝わっていない様な気がするのは何故なのだろうか?

「やっぱりあんな約束……忘れてしまったんだろうね…」

あれだけ活動的に動いているんだ。あんな小さな口約束なんて遥か彼方に飛ばしてしまって忘れてしまっても可笑しくは無い。
怒るとかでは無くて、きっとこうやってお互いに成長していくもんなんだと理解してはいるんだけど、其れでも……。

「もし此処で『好きな人が出来た』だの『結婚するの』とか言われたら、流石に立ち直れないかも知れないな……」

律儀に『約束』を守っている身としては。

美しく神秘的な光で地上を優しく照らす満月に視線を傾けて、何だか今の気持ちとは裏腹過ぎていて逆に滑稽だなとそんな事を思っては自己嫌悪に陥っていた。

(終)




珍しく自覚してないシン様。
甘さは殆ど無いですが、此れでもシンシャマだと言い張りますwww
「呪い」「呪い」と連呼していますが、タイトルの【呪いにも似た言霊に】は呪い(のろい)では無くて呪い(まじない)と読むのが正しい読み方となっております。
全然画面が動いてないのは仕様です、と言うか何だかんだとシン様お役目中に考えていただけの短文なので、画面を動かす必要が無くてだな(⌒-⌒; )
一見シャマシュは交流激しいし、健康的思考だし、余り深く考えてなさそうにも見えるのですが、実際の所はサッパリした性格ながらも乙女思考な部分もきちんと持っている可愛い女の子だと思うんだわ。
だからシン様との約束もきちんと覚えてると思う。
リアルな話だとこのまま懐かしい想い出で終わる率が高いし、私自身も経験が有りますので「気持ちしっかりしてないと駄目よね」と本気で思うんですが、話の中まで悲恋に終わらせたくないので、きっとシャマシュも覚えていてアルデにも話していると思うよ!

「……だからね、私はもっともっと良い女にならなくちゃいけないの!」

とか、話していると良い☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
一番お世話になってるシンに、とびっきり良い物をあげたいと言っていた位ですから、試行錯誤しながらも(すっかり忘れられてると思っている)シンの胸に飛び込んでくれるさ!!

「だって、結婚してあげるって約束したじゃない!忘れたの?」

とか逆に言われて、言葉を詰まらせてるシン様を妄想すると悶えました。自分自身では然程考えた事すらない結婚ですが、少女漫画脳な身として小説やら漫画を書くor描く上でついつい題材にしてしまいますねwww

少しでも萌えて頂けたら嬉しいです☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆








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