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恋文の日(シン×シャマシュ、アレス←創作冒険者(♀))


《恋文の日(おまけ)》
━━━シンへ。
直と弥彦から、今日は『恋文の日』と言うらしい事を聞いたから、今度は私から貴方へ手紙を送るわね。
前に貴方から手紙を貰った時、本当に嬉しかったから…貴方もそんな気持ちになってくれてると嬉しいな。
でも、こう改めて書くのって何だか恥ずかしいわね…何を書いたら良いのか分からなくなっちゃうけど、思うままに書いていくわね。

シン、何時もそれとなく私を助けてくれて有り難う!
この間も書庫で落ちてきた本から私を助けてくれたし、転びそうになった私を支えてくれたし、何時も本当に感謝しています。
だからこそ貴方が困っている時は、私が貴方を助けてあげたいな。
頼りにならないかも知れないけど、一生懸命頑張るから…シンも遠慮せず私を頼ってきてね!

シンが本当に優しくて素敵な人なんだって、皆どうして気付いていないのか分からないけど、私はシンの良い所を沢山知ってるよ。
だからきっと皆もシンの事を知ったら、どんどん好きになると思うから……こっそり心配だったりするけど、でも大丈夫よね?

シン、大好きよ!
━━━シャマシュ。


「……おい、さっきから何なんだ。その締まりの無い顔は?」

「何だかとても嬉しそうですね!シンがそんなに嬉しそうにしているのを見るのは久し振りですね」


ギルガメッシュの研究所の手伝いに来てから、休憩時間に昨夜貰ったシャマシュからの手紙を漸く開けて読んだ時、ギルガメッシュとヤムからそんな事を言われてしまった。
だけど何時もの様に軽くあしらう事なんて出来そうに無い。

いや、ちょっと待って。
『恋文の日』って何?
直と弥彦から何を教えて貰ったって?
何を心配してるって?
大好きって何だ、大好きって。君、普段は滅多にそんな事言ってくれないじゃないか。否、言ってくれるけど…その、こう改まって『好き』とは言わないと言うか。

もう何から突っ込めば良いのか分からないけど、さっきから弛む口許を抑えられない。
目尻だって下がりっぱなしだし、頬が異様に熱くなっている自覚だって有る。
胸の動悸が激しい、嗚呼、どうにかなってしまいそうだ。


「…全く。ニヤニヤしていないで俺の手伝いに集中しろ!」

「あ、ああ。そうだね、何をすれば良かったかな?」

「シン、挙動不審になってますよ?」


怒るギルガメッシュと、くすくす笑っているヤムの温度差にも妙に焦ってしまって、変な動きを取っている自覚だってあるけれど、とても平静さを繕う事なんて出来ない。
嗚呼、困ったな。どうしよう。
このまま挙動不審な行動しか出来ない様なら、痺れを切らしたギルガメッシュにこの手紙を奪われかねない。
落ち着け、落ち着け…と思うのに出来ない僕の手から、スルリと奪っていったのはギルガメッシュでもヤムでも無く、第三者の来訪者だった。


「あっ!?」


ビックリして相手の姿を見て思わず絶句してしまう。
まさか、彼がこんな真似をするなんて想像も付かなかった。
アルディリアの共になっていなければ、こんな…彼の故郷でも無いバビロニアの地に足を踏み入れる事も無いだろうに。だけど今は確か彼女の旅の共では無かった筈だ。
其れだけにどうして彼が単独で此処に、しかもギルガメッシュの研究所へ来たのか…僕には想像も付かなかったから。
彼はじっとシャマシュからの手紙を見詰めている。
見詰めた後に僕に返しながら、「…やはりな」と呟いた。


「やはり?一体どういう事だ?」

「アレスさんが単独でバビロニアに来ると言う事は、やっぱりアルディリアに関係が有るんですか?」


僕の疑問にギルガメッシュとヤムが代わりに尋ねてくれる。
彼は…アレスは少し考えながら「日本では」と言葉を切り出した。


「日本では、昨日…5月23日は『恋文の日』と言い、親しい者や愛しい者に手紙を送る事が有るそうだ」

「ほう…恋文か?」

「へえ、ロマンティックですね!」


手紙?
嗚呼、だからシャマシュは僕に手紙を渡してくれたのか…と一つ目の疑問は解決したけれど、親しい者や愛しい者にと言う言葉に頬だけでは無く、耳まで紅く染め上げている気がしてしまった。
ギルガメッシュとヤムはそんな僕を無視して、アレスに再度尋ねている。


「其れで?どうして其処で、シンに会いに単独で此処にやって来る必要が有ったんだ?」

「シンも手紙を受け取っていると知っていたんですか?」

「……知っていた訳では無い。が、アルディリアの現守護神はシャマシュだからな。同じ様に聞いていたとすれば受け取った相手は彼だろうと思った、ただ其れだけだ」


アレスの言葉に「成程」と二人は頷いている。だけど『受け取った相手は彼だろう』と断言するのは如何な物だろう。
いや、確かに僕はシャマシュからの手紙を受け取ってはいる。
だけど第三者の、しかもギリシャの軍神に予測されているってのはどういう事なんだろう?


「ちょっと待って、親しい者に送る手紙ならば僕だと断定するのは些か性急過ぎやしないかな?」


慌てて彼に問い掛ける。
いや、実際に僕が受け取っているのだから彼の予想は外れてはいないのだけれども、其れでも断定するのはどうか…と言う意味で尋ねたに過ぎない。
だけど彼はやっぱり少し考える仕種を見せながら、今度は小さく「『グラマ・ディス・アガピス』…」と呟いた。


「は?グラマ…なに?」

「私の国の言葉で『恋文』と言う意味だ。此処では何と言うのかは分からないが、どちらかと言えば『愛している者』に宛てて書く意味合いの方が強いらしい」

「あ、い…」

「そう言った意味合いで考えたら、お前に宛てた可能性が高いと思ったから確認しに来た。他に他意は無い」

「そ、そう…」


嗚呼、何だー…そう言う事なんだー…とか、乾いた笑いと共に感情の籠らない声でしか反応出来そうに無い。
だから改まって『好き』って言ってくれたり、内心どう思ってくれているとか告白してくれたのか…あ、そうなんだ。
あ、あはは…参ったな。
さっきから弛む口許を抑えられない。頬も耳も真っ赤だろうし、ドクドク…と胸の鼓動が何時も以上に激しすぎる。
いっそ壊れてしまったんじゃ無いかって位、今の僕は平静さを取り戻す事が出来なかった。

だからだろう。
同じ様に手紙を受け取った筈のこのギリシャの軍神が、どうしてこんなに冷静で居られるのか?
ギルガメッシュとヤムも、彼がアルディリアを彼なりに大切にしている事を知っている上に、僕みたいに長年の片想いを実らせた訳でも無い事実もまた気付いているだけに、疑問を抱いたのだろう。
「おい」とギルガメッシュが彼に声を掛けている。


「何故、そんなに冷静で居られるんだ?」


すると、彼は首元に下げていたネックレスを出して来た。その先に付いた小さな筒を回して開けると、出てきたのはなかなかに小さな紙で。


「これが、アルディリアからアレスさんに渡した手紙ですか?」


興味津々に尋ねるヤムに、こくりと頷くとその紙を丁寧に広げてくれた。
其処に書かれていたのは……。


━━━『Συχαριστο』。


「えっ…此れだけ?」

「『Συχαριστο(エフハリスト)』…有り難う、だな」

「どういう意味合いなのか、いまいち分からなくてな…だから確認しに来たと言う訳だ」

「成程、確かに分からんな」

「うーん、きっとアルディリアにとって一番伝えたかった言葉なんですよ。元々、言葉は苦手な子ですし…」


三人共に色々と考えているみたいだけど、端でその手紙を見詰めていた僕は気付いてしまった。
この手紙の本当に伝えたかった”言葉”に。
「あのさ…」と、アルディリアからの手紙を上から薄く鉛筆で色を塗る様に、全体的に満遍なく色を付けていくと、その言葉の周りに沢山の『Συχαριστο』と言う言葉が見えて来た。
きっと何度も何度も練習したのだろう。
下の紙であったこの紙に筆圧が移る位、彼女は彼に伝えたかった。
足りない程の『有り難う』を伝えたかった。其れくらい強い気持ちを持って、一番綺麗に書けた『有り難う』を彼に渡したんだろうと思う。

此れには彼だけじゃ無い、ギルガメッシュもヤムもビックリして言葉を無くしてしまっていた。


「きっとね、色んな意味の『有り難う』なんだよ。何時も傍に居てくれて有り難う、守ってくれて有り難う、とか…そんな気持ちを全部含めての『有り難う』なんだ」

「………」

「其れも、君の国の言葉でだよ?……あの言葉が苦手な彼女が、君に伝えたくて頑張ったんだ。愛情が無かったら出来ないと思うよ?」


其処まで言った後で不意に彼の顔を見ると、先程までの冷静さは何処に行ってしまったのか?
と疑ってしまう程に、手紙を仰視したまま固まって、ただただ口許を押さえて珍しく真っ赤になった彼の姿があった。


「す、すまん。邪魔をした」


僕達が余りにまじまじと仰視していたからか、我に返った彼は慌てて手紙を筒の中に戻すと、僕達が声を掛ける隙も与えず、嵐のように去ってしまった。
「あ、待って」ともう一つの”言葉”を教えてあげる前に。


「まあ…きっと、直ぐに気付くだろうけど……」


そう呟いて。
あの軍神の彼が、もう一つの言葉に気付いた時に立ち会えないのが何だか残念だな、と僕はそんな事を思ってしまった。


───…『Te amo, mi amor(テ・アーモ、ミ・アモール)』(君を愛しているよ、私の愛しい人)


気付かれない様に、小さくこっそりと残した恐らくは初めての彼女からの愛の言葉に気付いた時の彼もまた、きっと今の僕と同じ様になってしまうに違いないのにね。
嗚呼、全く。
僕と彼をこんなにも翻弄させるだなんて、本当に罪深い女の子達だよ。


でも満更でも無いと思ってしまっている、嗚呼、本当に罪深いと僕は弛む口許を押さえながら苦笑した。
(終)
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