2020(03)

■部分一致の共感

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「うう……寒い」
「ホント、さみーよな」
「何か、あったかいのお腹に入れたい」
「そうだよなー」

 ちょっと前までは暑かったはずなのに、気付けば朝晩は随分と冷えるようになっていた。それでいて日中は暑かったりもするから服装が難しいし、いつの時間を想定して用意していいかわからない。今は大学祭の準備で帰りが夜になることもあるし、夜が正解なのかな。
 俺は情報科学部だから、基本的に授業のある情報棟で1日を過ごす。空調という意味では常に適温になっていて、過度に着込む必要も、脱ぐ必要もない。だから食事をするとかでいざ外を歩くときになって建物の中とのギャップでやられたりもする。
 隣を歩くすがやんは、寒いと言いながらも寒そうな素振りは全然してないし、暖を取りたいという話に対する同意にも、そこまで深刻さが感じられない。すがやんはそういうところがあるから、いちいち返事を間に受けてないけど。まず相手に共感なんだよね、自分が本当はどう思っていても。

「ねえすがやん、食堂寄っていい? 2階に確か中華まん売ってたよね」
「いいぜ、寄ろうぜ。第1学食の方だよな。でもこの時間だし、まだあったら御の字だな」
「あー、そっか。夜はあんまりないかな」
「でも行くだけ行ってみるかあ。俺も何か飲むもの欲しいし」

 緑大の敷地内にはコンビニもあるけど、ここからだったら食堂の方が近いからそっちに行ってみる。普段MBCCが昼放送をしている第1学食の2階には、量り売りのセルフ弁当コーナーや、スナック売り場がある。秋学期に入ってからはそこに中華まんが加わった。
 ダメ元で行ってみると、保温ケースの中には3つの中華まんが残っていた。あんまんと肉まん、それからカレーまん。まだ残っていたことにホッとしつつ、どれを食べようか考える。すがやんも買う飲み物を手に俺の隣でどれ食おうかな、と悩む素振りを見せている。

「サキお前どれ食うの?」
「あんまんかな」
「えっ、この時間に? でも、いいよな。働いた後の甘いの最高」
「すがやん、本当は?」
「本当はってなに」
「「働いた後の甘いの最高」は適当に俺と話を合わせただけで、本音は「まさかこの時間に甘いの食べるの」なんでしょ」
「いや、甘いのも美味いぜ」
「すがやん、無理に話合わせなくてもいいんだよ」
「別に、そーゆーつもりはなかったんだけどなー」
「多分すがやんの癖なんだろうけどね、相槌代わりに共感して見せるのが。意識してないんだったら余計性質悪いから、気を付けた方がいいよ」

 そういうことを言いたいんじゃないのに、失敗した。言葉が足りないとか、直接的過ぎて相手を怒らせることは多々ある。齟齬が発生して俺の意図しない風に誤解されるとかは茶飯事だから、気を付けたいとは思ってるんだけど、これもなかなか癖が抜けない。

「ありがとなーサキ。お前はいい奴だよ」
「え、何で」
「ネットとかで見たんだよ。大人になるにつれてそういうのを直接言ってくれる奴は少なくなるって。アナウンサーとしてもそういう指摘はされてんだよな。人への共感が前に出過ぎて俺自身がわかんないみたいな風には。でもなかなか直らない」
「やめろってわけじゃないんだよ。でも、やりすぎても嘘臭いんだよ。八方美人にも映るし。線引きだね。何回でも言うけど、やめろってわけじゃないよ。人に共感出来るっていうのは、すがやんのいいところでもあるから。俺はあんまり出来ないし、羨ましくもある」

 保温ケースの前でそんな風に話していると、人がやって来てカレーまんを買って行ってしまった。それでここに来た目的を思い出した俺たちは、とりあえず買う物を買ってしまう。俺はあんまんを。そしてすがやんはあったかいレモンティーと肉まんを。

「サキ、あんまん買えてよかったな!」
「ごめん、変な話で遅くなっちゃった」
「いいって」
「すがやん、肉まん買ったの」
「この時間だし、ちょっと食いたくなってさ。まあ、ぶっちゃけ、あんまんか肉まんなら肉まんが食いたかったから、被らなくてよかったなとは」
「だろうね」
「だろうねってお前!」
「俺たち6人だったら、あの場面であんまんを選ぶのって俺かくるみかって感じじゃない?」
「あー、まあなー? くるみは絶対あんまんだろうし、シノなんか絶対肉まんだろうな」
「すがやんが俺に合わせて適当なこと言ってたら、すぐわかるからね。まーた思ってもないこと言ってるよって」
「ごめんて。でも、1コだけ言わせてくれ。別に、適当に共感してるワケではないからな。完全一致じゃなくて、部分一致の時点で「そうだよな」って返事してるって言うか」
「ああそう。まあ、いいんだよ、好きにしてくれて」
「サークルの場で度が過ぎてたらツッコんでくれ。お前が訂正してくれんならみんな納得するだろ」
「自分のことでしょ。人任せにしないでよ」

 すがやんは俺をいい奴って言うけど、世間一般では圧倒的にすがやんの方がいい奴だと思うけどな。こんな話を嫌な顔ひとつしないで聞いてるし。それで、俺はこれからすがやんにツッコミを入れなきゃいけないって、どういう仕事? わけがわからないんだけど。

「サキ、変な時間だし駅まで乗ってけよ。スクールバスまだ来ないだろ?」
「ああうん、ありがと」


end.


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中華まんの季節のすがサキ。まだ発表はされてないけど一緒に定例会にも出るようになるし、なかなかの仲良しコンビになってますね。
サキは甘いのが好きなのかしら。でも、くるちゃんみたくすごく甘いのが好きってワケじゃなくて、あっさり甘いのが好きなのかも。
それから、ちょっと口下手なサキは、相手を誤解させるのが嫌だし自分がそこまで話さなくてもと思って口数が少なくなっているのかな、どうだろう

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