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百神(短編)


「ふう…今日も1日お疲れ様ですっ…と」

そう言いながら太陽神殿に戻って来た私は何時もの様に脱衣所へと歩を進めると、衣服と装飾品を脱いで浴室に入った。
1日のお仕事が終わってから入るお風呂って大好き!
鼻歌混じりに石鹸を手にした時に、「あ、そうだわ」と思い出していた。
丁度大切に大切に使っていた石鹸が無くなってしまった時に、シンから貰った新しい石鹸。
石鹸作りを始めたのは私の方が早いけど、作り方を知ってからはシンの方が良く作っているみたい。
凝り性なのかしら?
私は相変わらず基本的な石鹸しか上手く作れないけれど、シンは薔薇やオリーブの香りがする石鹸とか……色々なアレンジを加えながら素敵な石鹸を沢山作っている。

「今日から宜しくね」

そう石鹸に声を掛けてから鼻を近付けると、微かにカモミールの優しくて良い匂いがした。
何処か甘くて素敵な香り。嗚呼、シンってば本当に器用よね。
何だか羨ましくなりながら布地に石鹸を擦り付けた。どんどん白い泡が出て来る。やっぱり素敵。ふふっ、石鹸大好き!

ゴシゴシと身体を洗っていくと1日の疲れなんて一気に吹き飛んじゃう。
それにしてもシンってどうして何時も石鹸が無くなる頃に新しい石鹸をくれるのかしら?
「もう直ぐ無くなっちゃうの」とか、そんな事は誰にも言わないのに。
小首を傾げながらお湯を掛けると泡と一緒に汚れが落ちてスッキリしていく。触るとスベスベした肌になるだけで何だかとっても嬉しくなるの。

ちゃぷん。
と、大きな浴槽に身体を沈めてから夜空の綺麗な星を眺めた。
キラキラ輝く沢山の星はまるで宝石みたい。その中でも一際輝く大きくて形の良い宝石は月ね。地上から見ると灯りみたいに見えるのに、太陽神殿から見る星や月は色とりどりの宝石に見えるし、甘い甘い飴玉にも見える。ふふっ、不思議だわ。
気持ち良くて鼻歌を歌ってから浴槽を出た時、誰かが神殿に入って来たのに気が付いた。

「あら?誰かしら?」

こんな夜更けに誰が来たのかしら?
首を傾げながらも身体を拭いていると、入口付近に居た“誰か”が此方に近付いているのに気が付いて、私は酷く慌ててしまった。

「あーっ!御免なさい!今お風呂から出た所なの、少しだけ待ってて!!」

思わず声を張り上げたけど、相手には聞こえていないみたい。
仕方が無いと私は大きな布を身体に巻き付けてから脱衣所を飛び出した。
そんな私の前に大きな壁が立ち塞がる。「ぶっ!?」と変な声が出たけどそんな事には構っていられない。
訳が分からない侭に確認してみると、其処に居たのはこの時間に居る筈のない相手だった。

「……あ、あれ?シン?」

如何してこんな時間に?
と尋ねる前に「ちょっ!?何て格好をしてるのさ!!早く服を着なよ!!」と怒声が私の耳を貫いていた。鼓膜が破れるかと思ったわ、何て声を出すのよ。
ぐわんぐわんと頭が回っているのを自覚しながらも何とか服を着た私に、シンは漸くホウ…と溜め息を漏らしていた。

本当に一体如何したのかしら?
如何して此処に?貴方、お役目は如何したのよ?
尋ねたい事が山程ある私に「君の質問にも1つづつ答えてあげるから、そんな面白い顔しなくても良いよ」とだけ言ってくる。
ちょっと……面白い顔ってどういう意味よ?
全く失礼しちゃうわ。そう思うのに何だか何時もよりも余裕が無い気がするのは如何してかしら?
クシャ、と頭を軽く掻く仕草。溜め息混じりの小さな吐息。遠くを見詰める綺麗な瞳。
少しだけだけど頬がほんのり紅くなってる気がする……ってあれ?
その時私も気付いた事が有った。さっきからシンは私の方を見ていない。
それが寂しいとも思う、「此方を見てよ!」と振り向かせたいとも思う。でも……それ以上に私の胸も妙にドキドキしていて落ち着かない。あれ?あれ?
訳が分からずに私もシンから目を逸らしていた。だって、如何してなのか知らないけど頬が熱いんですもの。
キラキラ輝く銀色の髪や伏せ目がちな睫毛も瞳もまたキラキラ輝いていて、こう言うとシンは怒るでしょうけど綺麗なんだもの。
考えてみたらシンって綺麗よね……すらりとした細身の身体をしているけど、意外に筋肉が程良く付いてるとか。穏やかで物静かだけど言わなきゃいけない事ははっきり伝える意志の強い所とか、綺麗なんだけど女性的と言うよりも男性的な美しさと言うか……ああ、もうっ!なに考えてるの、私ったら!!

ぐるぐると頭の中で駆け巡っている私には気付かずに「シャマシュ?どうした?」とシンが声を掛けて来た。
「なっ、何でも無いわよ!」って普通に返したつもりだけど、声が上擦っていてこれじゃあシンも不思議に思うわ。
そう思って焦っていたけれど、如何してかシンは触れては来なかった。

あれ?あれあれ?
可笑しいわ、何時ものシンならば此処で尋ねて来ない訳が無いのに。
変なのは私だけじゃ無いって事かしら?
そう思うと私もホッと胸を撫で下ろしていた。良かった、シンも同じなのね。

「アポロン」
「え?」

そんな事を考えていると不意にシンの声が聞こえて来て思わず尋ねると、「君、先日アポロンに頼まれて役目を交代したんだろ?」と尋ね返された。
その言葉に私はシンが何を言いたいのか理解したわ。嗚呼、そう言う事ね。と納得する。

「ええ、そうよ。如何しても行きたい所が有ったらしくて、そんな事を聞いたら代わってあげたいって思うじゃ無い?」
「はあ…まあ、君らしいと言えばそうなんだけどね。それでアルテミスが僕の所に来て言ったんだ。『この後は代わるからシャマシュに言っておいて』って」
「それでシンが来てくれたのね。有り難う、シン」

ただそれだけの理由でシンがわざわざ来てくれるだなんて、疲れているだろうし朝にでも立ち寄ってくれるだけでも良かったのに。
そう伝えるとシンは何故か黙ってしまった。

あれ?私、何か変な事を言ってしまったかしら?
と慌てていたらボソッと一言。

「……僕が来たかったんだよ」

そう言って珍しく目を逸らしているシンの顔は耳まで真っ赤になっていて、「え、あの…えっと」と私まで頬がまた熱くなってしまう。

「あ、有り難う」

それだけしか言えなかったけれど、少しだけ柔らかな空気を肌で感じて……ああ、良かった。シンは怒ってないみたいと漸く笑えると、「早速使ってくれたんだな。で、どう?」と照れくさそうに尋ねてくれるシンの顔が私の方を向いてくれていて、「最高よ!とっても良い匂いだし、肌にも合うみたいなの!」と答えた。

「そうか!ああ、良かった。折角作ったのに君の肌に合わなかったら嫌だったからね。実はそれも気になっていたんだ」

そう言って無邪気に笑うシンが可愛いなあ、と思ったのは私だけの秘密にしておこう。
そんな風に考えながら「ふふっ、今回の石鹸も私のお気に入りに追加よ」と伝えると、「そう?…それなら次の石鹸も期待しておいてくれ。もう次の石鹸の素材候補も考えているから」って笑っている。

「次も!?シンって本当に石鹸作りが好きねえ……シンの凝り性って凄いと思うわ」
「え…そう?そうでも無いと思うけどね…」

何故かしら?
急に困った顔して苦笑しているシンを見ながら、私は首を傾げていた。

《終》

シン様の石鹸作りはシャマシュにプレゼントする為ですwww
元々、シン様の趣味がカモミール栽培という勝手な脳内妄想が有ったりするので、今回の石鹸はカモミールの石鹸です。カモミールはバビロニアの時代から育てられていたそうなので、しれっとカモミール栽培が趣味になってます。
パッと見ると平常心を装って居りますが、実はシン様は湯上がりシャマシュに内心ドキドキだったりwww

互いに意識しているシンシャマって良いですよね( ´ ▽ ` )ノ
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